「スタート・ドリーム―魔法殺しの魔法使い―」第四話

台詞とリンクしたイメージ絵。
モノローグ「魔法開放――体内の魔力循環速度を上げることで、魔法練度と身体能力を強化して魔法効果を拡張する。魔法開放までに至る奴は少なく、才能がある奴か血反吐を吐くような努力をした奴しか得られない」

魔法開放したミナンの回想。
モノローグ「それを習得して平然と使いこなす辺り、さすがはエリートって感じだ。多分、残りの二人も魔法開放を使えるんだろう」

スラム街の路地。俯くクルオン。
モノローグ「そんな実力の班で、俺はやっていけるのか?」

護星団員が、拘束したギャングの男達を連れてワープポータルに入る。それを眺めるエモ、クルオンを見るディア、ひっそり自慢げな表情をして腕を組むミナン、どんよりとした表情のクルオン。
エモ「へぇ? ミナンちゃんが居たとはいえ、あの量を一人も逃がさずに鎮圧できちゃうんだ?」
ディア「初日でここまでできるなんて、凄いよクルオン!」
クルオン「あ、あざっす……」

目を逸らして俯くクルオン。
クルオン「けど、俺なんて全然活躍してなかったので……」
ミナン「そんな事ないですよ! クルオンさんが居なかったら、何人か取り逃がしてたかもしれないですし!」

クルオンの肩に腕を乗せて顔を眼前まで近付けるエモ。ジト目でニタニタな表情。驚いて動揺するクルオン。
エモ「そうだよー?」
クルオン「あっえっ!?」
エモ「結果オーライなんだしさ、もうちょい誇ってもいいんだよ? 普通に凄いことなんだからさ」
クルオン「ちょっ、ちか、近いっす……」
ミナン「コラーっ!」

クルオンとエモの間に割って入るミナン。クスクスと笑うエモ。
ミナン「勤務中にそういうことしないでください!」
エモ「え〜? ただのスキンシップなんですけど。もしかして、何かやましいことでも考えたのかな〜?」
ミナン「違うからっ! 傍から見たら勘違い案件だからやめてってだけ!!」

混乱でクルオンの頭がショートし、白目を向いて煙を上げる。
ディア「はいはい、ミナンが困ってるからその辺にしておこうね」
エモ「え〜、どうしよっかな〜?」
ディア「頬抓るよ?」
エモ「やめて……」
クルオン(今のはどう対応するのが正解だったんだ?)

ミナンの胸ポケットから音が鳴る。
ミナン「!」
エモ「おぉっと、これは……」

ミナンが水晶板を取って掌に水平に置くと、茶髪ロン毛のメガネをかけた男のホログラムが映し出される。
ミナン「はい! こちら調査課第二班です!」
男「そちらのスラム街に盗賊が逃げ込んだとの情報が入りました。人数は五、〝推定階級〟は〝中級〟です」
ミナン「了解! 直ちに捜索します!」

腕を組んで首を傾げるクルオン。にっこりと微笑む男。
クルオン「えーっと……?」
ラクル「あっ、クルオンくんとは初対面でしたね。初めまして。情報課課長のラクル・ファーストです」
クルオン「あー、情報課の……?」

人差し指を立ててクルオンに向き直るミナン。メガネの位置を調節するラクル。
ミナン「マフィアの情報収集に特化したチームで、すっごい頭がいい人がいっぱい居るんですよ」
クルオン「へぇ」

頭の後ろで手を組むエモと上着を着直すディア。
エモ「とりあえず、そいつらが転移する前に早く見つけた方が良さそうだね」
ディア「なら、さっきのペアで二手に分かれて捜索しようか」
エモ「え〜。どうせなら入れ替えない?」
ディア「そんなにクルオンくんと組みたいのかよ……」

向かい合う四人。ラクルとの会話を終えたミナンは、水晶板を胸ポケットに仕舞う。
ミナン「ん〜……一通り説明はしたし、仲良くできるなら別にですけど。クルオンさん的には大丈夫なんですか?」
クルオン「あっ、はい。大丈夫っす」
エモ「じゃあ、次は俺と組も?」
ディア「いや待て。僕もクルオンくんと組んでみたいんだ」

不満げな表情のエモとムッとした表情のディア。
エモ「え〜? 後から言うのはズルくな〜い?」
ディア「クルオンくんに申し訳ないかと思ったんだよ。本当は僕だってペアになりたかったんだからね?」
エモ「フッ。それなら……」

百面ダイスを指に挟み、自信満々な表情をするエモ。
エモ「ダイスを振って、大きい目が出た方がクルオンくんとペアになれるってことで!」
ディア「おっ! いいぜ! 受けて立つ!」
クルオン(えっ、なんでサイコロ常備してるんだ!?)

温かく見守るミナンと困惑するクルオン。地面にダイスが転がる音が聞こえる。
クルオン「あそこまでする意味ありますかね……」
ミナン「それくらいクルオンさんのことが気になってるんですよ。クルオンさんが来る前、二人とも凄いウキウキでしたし」
ディア「しゃぁぁぁ! 俺の勝ち!」
エモ「ああっ! そんなぁ……」

勝ち誇った顔のディアとガックシと項垂れるエモ。
ディア「それじゃあ班長、僕はクルオンくんと一緒に南下しますね。行こうクルオンくん」
クルオン「あ、はい」
ミナン「なら私とエモで北を捜索しますね〜」
エモ「今日の出目悪いなぁまじで……」

場面転換。二空機に乗って移動するクルオンとディア。
クルオン「あっ、ディアさん。ひとつ聞きそびれたことがあったんすけど」
ディア「んん?」
クルオン「さっき推定階級って言ってましたけど、あれってなんですか?」
ディア「あー、あれね」

上から魔導師区分(特級、上級、中級、初級)、魔術師区分(特級、上級、中級、初級)、一般人区分の表。
ディア「魔人階級は知ってるでしょ?」
クルオン「はい。個人の脅威度を分かりやすく示すための階級制度ですよね」
ディア「そ。その階級検定を受けてない奴とか、階級が分からない奴、魔人族以外の奴らの実力を予測したやつが推定階級だよ」
クルオン「あ、けど上級としか伝えられてないから、魔導師区分の上級なのか魔術師区分の上級なのか分からないような……」
ディア「ラクルさんが端折って上級しか伝えなかったのは、魔導師区分の奴がしょうもない犯罪をする例が無いからだよ。数少ない上位クラスの奴が、わざわざ盗みとかやんないしね〜」
クルオン「あ、確かにそうですね」

ドヤ顔で振り向くディア。キラリ☆と擬音が鳴る。
ディア「ちなみに僕とミナンとエモは上級魔術師だよ。凄いでしょ?」
クルオン「確かに凄いですけど、前見てください……」

前に向き直るディアとしっかりしがみつくクルオン。
ディア「話は変わるんだけどさ、この班の雰囲気はどうかな?」
クルオン「え、あ、そ、それはもちろんいいっすよ」
ディア「アハハ……そんなキョドらなくてもいいんだけどなぁ。男二人きりなんだし、気を楽にしてくれると嬉しいかな」
クルオン「あぁ、はい……けど、雰囲気がいいってのはマジで思ってるんですよ。こんな俺にも優しくしてくれるし、みんな明るいし」

困り顔のディアと微妙な表情で顔を逸らすクルオン。
ディア「こらこら、自分をするんじゃないよ」
クルオン「だって俺、コミュ障で口下手ですから……」
ディア「あ、そうなんだ。全然そう見えなかったから、ちょっと意外だぁ」

真剣な顔つきになるディア。ディアは、二空機を停止させて片足を地面に着ける。
ディア「っと……近いな」
クルオン「! 居るんですか?」

真横の廃墟ビルを見上げる二人。
ディア「あぁ。微弱だけど魔力を感じ取れた。この感じだと隠密魔法を使ってるな……」
クルオン「よく気づけましたね……俺は全然分かりませんでした」

地面に降ろした二空機から離れ、ビルの入り口前まで歩くクルオンの靴音とディアの下駄の音が響く。
ディアは両手から黒い炎を生む。
ディア「単純に、僕の探知魔法の方がレベルが高かっただけさ。相手の魔法効果の方が上手だったら、探知魔法に引っかからなかっただろうしね」

等身大まで大きくなった黒い炎を乗せた片手をクルオンに向けるディア。黒い炎がクルオンに飛来し、包み込む。
ディア「クルオンくん、ちょっと動かないで」
クルオン「えっ? うわぁっ!?」

全身が黒い炎に包まれて困惑しているクルオン。自らも黒い炎で包むディア。
クルオン「こ、これは……」
ディア「独自魔法〝黒炎(こくえん)〟――あらゆるものを飲み込む炎を操る魔法さ。飲み込む対象は細かく調節できてね、今は僕らの気配を飲み込んでるんだ。だから、相手の実力次第ではあるけど、接近したり大胆な動きをしなければ、僕らの存在はバレないはずだよ」
クルオン「なるほど。便利な魔法っすね」
ディア「まぁ結構融通は効くからね。さて――」

入り口前で横に並び、正面からビルを見上げる二人。
ディア「ここの調査を始めようか」
クルオン「はい」


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