ウェブサイトって盆栽みたいだよねって話。

ごめんください。関谷です。今回は、私が事業会社のマーケターとしてこの1年間で行ったことを振り返ってみようと思います。華のない話ですが、お付き合いください。

私が取り組んだ事業について

まず、前提としてどんな事業に取り組んでいたのかのお話を。

私は一般消費者向け(俗に言うBtoC)ビジネスのマーケターとして取り組んできました。取り扱う商材は、購入頻度が低く(一生に一度あるかないか)比較的高額商品という特徴がありました。

他社商品との知覚格差はそれほどなく、差別化を訴えるのが難しい商材です。その上、高額で一生の買い物となれば「失敗したくない」心理が働くので、顧客はかなり吟味して自分なりの情報収集を行います。

マーケティング界隈では「認知的不協和低減型」という象限にカテゴライズされる商材です。「この商品でよかったのだろうか」「他社商品の方が良かったのでは」など消費者が自己矛盾というか、購入に対して不安を抱きやすい商品です。その分、不安を解消するために多くの商品を比較して購入を検討します。

そんな商材で、私が担ったのはリードジェネレーション=見込み顧客の創出=問い合わせ獲得です。

競合他社の水準まで引き上げる

まず最初に取り組んだのは、見込み顧客へのアピールについてです。

一般的に、マーケティングではキャッシュポイントに近いフェーズから改善を行っていくのがベターとされています。

そこで、私が目につけたのは問い合わせ〜資料請求のフェーズです。

資料請求があったときに、どんなものを送付しているのかを確認してみると、商品ができた時に利用した折込チラシの余り(B4両面チラシ)一枚のみ。なんと。。。

試しに他社の資料を請求してみると、イメージ写真が散りばめられ、コンセプトを訴求するテキストや、商品説明・購入までのフロー説明など「とりあえず知りたい内容」を網羅した小綺麗なパンフレットと、人の温かみを感じる手描きのお礼メッセージが同封されてきました。

前段でも申し上げた通り、この商材を購入する顧客は情報収集に積極的で、さまざまな商品を見比べて検討します。

小綺麗なパンフレット VS 折込チラシ(在庫処分)

結果は火を見るよりも明らかです。これでは検討のテーブルにすら乗りません。

そこで、コンセプトや自社商品の強みを訴求し、購買プロセスがイメージしやすいパンフレットの制作を行いました。この時に、重要視したのが現場で顧客と対峙し、商品説明を行う案内スタッフの声。普段どんな説明をするのか、どんな質問が多いのかをヒアリングし、パンフレットの項目に落とし込んでいきました。

商品説明を行う際に補助資料としてもパンフレットを使えるようにしたので、別途説明資料を用意する必要もなくなりました。

結果として、資料請求→成約の割合が20%前後だったところを、40%前後へと2倍近くに増やすことができました。

競合他社に勝る資料ではなく、競合他社と見劣りしない資料というだけでこれだけの改善率です。検討のテーブルに乗るマーケティング界隈では想起集合やevoked setに入ると言ったりしますね)という関所を通過したことになります。

問い合わせ経路の整備

次に取り組んだのは、問い合わせ経路の整備です。

問い合わせ経緯を調べたところ、殆どの顧客がポータルサイト経由での購入でした。売上が立っても手数料を支払うことになります。

ポータルサイトも良し悪しですが、ポータルサイトでは「一括資料請求」ができるため、ライバルも必然的に多くなります。

そのほかの経路で散見されたのはフリーペーパー経由でした。ここではフリーペーパー出稿に関するROAS(広告投資対効果)を調べてみました。

一回の出稿に対して問い合わせにリーチできるのが5件程度。先ほどの成約率から考えるに購入に至るのは2件ほど。高額商品とは言え、それほど利益率も高くない商材なので、数十万円の出稿費用の元を取るにはほど遠い結果となっていました。

以上のことから、私は見込み顧客の自社獲得を目指しました。

実を言うと、経営者がどこかで聞き齧ったのか一般的に言われるLP(1ページで商品訴求を行うウェブサイト)を商品ごとに作っていました。

LPはその特性ゆえに、SEO(検索エンジン最適化)が難しく、検索上位ヒットが狙いづらいので、リスティング広告などで流入を促す必要があります。が、私がコミットした当初は何も施策を行っていませんでした。主な流入元はreferrer(それでも月5件とか)。

作っただけのLP、何もいじらないのに支払う保守・運用費用。ただのコストの塊です。

し、か、も、よくあるウェブ系広告代理店からの「御社のウェブサイトは直帰率が90%を超えています!」とかいう意味のわからない営業電話に引っかかる始末。いやいや、1ページしかないウェブサイトで直帰率下がる要素ありますか?直帰するか、CVするかの2択ですよね?仮にCVRが3%だとすると、直帰率は97%で然るべきですよね。(厳密には、サンクスページにCVタグがあるので、フォーム離脱率などを考慮すると直帰率はもう少し下がりますが)

知識がないって言うのは怖い。。

話がそれました。自社ウェブサイトでの集客がどれほどできるのか試すために、まずは一つのLPをモデルケースとしてリスティング広告運用を実施しました。かけた予算は10万円/月(代行手数料込み)。2ヶ月の運用で効果は絶大で、運用開始以前はLP経由の問い合わせが1〜4件/月程度でしたが、リスティングをかけた月は10件を超える問い合わせがありました。CPA(見込み獲得単価)は一万円程度です。

これはいける。そう確信した私は、次の手に打って出ます。

それほど大きくない会社でしたので、広告予算が潤沢とは言えません。そこで、無駄に作っただけのLPを全て閉じました。その代わり、全ての商品をまとめた自社ポータルサイトを制作し、枝ページがLPの働きを担えるように設計しました。

この施策のメリットは以下の通りです。

・数ページ持っていたLPにそれぞれかかる保守・運用費用を1つのサイトに集約し、コストをわかりやすく。

・階層化したウェブサイトにすることでSEO対策ができるように。

・複数商品検討したいと言う消費者ニーズを自社サイトだけで満たすことができる=競合へ流れることを阻止

これで、注力したい商品のみリスティング広告をかけ、検討したいユーザーはサイト内を回遊すると言う狙い通り、直帰率を下げ、CVRを上げることができました。

ウェブサイトを成長させる

ここまでくると、ウェブサイトはある程度自走してくれるようになります。毎月かけるリスティング広告も機械学習+手動運用で効率的な時間帯や曜日、ユーザー属性を狙い撃ちできるようになり、CPA(見込み獲得単価)は下がり、資料請求の数は増えていきます。

先ほども記述しましたが、大きな会社ではないので広告予算は潤沢ではありません。いつ減額・打ち切りを言い渡されるかわからない状況だったので、次なる手はorganic(自然検索)での流入獲得です。

Googleアナリティクスを用いて、ウェブサイトに流入してくるユーザーの行動を理解し、ヒートマップツールでユーザーが何を見に来ているのかを調べ、少しずつページをマイナーチェンジしていきました。効果が下がった場合は元に戻し、別の施策を考える。ウェブサイトだからできる超短期PDCAを実施しました。

そして、ある日Googleアナリティクスを見ていてあることに気づきました。意図していないページの集客効果が大きい!

そのページの流入経路を見てみるとほぼ全てがorganicから。と言うことでGoogleサーチコンソールでどんな検索ワードで流入しているかを確認してみました。すると、副次的なワードで流入している様子。

そこで、「この商品、こんな使い方できます」と言う副次的な使い方を説明するナレッジ記事を追加し、副次的ワードに絡む商品の特集記事を掲載しました。どちらの記事にも、商品ページへの動線・問い合わせフォームへの導線もしっかり装備しました。

そうすることで、organicでの流入が増え、ついにpaid(広告)経由の流入数を上回ることができました。自ずとCV数も増え、資料請求への対応数を増やすことができました。

ウェブサイトって盆栽みたいだよね

ここまで運用してみて思ったのが、「ウェブサイトって盆栽みたいだな」ってこと。

ここはいらないから削ぎ落とす、ここを伸ばしてみたいとか、理想形を意識して成長させていくことに喜びを感じたりします。たまに、意図しない伸びもあって、想定外にいい感じになることも。手塩にかけるほどに、愛着が増していく感じだなぁ。と思っています。

ウェブ検索にヒットしない商品・会社は、存在しないのと同義」とまで言われる昨今ですが、目的なくとりあえず作っただけのウェブサイトは存在しないことよりも悪いです。制作コストや保守コストと、地味に企業の財布を蝕みます。インフォメーション欄の最終更新が3年前などと言いうサイトもよく目にしますが、それだけで信頼性を失いかねません。そんな状態であるなら、いっそのことウェブ集客を諦めて、サイトを閉鎖した方が良いかもしれません。せっかく作ったウェブサイトなら、盆栽のように愛でてみてはいかがですか?と言う私の超個人的なご提案です。

現在の取り組み

ちなみにですが、現在はウェブサイトでの集客に天井感が出てきました。(リスティング広告予算を上げれば集客増は見込めますが、会社的にNGなので)

そこで、今私が取り組んでいるのは商談化率の向上です。先に述べた「キャッシュポイントの近いところから改善」と言うマーケティングの定石とは逆行してしまいましたが、リードジェネレーション(見込み顧客創出)からリードナーチャリング(見込み顧客育成)へと目的をシフトしています。

ウェブサイト内ではFAQ(よくあるご質問)の充実やナレッジ記事の充実、口コミ掲載数の増加を図り、先に述べた認知的不協和の低減をするべく、顧客の背中を後押しする体制を整えているところです。

同時進行で、問い合わせがあった顧客に対して追客架電を行うなどの、インサイドセールスの仕組みを構築中です。クロージングする営業さんの前に、マーケ側でクロージング率を高める働きかけを模索中です。

まとめ

ざっとですが、ここに記載した内容は約1年間で、事業会社のマーケターとして取り組んだ内容です。

施策の結果を数字で見ると実は、それほど大したことないです。この1年間で売上金額は191%の増額、問い合わせ獲得件数は152%の増。上昇率を見ると、お!ってなりますが、元々の数字が最悪の状態だったので、ようやく他社と競り合うラインまで来たという認識です。

この程度ですが、「事業会社のマーケターがどんなことをしているのか」と言う実際の面を知っていただければ幸いです。

広告代理店などの外部支援マーケターのように華のある仕事(私の勝手なイメージです)ではなく、本当に限られた予算で、自分の財布を痛めすぎない程度にできる施策は何かを常に考えながら、売上に貢献していくと言う制約だらけの仕事です。

ここでは書いていませんが、社内説得のための社内営業、決裁をもらうための社内政治利用など、反吐が出るような泥臭い仕事も含まれます。最初、LPを閉じて新たに自社ポータルサイトを立ち上げるとなった時は、初期投資に関してあーだこーだと言われました。売上が立つまではコストを使うだけの存在。

今でも、成果を誉められるような状況ではありません。それでも歯を食いしばって、成果にコミットする忍耐力が必要です。特に、私の場合はマーケ文化のない会社(元々営業だけの会社)でしたので、成果が出ても手柄はクロージングした営業さんだけのものになってしまいます。

なので、社内マーケターには、実績を作ることと同時に、社内にマーケ文化を醸成するための啓蒙活動も求められるのだなと痛感しているところです。

追記

2021年に書いた記事ですが、私はこの会社をすでに退職して、同じような境遇にある小規模事業者の支援をフリーランスとして行っています。

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