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【灯は消えず】明治安田生命J1 第10節 鹿島アントラーズ-ヴィッセル神戸 レビュー

戦前

水曜日のルヴァンカップでは清水エスパルスに一時逆転を許しながらも、染野唯月と松村優太によるルーキーコンビのゴールで再逆転して勝利した鹿島アントラーズ。良い流れを継続しつつ、中3日でのホームゲームを迎える。

対するのはヴィッセル神戸。前節終わって9位と悪くはないものの、今季一度もリーグ戦連勝がなく、中々波に乗り切れていない。前節もベガルタ仙台に1-2で敗戦。ミッドウィークに試合がなく、今節は中7日で迎える。

なお、この両チームは今年元日の天皇杯決勝でも対戦。鹿島はその試合0-2で敗れており、神戸の初タイトル獲得の光景を目の前で見届ける苦い思い出があるため、今節はそのリベンジマッチという意味合いでも注目されていた。

スタメン

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鹿島は前節のサガン鳥栖戦から6人変更。キーパーは沖悠哉が体調不良ということで、清水戦に続いてルーキー山田大樹が起用された。町田浩樹が出場停止のセンターバックには関川郁万が入り、広瀬陸斗、三竿健斗、和泉竜司、遠藤康が先発に復帰している。

神戸は前節の仙台戦から2人変更。センターバックに大﨑玲央を起用して、3バックに。また右のウイングには高卒ルーキー小田裕太郎がプロ初スタメンを飾っている。

鹿島の神戸対策

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ポゼッションの得意な神戸に鹿島がどう振る舞うか、鹿島が選んだのは積極的なプレスだった。神戸の3バックに対して、鹿島は2トップの片方と両サイドハーフが一列上がった形の3枚で対抗。中盤のアンドレス・イニエスタと山口蛍に対しては残った2トップのもう片方とボランチ2枚がケアすることで、中央で相手を自由にさせることなく対応する形を取った。

ハイプレスを採用すると前がかりになった上にDFラインを押し上げなければならないため、最終ラインは後ろにスペースが出来た状態かつほぼ数的同数で対応しなければいけないので不安が残ったが、ここは抜擢された山田と関川も含めて守備陣が冷静に対応。序盤は犬飼智也の対応ミスからのファウルでFKを与えた以外は、神戸にゴールを脅かされるシーンは作らせなかった。

このプレスに対して、神戸は立ち上がりかなりバタついていた。プレスが噛み合ってしまう上に、前線のスペースに蹴っても鹿島にボールを回収されてしまう。さらに、問題だったのがスプリントスピードの差だ。神戸はこの試合、左サイドの酒井高徳以外は鹿島のアタッカーたちによーいドンのスピード勝負でほとんど勝てていなかった。特に3バックとエヴェラウド、和泉、土居聖真とのスピード勝負の差は顕著で、神戸は最終ラインの裏へのボールの処理にかなり苦しんでいる様子が見られた。

盤面を変えるイニエスタ

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劣勢を強いられる神戸。だが、神戸はイニエスタというスペシャルワンの存在で流れを引き寄せていく。

自分たちのポゼッションが上手くいっていないことを感じ取ったイニエスタは10分過ぎから徐々にポジションを動かしていく。上記の図は極端な例だが、イニエスタは左サイドの鹿島の選手が誰がプレスに行くのか迷うような場所に位置取り、そこでボールを引き出すことで神戸の逃げ口となっていたのだ。こうなると、鹿島のプレッシングは神戸がイニエスタを使うことで機能不全に陥ってしまい、途端に主導権は神戸へと移ってしまっていった。

さらにイニエスタが鹿島にとって厄介だったのは、少々のプレッシャーを受けてもそれを苦にせず、狭いスペースや限られたパスコースしかなくてもそこを正確に通してくることだった。他の選手ならミスしてくれる間合いに詰めても、ミスしない。ミスすると思っているので、パスを通された時の準備が出来ておらず、対応が遅れてしまう。文字通り、イニエスタが神戸のパスワークの潤滑油となることで、神戸のパスワークは一気に加速していった。

神戸は自分たちの流れを引き寄せた中で、スコアを動かすことに成功する。19分、左サイドからのコーナーキックがファーに流れると、大﨑の折り返しをダンクレーが右足ボレーで合わせてネットを揺らした。

鹿島にとっては流れが相手に渡ってしまった中で、修正する前の耐える時間帯で失点してしまったのは痛手だった。ニアサイドのストーン役のエヴェラウドは触っていたものの後ろにそらしてしまったし、山田は自らがパンチングに行こうとしたものの、結果として触ることが出来ずにゴールを空けてしまう形となってしまった。

ホットライン炸裂

先制を許した鹿島はボールを保持することにはある程度成功していたが、その後のプレスが決まらないので、中々自分たちのターンに持ってこれない時間が続いた。

また、神戸がリードしたことで最終ラインが下がったことで後ろのスペースが消されてしまい、鹿島アタッカー陣のスピードを活かす局面が減ってしまったのも痛かった。だからこそ、最前線のエヴェラウドにはボールをキープしてポストプレーして欲しかったのだが、ゴールに背を向けてDFを背負ったシーンではボールロストしてしまうケースが多く、中々リズムを作り出せずにいた。

しかし、鹿島はその流れの悪さをワンチャンスでひっくり返す。38分、自陣でボールを奪うとカウンター。右サイドにボールが渡ると、遠藤からボールを受けた広瀬陸斗のクロスに、エヴェラウドがヘディングで合わせて同点に追いついたのだった。

このゴールシーン、FC東京戦でも見られたように今や鹿島のホットラインの一つとなりつつある、広瀬→エヴェラウドのラインで決めたゴールだった。エヴェラウドの滞空時間の長い、頭一つ抜けたヘッドももちろん素晴らしいが、それを活かした広瀬のクロス精度も素晴らしかった。

後半のギアチェンジを見込んでいれば、前半は1点ビハインドのまま終わっても悪くはないと考えていたであろう鹿島にとってはこの同点ゴールは大きな価値を持つものとなっただろう。前半、結局1-1のタイで折り返したことで、鹿島はより戦いやすくなった。

関川郁万の課題

後半になると、鹿島は再び前線からのプレッシャーを強めていく。神戸もキーパーの飯倉大樹をポゼッションに組み込みながら剥がそうとしていくが、鹿島がボール回収してチャンスに繋げていくシーンも増えていく。一方の神戸も前半立ち上がりはプレスの強度は低かったものの、徐々に強度を上げていき、また違いを作るイニエスタの存在によってチャンスを作り出していき、一進一退の攻防が続く。

ただ、鹿島が和泉のシュートがポストに阻まれてしまったのに対し、神戸はチャンスを活かした。61分、イニエスタがドリブルで三竿を剥がすと、ドウグラス、酒井と繋いで、最後は郷家友太が右足でのシュートを沈めて、鹿島は再びリードを許す展開となってしまった。

このシーン、課題となるのは関川の対応だろう。郷家をケアしていたのは関川だったが、間合いを空けすぎたせいでシュートまで持ち込まれてしまい、慌てて永戸勝也がケアに回っているが間に合わずに打たれてしまっている。

失点シーンもそうだが、関川は相手に抜かれないことを優先しているのか、自分の足を伸ばしても届かない位置取りを取っていることが多い。そうしたシーンのように、どうも自分の得意なゾーンに持ち込もうとするアクションが少なく、相手のミスを待つ姿勢の方が多いのが気になるところだ。フィジカルの競り合いならそうそう負けることはないだけに、是非待つだけのディフェンスだけでなく、自らボールを奪う局面に持ち込むディフェンスを身につけて欲しい。

前がかりになる鹿島を支えるアラーノ

73分~

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再び追いかける展開になった鹿島は73分に一気に4枚代え。染野、荒木遼太郎、永木亮太、ファン・アラーノが投入された。

4枚代え後の鹿島は攻撃時は永木がバランスを取りながら、アラーノが高い位置を取り、前線は土居、荒木、染野、アラーノが流動的にポジションを変えながらゴールに迫っていった。

82分~

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それでもスコアが変わらない82分にはさらに両チームが動く。鹿島は右サイドに松村を投入。アラーノがアンカーの位置に入りながら、実質的に中盤より前の選手が全員前がかりになり、良い意味でのカオス感を持ちつつ攻勢に出た。一方の、神戸はボール保持を高めつつ逃げ切ろうという意図なのかセルジ・サンペールを入れ、さらに鹿島キラーの藤本憲明を投入。あわよくばカウンターでトドメを刺したいという意図も感じられた。

ただ、前がかりになった中でも鹿島のバランスはそれほど崩れなかった。その要因として大きいのはアラーノの存在である。この試合、アラーノの特に活きた良さは切り替えの速さ。たとえ、ボールを失ってもすぐさま奪い返しにかかる。そのスピードでピンチに繋がりかけたシーンを防ぎ、相手陣内でもプレスを掛けることで、再びマイボールにして鹿島の攻撃のターンへと繋げていった。

魔法をかけた荒木遼太郎と染野唯月

アディショナルタイムに入っても、チャンスは作りながらゴールを奪えない鹿島。そうした中、神戸が決定的なチャンスを迎える。クリアボールを拾ったサンペールがボールキープして、スルーパス。これに抜け出した藤本が関川と1対1のシーンを作り出すが、藤本はここでトラップミスしてしまい、関川にボールを奪われてしまった。

関川のボール奪取から、鹿島は再び攻撃を開始。右サイドからのクロスは神戸にはね返されたが、セカンドボールを荒木が拾うと、アラーノに預けて荒木はゴール前に侵入。アラーノからボールは染野に渡り、染野はインサイドで中央にパス。これを再び受けたのは荒木。荒木はワントラップした後、右足でゴールに流し込み、鹿島はほぼラストプレーで同点に追いつくことに成功したのだった。

このシーン、まず神戸にとって悔やまれるのは藤本のプレー選択だろう。ベンチからはコーナーフラッグ付近でキープしろ!との指示が出ていたにも関わらず、藤本は関川との1対1を選択して3点目を狙いにいった。そこでまだフィニッシュで終われていれば攻撃の流れを切って、セットした状態で守備に移ることが出来たが、結果はトラップミスでボールロストという最悪のモノ。そのミスから失点してしまっただけに、神戸にとっては結果勝点2を失うことになるプレーとなってしまった。

しかし、やはりこの状況で称えられるべきは荒木と染野だろう。相手ゴールに近く、狭いスペースで時間もない中で、彼らが見せた技術の高さとプレー選択の確実さは異次元のものだった。オフサイドポジションから素早く降りてボールを引き出し、自ら強引にシュートにも持ち込める中でフリーの荒木へのグラウンダーのパスを選択した染野。セカンドボールをきっちり拾い、そこからアラーノに預けて、自らはゴール前に侵入。染野からのパスは足元に入ってしまったが、そこから体勢を崩しながらも枠内にシュートを決め切った荒木。この2人が最後の最後でピッチに魔法をかけた

結局、試合は2-2で終了。鹿島は3連勝こそ逃したが、これで4試合負けなしとなった。

まとめ

勝点3も掴める試合展開だっただけに、勝点2を失ってしまったと捉えることも出来る試合だったが、今までこういった試合でことごとく勝点0で終わっていただけに、ラストで勝点1を掴み取ったことは評価できる試合である。

ただ、鳥栖戦と清水戦に続き、プレッシングがハマらない時間帯が続いてしまったことは反省点だ。この試合では最終ラインのリスクを受け入れつつ、それでも積極的に前から行く姿勢は見せていたが、イニエスタが起こしたズレによって機能性は低下してしまった。相手が位置取りを動かしてきた時に、どこでボールを持たれることを許容して、どこでリスクを背負い、どこでボールを奪いに行くのか。そういった点を整理するスピードを高めていくことが劣勢の時間帯では必須になってくるだろう。

違いを作れるルーキーたちの登場によって、攻撃陣の層は厚くなった。今の交代枠5枚の中でその状況だと、選手交代でギアチェンジすることが可能になっている。そのギアチェンジをビハインドから追いつくことではなく、同点の状況から勝ち越す、リードした中でトドメを刺すことに使いたいところだ。そのために、守備面が今後勝点のさらなる積み上げには大事なはず。プレスの機能性向上、個々の踏ん張りに期待したい。

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