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【快勝と疑問符】明治安田生命J1 第24節 鹿島アントラーズ-徳島ヴォルティス レビュー

戦前

鹿島アントラーズ

・現在5位

・前節は湘南ベルマーレに2-1で逆転勝ち

・中5日で今節を迎える

・杉岡大暉、小泉慶、白崎凌兵が移籍

・1か月半ぶりのホームゲーム

徳島ヴォルティス

・現在16位

・前節はガンバ大阪に2-1で勝利

・中5日で今節を迎える

・一美和成がG大阪から加入

・岸本武流が出場停止、垣田裕暉が契約上の関係で出場不可

スタメン

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鹿島は前節から2人変更

・町田浩樹がセンターバックに入り、2列目に和泉竜司を起用

徳島は前節から1人変更

・出場停止の岸本に代わって、藤田征也が右サイドバックに入る

・新加入の一美がベンチ入り

荒木を中心とした鹿島の攻め筋

試合はキックオフから鹿島ペースで入った。4-4-2で守る徳島に対して、鹿島が狙っていたのはボランチの脇のスペース。ここに荒木ら2列目の選手やボランチを送り込んでボールを付けていくことで、数的優位を作り出して相手のボランチをタスクオーバーに追い込み、徳島の最終ラインをさらけ出した状態で勝負する、というのが鹿島の攻め筋だった。

これはトップ下に入る荒木遼太郎のポテンシャルを最大限に活かすためのものだ。狭いスペースでも苦も無くプレー出来て、そこからゴールに繋がる決定的なプレーが出来る。今節の鹿島の攻撃は荒木を中心として組み立てられていた。徳島が人海戦術で守ってスペースを消してくる守り方ではなかったことや、ボランチの岩尾憲や鈴木徳真が共に潰し屋のタイプではなかったことも、鹿島にとっては追い風となった。

この流れから先制出来たのは、今節の鹿島にとっては大きかった。中央の崩しで抜け出しかけた荒木がドゥシャンに倒されて、ゴール前でフリーキックを得る。これを荒木本人が蹴ると、ボールは徳島の選手に当たってコースが変わり、ゴールに吸い込まれた。開始5分、ファーストチャンスで鹿島は点を取ることに成功したのだった。

徳島のボール保持が突こうとした鹿島の守備の問題点

鹿島が先制した後は、徳島がボールを保持する時間が長くなる。鹿島も出来ればボールを握って攻撃する回数を増やしたいが、先制したためそこまで無理して攻める必要がなくなったこと、元々ボール保持にこだわりを見せていなかったことから、徳島にボールを持たれることはあまりストレスにならなかったのであろう。

対して徳島はポゼッションを軸とするスタイルだ。先制点こそ許したものの、ボールを保持することで自分たちのペースを取り戻して、巻き返しを図っていく。

徳島のボール保持は2段階の可変を持って行われていた。基本的に組み立ては、センターバックの2枚と左サイドバックのジエゴを加えた3枚が1歩目となる。右サイドバックを片上げする理由は、元々ここに入っていた岸本が積極的な攻撃参加を武器にゴールやアシストといった数字を残すことが出来るから。特に左サイドからのクロスに大外から飛び込んだり、垣田とのホットラインはJ1でも見られているゴールシーンだ。今節はその岸本が出場停止だったものの、代わりに入った藤田征に同様のタスクを託して、高い位置を取らせていた。

これに鹿島は4-4-2のミドルプレスで対応。あまり前線から積極的にプレスを行うことはなく、基本的な方針としては中央を切ってサイドに追い出すこと。これは前回の徳島戦でも見られた守り方で、個で仕掛けられる強力なアタッカーがおらず、前線で競り勝てるだけのフィジカルを持ったストライカーもいない徳島相手なら、サイドからの攻撃に限定させて、最悪クロスを上げさせても、中央で問題なくはね返せるという計算からくるものだ。

1歩目の後ろ3枚だけで満足にボールを運べない様子だった徳島だが、すかさず次の変化を見せ始める。ポジションを動かしたのはボランチの岩尾とトップ下の渡井理己。岩尾は最終ラインに降りながらボールを引き出して、最終ラインからの前進をサポート。そして、渡井はフリーマンの如く左サイドのハーフスペースに顔を出して、縦パスを引き出しにかかる。鹿島で荒木がこなしていたようなタスクと同様のことをし始めた訳である。

この2段階目の可変によって徳島はボールを相手陣内に運ぶ回数が増えていき、反対に鹿島は守備がハマらなくなっていく。守備がハマらなかったのは、徳島がボール保持に明確な方法論を持っていたのもそうだが、鹿島のミドルプレスがとにかく曖昧だったのが大きい。ボール奪取を狙うタイミングがチームとして揃わずに連動していなかったり、通されてはいけないはずの中央に簡単に縦パスが通ってしまったりと、守る側としては危険なエリアにあっさりと侵入を許すことが少なくなかった。15分の徳島が迎えた決定機はその代表的なシーンだ(下記のハイライト動画の1:27~)

それでも鹿島が大きく崩れることがなかったのは、徳島の攻撃のクオリティ不足に助けられた部分と、鹿島としても攻め手を打てていたからだ。前述したように徳島には戦術兵器のような個で打開できる選手が前線にはおらず、またパス回しのテンポを一気に変えてくるようなプレーをする選手もおらず、結果的にその辺りから鹿島の守備の穴が一気に広げられることはなかった。また、ボール保持の機会は立ち上がりに比べれば少なくなっていたものの、ボールを持てば荒木を中心とした中央突破で相手ゴールに近づくことが出来ていたし、カウンターでは守備から攻撃の切り替えで相手を上回っていたため、そこに個の力が加わりチャンスを作り出すことが出来ていた。

縦に速くなる後半

前半を1-0と鹿島リードで折り返して入った後半は、立ち上がりから両者共に前線からプレスの強度を強めていく。徳島としては追いつくためにも鹿島にボールを持たせる時間をさらに削らせて、自分たちの攻撃のターンを増やしていく必要があったし、鹿島としては徳島に対して圧力をかけていくことで自由にボール保持をさせないという意思があったのかもしれない。

これで上手くいったのは鹿島の方だった。理由としては前線のアタッカーがボールを収められたかどうかの違いである。お互いにプレスを掛けられた時に自陣で不用意なボールの失い方はしたくないからか、ロングボールを選ぶことが少なくなかったが、その先でボールを収めて速攻に繋げていたのは鹿島の方だった。このあたりは1トップのエヴェラウドのフィジカルが活きた形となる。

この流れを受けて、徳島は57分に新加入の一美を1トップに投入。フィジカルに優れ、裏抜けもこなせる一美が最前線に入ったことで、徳島は中盤でボールを繋いで攻めるスタイルから、徐々にシンプルに縦に付けていくスタイルへとシフトしていく。行ったり来たりの展開になるのだったらその展開を受け入れたうえで、自分たちのクオリティを上げていこう!というのが徳島の狙いだったように見える。

最終盤に整理された鹿島のプレッシング

それでも、お互いに中々決定機までは至らない中で時間が進む中で、79分に鹿島は2回目の選手交代を行う。すでに投入されていた上田綺世と永木亮太に加え、ここでアルトゥール・カイキと遠藤康が投入される。この交代が試合の一つのターニングポイントとなった。

79分~

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この交代の前、70分に福岡将太と小西雄大を投入していた徳島は右サイドバックを高く上げるやり方から、左サイドバックのジエゴを高く上げるやり方へとシフトチェンジしていた。左サイドバックのジエゴの高さや強さを高い位置で活かしたい、左サイドハーフの西谷和希が何度か裏に抜けられたシーンがあった、一美が左サイドに流れることが多かった。これらのことから徳島は左サイドを崩しの軸に置いていたのだろう。

これに対して、鹿島は前線をフレッシュな面々に入れ替えてもう一度プレスの強度を高めようとしていく。さらに、右ボランチに入った永木がバランスを取る中で、左ボランチのレオ・シルバに高い位置を取らせてプレッシングに参加。右サイドは徳島の高い位置を取る左サイドからの攻撃を受けるようにバランスを取り、逆に左サイドからは徳島の組み立ての根幹を担う右サイドに積極的にプレスを掛けていく、と役割が明確化したのだ。

鹿島の追加点はこの定まった左サイドからのプレッシングをきっかけに生まれている。80分、左サイドからプレッシングを仕掛けて徳島のキーパーにロングボールを蹴らせて回収すると、ショートカウンターが発動。最後はレオ・シルバの縦パスを受けた荒木がシュートを沈めて、試合の行方を大きく決める2点目を手にした。

ダメ押しの3点目も高い位置からプレッシングを仕掛けてボールを奪い、その流れで得たコーナーキックからだった。こぼれ球を永木が打ったシュート性のボールに右足で反応してコースを変えたのは町田。これがゴールインして、鹿島は徳島を突き放した。

試合はこれで終了。3-0の完封勝利を挙げた鹿島はリーグ戦3連勝、順位も暫定ながら3位に浮上した。

まとめ

終わってみれば快勝といった試合だった。早い時間帯で先制して、ボールを持たれて押される時間もありながら、決定機はそこまで作らせず。終盤に選手交代で流れを引き寄せて、効率よく加点して試合を決める。試合の流れとしては理想的な展開だった。

だが、前半の守備のハマらなさを考えると手放しで喜べる試合ではない。この守備のハマらなさは今に始まったことではなく、ここ数年の鹿島がずっと抱えている課題の一つだ。今節はこちらも攻め手を繰り出せていたし、徳島のクオリティ不足に助けられた側面もある。リーグ戦はまだまだ続くし、徳島より順位が上で、高いクオリティを持つチームは少なくない。そうしたチームと対峙した時に攻め手を繰り出せる余裕はあるのか、そもそも守備が耐えきれるのか。そうした疑念は拭えていない。

とはいえ、連勝でACL圏内にまで順位を上げてきたのも事実。チームは今節から7連戦のスタートを切ったことになるが、今いるメンバーを上手く使っていきながら、どのコンペティションでも結果を残していくことが重要となる。チームのクオリティを落とさずに戦い抜きたい。

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