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【シン・ブエノ】明治安田生命J1 第26節 鹿島-FC東京 レビュー

スタメン

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先制点で活きる白崎とセルジーニョ

試合は立ち上がりから動いた。鹿島のキックオフで始まった開始早々に、自陣で小泉がボールロスト。早くもピンチを作られるがここは素早い帰陣で事なきを得ると、その直後に得たCKでレオ・シルバのボールにブエノが頭で合わせて鹿島が先制に成功する。試合後の会見で長谷川監督はマークについていた渡辺について触れていたが、ここはあの態勢からゴールに流し込んだブエノの上手さを褒めるべきだろう。

なにはともあれ、この先制点で楽になった鹿島。ボールを持つと、第一の選択肢として前線へのロングカウンター、それがダメならサイドへのロングボール、と攻撃の優先順位を明確にしていった。

こうなると、サイドに白崎とセルジーニョを置くメリットが活きてくる。180cmを超えてキープ力がある彼らにボールを送ることで、そこで起点を作らせる、それがダメでもマイボールのスローインにして相手DFラインを下げさせて押し込むことに成功。また、彼らをそれぞれの利き足とは逆のサイドに置くことで、ハーフスペースに位置取る彼らから、切り込んでシュートやクロス、もしくは空けた大外のスペースを駆け上がるサイドバックへのパス、という2択を常にFC東京守備陣に突き付けることが出来ていた。

悪魔への誘い

先制点を得た鹿島が前からガンガン来ないことで、比較的ボールを持つことが出来たFC東京。ただ、このチームはショートカウンターを一番の武器とするチームであって、ボールを握ることをそれほど望んでいる訳ではない。低い位置からでも単独で打開できた久保が移籍してからはなおさらだ。

こういう時に頼りになるのが一本のパスでチャンスを作り出せる高萩なのだが、鹿島にレオ・シルバと三竿が受け渡しながらマンマークで付かれており高萩に打開を託すのは難しい状況。

となると、お次は永井とディエゴ・オリヴェイラをシンプルに活かすロングボール、ということでFC東京は橋本をセンターバックの位置まで下ろしてビルドアップに参加させ、鹿島の2トップに対して数的優位を作った状態から、裏のスペースにボールを送り込んで永井を走らせるのだが、そこにいたのは肉体の悪魔ブエノ。鹿島はセンターバックをFC東京の2トップにべったり付かせて、たとえサイドに流れても超速スピードでことごとく潰していった。髙萩を消し、次に永井を消す。鹿島はFC東京の選択肢を一つずつ消していくことで、ブエノとの理不尽な1on1に持ち込ませていったのである。

ブエノ消滅&高萩復活大作戦

20分を過ぎるとFC東京が徐々に変化を見せ始める。目的はとにかくブエノをリングに上げないようにすること。まず、永井を前線に張らせて、そこにブエノを付かせる。永井はフィニッシュのシーン以外でほとんどボールに関わることが出来ないが、それはマークしているブエノも同じことということだ。実質10対10になることを許容してまで、FC東京はブエノを消しにかかった。

次は消えた高萩が動き出す。高萩は低い位置でボールを貰ってゲームメイクに参加するのをやめて、高い位置に張り出したり、サイドに流れたりしてセカンドボール回収マシンとなっていった。

この高萩にデートするように付いていった三竿とレオ・シルバだったが、彼らが付いていくことで空いた中央のスペースに東やディエゴ・オリヴェイラが下りてボールを受け、そこから右サイドへのロングボールでチャンスを作ろうとする動きを受けて、高萩を手放さざるを得なくなっていった。ちなみに、FC東京が右サイドを集中的に狙っていたのは、ポジショニングに不安のある小池を狙い撃ちにするためと、室屋の質的優位を活かしたかったからであろう。

ブエノ様を引きずり出したい

後半に入るにあたって、鹿島はケガで白崎→名古の交代を余儀なくされる。これでサイドへのロングボール大作戦の威力が半減してしまったのが、鹿島にとっては地味に痛かった。

FC東京は後半に入って、次の手を打つ。2トップの位置を入れ替え、ブエノVSディエゴ・オリヴェイラ、犬飼VS永井の構図を作り出した。さらに、ディエゴ・オリヴェイラを高萩のいた位置に下ろしてポストプレーをさせる、というプレーを繰り返してブエノを引っ張り出し、その空いたスペースを永井に突かせる→犬飼がそこに付いていく→フォローが減った小池にロングボール放り込んでぶつける、という流れで鹿島守備陣の決壊を起こそうとした。

この時、ブエノが付いていかずにマーカーを受け渡す方法もあったのだが、前半から小池が狙われ続ける状況を放置できる状況ではないこと、またディエゴ・オリヴェイラのキープ力を1on1で食い止められるのがブエノくらいだったこと。この2つの理由からブエノが前に出て行かざるを得なかったし、おそらくFC東京はこういう流れになるのも計算ずくだったのだろう。ブエノがディエゴ・オリヴェイラに付いていき、その空いたスペースを永井が付いて室屋のシュートまで持っていったシーンは、FC東京が狙っていった形の一つだ。

さらに、高萩が右サイドの崩しに参加することで、FC東京はゴールに迫っていく。高萩が名古のチェックをかわして、永井のシュート(大きく枠外)まで持っていったシーンはその典型だろう。ただ、鹿島もセンターバックの位置を入れ替えたりするなどの手が打てずに、ミスからイチかバチかのプレーを選択せざる得ない状況に自ら持ち込まれてしまったのは、反省しなければならない。東のシュートをクォン・スンテがセーブした場面では、小泉のパススピードが遅くなったところでインターセプトされたことからカウンターが始まり、犬飼が永井への対応でギリギリのプレーを強いられている。

かいしんのいちげき

ただ、これらの狙いがゴールに結びつかなかったFC東京。前半から高い位置でセカンドボール回収に奔走していた高萩は攻め疲れを起こし、スタミナの消耗と共に自陣のスペースをケアし切れなくなってくると、鹿島のロングカウンターを水際でしか止められなくなってきてしまった。この状況を待っていたのが、カウンターの先鋒を担う土居、さらには伊藤や途中出場で執拗なまでに前線に張り続けていた上田である。

そして、78分。その時が訪れる。名古がフリーランでオ・ジェソクを剥がした上に、レオ・シルバとのワンツーで中央に侵入。そこからのパスを受けたセルジーニョが弾丸シュートをぶち込んで追加点を手にした。フェイントで完全にフリーになった名古やあのシュートを決めるセルジーニョも見事だが、そこに至るまでの高萩のプレスバックは明らかに遅れていたし、FC東京のDFラインも下げさせられて、セルジーニョをフリーにしてしまった。耐えるべきところを耐えて、結果に繋いだ鹿島の粘り勝ちだろう。

この一発で勝負の流れは完全に決した。FC東京は2トップをそっくり変えてきたが、鹿島もチョン・スンヒョンが入るとDFラインを下げて跳ね返し態勢にシフト。裏のスペースを消されたFC東京は防壁を築いた鹿島守備陣に向かってロングボールを放り込むという、割の合わない作戦に出ざるを得ず、結局このままタイムアップ。鹿島が直接対決を制し、残り8試合で首位と勝点差1に迫った。

まとめ

チームスポーツで個々にフォーカスしすぎるのはいかがなものかと思う部分もあるのだが、それでもこの試合はブエノの試合だったと言わざるを得ないほどのパフォーマンスだった。先制点を奪っただけでなく、FC東京が試合途中から門番ブエノのいる城門をいかに突破するかにフォーカスした攻撃を選択したことからも、ブエノの存在が完封にどれほど貢献したかが分かるだろう。

快勝と言える試合だったことに間違いないが、それでも自らのミスと決定機逸でもっと相手に差をつけられたし、楽になった試合だったと考えれば、このチームの伸びしろが感じられるとも言える。メンバーの入れ替えで質を落とすようなことがなく、自分たちのペースに持ち込む時間を増やせれば、このチームはとてつもなく大きなものを残せるのかもしれない。

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遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください