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禁酒法に冷静に怒る 2021年4月26日


僕は今回の緊急事態宣言に心底呆れているし、怒っている。映画館などの遊興施設や大型ショッピングビルの休業要請も嫌だが、話題になっている飲食店の酒類提供一律禁止、いわゆる「禁酒法」について特に怒っている。

僕が酒飲みだから怒っている訳では無い。いやあるけど…。重要なのは個人の選択の自由を公が制限して良いのかという問題なのだ。もちろん国が滅びるような事態になったときに、政治が民をコントロールして命を守る事を全て否定するものではない。しかしその為には国や自治体の長への信頼と、そのコントロールを説得する言葉が必要だ。しかし今の日本にはそれが無い。

お酒を禁止することの根拠はない。要するに酔っ払うと騒ぐから飛沫を飛ばすなど身体的な接触が増えるみたいな事でしかない。騒ぐから、会食するから、飛沫を飛ばすから、「酒」自体を禁止というのは余りにも乱暴なのではないだろうか。

そしてこのやり方は、Twitterなどでは批判する声が大きいものの、割とすんなり社会に受け入れられているように見受けられる。禁酒法をどうかわすかというユーモアのある投稿もあるが、怒りの矛先を缶ビールで外飲みする人や、酒を販売しているコンビニに向けるなど嫌な空気になっている。

近隣のお店も今回は要請に対応して酒類の販売をやめた。緊急事態宣言も回数を重ねる事で「ヤバい感」の醸成には成功したということだ。そのヤバさはコロナウイルスの感染力というより、同調圧力や世間の目といった相互監視への恐れが進んだという事が実際のところだろう。
(この辺りはゲンロンで昨年行われた東大名誉教授の石田英敬先生の「フーコー」講義で学んだ)

ところでそれは本当に対策と呼べるものなのだろうか。

命を守る対策としてやるべきは、重症化患者の多くを死なせないための病床や人員を確保する事だったはずだ。しかし国も自治体も感染者数を増やさない事ばかりに注目させ、その名目の数字を減らす事が重要であると私たちに植え付けた。それはまるでテストの一夜漬けのような発想ではないか。テストの点は取れるけど学問として身につくこととは別であるのと同じように見える。

よく言われていることだが、日本は昨年、感染数、重症化率、死亡率共に低い水準で推移していたにも関わらず、病床の確保やワクチンの準備に失敗した。そのツケが全体的に一夜漬け的な事しか出来ない状況に追いやられたということなのだと思う。

僕たちは外飲みする人や、外出する若者たちではなく、そのような綱渡り状態にしてしまった国や自治体、政治家の無策に対して怒るべきではないだろうか。その辺が完全に倒錯している事と、現状を肯定してしまうことによる未来へ残すであろう禍根がもっとも懸念するところだ。

感染防止対策なんて出来ることは限られる。手洗い、うがいで清潔を保つことと、マスクで飛沫を飛ばさないことくらいだ。人と会わずに生きることは人間には出来ない。リモートで置き換えられる事の多くは、リアルで信頼関係が出来ていることが前提である。コロナ禍より以前に仕事や遊びで近い距離感を共有したからリモートに置き換えることが出来ている。ビジネスでもネットを介して選んだサービスはより安価なものがあればアッサリ変更可能になる。人間関係があるから継続的に付き合っていけるということを忘れてはいけない。

なので僕はコロナ禍当初から、感染予防情報を得ながら自衛することと、その範囲は自己責任で選ぶこと、それ以外はなるべく通常通りの生活を営むべきだと考えているし、それは変わらない。

だからこそ「禁酒法」によって友達と気軽に酒の席を設けられない事がたまらなく苦しい。僕は友達との交流が自分にとって重要な時間であることを、今回しみじみと感じた。

ところでこの前友人が「今回お店でお酒を飲めなくなって、喫煙者の気持ちがわかった」と言っていた。これはとても良いことだと思った。相互理解というのは自分の関心外のことに関心を持つ人が必ずいて、それは同じ人間なのであるということが大事なんだよね。

自分と違う考えや振る舞いに対して不快に思ったり怒ったりするのは当然として、そういう人もいて当然という前提ももちながら考えることが、友敵に分断しがちな昨今の日本に必要。

それにしても僕が思う最大の問題は、営業時間短縮のみならず酒類提供禁止など明らかな私権侵害に対して、政策議論の中で誰も「いや、さすがにそれは」と反対意見を言う人がいなかったところだ。
多くが大学出で優秀な人がいるとされるはずの行政官や政治家の中に、上記のような人権感覚を持った人はいなかったのか。もしくは異論を挟む事が出来なくなっているのか。

目の前のことだけがリアルで、哲学のような人間の生命や生き方を語る学問が虚構になってしまった。人文知を軽視してきた結果がこうなった理由なのかな。深く考えるということ、つまりは立ち止まることを恐れないこと。僕はそういうことを大事にしていきたい。

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