木下恵介映画がすばらしい!

2019年は、日本の古い映画を観なきゃいけないなと思って、とりあえず最初に名前を思い出した映画は、「カルメン、故郷に帰る」(1952年)という映画だったの。年末年始に実家に帰ったときに、NHKの教養番組のテキストで日本映画の巨匠を紹介する冊子もちょうど見つけて(佐藤忠男『こころをよむ 映画監督たちの肖像  日本の巨匠10人の軌跡』)、その中で「カルメン」は木下恵介という監督さんが撮った映画だと分かった。

冊子では「楢山節考」も撮っているとあったので、これはちょっと重たいけど観た方がいいなと思って、元旦の夜から見ちゃった。
「カルメン」は都会でストリッパーをやってる女、カルメン(高峰秀子)が同僚と一緒に故郷の田舎に帰るんだけどね、まあ派手なこと!そしておしゃれな歌を歌いながら馬車の荷台に乗って帰ってくる。ハリウッド映画「紳士は金髪がお好き」(1949年)をイメージしていたのかしら。でも日本の田舎で軽井沢(木下監督は1949年の「わが恋せし乙女」で同じロケーションを使っている)で、都会から来た二人が暴れるのが楽しい。

この監督さん、ゲイだったと言われているらしいのね。そういう情報全く無しで「カルメン」を観たんだけど、確かにすごく気になった箇所があった。軽井沢の小学校の校庭で、生徒たちが男女ペアでフォークダンスの練習をしているシーン。男性の先生2名が、男女ペアのダンスを延々と踊り続けるの。かなりの長いショットだったし、片方の先生は妙にしゃれたファッションで、「ねえこれってさ…」と驚いた。不必要なシーンだから。
米ドキュメンタリー映画「セルロイド・クローゼット」で、ハリウッド映画が色々な形で同性愛者等の性的少数者を描いてきたと指摘されていたけど、本作は日本映画で是非取り上げられるべき作品と思ったわね。
「楢山節考」はうってかわって重たい作品だった。日本の田舎の、尚且つ閉鎖的なコミュニティの中で、人々がどう生き、死んでいくかを演劇風に(浄瑠璃風ということらしいんだけどね)表現していた。捨てられる母親(田中絹代)が段々この世から離れていく狂気を表現していたわ。そう、「もう死ぬわ」ってどっかで決めちゃったんだよね。泥棒してしまった一家への制裁のシーンもすごかった。あれは完全に、狭く貧しいコミュニティーのガス抜きだよね。そして皆参加しなきゃいけない。その中でも微妙な顔をする母親と息子。この顔を撮るというのは、「二十四の瞳」の大石先生が岸壁から教え子や夫を戦争に送り出す時の顔を捉えるのと同じ目線なのかもしれない。そういう社会の中で疑問を感じながらも状況の中で仕方なく生きていく人を捉えている。その寄り添い方がさりげなくていいの。
特に、時代を考えるとちょっと驚くんだけど、木下映画では、大きく変化していく世の中をバックに「若い女性」の置かれている状況を非常に巧く描き出している。「二十四の瞳」は反戦映画ではあるものの、同時期に、田舎の女の子達が自分の人生を好きに選べなかった状況がかなりはっきり描かれている。これね、今の方がウケるんじゃないかな。超美味しい映画「女の園」は、パヨク+百合の豪華フルコース。もう最初から最後まで見逃せないシーンが目白押し。ちょいちょいゲイの好むような「蓮っ葉女同士の下世話な会話」とかが挟まっておかしいのなんの。それでいて最後に社会変革を最も必要としている(いた)のは、教育を受けた若い女性たちなのだと高らかに宣言する。あれは偶然そういう話になったんだろうけど、「カルメン純情す」と併せて観ると、本当に革命の前衛にいたのは男性の労働者じゃなく、女性たちなんだという感じがしてくるの。それって戦後左翼が見落としてしまったことなんだと思うよ。

「日本の悲劇」では、「そういう風にしか生きられなかった母親」と「あんな風になりたくないと逃げる子供達」のすれ違いが非常に痛い。情無しと言われるかもしれないあの子供たちの気持ちもすごく分かるし、ラストで彼らを出さなかったことが却って痛ましかった。「いい人だったよ」と板前にポツリ言わせて終わり。

というわけで、今、木下映画が非常にアツいんだけど、こんな面白くて令和時代にぴったりの映画群を今ほとんど話題にしないのはもったいない。あたしが発掘したげるよッ!!!!ついでに余計なことも書くよッ!!!と意気込んで、木下監督関連の著書をamazonで探したら、何とまあ、1円とか破格の値段で出ているの。もちろん買った。あと黒澤明と木下監督のことを特集したムック本も手に入れた。これはうれしい!同じ頃日本で話題になり、片方は世界的な監督になり、片方は忘れられた。確かに小津、黒澤、市川、三池の名前ばかりが出てくるわけだけども木下映画は海外ではちっとも有名にならなかったみたい。でもそうかも。日本人のあまりに大衆的な姿が「面白くない」と思われたんだな。それは分かる。派手さは無いし、作家性が目立たなかったのだろう。

ちょっとね、この程度の理解でもうこうやって投稿するのはよくないと思うんだけど、毎週何か書かないといけないからね。

まあそんな偉そうなこと言ってますが、うちにパソコンも無いわけ!もっと本を読みたいし、講演とかも聴きたいし、そしてね、せっかくだから書いたものでお金欲しいわよ。1回で1000円位は欲しいわ(安いオバジだな)。

今日はこの辺で。

さよ・おなら

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