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【Simple】明治安田生命J1 第12節 鹿島アントラーズ-ガンバ大阪 レビュー

戦前

前節は横浜FCに敗れ、リーグ戦の負けなしが4試合で止まってしまった鹿島アントラーズ。その翌日には内田篤人が引退を発表、今節は期せずして彼のラストマッチとなってしまうという激動の中で、鹿島は中3日でのホームゲームを迎えた。

鹿島が迎え撃つのは6位ガンバ大阪。前節は浦和レッズに1-3で敗れてしまったものの、今季はここまで3敗と上位をキープ。G大阪にとっては、川崎フロンターレが抜け出している以外は混戦の上位陣に踏みとどまるためにも、連敗は避けたい一戦となった。

スタメン

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鹿島は前節から5人変更。キーパーは沖悠哉が3試合ぶりに起用され、最終ラインは総入れ替え。右から広瀬陸斗、犬飼智也、関川郁万、杉岡大暉という面々が並んだ。内田はベンチスタート、また上田綺世がケガから復帰している。

G大阪は前節から4人変更。最終ラインにキム・ヨングォンが復帰。左サイドには福田湧矢、インサイドに倉田秋、前線に今季リーグ戦初先発となるパトリックが起用された。また、昌子源は古巣対戦。移籍後初の県立カシマサッカースタジアムでの試合となる。

アラーノ右サイド起用のワケ

今節の鹿島は前節と前線の人選こそ同じだが、配置をいじってきた。下がってシャドーのように振る舞うことの多い2トップの右に土居聖真2列目の右にファン・アラーノを置いてきたのだ。

この狙いはG大阪のサイドの裏を突くためだろう。今季のG大阪は前線からのプレッシングが自分たちのスタイルとなっている。前線からのプレスということは当然G大阪は前に人数を掛けて、鹿島のポゼッションを防いで、ボールを奪おうとしてくる。そこでロングボールを使って局面をひっくり返し、G大阪の3センターバックを引きずり出して、ゴールに結びつける。それが鹿島の今節の狙いだったはずだ。

そのためのアラーノである。切り替えも速く、スピードのあるアラーノに裏抜けを期待して、ザーゴ監督は右サイドにアラーノを起用したのだと考えられる。一方、アラーノと同じタスクを逆サイドで背負ったのは左サイドバックの杉岡。身体能力が高く、突破力もある彼が左サイドで高い位置を取ることで、鹿島はサイドから主導権を握ることを狙っていた。実際、立ち上がりの杉岡のプレーはこれまでで一番らしさが出ていたように思える。

また、鹿島を助けたのはG大阪の2トップにも理由があった。G大阪が前からのプレッシングを志向する一方で、宇佐美貴史とパトリックの2人はプレスなどの活動量には不満が残るし、そもそもそうしたプレーが得意な選手ではない。ということで、G大阪は前からプレスを掛けているのに強度が不足しているというある種歪んだ状況の中で、鹿島の最終ラインの選手はボールを前進させることに成功し、試合の主導権は鹿島が掴んだ…、かに見えた。

宇佐美貴史とパトリックのトレードオフ

ただ、そんな2人の欠点を知っていて宮本恒靖監督は起用しているのだから、当然それには訳がある。それは2人の攻撃時の個の力。チャンスメーカーとしてもフィニッシャーとしても一流で、狭いスペースでも仕事の出来る宇佐美と、Jリーグではそう簡単に止められないほどの圧倒的フィジカルを持つパトリック。デメリットを補って余りあるメリットに宮本監督も期待しているのだ。実際、G大阪はその2人の力を活かすところから、試合を動かしていく。

最初のプレーから押し込まれ気味のG大阪はパトリックへのロングボールで状況の打開を図る。パトリックは競り合いで直接チャンスを作るまでには至らないものの、そのパワーを受けて鹿島の最終ラインは自然とラインが下がってしまう。すると、どうなるか。鹿島もスタイルはハイプレスだ。前からボールを奪いに行こうとする前線と、パトリックのパワーを受けて下がってしまう最終ラインという相反する意思が並ぶことで、中盤にぽっかりとスペースが生まれてしまう訳である。

この状況で持ち味を見せるのが宇佐美だ。鹿島が空けた中盤のスペースに降りて、ボールを引き出してはゴール前にボールを供給していく。前線のパトリックにシンプルに渡すことも出来れば、大外から駆け上がっていく小野瀬康介や福田を活かすことも出来るし、中盤で細かくパスを繋ぐことも出来る。宇佐美にとっては選択肢がいくつもある、理想的な状況となっていた。

このやり返し始めた流れの中で先制できたことがG大阪にとっては大きかった。セカンドボールを拾った左サイドから攻撃をリスタートしたG大阪はパトリックとのワンツーで倉田が抜け出すと、その折り返しを右サイドから駆け上がった小野瀬が詰めてゴールに結びつけた。元々アタッカーで得点感覚も高い、小野瀬を活かす右サイドへの折り返しはG大阪の得意パターンの一つだった。

鹿島にとってはこの失点が状況を難しくしてしまったことは否めない。最初に寄せに行ったアラーノの距離感も中途半端なままかわされてしまったし、犬飼はパトリックのポストプレーを止めることが出来なかったし、広瀬は後追いになり、レオ・シルバはカバーに行くのが遅れている。どこかで決定的なミスが起きている訳ではないが、1人1人の小さなエラーの積み重ねが相手のキレイな崩しを生んでしまっているし、マンツーマンで守る意識が強いゆえにカバーリングやマークの受け渡しが遅れてしまうという弊害が起こした失点とも言えるだろう。

ペースを引き戻した内田篤人

先制したことでG大阪にとってはかなり戦いやすくなった。サイドの裏を狙われていることは分かっていたので、小野瀬と福田の両サイドのポジションを徐々に下げ、5バックで対応するような形に変更。一方的に押し込まれないよう、パトリックと宇佐美の個の力で牽制を図りながら守りを固めていくスタンスを取っていった。

サイドの裏のスペースを消されていった鹿島は有力な攻め筋を失ってしまうことになってしまった。ボールを持つことは許されたが、これではアラーノのスピードも活きる展開ではなく、徐々にサイドに土居が回り、アラーノは中央に動く形に変わっていった。

さらに、ここで鹿島にアクシデント。相手のクロスに対応した際に広瀬が太腿の裏を痛めて、プレー続行不可能に。代わって入るのは内田。内田にとっては予想もしない展開での登場となった。

ただ、この内田の登場から鹿島は再びペースを掴んでいく。先述するように、失点するまでの鹿島の右サイドの大外はアラーノのプレーエリアだったが、内田登場後は彼が受け持つようになる。内田の今節のパフォーマンスは素晴らしいというほかなく、まさに乾坤一擲を賭したような姿そのものだった。絶妙なタイミングで駆け上がり、スペースでボールを引き出せば、そこから精度の高いボールを供給する。G大阪にとっては仕事できないくらいにスペースは消しているはずなのに、残ったわずかなスペースで仕事をされるのだから中々に嫌だったはずだ。

さらに、ここからG大阪は左サイド(鹿島の右サイド)で完全に後手に回ることによって、攻め筋が右サイドからに限られていく。鹿島にとって考えれば、攻め筋が限られていれば止めやすさははるかに増すし、内田にとっても攻守の連続でサイドのアップダウンを繰り返すことは大きな負担になっていたはずだが、内田は自身のパフォーマンスでそれすら許さなかった

鹿島にとって悔やまれるのは前半のうちに同点に追いつけなかったことだろう。85分間も守りっぱなしではキツいと思っていたのだろう、G大阪は前半先制してからも前からいく姿勢を見せていたため、後ろにスペースが生まれるシーンもあった。ただ、35分のエヴェラウドのシュートのこぼれ球を和泉竜司が詰めたが枠を外れてしまったシーンのように、決定機を仕留めるには至らず。このことが後半自分たちをより苦しくしてしまった

ゴール前にバスを置くガンバ大阪

後半に入るとG大阪の姿勢はより鮮明になる。5バックで守りながら、カウンターであわよくば追加点を狙う。

鹿島はこれで追いつくのがより一層難しくなった。ゴール前にはG大阪の選手が立ち並び、スペースはほとんどない。自然と攻め手はサイドに限られていく。ただ、クロスの先には三浦弦太、昌子、キム・ヨングォンと日韓代表経験者たち3センターバックがそびえたち、ことごとくボールをはね返していく。鹿島にとっては惜しいシーンは作れるものの、決定機はそれほど作れていないというもどかしい時間が後半は続くことになった。

そんな中、迎えたカウンターのピンチをことごとく防いだ沖のプレーはチームにとって、試合を壊さないという意味で非常に大きかった。あそこで2失点目を喫していれば、この試合の鹿島の勝ち目は限りなくゼロに近いものになっていたはずだ。

結実した鹿島の攻め続ける姿勢

63分~

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中々ゴールの奪えない鹿島は63分に動く。遠藤康と上田を前線に投入。上田を入れてゴール前のターゲットを増やし、遠藤に攻撃に変化を付けることを期待した交代だった。

今節の遠藤のパフォーマンスは鹿島がポゼッションにあまり苦労していないこともあって、低い位置に降りてくることは少なく、高い位置でプレーし続けることでG大阪守備陣に揺さぶりをかけることが出来ていた。また、秀逸だったのが右サイドでの内田との連係。中央寄りに位置取った遠藤がボールを受けてタメを作り、右サイドを駆け上がった内田に渡して、そこからクロス。まさに阿吽の呼吸と言えるコンビで鹿島は右サイドから何度もチャンスを作り出そうと試みた。

75分~

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だが、それでもゴールを奪えない鹿島。75分に最後の一手を打つ。荒木遼太郎と染野唯月のルーキーコンビがピッチへ。ボランチを1枚削り、前がかりになってなんとかゴールを奪おうというシフトに変えてきた。

ただ、宮本監督のそれに対する打つ手も確実なものだった。左サイドからのエヴェラウドや荒木の突破を警戒して、センターバックでもプレーできる守備力のある髙尾瑠を右サイドバックに。引き気味の中で中央から打開されないように、矢島慎也をインサイドに回して、ボール奪取力のある井手口陽介をアンカーに。小野裕二も入れて運動量も維持した。なんとか穴を見つけてそこを突こうとする鹿島と、その穴をすぐさま埋めてくるG大阪のせめぎ合いによってスコアは0-1のまま、アディショナルタイムに試合は突入していく。

残り時間もほとんどなく、敗色濃厚となった鹿島。それでも選手たちはほとんどラストプレーで状況を変えた。内田のサイドチェンジからスタートした攻撃は左サイドに渡り、荒木が仕掛けからクロス。そのクロスに大外で合わせたのはオーバーラップしていたセンターバックの犬飼。渾身のヘッドがゴールネットを揺らし、鹿島は土壇場で同点に追いつくことに成功した。

この同点ゴール、やはり得点に絡んだ2人を評価すべきだろう。まず、クロスを供給した荒木。ピンポイントで合わせた精度もそうだが、これまで散々はねかえされていたG大阪のセンターバックたちを避けて、大外の藤春廣輝と勝負できるようなボールを送ったことが大きかった。そして、その大外に位置取って合わせた犬飼。位置取りはもちろん、リスクを恐れずに攻め上がったことが、結果としてターゲットを増やすことに繋がり、ゴールへと結びついた。

結局、試合はこのまま終了。鹿島は勝点3で内田の花道を飾ることは出来なかったが、2試合連続でのアディショナルタイムでのゴールでホームでの負けなしを継続した。

まとめ

負けなかったことがこの試合の収穫だろう。ただ、前節以前の勝てなかったゲームも同様にこの試合も勝点を落としてしまったという意味合いが色濃く残っている試合には違いない。

ザーゴが毎試合のように試合後コメントで述べているように、やっている形が間違っていないのは確かだし、チャンスを決めていればもっと順位が上の方にいるのも確かだ。ただ、そこだけに原因を求めていてはこのもどかしさは中々解消されないだろう。

今の鹿島はワンプレーで簡単に相手に流れを渡しすぎているし、そこからやり返すまでに耐えることが出来ていない。ここが大きな問題に思われる。特に自陣での守備の強度には不満が残る。この連戦でプレスや攻撃→守備の切り替えの強度が上がらないのは理解できるが、失点に結びつく可能性の高いエリアで同じように振る舞っているのは確実にアウトだ。人数が揃っているのに寄せの甘さからシュートやパスを簡単に許し、そこからピンチを作られてしまっている。ボールを奪うという意識は相手陣内でもそうだが、自陣ではより強く持ちたいところ。マークの受け渡しも含め、改善していかなければならないポイントだ。

最後に、もう一度触れるが今節の内田のパフォーマンスは本当に素晴らしかった。アップダウンを最後まで繰り返し、パスやクロスもほとんどミスがなかった。このパフォーマンスが毎試合のように出来れば引退は選ばなかったのかもしれないが、おそらく最後ということでかなり無理をしたのだろう。ただ、それでもあのパフォーマンスを見せられることに、内田の選手としての底力を見た気がする。今節の内田のパフォーマンスが中々状態の上がらないチームのカンフル剤になってくれることを期待したい。

最後に、内田篤人選手。本当にお疲れさまでした。

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