正解を求めすぎない練習

終わりの見えない、答えのない不安を抱えながら過ごしていると、よくないと分かりつつも憂鬱を煽ってしまうので、休憩上手になるトレーニングキャンプ(又の名を休職期間)で「正解を求めすぎない練習」を心がけることを始めた。

まだまだビギナーで仮免すら取れていない状況なので、人の知恵や言葉を借りながら徐々に自分の練習方法を見つけたいと思っている。

20代までは、この世の誰かが作り上げた「人生のマニュアル」の通りに生きていくことが正解だと思っていたので、学歴や就職もなんとなく自分軸ではなくマニュアルの基本をそれなりになぞって生きてきた。
年収はこれくらいあればいいとか、貯金はこれくらいあった方がいいとか、投資は早くから始めた方がいいとか、会社はすぐに辞めない方が後々の転職で困らないとか・・・・
なんか知らないけど、誰かが勝手に設定した「〜方がいい」をスタンプラリーのようにクリアしておけば、まず間違わないだろうと思っていた。

実家にはすぐ帰れる距離の東京都内で一人暮らしをして、ほどほどに自由で好きなことを楽しみながら自立している社会人が出来ていることを定期的に確認しては安心する。

この人生の定期点検で20代最後の年に、なぜか知らないけど「今どき一生同じ会社に勤めるような時代でもないし、転職は経験しておいた方がいい」「転職するなら30代より20代の方がいい」のスタンプラリーをクリアしたくなって、勢いに任せて転職をした。
明確なキャリアプランがある訳でもなかったし、別にしなきゃいけない訳じゃなかったのに「転職をした方がいい」という謎のマニュアルの囁きに惑わされて、福利厚生抜群・大企業・業績良好の前職を呆気なく捨てた。

当時の私は、人生のマニュアルにおける【社会人生活8年目・20代最後】のページに書かれているそれっぽい道を正解だと思って、それを成功させた自分のことを上出来人間だと思っていた。

転職先は、学生時代に志望していた業界だったし、普段から消費者としても触れていたものに携われるし、選択した道は私にとって「成功」であり「正解」に違いないと思っていた。

そして、人生マニュアルの【30代、転職先で新しいキャリアを築く】のページを何も疑わず開こうと思ったら、突如【故障かな？と思ったら】のページに到達する事になってしまった。

昔から「正解」が大好きだった。
問題集の解答ページを読むのが好きだったし、腹落ちする解説を聞くと気持ち良かった。
だから生きるのも「正解」を実感できるように駒を進めてきたように思う。
その「正解」を実感するために少し我慢や努力が必要なら、喜んでやった。

自分が故障して動かなくなるなんてことは想定していなかったし「一回休み」のマスは意地でも回避してきた。

だから休めないし止まれない。
マニュアルの通りじゃないと、駒を進められない。
人生で初めて「一回休み」のマスに止まった。

早く次のターンでサイコロを振りたいし、なんなら次は絶対６を出して１ターン分を取り戻したいと焦っている。
早く私に次のマニュアルを読ませろと思ってしまうのだけど、不思議なことに、この人生のマニュアルは30代を境にかなりカスタマイズされているので【結婚される方は何ページへ】【キャリアアップされる方は何ページへ】【出産される方は何ページへ】・・・・この先は、自分が必要なマニュアルがどれになるかすら教えてもらえなかったりする。

今私は【故障かな？と思ったら】を開いているので、次のページに進む選択肢すら分からない。それが怖い。

ただ、別にそもそも、この誰が作ったのかも分からないマニュアルしか人生の取り扱い方を知らないだけで、え、てか、このマニュアルってどこで貰ったんだ？
と考えてみると、不思議なものでちょっとだけ怖さが緩和される。
故障してしまった今、修理が終わるまで手が付けられないんだから、と思うと休んでいることを少しだけ肯定できる。

早く社会復帰しないと、早く稼がないと、と焦るけど、故障したまま次のページに進んでも、そこに書いてあることは思うように実行できないだろうな。洗濯機が壊れて脱水が出来ないのに、いつもと同じ全自動モードで洗濯したらただ洗濯物を洗剤と水でビチャビチャにするだけだもんな。みたいな。

本当は早く「正解」が知りたくて仕方ない。
それは30年間そうやって生きてきたからそう思わずにはいられない。
でも、今出来ること・やれることは修理を確実に進めることなので、マニュアルのページをめくることは忘れたいと思う。

動作確認しても問題なくなった時に、ちゃんと腰を据えてどのページに進むのか、もうマニュアル捨てるのか、それも選択出来ればいいんだきっと。

ということを、自分に意識して言い聞かせるトレーニングをしている。

本当は何ヶ月も無収入の休職生活なんて早く終わりにしたい。
いつまでも甘えているみたいで嫌だ。
何もせず平日もダラダラ過ごして、ダメ人間みたいだ。
早く元の通りに戻りたいと思って、少し回復してきたし仕事に戻ることを進めるか・・・と思ったりもする。
でも、それを考えて「きつい」「しんどい」と少しでも頭をよぎるうちはまだ修理が終わってないんだと思い、どうかこれ以上故障を複雑化してくれるなよ自分、とストップをかけることを忘れないようにしたい。

毎日不安な私へ。
今私が求めるべきものは何となく安心できる「正解」ではなく「心身の健康」でしかないので、それすらも全うできないなら頼むからそんな状態で社会に戻ろうとするな。
修理が終わっていない頭と体で、あなたが満足できるような選択はきっと出来ないので安心しなさい。

思考は癖だと思っているので、気付けば「正解」を求めてしまうこの癖も忘れて、もっと生きやすくなるかもしれない。
練習は何事も反復練習なので、せっかく参加させてもらっている休憩上手になるトレーニングキャンプでしっかり取り組んでいきたいと思う。