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鹿島アントラーズが勝点6と共に掴みつつある「我慢」

耐えた末の3連勝

耐え忍んだこと。鹿島アントラーズの直近2試合の勝因をまとめて挙げるなら、この一言に落ち着くだろう。ガンバ大阪とのホームゲーム、北海道コンサドーレ札幌とのアウェイゲーム、共に自分たちが思い描いてたような試合運び、サッカーの内容にはならなかったものの、鹿島はどちらの試合も勝ち切って、リーグ戦3連勝を達成。連敗で黒星が先行していたリーグ戦の戦績を五分まで戻してみせた。

自分たちの思い通りにいかなかったというのは、試合の主導権を握れていなかったことに関係している。先制点を得た後にリズムを掴むことができていたG大阪戦はともかく、札幌戦に至っては試合を通じて主導権は相手の手中にある時間帯がほとんどで、鹿島にとっては守備で耐え凌ぎながら、ワンチャンスを狙う受け身の姿勢を90分間ずっと取り続けなければならなかった。「試合の主導権を握り続ける」ことを目指す岩政大樹監督が率いる鹿島にとって、勝ったとはいえこの内容だけを見るなら決して受け入れられるものではない。

ボールは持ちたい鹿島

試合の主導権を握れなかったことに関係しているのが、ボールを思うように保持できなかったことだ。この2つの事柄は必ずしもイコールで結びつくものではないが、確実に関係性は存在している。ボールを保持していれば、ゴールを奪う可能性は高まるし、失点することもない。フットボールというスポーツがボールをゴールに入れた数で競うものな以上、その主役となるボールを持っていることへの意味合いは大きい。

もちろん、ボールを持たずに主導権を握ることもできなくはないが、鹿島としてもボールを保持できるなら保持したいと思っていたのは間違いない。連勝中の現在起用しているメンバーやピッチ内で起こっている現象を踏まえても、ボール保持に対する部分である程度の整理が行われたのは目に取れる。誰がどの立ち位置を取り、どういう役割を求められ、どこからボールを運んでいくのか。詳しくは新潟戦の振り返りで書いたのでここでは触れないが、チームとしてボール保持に対する再現性のある方法論を探してそれを浸透させようとしているのは確かに感じられることだ。

その中で、新潟戦は早くに先制することができたため、ボール保持にこだわる必要がなかったものの、G大阪戦と札幌戦では確実にボールを保持する時間を長くしようとする試みがピッチ内では行われていた。ただ、結果としてそれは上手くいかなかった。そこにはそれぞれ理由がある。

持ちたくても、持たなかった理由

まず、G大阪戦は相手のボール保持を上手いこと封じられなかったからだ。相手のG大阪はボール保持を主体とするチームである一方、クリーンにボールを前線に運ぶことを好み、リスクを冒してまで攻め込むことを嫌うチームだ。そのため、鹿島としてはシンプルにピンチに持ち込まれる可能性は低いものの、確実に数的優位と位置的優位を作ってボールを運んでくる相手に対して、プレスを積極的に仕掛ければボールを高い位置で奪えるかもしれない反面、前に出た分だけ相手に付け入るスキを与えかねないジレンマと戦うことになった。この辺りは岩政監督の試合後コメントからも窺える。

ゲームプランに関しては、もう少し自分たちが相手陣地に前半から入り込んで、攻める展開を増やすイメージでいた。ホームだったので。ただ、G大阪はあれほど外に人数をかけてボールを保持してくることは、選手たちに伝えていた。そこは仕方がないというか、あれだけGKも含めて6人が外側でボールを回し、そこに食いつくまでずっと外で動かしている。なかなかそこで取りにいく場面を作り切れなかった。前半の途中から少しずつスイッチをかけるところはかけにいき、ボールを奪いにいって敵陣で奪うことも何度かできた。そこは選手たちが少しずつゲームを作り始めているところ。今週のトレーニングを含めて、選手に少しその判断を委ねているところがある。落ち着いて見ているところと、もう少し行けるかなというところと、両方ありながら見ていた。

https://www.antlers.co.jp/games/53389

その中で鹿島は前半、前からそれほどいかないことを選んだ。新監督になってまだスタイルを構築途中でG大阪にも付け入る部分があったのは確かだが、鹿島としてもスタイルを構築中で不安定であるという面では同様であり、そうしたことを考慮して、リスクを冒さないことを選択したのだろう。結果、前半を0-0で終わらせ、後半最初のセットプレーで先制できたのだから、その選択は当たったことになる。

一方、札幌戦でボールを持たなかった理由として大きいのはピッチコンディションだろう。スパイクと芝が合わなかったのか、この試合では序盤から足を滑らせる選手が両チームに見られており、鹿島としてはこの状況で無理にボールを持った時の万が一を考えて、ボール保持にこだわらない選択をしたのだろう。前半の早い段階で何回かボール保持の姿勢を見せた以外、鹿島は早め早めにロングボールを選択していった。

理想とは違うけれども、目の前の状況と自分たちの今の立ち位置を冷静に捉えた結果、現実的な選択をした後に今回の勝点6は生まれている。これは前向きに考えていい結果であると言える。

これを進歩と言えるのか

ただ、一方で次のような意見があるのもわかる。「目の前の結果にこだわって内容に進歩がないようじゃ、岩政さんに託した意味がない!」と。たしかに、ここ2試合の戦いぶりだけを切り取って考えるなら、ここ数年の鹿島とあまり変化はないと言える。しかし、私は今の鹿島は確実に進歩を果たしている、と思っている。

まず、もし開幕から順調に勝点を稼げていたなら、G大阪戦も札幌戦もリスクを冒して先述した選択とは違った選択をしていた可能性はあるだろう。しかし、リーグ戦序盤で4連敗を喫し、すでに5敗しているチームがこの先タイトルレースに加わりたいということを考えれば、もうこれ以上星を落とせる余裕は残っていない。また、元々岩政監督になってから思うような結果が残せておらず、チームとして実績もそれに基づいた自信もない今の状況を考えれば、結果というのは何よりの良薬だ。それを考えた時に、今回の現実的な選択というのが妥当なものであるというのは理解ができる。

また、川崎F戦や広島戦で勝ちゲームだったにも関わらず、自らの不味さで勝点を取りこぼしたことを考えれば、耐えた結果として勝点3を掴み取ったというのは確実に成長と言っていい。払った授業料としてはかなり高かったし、本来は払う必要のなかったものでもあるが、それでチームがダメージを受けていたことを考えると、今回の連勝がそれを癒す材料の一つにもなったはずである。

思うに、岩政監督の言う「新しい鹿島を作る」というのは、サッカーのスタイルとしてピッチ上で起こることはそんなに真新しいものではないのではないか、と個人的に思っている。斬新さでいえばザーゴやヴァイラーの時の方があったはずであり、岩政さんのスタイルは結局のところ「良かった時の鹿島のサッカーを、メンバーが変わっても再現できる方法論を見つけにいく」ものであると思うからだ。そう考えていくと、今回の3連勝は鹿島がようやくチームとして積み上げていくものがハッキリとしてきており、それが故に出てくる課題にぶち当たる、という健全なチームの歩み方ができつつある、ということに対して示された結果であるはずだ。

とはいえ、課題もありながら勝ち星を拾うということは、継続できて初めて意味がある。結果目標に向けてもまだまだペースとして足りないのは間違いない。GW連戦はまだ残っているし、それが終われば国立で好調名古屋を迎え撃つことになる。ここでも結果を示し、チームとしての積み上げをさらに重ねられるか。鹿島が試される状況はまだまだ続く。


遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください