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竹美映画評㉞ アメリカ物語の「ポリコレ」装飾 「オールド・ガード」("The Old Guard"、2020年、アメリカ)

Netflix的な映画というのが確実にあるような気がしてきた。「ポリティカリーコレクトかどうか」ということが映像物語作品の品質を証明する時代なのである。

不死の戦士として何世紀もの間戦ってきた4人の兵士達。その命の秘密を利用せんとする製薬会社のイカれたCEOの魔手が彼らに迫る。そんな折、リーダーのアンディ(シャーリーズ・セロン)は、自らの異常な生命力に動揺する若い女兵士ナイル(キキ・レイン)を仲間に迎え入れ、時に厳しく(いきなり銃殺したり手足の骨折るww)、時に優しく導いていく。

アンディがスーダンを走る貨物列車を突然降りて、どうやって(徒歩で?)アフガニスタンの米軍基地まで忍び込めたのかとか、考えてはダメよ。本作の主眼は、『モンスター』(2003年/パティ・ジェンキンス監督)に始まる、社会に向かって17年間に亘って正論を吠えるシャーリーズ・セロン。今回は伝奇アクションの中で吠えてくれた。

「世界は悪くなる一方」

たった一言でNetflix映画的な情緒を表現してくれたぞ。「いっぺん滅びちまえ」みたいなことも吐いてた気がする。

歴史上の数々の戦いに参加したということになっているのであるが、その都度「正しい側」に立っていたことも示唆されるのが私としては気になっちゃう。若いナイルを見ての言葉「あなたを見てると若いときの自分を思い出す。まだ自分が正しいことをしてると思えた頃」「まだ人類は救うに値すると思えていた事を思い出す」は、「正しさに酔ってはダメ」と考えたい私と、現状人間全体に幻滅してる彼女の気持ちとの間で解釈が揺れた。そして、「なぜ私がこの運命に選ばれたのだ?」という自問には最後にきちんと「正しい意味があったのだ」という回答が出される。アメリカのヒーローもの全般に共通するピューリタニズムの模倣を感じる

もうね、意味とかは敢えて考えず、シャーリーズ・セロンのカッコよすぎる動き、2000年分くらいの衣装の着こなし、美しい身体、強気台詞と時折見せる弱い表情、壮絶な覚悟など、彼女を観てるだけで楽しめる作品であることは断言する。

他に面白かったのは、竹美ベスト映画『皆はこう呼んだ 鋼鉄ジーグ』(2015年/ガブリエーレ・マイネッティ)の悪役ジンガロを演じたルカ・マリネッリ様と、『アラジン』(2019年/ガイ・リッチー監督)で悪役ジャファーを演じたマーワン・ケンザリ様が、本作では、不死の戦士であり、濃厚ゲイカップルを演じていることね。

思い返せば『ザ・インビテーション』(2015年/キャリー・フクナガ監督)のホームパーティのシーンがそのまんまアクション伝奇コミックになった感じかもね。ポリコレ度の高い意識高い系西海岸金持ち美男美女(やっかみMAX)達がひでぇ目に遭いつつも一部生き残り、これから「白人カルトのあいつら」のせいで社会が荒れるぞ、って預言していた。そして今、現実は「荒れる」というところだけ追随してしまっているように見える。しかしながらNetflixの世界だけを観ていると、相変わらず「白人カルトのあいつら」が悪役になっているように錯覚しそう。本作も敵の若干病んだボスが白人として描かれ、最初は協力していた黒人コプリー(キウェテル・イジョフォー)が倫理的な観点の違いからそのボスと反目しさえする。

そういったポリコレ装飾の下にあるものが見えてくる。上記の十字軍で戦った間柄の二人が永遠にホットなカップルになってるというのも、アメリカ人だからこそ、特に意味を持たせずに描けてしまうのかも。また、最初の作戦の地南スーダンでは「誘拐された少女たちを救出する」という任務を受ける。4人の正義を際立たせるために入ったこの描写だが、現実世界では誰もそんなことにお金を出したりしないのだという現実が嫌でも浮かび上がり、彼らとて建前上は金を要求するという描写が何とも言えなかった。悲惨過ぎる現実をハリウッド型のエンタメの中で高速で消費してしまうのが我々なのである。

ナイルの赴任先、アフガニスタンでのシーンも『インディ・ジョーンズ魔宮の伝説』の時代からアップデートされていないように見える。現地の女達を盾に男のテロリストが立てこもっており、それを女達が嫌々匿っているという描写である。「現地に善と悪がおり、外から来た正義のアメリカ人が、善の人々の気持ちをすくいとり、悪を滅ぼし善を救う」という形。『ドナルドダックを読む』(アリエル・ドルフマン/アルマン・マトゥラール著)で指摘されたアメリカ的物語の形そのまんま。ナイルがアメリカに帰れないことが変則的であり、そこから物語は最近のトレンドである「家族や仲間は自分で見出す」というメッセージに接続している。

では、この時代に何を「正しい戦い」と信じたらいいのか。ジェンダーの問題であれば歯切れのよいシャーリーズ・セロンの叫びも、「人類」となると若干戸惑いを感じさせるし、確信もなく孤独である。

やっぱりね、私自身がこういう種類の映画が苦手なんだろうな!全然作品としての良さを伝えきれていない!でも、数年後に見返したら確実に「あの時代ってこうだったなぁ」という形で思い出される色々な要素の入った作品と思ったわね。

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