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The possibility of Dark Tourism in Japan〜ダークツーリズムの"聖地"ジャパンのユニークネスとは?

近年の旅行トレンドとして『サスティナブルツーリズム』や『アドベンチャーツーリズム』という言葉が巷でも耳にするようになってきました。

他にも『ウェルネスツーリズム』や『ニッチツーリズム』など、時代の変遷による人々の嗜好や価値観の変化、そしてテクノロジーの進化によりトラベルトレンドも大きく変わってきています。

その中で今回僕が注目したのが『Dark Tourism(以下ダークツーリズム)』という領域です。ダークツーリズムとは、災害被災跡地、戦争跡地など、人類の死や悲しみを対象にした観光のことで、一部ではBlack Tourism (ブラックツーリズム)またはGrif Tourism (悲しみのツーリズム)とも呼ばれています。

ダークツーリズムに代表する観光アトラクションとして世界的に有名なのはポーランド・アウシュヴィッツ強制収容所や、ウクライナ・チェルノブイリ原発、南アフリカのアパルトヘイト博物館が挙げられます。

実は日本もダークツーリズムの愛好家からは必ず訪れたいデスティネーションとして人気がある場所ということをご存知でしょうか?

『戦争』や『自然災害』の教訓を糧に被害の悲惨さや平和教育として後世に伝える観光アトラクションが数多く存在し、みなさんも周知の通り、広島・長崎の原子爆弾に関連する施設は修学旅行生のみならず外国人観光客にとってもMust-seeなアトラクションとして多くの方の注意を惹きつけています。

加えて、近年では3.11東日本大震災で未曾有の被害をもたらした福島第一原発もチェルノブイリ原発に代わる世界を代表するダークツーリズム地として多いに可能性があります。福島県浪江町、双葉町、大熊町の一部が帰宅困難区域として現在でもゴーストタウン化し、バリケードなど物理的な防護措置が敷かれ、そういった立入禁止区域を除き事故の爪痕を見学・体験するツアーがコロナ前には外国人観光客を中心に人気を博していたそうです。

人間兵器としてのダークツーリズム

前置きとしてDark Tourismの概要、そして日本のダークツーリズム・デスティネーションとしての可能性について触れました。

ここからは実体験談として僕が九州旅行中に訪れた第2次世界大戦での人間兵器をフューチャーした観光アトラクションを紹介します。

太平洋戦争末期、アメリカを中心とする連合軍の反攻作戦の前に対抗手段を失った日本では、1944年ごろから必死必中の気運が高まり、人間爆弾「桜花」、神風特攻隊「剣(つるぎ)」、人間魚雷「回天」、ベニヤ板製モーターボート「震洋」など様々な「十死零生」の特攻兵器が開発されました。

九州にはこの中の人間魚雷「回天」神風特攻隊で有名な場所が、それぞれ大分県・日出町、鹿児島県・知覧町郡にあります。

知られざる人間兵器「回天」 〜大分県・日出町〜

戦時中の特攻兵器として世間的にメジャーなのは神風特攻隊ですが、それよりも前に日本軍初の特攻兵器として開発されたのが人間魚雷「回天」です。

乗組員が魚雷もろとも体当たりして、相手艦船に打撃を与える水中特攻兵器である回天は脱出装置がないため、出撃すれば生還はできない非人道的な兵器でした。

その訓練基地として大分県・日出町にあった大神訓練基地では、終戦から77年経った現在でも水雷壕、回天格納庫、実用頭部格納庫の横穴が残ります。

実際に訪れた回天格納庫
公園には実物大の回天が展示されています。

ダークツーリズムとしてのアトラクションは全国の「回天」搭乗員や整備員など1073名もの戦没者が祀られている『回天神社』や『回天大神訓練基地記念公園』です。

敷地・建物には知られざる兵器を後世に伝えるための資料や回顧録、回天の実物大模型が置かれています。ただ資料はすべてが日本語のみ、アクセスも決して良いとは言えず"知る人ぞ知る"場所として静かに佇んでいます。

知覧特攻平和会館 (Chiran Pease Museum)〜鹿児島県・日知覧〜

credit: Chiran Pease Museum

2つ目に訪れたのが鹿児島県・知覧町郡にある知覧特攻平和会館 (Chiran Pease Museum)です。

特攻という人類史上類のない作戦で、爆装した飛行機もろとも敵艦に体当たり攻撃をした特攻隊員の遺品や関係資料を展示しているこの平和会館は『攻戦死された隊員の当時の真の姿、遺品、記録を後世に残し、恒久の平和を祈念すること』を目的に建てられました。

credit: Chiran Pease Museum

特攻作戦に至った経緯や概要は勿論、アメリカ側から、特攻隊員を見送る女学生側から見た特攻作戦、そして特攻前日に隊員が家族に向けて書いた遺書など、あらゆる角度から訪れてる人々に「戦争」や「特攻」を問いかけています。

当館に展示されている資料はほぼ全て英訳が付いており、投影される動画には英語字幕、公式HPも多言語対応など、日本人のみならず訪れるインバウンドの方々をターゲティングした仕組みが整っていました。

2つのダークツーリズムを経て



・回天に関わる『回天神社』と『回天大神訓練基地記念公園』
・特攻作戦に関わる『知覧特攻平和会館』


2つの土地を訪れ、見学し今思うことは「彼らは本気で国を、家族を守ろうとして亡くなっていった事実」への驚嘆と、敬意です。そして彼らの犠牲の上で成り立つ今の平和をなおさら保っていかなければならないという使命感に似た感情を持ちました。

犠牲の上に成り立つ"平和"

そのために、観光産業が果たすべき役割・手段は何なのか?

その答えの一つとして、ダークツーリズムが存在します。

知覧特攻平和会館には彼らの遺書の多くに「国のために、家族を守るために征きます」という趣旨の言葉が記されています。そして驚くべきことに,遺書・手紙類の多くが前向きな内容のものであり、愛する者の幸せを願ったものや、過去を(そして,隊員の死を)振り返らないで立ち止まらないでほしいといったものでした。

私自身、訪れる前は自己仮説として当時の日本軍幹部により強制的に命令されて特攻に行かざるを得なかった人が大多数かなと思ったのかなと思っていたら、実際は彼らが望んで、しかも定員の数百倍もの倍率で特攻を含む空軍に入りたいという若者がいたそうです。

この写真が撮られたのは 1945年5月26日 全員17~18歳 特攻隊「第72振武隊」隊員
この翌日に全員出撃し 米駆逐艦「ブレイン」に突入した

もちろん一部では以前と違い中に「命令」に近いモノもあったと思いますが、この事実は実際に現地に足を運んでみないと分かり得なかった発見でした。また、当時の敵国であったアメリカからみた特攻作戦(彼らからしたら「自爆テロリスト」と憎悪, 嫌悪の対象であったそう)も非常に興味深かったです。

しかしながら、2つの人間兵器の作戦については、僕がここで何かを発言することは烏滸がましいと思うほどに"感慨深い"の一言に尽きる経験でした。

The possibility of Dark Tourism in Japan


海外に目を向けると、特攻作戦はKamikaze attackと広く知れ渡り、回天に関してはほとんど知られていません。

だからこそ「戦争」や「特攻」を様々な角度から見るためにこういった施設の存在意義は大きいので必然的に海外へのインバウンド客の需要にも対応したマネジメントが必要になります。また日本全国に散らばる"隠れた"ダークツーリズムの発掘・整備も必要であると感じました。

「負の遺産」を人々が訪れ、新たな視点から歴史を学び、感性を磨くダークツーリズム。現在でも世界各地で紛争や戦争が繰り広げられ、多くの罪の無い命が失われています。


これ以上の悲惨な歴史を繰り返さないために、


そして、人類の恒久の平和の実現ために。


日本のダークツーリズムが担う役割の大きさを、再確認した旅でした。

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