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竹美映画評評26 疲れた四十路は昭和を夢見る 「異人たちとの夏」(1988年、日本)

バブル期真っ盛りの東京で、少し疲れた四十路の放送作家おじさんが体験した夏の怪談映画。

https://m.youtube.com/watch?v=MozFUrhGz5s

離婚して、仕事はあるものの思い通りにいかず、腐りそうになってた四十路おじさんの原田さん(風間杜夫)。ふとしたことで幼い頃を過ごした浅草の街を訪れてみると、子供の頃に事故死した父親そっくりの男(片岡鶴太郎)が現れる。誘われるままに家に行くと、母そっくりの女(秋吉久美子)が。彼の両親であるとあっけらかんと明かす二人のもとを訪れるようになった原田は快活になり、同じアパートに住む女、ケイ(名取裕子)とも恋人になる。幸せを取り戻したかのような原田だったが、顔色が段々と悪くなっていく。一体…

まず、四十路おじさん、令和より断然金回りがいいし、深刻さが浅い!全体的に上向きの日本だから余裕あるのだな、と分かるの!ちょっと疲れたよ、の内容が…余裕感じるのよね。伊丹十三の「マルサの女2」とかでも感じたので、演出だけの問題ではなさそう。日本のおじさんが

風の中のすばる〜風の中のすばる〜風の中のすばる〜♪

で涙するみたいな、プロジェクトX化する前の日本だからね!ちなみにあの歌ってね、

風の中のすばる

すばるよ風の中から

の二つの歌詞で歌っても成り立つから!みんなも、やってみてね!!

ふらりと現れたケイだって、持ってるものはシャンパンに輸入チーズよ!あたしなら飲みかけのビールに半額割引の枝豆だ!しかもあんなきれいなアパートに女の一人暮らしできて、服もおしゃれだなんて!竹美の歴代東京の住処は、半地下か、ベランダ北向き北川景子で、服はGUだ!名取裕子さんは「吉原炎上」といい、本作といい、かわいらしさと大胆さ、そして弱さのバランスがいいね。

本作は昭和回顧映画でもあるのね、今じゃ外国人だらけになった浅草の街が、人の少ない古き良き街として出てきているし、昭和三十五年に亡くなった原田の両親の家や風情も懐かしいのだろう。また、お洒落なアパートの一室で原田とケイが観るのは、木下恵介監督作品「カルメン、故郷に帰る」である!興奮したわー!!原っぱで下着姿で歌い踊る高峰秀子様!!また見ようこの映画。原作はキノピーの弟子の一人である山田太一だし、松竹映画だし、昭和の下町風情と言えば、キノピーしか無いってなるよね。キノピー映画あらかた見ててよかったー。

でもね、目線が、「三丁目の夕日」的ではなくて、本当に作り手や役者が体験した昭和中期を再現してる感じ。無理して作りこむ必要もないのね。

本作は、日本の怪談モノだと思って見れば、直ぐに結末まで読めてしまうけど、八十年代ならば、夏には怪談モノのテレビ番組が満載でしたので、コワくてしんみりできる良作として、九月に公開されてるの。残暑の中で夏の終わりと懐かしさのないまぜになった気持ちで観たら…おいしいわね。

もー疲れちゃってどうにもなんないよおおおおつらいよおお、このまんま死んでしまいたいよ…そんなときに、あちら側の存在がそっと寄り添ってくれたら。死んじゃダメ!バカなこと言うんじゃない!と叱ってくれたら(説得力ありすぎ)。お前はよく頑張ってるよ、よくやってるよ、と励ましの言葉を残して去って行ったら。

残された四十路おじさんは、日常に戻っていく。最後に、二人と過ごした場所に行ってみると、建物は元々壊されており、寂れた裏通りなのだった。でも日差しは明るい。

OKUSARE的にもおいしい本作。冒頭とラストのシーンの風間杜夫と永島敏行が無意味にBLっぽい。永島敏行も狙ったかのような角刈り、何気ない筋トレシーン、日焼けで昭和末期のホモ感すごい。口では「あやこさん(原田の別れた奥さん)にアプローチしていいですかっ」とか言ってるけどそなたの本心はそうは言っておらぬぞヂュフフフフ…

ホモォ…ホモクレェ…な上に切ない大人の幽霊セラピー映画だなんて、美味しすぎませんこと?大林宣彦映画ではベストかも。私は満足したわっ!!?!!?!


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