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【陣取りを考えよう】明治安田生命J1 第10節 徳島ヴォルティス-鹿島アントラーズ レビュー

戦前

前節は2点リードから追いつかれ、北海道コンサドーレ札幌とドローに終わった鹿島アントラーズ。試合後にはザーゴ監督が解任され、相馬直樹コーチが新監督に就任。今節は初陣となる。

鹿島を迎え撃つのは徳島ヴォルティス。7年ぶりにJ1に復帰した今季は3連勝を含む4勝を挙げ、9位と健闘を見せている。前節もセレッソ大阪との試合だったが、終盤の勝ち越し点で競り勝っている。その前節から中2日で迎える今節は、来日が遅れていたダニエル・ポヤトス新監督が初めてベンチ入りして指揮を執ることになる。

スタメン

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鹿島は前節から3人変更。右サイドバックにルーキー常本佳吾が入り、2列目には白崎凌兵と荒木遼太郎が起用された。

徳島は前節から3人変更。ボランチに鈴木徳真、2列目に渡井理己と杉森考起が起用され、宮代大聖が前線に入った。また、エースの垣田裕暉は鹿島との契約上の関係で今節は出場不可となっている。

変わらない徳島

徳島のスタイルは新監督になっても大きく変化はしていない。昨季まで率いていたリカルド・ロドリゲス監督が根付かせたスタイルを継続していた。

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ポゼッションに自信を持つ徳島は今節もボール保持を試みる。徳島のボール保持はセンターバック+1枚の3枚で、相手の前線2枚に対して数的優位を作って組み立てる形が基本となっている。多いのは左サイドバックを加えた片上げの3バックの形。これは右サイドバックの岸本武流の身体能力の高さと高い精度のクロスを活かしてもらうために、高い位置に張らせたい狙いもある。ただ、これだけではなくボランチの岩尾憲や鈴木徳が降りるシーンもあり、真ん中に降りるのかサイドに降りるのかも明確には決まっていない。おそらく、チームとして数的優位を作ることが共通認識として仕込まれ、どうやって数的優位を作るかは相手の出方に応じて決めているのだろう。

また、徳島は五分五分の競り合いを起こすようなパスや仕掛けのドリブルをあまり使わない。これはJ1というカテゴリーではどうしても個々のクオリティの争いでは劣勢になるのが否めないというのもあるだろうが、自分たちのコントロール出来ない状況下でのプレーに持っていきたくないというのが大きそうだ。自分たちのコントロール外ではプレーがどう転ぶか読みづらいため、チャンスを作ることの出来る可能性もあるが、ピンチになってしまう可能性もある。自分たちのコントロール下でもゴール前に運んでいくことが形として再現性を持って出来ているため、わざわざカオスに持ち込んで無意味に消耗する必要はないのである。

相馬新監督の大原則

さて、鹿島の注目は何と言っても、相馬新監督に変わってどんなサッカーをするのかという点である。結論から言うと、相馬監督はかなり陣取りゲームとして捉えた考えが強く、エリアの区分を明確化したようなスタイルを採っていた。

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まず、攻撃面ではとにかく相手のゴール前に近づくことを望んでいる。この部分に侵入できればゴールへの期待値は高まるし、何より自陣から遠ざかることで失点のリスクも減らすことが出来る。また、そのために重要視しているのがペナルティエリアの角の部分のエリア。このエリアはゴール中央寄りプレッシャーが薄く、そこから一手二手でシュートに至ることの出来るというメリットがある。今節の鹿島はこのエリアを使おうという意識が徹底されていた。

一方、守備面ではとにかく中央でボールを持たせることを嫌い、相手を徹底してサイドに追い出そうとしていた。中央で相手にボールを持たせると直接的にゴールに迫られるリスクが高くなる。逆にサイドなら、そこからクロスなりカットインなり一つ二つ手間を掛けないとゴールに迫ることは出来ない。そこの手間を掛けているうちに対応できればいいし、クロスなどで中央に入ってきたらそこではね返せればいい。ということで、今節の鹿島は中央を徹底して固めていた。

鹿島はどう変わった? 攻撃編

では、今節は結果どうだったのか。まずは鹿島の攻撃面から振り返ってみたい。とにかく相手のゴール前に近づき、自陣ゴールから遠ざかりたい鹿島は、繋ぐことにあまりこだわっていなかった。パスコースを作り出すためにボランチが最終ラインに降りるシーンはあったものの、早い段階で裏のスペースにロングボールを蹴り込んだり、前線の上田綺世目がけて楔を入れたり、高い位置を取るサイドバックを使ったり、とシンプルな縦パスが目立っていた。

相手陣内に侵入した鹿島がその後選んでいたプレーは主に2つ。1つはサイドの裏の抜け出した選手を使って、起点を作ること。もう1つは中央で数的優位を作ること。パスを引き出し、狭いエリアでも苦にせずプレーすることに長けた荒木がトップ下で起用されることのメリットがここで発揮される。サイドで味方がボールを受けると、必ず顔を出しボールを引き出してくる。その荒木の動き出しが鹿島の崩しのスイッチとなっていた。

また、特徴として鹿島の前線の面々はかなり自由に動いていた。中央での崩しは1トップと2列目がかなりポジションを動かしながら関わってくるし、1トップの上田がサイドに流れてボールを引き出すシーンも少なくなかった。アタッカーの面々を考えれば流動的に動かした方が良さが出やすいということもあるし、相手にとっても規則的に動いてくる訳ではないので止めづらいということもある。ただ、再現性がないのと、サイドにサイズがある上田や白崎が流れてしまうと、クロスを送った時の中央のパワー不足というのは懸念点になりそうだ。

もっとも、今節の鹿島はそれほど攻撃機会が多くなかった。その理由としては、最初のコーナーキックで得点できたこと。このところ好調の永戸勝也のキックに町田浩樹が高い打点で合わせて決められたことで、鹿島としては無理して攻める必要性がなくなったわけである。なので、攻撃面の変化については今節だけでは計りかねる部分があるだけに、継続して観察していく必要がありそうだ。もっとも、3月の代表ウィーク中に取り組んでいたであろうセットプレーの改善が、このところ結果として出ているのがプラス材料なことは間違いない。

鹿島はどう変わった? 守備編

そして、守備面である。先述したように守備では中央を締め、サイドに追い出すことが徹底されている。そのために、まず優先されたのが4-4-2のブロックを中央に圧縮する形で作ること。ザーゴ体制の鹿島では多少陣形を崩していてもボール奪取のためにプレッシングに動くケースもあったが、今節はそうした形はあまりなく、まず自分たちの守備の形を作ることを優先していた。

相馬監督はFC町田ゼルビアを率いていた時も4-4-2のブロックを圧縮して組むことを選択していた。ただ、その時は中央ではなく極端なくらいボールサイドに寄せて圧縮していた。それを鹿島で選択していないのは、J1とJ2のクオリティ差にあるように思える。J2ではいないプレッシャーも苦にせずサイドチェンジのボールを送れる選手も、サイドから独力でチャンスを作り出せるアタッカーもJ1にはゴロゴロいる。実際、相馬監督が率いていた町田が3年前に鹿島と天皇杯で対戦した時も、圧縮したはずのサイドからサイドチェンジを許して、展開した先からピンチになって失点してしまっていた。だからこそ、相馬監督は鹿島においてはまず守備のセオリーとして一番使われたくない中央のエリアを消すことを選択したのだろう。

中央に圧縮した鹿島に対して、徳島はサイドを使っていく。特に高い位置を取る右サイドバックの岸本には何度もパスが供給されていた。そのたびに鹿島はサイドのスライドを求められる。何度もスライドしたサイドハーフ、サイドバックの運動量は相当なものだったはずだ。しかし、鹿島の守備陣が最後まで決壊することはなく、岸本の対応に追われた左サイドバックの永戸勝也もサイドを破られることなく対応し続けた。この点は高く評価すべきだろう。中央を最後まで使わせなかったことで、鹿島は相手の攻撃をサイドからに限定出来ていた。

ただ、懸念点としてはよりサイドに強力なアタッカーを配するチームと対戦した時にどこまで対応できるかであろう。今節の徳島はサイドにボールを運ぶことは出来ても、そこから仕掛けて崩すのには苦労していたし、またターゲットになれる垣田が不在だったためシンプルにクロスを上げることも出来ずにいた。川崎フロンターレや名古屋グランパスのような、J1でも上位に位置するチームたちはこれが出来るチームばかりだ。サイドのスライドだけで粘り切れるのか、このあたりは今後も試されることになるはずだ。

また、前線2枚のプレス練度の低さも気になるところだ。チーム方針なのか、それとも個々の判断なのか分からないが、今節の鹿島はブロックを整えた後、荒木や上田が相手の組み立て部隊に積極的にプレッシングを仕掛けるシーンがあった。序盤こそその勢いに驚いたのか徳島のミスを誘発することもあったが、次第に慣れてきた徳島に剥がされ、使われてはいけないはずの中央のスペースを使われてしまうシーンもあった。プレスの問題としては2人の追い方もそうだが、後ろが連動してラインを上げておらず結果的に間延びしてしまうことも問題である。プレスにいくならチーム全体が連動する必要があるし、そうでないなら2人がむやみやたらにいく必要は体力面を考えてもない。そうした部分の原則の整備は急務であろう。

まとめ

セットプレーからの町田のゴールを守り切って、相馬監督の初陣を飾った鹿島。今季初の完封勝利で、まずはチームの新たな船出に花を添える形となった。

ただ、今節があまり難しい試合とは言えなかったのも事実だ。鹿島は最初のコーナーキックで先制することが出来たし、相手の攻撃も連戦による疲労やエース垣田の欠場によって普段より脅威の度合いは落ちていた。鹿島としては、想定していた展開の中で試合を進められただけに、そこまで苦労することはなかったようだった。

もちろん、こうした試合が毎試合できるならそれが一番理想的である。ただ、これからのシーズンを考えた時にどうしたって上手くいかない、難しい展開になる試合は必ずやってくる。その時にどう振る舞うか。ザーゴ体制下ではその時に劣勢をはね返せず、踏ん張り切れなかったことで多くの勝点を落としてしまった。相馬体制でも同じことを繰り返してしまっては順位を上げていくことは難しいだろう。

勝利で新体制の第一歩を飾った鹿島。大事なのはここから勢いに乗っていくことだ。次節のリーグ戦はリーグ戦6試合負けなしで5位に位置するヴィッセル神戸が相手だ。上位相手に今季初の連勝で勢いを掴み取りたい。

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