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【過去試合レビュー②】2015年 明治安田生命J1 1st第6節 柏レイソル-鹿島アントラーズ レビュー

第1弾はこちらから

戦前

トニーニョ・セレーゾ3季目のこの年、昨季までの2年間で積極的に起用してきた昌子源や土居聖真ら若手が成長を見せ、チームは4年ぶりにACL出場権を獲得。ファン・ソッコや金崎夢生ら実力者も加え、チームはリーグタイトル奪還を軸に3年ぶりのタイトル獲得を期していた。

ところが、久々のアジアの舞台で不慣れさを露呈して躓くと、守備が安定しないまま開幕公式戦5連敗と見事にスタートダッシュに失敗。その後、公式戦3試合負けなしと立て直すも、この試合の前節のアルビレックス新潟戦では1-1のドローとイマイチ波に乗り切れず、そこから中3日でACLの関係で木曜日開催となったこの柏レイソル戦を迎えるのだった。

一方の柏レイソル。この年はチームに3つのタイトルをもたらしたネルシーニョ体制に別れを告げ、主に育成年代を指導していた吉田達磨監督が就任。ただ、こちらもACLでは負けなしと順調な滑り出しを見せたが、リーグ戦は5試合を終わって2勝1分2敗とイマイチな成績。特に、ホームでまだ勝ちがない状態で、前節から鹿島と同じく中3日で今節を迎えることになっていた。

公式記録

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スタメン

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鹿島は前節の新潟戦から2人変更。前節ファン・ソッコが負傷交代したセンターバックに植田直通を起用。また、カイオが累積警告での出場停止から復帰し、左サイドに入っていた金崎が高崎寛之に代わって1トップに入っている。ちなみに、小笠原満男はこの時ケガで離脱中だ。

柏は1人変更し、布陣もこの年主に採用していた4-1-4-1から4-2-3-1にこの試合は変えている。4-1-4-1でアンカーを務めていた茨田陽生が欠場し、栗澤僚一が代わりに入って大谷秀和と2ボランチを組んでいる。

鹿島の大谷対策

立ち上がり、主導権を握ったのは鹿島の方だった。この年の柏はボールポゼッションにこだわりを持つチームだった。この試合でも布陣こそ変わったものの、開始直後からボールを保持しようとしていた。

それに対して、鹿島は1トップの金崎がセンターバック2人を見る形、そして右ボランチの栗澤には土居、左ボランチの大谷には柴崎岳、トップ下の武富孝介には梅鉢貴秀が見るようにマーク対象をはっきりさせていた。

この形が序盤は功を奏する。柏はセンターバックで数的優位を作れるためそこでボール保持は出来るが、そこから中央に縦パスを出そうにもマークが付いているため出すことが出来ない。結局、サイドに出さざるをえず、突破口は左サイドのクリスティアーノの個の打開力に依存する形となってしまった。

こうなると鹿島は対策しやすい。右サイド(柏の左サイド)に人数を掛け、中盤でボールを奪取すると、すぐさまショートカウンターへと切り替えて、前線のアタッカーたちを走らせていった。

鹿島の攻め筋

鹿島の攻め筋の基本は先程も触れたショートカウンターだ。柏は攻撃時にサイドバックを高い位置に上げ、後ろのエリアはセンターバックの2枚にせいぜいボランチの1枚を加えた程度で、ボールを失った際の攻→守の切り替えも速いとは言い難かった。そのため、柏の自陣の特にサイドには大きなスペースが生まれていたのだ。そのことは試合後のトニーニョ・セレーゾ監督のコメントからも窺えるし、鹿島はここを狙い目にしていたことも同時に読み取れる。

・相手は、ビルドアップがうまくいかない時には、ボランチの1枚がDFラインに入る。そうすると逆に、ボールを運ぶのがセンターバックということになれば、うまくボールを奪うことができれば、そこから後ろにいるのは2人だけになる。センターバックとボランチ、あるいはセンターバック2人という状況で、ピッチの横幅をカバーしなければいけない。それはもう、「カウンターをしてください」と言っているようなもの。そこを我々は狙っていたし、そこで効果的な守備をすることができた。金崎選手と土居選手、遠藤選手、カイオ選手、途中から入ってきた攻撃的な選手に関しては、守備時に献身的な姿勢を出すことは辛かったと思うが、良い結果として表れたと思う。

また、鹿島はボール保持にも大してこだわていなかった。余裕がある時はボランチ(特に柴崎)に預けてそこから展開させるが、そうでなくて多少でも詰まればサイド目がけてロングボールを蹴っ飛ばしていた。

おそらく、鹿島はここにも勝算を見出していたのだろう。右サイドにはタメを作れる西大伍と遠藤康がいるし、左サイドには高さの山本脩斗と速さのカイオと身体能力に優れた面々がいる。ハーフスペースには土居が受け手として顔を出していたし、1トップの金崎もサイドに流れてはフィジカルを活かして起点を作ろうとしていた。蹴っても、彼らの個の力で押し込める。このことが鹿島のロングボール作戦を後押ししていたのは間違いない。

柏のビルドアップの変化

ただ、柏も黙って手をこまねいている訳ではなかった。10分を過ぎると、栗澤が2人のセンターバックの右側にまで下がって3バックの形となって、ビルドアップに参加。こうなると、鹿島のボランチは下がった栗澤のところまでは深追いできずに、マークを外すことになってしまう。

すると、マークが1人外れたことで基準点が定まらなくなったのか、中央にいる大谷もフリーでボールを受けられる時間が増えていく。センターバックも徐々に状況に慣れたことで、彼らから積極的に中央に縦パスが入るようになり、サイド一辺倒だった攻撃に徐々に幅が生まれだしていった。

そして、さらにこの流れを加速させていったのがトップ下に入っていた武富の存在だ。彼が後ろを持った時に下がってボールを受けてから、前を向いてボールを捌いていくことで、柏はさらにボールが回りだし、また武富が元々いたスペースに別の選手が飛び込んで来ることで、どんどん鹿島ディフェンスにマークのズレを生じさせていった。

鹿島はマークがズレた上に、武富を見ていた梅鉢の体が重く付いていってはあっさりと外され、梅鉢が空けたスペースを使われてしまっていった。柏としてはこの流れでゴールを奪いたかったところだが、曽ヶ端準が度々迎えた決定機をセーブし、得点できなかったことが最終的には痛手となってしまった。

植田直通プロ初ゴール

相手に主導権を握られ、カウンターも単発に終わっていた鹿島だったが、そうした中で迎えたチャンスを逃すことはしなかった。

前半終了間際、右サイドでボールを受けた遠藤が大谷に倒されてフリーキックを得ると、柴崎の右足からのボールに合わせたのは植田。頭一つ高かった植田がドンピシャで合わせて、鹿島が先制。植田にとってはこれが嬉しいプロ初ゴールだった。

柏の反撃

1点リードで折り返した鹿島はハーフタイムに梅鉢を下げて、青木剛をボランチに投入。

後半開始時

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だが、後半立ち上がりからペースを掴んだのは柏の方だった。前半途中から握った流れそのままに鹿島を攻め立て、また左サイドのクリスティアーノの質的優位を活かして、鹿島を押し込んでいく。西はこの試合終始、クリスティアーノ相手に後手を踏んでいた。

そして、49分。クリスティアーノが西のファウルを受けて得た左サイドからのフリーキック。クリスティアーノが直接狙ったボールのこぼれ球を最後はエドゥアルドに押し込まれ、鹿島は同点に追いつかれてしまう。トニーニョ・セレーゾ監督にとっては警戒していた形だったらしく、試合後のコメントでもこの失点に不満を露わにしている。

・分析していたFKについては、ニアサイドに速いボールが来ると事前に言っていたし、ハーフタイムにも注意していた。それにも関わらず、その形から失点したというのは、壁の問題なのか、注意力の問題なのか、分析での情報をしっかりと生かさないといけない。まだ改善できるところだし、詰めていかなければならない。

その後も同点に追いついた勢いそのままに優勢に試合を進めた柏だったが、58分に栗澤が足を攣ったことで秋野央樹と交代。これによって、布陣を4-1-4-1に変えたことで、試合の流れが変わっていくことになる。

58分~

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流れを変えた青木剛

柏が4-1-4-1に変えたことで、どう変わったのか。それは、鹿島がもう一度マークをハッキリ出来たことだった。

ビルドアップ時、大谷はセンターバックの位置まで降りてビルドアップに参加する。鹿島はそれを金崎と土居の2枚でケアする。ここでは柏が3枚のため数的優位を作られてしまうが、その後ろはどうだろうか。秋野を柴崎がケアし、武富を青木がケアする形がハッキリと作られたのだった。

青木の存在は大きかった。元々投入された時のタスクは武富へのマンマーク。しかし、チーム全体がマークをズラされる中で、中々その任務を遂行できなかった。ただ、状況が変わり、マークがハッキリしたこの段階では武富へのマンマークを全うすることが出来る。

この形によって、柏は再び中央への縦パスを封じられてしまい、無理に入れては鹿島の守備の網に引っかかって、鹿島のショートカウンターを食らうケースが増えていった。また、青木が無理に動きすぎずにセンターバックの前の中央のエリアをケアし続けていることで、柴崎がより攻撃に重心を傾けることが出来るようになったのも、鹿島にとってはプラスになった。

71分、試合が再び動く。ショートカウンターの流れから攻勢になった鹿島。右サイドからパスを貰った青木が逆サイドにサイドチェンジ。これをゴール前に飛び込んでいた山本が折り返すと、そのこぼれ球に詰めたのはカイオ。無人のゴールに流し込んで、鹿島が再び勝ち越しに成功した。

終盤のピンチとトドメ

この後、鹿島はリードしたということもあって再び柏の攻勢を受けることになる。ここでも光ったのは武富の動きだ。中盤での組み立てに参加したと思えば、すかさず裏抜けして昌子のマークを外して、シュートまで持ち込むシーンもあった。この時の昌子はまだ何度かマークを外されるシーンがあったが、その翌年以降はゴール前で絶大な存在感を放つことになるのだが。

それでも迎えたピンチを曽ヶ端の好セーブで凌いで、確実に時計の針を進めていく。鹿島にとってはピンチこそ迎えたものの、柏の攻撃を単発なものに抑え、再現性を持って攻撃させなかったことが失点を許さなかった要因の一つだろう。

そして、AT。右サイドに流れたボールを追って途中出場の高崎とエドゥアルドが競り合うと、エドゥアルドが中央に戻したボールをカットしたのは同じく途中出場の中村充孝。中村はキーパーを冷静にかわして、ゴールに流し込んで勝負を決定づける3点目。このまま試合は終わり、3-1で鹿島が勝利。この年の公式戦アウェイ初勝利を飾ったのだった。

まとめ

この試合の後に迎えたACLもATのゴールで競り勝ち、公式戦5試合負けなしでこのまま勢いに乗ると思われた鹿島だったが、続くホームの神戸戦を落としたように、2015年の前半戦は見事な試合運びで勝利したと思えば、その次の試合をあっさりと落とすように安定感に欠け、ACL敗退、リーグ戦も中位をさまよう結果となるのだった。

そして、2ndステージになっても調子は上がらず、チームは監督交代を決断。この監督交代がチームを大きく変えることになるのだが、その時はまだそのことを知る由もなかったのだった。

https://youtu.be/PwtCp_IRQNY

遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください