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津村記久子さんの「この世にたやすい仕事はない」が面白かったお話
とりとめのない話を書きます。
先日、地元のブックファーストで平積みにされていたこちらに目が止まりました。津村さんの作品は過去に何冊か読んでいて良かったと思うので、背表紙のあらすじを見て、昨年12月に文庫化されたばかりのこちらを迷わず購入。すぐに読んだところ、大変に面白かったという話をこれからします。
あらすじをAmazonさんから抜粋します。なお、ここから一部ネタバレがあるので、見たくない方はここで閉じて、上のリンクからご購入いただければ。
「一日コラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますかね?」ストレスに耐えかね前職を去った私のふざけた質問に、職安の相談員は、ありますとメガネをキラリと光らせる。隠しカメラを使った小説家の監視、巡回バスのニッチなアナウンス原稿づくり、そして…。社会という宇宙で心震わすマニアックな仕事を巡りつつ自分の居場所を探す、共感と感動のお仕事小説。
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フィクションとノンフィクションの境界線
津村さんの作品は、今この社会に生きている誰しもが体験していそう、思っていそうなことをノンフィクションの世界で描き出すのが抜群に上手い小説家さんだと思っています。
津村さんが前に書かれた「とにかくうちに帰ります」でもその描き出しの上手さが色濃く出ているので、おすすめです。フィギュアスケート選手を応援する話は特に、おすすめです。
今回の「この世にたやすい仕事はない」でもそうです。あらすじにもある通り、ストレスに耐えかねて前職を離れた主人公は、職業紹介所で新たな職を探し始め、相談員から紹介されて新たな職場に赴きます。これだけでもありそうな話ですよね。
ただ、ここから面白いのが、その紹介された職業がありそうで、なさそうなところ。その仕事とはこんな感じ。
・モニターで小説家の見張り
・コミュニティバスの広告アナウンスの編集
・おかきの小袋に載せる小ネタを作り出す
・町を回ってポスターの貼り替え
・公園の中の小屋での事務作業
どれも仕事の描き方が楽な仕事そうに思えるのが絶妙。もし、こんな仕事があったら、紹介して欲しいなーと思える絶妙さなのです。でも、現実に家で原稿書いている以外はダラダラする時間が長い小説家を見張っているだけのお仕事とか、おかきの小袋のネタを「日本百名山」にするか「名前に使われる漢字の由来」にするか悩むだけで一日が終わる仕事、ってそうそうないじゃないですか。
でも、そこは流石と言うべきか。この主人公が取り組む仕事には、必ず問題点やトラブルがつきまといます。例えば、上司や同僚、お客さんとの人間関係だったり、自分に仕事が合ってなかったり、だとか。そんな難題が目の前に現れることで、主人公の中で仕事へのモチベーションが上下したり、悩みだしたりしていきます。
しかも、またこの主人公が基本的に真面目なんですよね。無職のまま、実家に居座る訳にはいかない。相談員さんにせっかく紹介してもらったのに、すぐに辞めてしまう訳にはいかない。任された仕事を投げ出してしまうことは絶対しないし、むしろ周囲の期待以上の成果を出そうとあれこれ考えてやろうとする。日常でも、日頃から「仕事行きたくない」とか思ってる人でもいざ仕事になったらなんだかんだやろうとするし、やるからには結果を残したいと思うし、仕事やってない人がいたらイラつくし。そんな人の方が多いこのご時世だと思うんです。そこの描き方もまた絶妙な訳です。
また今回の作品、作者が随所に仕込んだ小ネタや主人公の心理が、クスりと来るものばかりで、ギャグテイストでもないのにかなり笑えます。
マニアックなサッカーネタ
津村さんはスポーツ観戦が趣味なこともあり、小説の中に結構な頻度でスポーツのネタが出てきます。
この作品でもそうで、特に海外サッカーをよく見ているという津村さんならではの仕込みも。おそらく、サッカー系ではない小説でマルアン・フェライニの名前が出てくるのは、津村さんの作品ぐらいでしょう。
また津村さんと言えば、Jリーグファンの中で昨年出版された「ディス・イズ・ザ・デイ」を読まれた方も多いはず。「ディス・イズ・ザ・デイ」については、以下のリンク先に良い書評があるのでここでは触れませんが、その時のネタが今回の作品にも仕込まれているので、読んだ方はその部分でも楽しめるはず。もちろん、読んだことない方でも分かるようなストーリー展開になっているので、何も問題はありません。というか、この機会に読んでいただきたい。面白いので。
本当にとりとめもなく書いてしまいました。自分の中では今までに読んだ全ての小説の中でも、ベストに入る良さでした。是非、書店に行った時にお手に取っていただければ。
遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください