見出し画像

【振る舞い上手】明治安田生命J1 第19節 鹿島アントラーズ-大分トリニータ レビュー

戦前

前節はアディショナルタイムのゴールが決勝点となり、湘南ベルマーレに勝利した鹿島アントラーズ。今季2度目の完封勝利で、連勝は7に伸びた。勢いをさらに加速すべく、中3日でホームゲーム連戦に臨む。

鹿島が迎え撃つのは12位大分トリニータ。8月には5連敗を喫するなど苦しんだが、9月はJ1では11年ぶりの3連勝を記録する好調ぶり。ただ、前節はサンフレッチェ広島に0-2で完封負け。今節は中3日での試合となる。

なお、両者は8月の第8節で対戦。大分のホームで行われた試合で、鹿島は立ち上がりに先制点を許すものの、エヴェラウドのハットトリックで逆転。ラストプレーでは伊藤翔が今季初ゴールを奪ってダメ押しと、4-1で勝利している。

前回対戦時のマッチレビューはこちら

スタメン

画像1

鹿島は前節から6人変更。右サイドバックの山本脩斗、前線の名古新太郎は今季リーグ戦初スタメン。永戸勝也が左サイドバック、出場停止明けの三竿健斗がボランチ、ファン・アラーノが2列目に入り、犬飼智也が出場停止のセンターバックには町田浩樹が起用された。

大分は前節から6人変更。左ウイングバックに入った星雄次は今季リーグ戦初スタメン。右ウイングバックには小出悠太が入り、ボランチは島川俊郎と長谷川雄志のコンビ、シャドーは田中達也と小塚和季のコンビが起用された。

良い時の立ち上がり

序盤こそ大分がボールを握る時間があったものの、大分のボール保持の形にすぐに対応した鹿島が徐々に試合の主導権を握っていく。大分は立ち上がり3バックがそのまま陣形を動かさずに組み立てを行っており、鹿島はそれに対して2列目の1枚(主にアラーノ)を前線に押し上げ、数的同数を保ってプレスを掛けていた。

前節の鹿島はボール保持の局面が多く、攻守が切り替わる局面を自ら増やしたくないような振る舞いを見せていたが、今節は連勝中によく見せていた自ら攻守の切り替わる場面を多く作り出し、その局面でのプレー強度の高さで相手を圧倒して主導権を握るといった狙いが見えるプレーが多くなっていった。

鹿島のボール保持

画像2

大分は前半、守備の形を5-3-2で組んでいた。右シャドーの田中を押し上げ、左シャドーの小塚を中盤に下げて、それぞれスライドさせていく形だ。対して、鹿島は永木亮太が最終ラインに降りて3枚でボール保持をスタートさせる。最終ラインで数的優位を確保した鹿島は状況を活かしてボールを前進させながら、状況が整えばサイドの裏へとロングボールを蹴り込んで、そこにアタッカーを走らせ相手を押し込む形を狙っていた。そこで相手にボールを奪われても、すぐさまプレスを掛けてボールを奪い返せる状況は整っているので、ここでのボールロストは気にしていないし、むしろチャンスと捉えているやり方だ。

こうして大分を押し込んだ鹿島。前半の20分過ぎくらいまではほとんどハーフコートゲームの様相を呈していた。ただ、鹿島としてみればこの段階で先制点が奪えれば理想的だったのだが、残念ながらスコアを動かすことが出来なかった。大分の粘りの守備もたたえられるべきだが、もう少しミドルシュートを増やすなど攻め方に手を入れてみることも必要だったのかもしれないし、トラップでのボールの置き所など細かいミスも散見されていた。

大分の反撃 その1

押されっぱなしの大分。だが、飲水タイムを挟んで徐々に落ち着きを取り戻していく。変わったのはボール保持の形だ。序盤は3バックのまま組み立てることが多かったが、ボランチの長谷川が降りて4バックを形成。4-1-5のいわゆるミシャ式と呼ばれる形で組み立てを行うようになった。

大分のボール保持

画像3

鹿島としてみれば大分の4バックに対してそのまま前線の4枚で捕まえに行けるので返ってやりやすくなるはずだが、そうはならない理由があった。それは大分のシャドーの存在だ。右シャドーの田中はスピードを活かしてサイドの裏を狙い、左シャドーの小塚は裏も狙いつつ、チャンスメーカーとなるべく下がって受け手になろうとする。鹿島のサイドバックとしては前線が追い込んでくれたのだから、サイドに出てきたボールに思い切ってプレスを仕掛けてボールを奪い取りたいのだが、かといってシャドーをフリーにさせておけば、そこから崩されかねないというジレンマがある。大分は鹿島のプレッシングに迷いを持たせることで、主導権を取り戻そうとしたのだ。

こうして徐々にボールを持つ時間が増えていく大分。鹿島としても序盤からかなり高い強度で入ったため、ペース的に落とさざるを得ない時間帯になっていく。前線、特に2トップの守備時の強度は目に見えて落ちていったことが大きく、鹿島としてみれば1stディフェンスとなるべく2トップがしっかりと相手の選択肢を限定できていない時点で、そのあとのプレスが機能しなくなるのは明らかだった。

ただ、この苦しい時間帯をボールを奪ってからの素早いカウンターでの牽制でやりすごし、再び前半の40分あたりから自分たちのペースに引き戻した鹿島のパフォーマンスは評価されてもいいように思える。唯一にして最大の問題は、この時間帯でもゴールを奪えなかったこと。これが今節の鹿島には最後まで響いてしまった。

大分の反撃 その2

前半をスコアレスで折り返す、両者ハーフタイムに交代枠を使ってきた。鹿島は守備時の強度が落ちてきたエヴェラウドと名古を下げて、上田綺世と荒木遼太郎を投入。一方、大分は前回対戦時にゴールを奪っており、よりフィジカル的な仕事をこなせる髙澤優也を前線に入れてきた。

後半開始時~

画像4

鹿島は後半前線にフレッシュな面々を入れてもう一度強度を上げていくだけでなく、いくつか変化を加えてきた。一つは2列目の立ち位置を変えたこと。後半開始直後こそ荒木が右、和泉竜司が左だったが、5分を過ぎると両者の立ち位置は入れ替わっていた。この狙いは大分の5バックに中央から風穴を開けたいというものではないだろうか。左の荒木を中央寄りに位置取らせ、狭いスペースでボールを扱うことを苦にしない彼の特長、アラーノら周りとの連係、距離感の近さを活かした即時奪回で、大分を崩していきたいのだと見受けられた。

もう一つの変化は陣形が全体的に間延びし始めたということ。もちろん疲労もあるのかもしれないが、これは前節と同じくわざとスペースを空けておいて、大分を誘い出しておいて逆に手薄になったところを刺すという狙いもあったように思えた。

ただ、これらは大分が前半と振る舞いを変えてこないのを前提にした手の加え方だったはず。ところが、大分は後半になると別の顔を見せ始める。守備時の布陣を5-2-3に変え、鹿島の3枚になった組み立て部隊と枚数を揃える。そして、鹿島のサイドバックに対してはウイングバックが出て行ってプレス。5バックのうち1人が欠けることになるが、そこは残った4人がスライドして4バックを構成。前半より攻撃的な振る舞いを見せるようになったのだ。

後半の大分の守備時

画像5

大分が引いてくることを予想して前がかりになった鹿島と、反撃のために前に出た大分。期せずしてお互いに姿勢が前に傾いた展開で、先にスコアを動かしたのは大分だった。57分、鹿島のプレッシングを剥がしてサイドにロングボールを供給すると、前がかりになっていた鹿島の守備に対して大分は数的同数で攻撃を仕掛けられる形に。大分は右サイドから中央に侵入すると、最後は小塚のミドルが永戸に当たってゴールインとなった。

このシーン、シュートに背を向けてしまった永戸のブロックの拙さが取り上げられているが、そもそもプレッシングを剥がされて数的同数に持ち込まれた段階で、鹿島としては背負ったリスクが響いてしまった形となってしまった。前からのプレスはハマればチャンスを作り出せる可能性が高まるが、逆にかわされれば一気にピンチになる可能性が高まってしまう。今節の鹿島はこうしたトレードオフの収支が結果としてマイナスになってしまった。

なりふりかまわず

追いかける展開となったことで攻めるしかなくなった鹿島と、リードしたのでブロックを敷きつつ、隙あらばカウンターで追加点を狙う大分、という構図は時間が経つにつれて明確になっていく。

前半から幾度も大分ゴールに迫りながら、肝心のゴールが奪えない鹿島。ノーゴールという結果は、今まで以上に攻めの色を強めないとゴールは奪えないという考えをより加速させていく。ザーゴ監督は選手交代でピッチに変化を加えようと目論んだ。67分には遠藤康、78分には染野唯月と松村優太のルーキーコンビを投入して、ポジションチェンジも変更。なりふり構わずゴールを狙う姿勢を見せた。

67分~

画像6

78分~

画像7

だが、選手交代が結果的に機能したとは言い難かった。ザーゴとしてはバランスの悪さに多少目をつぶってでも、攻撃に重心を掛けることでスコアを動かしたかったのだろうし、前半からやりたいことは出来ているのに攻めあぐねる展開でその選択は悪いものではないが、結果として生まれたカオスは鹿島には味方しなかった。

80分には逆に大分にそのバランスの悪さを突かれてしまう。ロングボールの競り合いからセカンドボールを回収した大分はボールを繋いで、裏に抜け出した髙澤にラストパス。最後は髙澤がキーパーとの1対1を制してゴールに流し込み、大分は勝負を決定づける追加点を手にしたのだった。

その後、鹿島もシュートチャンスを迎えるが最後までゴールを奪うことは出来ず、タイムアップ。0-2で完封負けを喫した鹿島は連勝が7でストップ。ホームでは第3節以来の黒星となった。

まとめ

やはり鹿島にとって痛かったのは押し込んだ前半にスコアを動かせなかったことだろう。連勝中はこうした自分たちが主導権を握っている時間帯でゴールが奪えてきたが、今節はそれが出来なかった。この結果がそのまま勝点に反映されてしまうことになってしまった。

とはいえ、この試合は大分のパフォーマンスが素晴らしいものだったのも事実。守備陣、特にセンターバックの鈴木義宜は何度も身体を張ったシュートストップを見せて鹿島の攻撃を水際で防ぎ続け、攻撃陣は勝負どころを逃さず確実に仕留めきった。

だからこそ、ザーゴも試合後のコメントでこの敗戦を引きずらないことを強調していたのだろう。やりたいことはある程度出来ていた中で、今節は相手がベストに近いパフォーマンスを見せたこともあり、こちらがスコアを動かせずに終わってしまった。年間を通じてみれば、こういう試合もあるという割り切りも必要なのかもしれない。

また、今節を通じて改めて鹿島の伸びしろが見えてきたのも事実。ロングボールを織り交ぜることでそこまで表面化してこなかったが、ポゼッションの質は引いた相手を崩しきるにはまだまだクオリティを高めていく必要があるように感じられたし、メンバーを入れ替えるとチームのクオリティは明らかに低下していったように、まだまだ誰が出ても勝てるほどにまでチームのスタイルは熟成されていなかった。連勝中は結果が出ていたことで、おざなりになりがちだった課題と改めて向き合える機会を得られたのは、ある意味今節の収穫だともいえるだろう。

次節は中5日でガンバ大阪と対戦する。ここ4試合勝てていない上に、個々のクオリティが高く地力のあるチームとのアウェイゲーム。今節の負けでズルズルといかないよう、次節をリスタートの機会と出来るか。一つの鍵となる試合になるはずだ。

ハイライト動画

公式記録

タケゴラのTwitter

使用ツール・リンク


ここから先は

0字

¥ 200

遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください