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今季の鹿島が、面白い

同じ画を描き出したチーム

今季の鹿島が、面白い。

センターラインに関川郁万、ディエゴ・ピトゥカ、鈴木優磨を揃えた今季の鹿島アントラーズはさながら任侠映画かと思わせるようなインパクトだが、印象強いのは見た目だけではない。開幕戦、アウェイの地でガンバ大阪にシュート28本の猛攻を浴びせ、3-1で勝利。近年、開幕ダッシュに失敗し続けているチームは6年ぶりの開幕戦勝利、8年ぶりの開幕戦複数得点を挙げ、第1節を終えた段階ではあるが3年ぶりに単独首位にも立った。ちなみに、開幕戦の段階で鹿島が首位に立つのはなんと14年ぶりである。

そんな鹿島は一体、何が変わったのだろうか。チームは初のヨーロッパ出身であるレネ・ヴァイラー新監督を招聘したが、コロナ禍で来日出来ておらず。現在は新任の岩政大樹コーチが監督代行としてチームを任されている状況だ。この特異な状況であるにも関わらず、鹿島は最初の壁を乗り越えてみせた。

今季の鹿島が変わろうとしている部分。それは、「チームとして同じ画を描く局面を増やす」ことなのではないか、と個人的にここまでの試合を見て思っている。

強力なハンマーと鋭きジャックナイフ

まず、攻撃面に触れていきたい。今季の鹿島の最大の武器は何と言っても、鈴木優磨と上田綺世の強力2トップである。共にボールを前線で収められ、一瞬のスキを見逃さないストライカーコンビであり、鈴木は広範囲に動きながらも起点を作り、守備ではプレスの先陣を切る。上田は強烈なシュートでゴールを狙う。この2人の強力さはJリーグでも屈指である。開幕戦でも早速2人はアベックゴールでチームの勝利に大きく貢献した。特に、上田の1点目は理不尽極まりない。なんなん、あのシュート。

この2トップの動き出しから、今季の鹿島の攻撃はスタートしている。開幕戦の2分のプレーが象徴的だ。左サイドで安西幸輝がボールを持つと、サイドに流れるように上田が裏へ抜け出し、パスを引き出す。相手はこれに対応せざるを得ず、必然的に最終ラインが押し下げられる。ここから鹿島は相手を押し込み、荒木遼太郎のヘッドという決定機まで繋げた。プレシーズンマッチの水戸ホーリーホック戦ではエヴェラウドの動き出しが少なかったことや、鈴木優磨の動き出しが出し手と合っていなかったこともあり、相手に脅威を与えられなかったが、開幕戦ではかなりその辺りが整理されていた。ボールを収められ、なんなら独力でゴールまで迫ることの出来るこの2トップを相手守備陣からすれば、みすみす放っておくことは出来ない。彼らの存在自体が相手にとっては脅威そのものだろう。

そんな2トップに気を取られていると、中盤のテクニシャンたちの躍動が始まる。中央のスペースに入り込んで相手を切り裂ける荒木遼太郎、狭いところでもズバッとスルーパスを差し込めるディエゴ・ピトゥカに加え、今季チームに加わったのがダイナモ樋口雄太。昨季旋風を巻き起こしたサガン鳥栖で背番号10を背負った男は新天地でも早々にフィット。欠かせない存在となりつつある。

樋口雄太

樋口が良いのは、常にチームにとって正しい立ち位置を取り続け、味方の選択肢を確保し続けていることだ。今季の鹿島はミドルゾーンからの攻撃ではかなりポジションを流動的に動かしている部分があるが、その中でも樋口はどこにいようとも常に味方からパスを受けられる状況が整っている。これはチームとしてポジションニングを意識しながらボールを動かし、相手を引き付けながら一気に裏を狙い、良い形で相手のペナルティエリアに侵入することを狙う今季の鹿島にとって、必要不可欠な動き出しだ。さらに、樋口はキック精度も高く、ドリブルで局面を打開することも出来る。開幕から早くもチームの核を担っているのも必然だろう。

相手陣内に攻め込んでからシュートに持っていくまでの形はかなり自由度が高く、その辺りは選手たち個々の判断に任されているのだろうが、そこまでボールを持っていく流れについては、かなりチームとして整理され、再現性を持てている。チームとしても、いかにゴールを奪う可能性の高くなるエリアにクリーンにボールを運んでいくか、ということを重要視しているのだろう。ここにチームにまだ組み込めていないファン・アラーノやアルトゥール・カイキが加わると、さらに鹿島の攻撃が破壊力を増す可能性は十分ある。

一つの生き物のよう

守備でも少しずつ変化を見せつつある。基本的にはミドルプレスで相手を中盤で嵌め込んでいくのは昨季とそこまで大きな変化はない。変わったのは相手がゴールから遠ざかった瞬間と、ボールを失った瞬間だ。

相手がボールを持っていながら、ゴールから背を向けたり、横パスやバックパスを選択した時は、基本的にそこから直接ゴールに迫ってくる可能性はない。当たり前の節理ではあるが、今季の鹿島はその瞬間を逃さない。相手がそうしたプレーを選択すると、すぐさま最終ラインが押し上げられ、プレスのスイッチが入る。開幕戦で鈴木優磨が奪ったゴールはその象徴と言えるだろう。G大阪の選手がバックパスを選択すると、一気にプレスの強度が増し、相手の選択肢を削り取っていく。最後はミスパスを誘って、鈴木がゴールに流し込んだ。

これはボールを失った時も同じことが言える。ボールをロストした際、ボールの近辺にいる鹿島の選手たちは一気に強度を上げ、相手に襲い掛かっていく。攻守が切り替わる、トランジションの瞬間というのは、得てしてお互いに陣形が乱れていることが少なくない。そこでボールを奪えば、相手の乱れた陣形を突き、一気にゴールに迫ることが出来る。そうしたスキを見逃さない、こうした意識が今季の鹿島の選手たちには植え付けられている。

タイミングを逃さず一気にボールに襲い掛かるその様は、まるで一つの生き物を見ているかのようである。この動きの連動性をさらに高め、鹿島の守備をより熟成させていきたいところだ。

新米コーチを先頭に

また、岩政コーチの采配も見逃せない。Jリーグでのコーチが初めて、監督不在で現場を任されるという状況の中、かつてのレジェンドは的確な指揮でチームを上昇気流に乗せようとしている。

岩政大樹コーチ

開幕戦の後半開始直後の振る舞いはその際たるものだろう。1人少ない状況でビハインドをひっくり返そうとするG大阪は、前半終了間際の4-4-1から4-3-2に布陣変更。中盤の人数を削るというリスクを背負ってでも、同点・逆転ゴールを狙いに来ていた。

それを察知した岩政コーチの動きは早かった。後半開始30秒で指示を出し、鈴木と上田の2トップから、荒木をトップ下に置き、鈴木を左サイドに回す4-2-3-1への布陣変更を指示。中盤を削ることで相手が生み出してくれたスペースを、中央でプレーすることで最も良さが活きる荒木に存分に使ってもらおうという采配だ。

結果、この采配はズバリ的中する。中央で荒木がパスを受けて前を向くことで、鹿島は次々にチャンスを作り出していく。左サイドに回った鈴木もサイドで起点を作りながらチャンスメイク。サイドでコンビを組んだ安西との関係性も良く、鈴木がタメを作って、生まれたスペースに安西が外へ中へと走り込んでいく。上田が奪った試合を決定づける3点目はその采配がハマった結果と言えるだろうし、岩政コーチも試合後のコメントで自身の采配に手応えを感じていた。

--途中で[4-2-3-1]に形を変えたと思いますが、コーチの指示だったのでしょうか。選手の判断だったのでしょうか。

後半、出ていくときに相手が[4-4-1]の想定だったのですが、[4-3-2]だったということで流れは悪くなかったし、相手は10人というところでそのままでもいいと思ったのですが、すぐに相手に致命傷を与えるような攻撃を仕掛けたいということで、荒木(遼太郎)と鈴木 優磨のポジションを変えました。意図は相手が中盤3枚になるとスライドが間に合わないことによって中央が空くと。ライン間でのプレーが光るだろうと。そこに優磨がサイドから入っていくほうが相手に致命傷を負わせられるということで、1、2分で変えたんですけど、それがうまくいったと思っています。

https://www.jleague.jp/match/j1/2022/021904/live/#coach

采配が的中したこともそうだが、岩政コーチの指示の意図をすぐさま理解したチームとしての意思統一の部分も見逃せない。新米コーチが引っ張るチーム状況ではあるが、チームは岩政大樹を先頭に一つになろうとしている。

王者に挑め

もちろん、全てが上手くいっている訳ではない。今の攻撃の形がどんな状況でも、どんな相手にも通じるかはわからないし、守備では最終ラインのコーチングやラインコントロールに不満が残る。彼らが味方を動かすことが出来ていないため、撤退守備になるとズルズル下がって押し込まれてしまう悪癖は依然として存在しており、また先述した押し上げてプレスの強度を上げるところでも、最終ラインを押し上げるのが遅れたため、結果として間伸びしてしまい、こちらのチャンスになるはずがかえってピンチになってしまうというシーンもあった。プレスの連動性も目標値を考えれば、もっと高められる。

それでも、今季の鹿島は純粋に観ていて面白い。昨季までのチームも懸命に戦っていたのは間違いないが、どこか個々の奮闘で成り立っている感じがあり、それを細い糸でなんとか繋ぎ合わせてチームとなっている印象を受けた。それに比べると今季のチームは、守備の部分でも触れたが一つの生き物のように統一した意志を持って戦っている。鈴木優磨という強力なパーソナリティを持つ選手が帰ってきたのも、岩政コーチの存在も影響しているのだろうが、今まさに鹿島はチームとして明確な意図を持ち、それをピッチで再現させながら戦っていこうとしている。

次節の相手は王者川崎フロンターレだ。もう最後にリーグ戦で勝ったのは7年も前の話であり、王者は決して本調子でないながらも開幕戦で勝利を掴み取っていて、王者たる所以を見せつけている。上り調子の鹿島といえど、かなり難しい試合になることは間違いない。

それでも、今の鹿島はそんな不安を吹き飛ばしてくれるくらいの可能性を秘めている。今の自分たちの現在地を測るためにも、そして新たなる歴史を作り出すためにも、ここがチャレンジの時だ。王者に挑み、勝点3を手にする可能性は十分ある。

今季の鹿島が、面白い。

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遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください