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【日進月歩】明治安田生命J1 第14節 名古屋グランパス-鹿島アントラーズ レビュー

戦前

前節は、2度リードされる苦しい展開ながらアディショナルタイムに逆転して、柏レイソルに勝利した鹿島アントラーズ。今季2度目の連勝を果たし、初の3連勝を目指す今節は中6日でのアウェイゲームだ。

鹿島を迎え撃つのは4位名古屋グランパス。昨季は残留争いに苦しんだが、今季は中断明けから上位をキープ。首位川崎フロンターレに唯一土をつけたチームでもある。ただ、前節は北海道コンサドーレ札幌とスコアレスドローに終わり、ミッドウィークのJリーグYBCルヴァンカップではFC東京に0-3と完敗で準々決勝敗退と、公式戦2試合勝ちなし。今節はFC東京戦から中2日で迎える。

なお、両者は2月にルヴァンカップのグループステージで対戦。その時はマテウスの直接FKで名古屋が1-0と勝利している。

前回対戦時のマッチレビューはこちら

スタメン

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鹿島は前節から2人変更。2列目に荒木遼太郎、前線に土居聖真が起用された。また、ベンチには久々に白崎凌兵と名古新太郎が入った。

名古屋は前節の札幌戦から1人変更。右サイドバックに成瀬竣平が起用されている。

起点となる金崎夢生

前線が1トップか2トップか、という違いくらいで基本的な陣形はほとんど同じという両者。陣形が同じということは、攻守において噛み合いやすい。その噛み合いの良さを活かすかのごとく、鹿島は序盤から積極的に前線へのプレスを敢行した。

これに対して、名古屋は陣形を動かすことなく対応。キーパーのランゲラックを組み込んで数的優位を作り出すことはあったが、基本的に2ボランチと2センターバックのポジションはあまり動かさず、鹿島の2トップと2列目によるプレスをそのまま受け入れるような体勢を取った。

こうなると名古屋がみすみす自分たちを窮地に追い込んでいるように思うが、そうではなかった。名古屋のセンターバックは風間八宏前監督に相当鍛えられたのか、プレッシャーに早々慌てず確実に縦パスを通すことが出来るからだ。だから数的同数でも気にならない。その状態ならわざわざポジションを動かさなくても繋げるし、ボールを奪われた時に下手にポジションを動かして空けたスペースを突かれるリスクを考えれば、むしろポジションを動かすことはデメリットになってしまうからだ。

さらに、名古屋はそもそも繋ぐことにあまりこだわっていなかった。名古屋の攻撃の最大の狙いは、2列目のアタッカーたちに時間とスペースを与えた状態でボールを渡し、彼らのスピードが最大限活きる状況を作り出すことである。だから、手数を掛けて繋ぐよりも早めに渡して相手のスペースを突いた方が良いという考えになる。なので、名古屋はまず前線の金崎夢生に入れて彼のポストプレーを起点に、2列目のアタッカーたちを活かそうとしていた。

なので、名古屋の組み立ては早い段階でどんどん金崎に縦パスを入れていく。金崎はチームの要求に応え、鹿島センターバック陣の激しいプレッシャーを受けながら確実にボールを収めて捌き、名古屋のアタッカーたちが攻撃を仕掛けられる状況を作り出していく。こうして、試合は名古屋が攻め、鹿島が守るという入りで始まった。

全てを変えたパーフェクトカウンター

雷雨による約1時間の中断があったものの、中断明けも大勢は変わらないように見えた。鹿島としては守備陣が踏ん張っているため決定的なピンチはさほど作られていないものの、一つのミスや事故から失点する可能性が十分考えられるだけにあまりこの展開を素直に受け入れ続けるわけにはいかない状況だった。

全ての流れを変えたのは16分だった。ロングボールの処理を米本拓司がミスすると、ボールは土居の元に。丸山祐市のスライディングを土居がかわすと、局面は一気に3対2の数的優位の状態でカウンターが発動。ボールを持ち込んだ土居は相手を引き付けて、右のエヴェラウドへパス。エヴェラウドはキーパーを引き付けてクロス。これに飛び込んだのは左サイドから走りこんでいた和泉竜司。先制したのは、押されていたはずの鹿島。和泉は古巣への先制点となった。

このシーン、まず名古屋のミスが響いたのは間違いないだろう。ボールの処理を誤り土居にボールを渡してしまった米本もそうだが、ボールを奪おうとスライディングを仕掛けあっさりとかわされて数的不利を招いた丸山の判断も、局面を考えると褒められたプレーとは言えないだろう。

だが、鹿島の選手たちのプレー判断も的確だった。ワンタッチで丸山をかわし、ギリギリまで持ち込んでからパスを出した土居もそうだし、シュートの選択肢もありながら確実なクロスを選択したエヴェラウドの判断も良かった。またゴールを奪った和泉はもちろん、その和泉の後ろには全速力で走りこんできていたレオ・シルバもいた。こうした彼らのサボらず、確実なプレーを選択した結果が先制点に結びついた。

手詰まりになる名古屋の攻撃

先制点で状況は完全に変わった。リードしたことで鹿島は無理して前から行く必要もないので、後方のスペースを名古屋のアタッカー陣に使われないように消しにかかるし、名古屋としては逆にこれまで2列目のアタッカー陣が使えていたスペースが一気になくなってしまうことで、攻撃に手詰まり感が出てしまっていた。

さらに、名古屋にアクシデントが起こる。前田直輝が負傷して交代を余儀なくされ、19分に相馬勇紀が投入された。

19分~

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名古屋にとって前田がいなくなることは完全に痛手だった。サイドアタッカーのマテウスも相馬も突破力もパンチ力もあり、優れたアタッカーなのは間違いないが、彼らはサイドで受けて、そこから縦に仕掛けたりカットインしてのシュートを武器とする典型的なサイドのドリブラータイプの選手だ。その点、前田も似た部分はあるものの、彼は中央に入り込んでフィニッシャーとして振る舞うことも得意としている。立ち上がりの鹿島がピンチを作られかけていたのは、前田の中央に入ってくるプレーからが多かった。

逆に言うと、相馬やマテウスのドリブルからはそれほど決定的なピンチを作らせていなかったのである。彼らのプレーはある程度予想していたのだろうし、万が一そこからクロスを上げられても、中央ではね返せる。そうした計算もあったのかもしれない。

即時奪回の意識が生んだ荒木遼太郎の異次元ゴール

さらに、鹿島にとって大きかったのは自分たちの優位を確実なものとする追加点が早い時間帯で奪えたことである。37分、攻撃の流れが一度はボールを奪われたことで途切れてしまうものの、そこから即時奪回に動き出す鹿島。連動したプレスを掛けると、荒木がボールを奪い、寄せに来た相手もダブルタッチでかわして、裏へと抜け出し。そこにレオ・シルバからスルーパスが入ると、最後はステップでタイミングをずらしながら、キーパーのニアサイドを抜くシュートを突き刺した。

このゴール、まずボールを一度奪われても誰一人としてサボることなく、すぐさまボール奪取に意識を切り替えた鹿島の選手たちの動き出しが素晴らしかった。この意識はザーゴ監督が就任以降、チームコンセプトの一つとして求め続けていることであり、それが体現できたという意味でもこのゴールは大きかった。

また、ゴールを奪った荒木にも注目したい。彼も他の選手と同じように即時奪回にすぐさま動き出し、ボールを奪ったプレーはもちろん素晴らしいが、さらに素晴らしかったのはそこからのプレーだ。ダブルタッチであいてをかわした部分、スペースを見つけ出して飛び込みパスを引き出した部分、一度シュートフェイントを入れて相手のタイミングをずらした部分。どれも高卒ルーキーとは思えない異次元のプレーの連続だった。

関川郁万のミスと彼に期待されること

2点リードとなった鹿島はより自分たちの有利を確実なものとした。相手に与えていたスペースを消すことでピンチを作らせないだけでなく、徐々に自分たちがボールを握り始めることで、相手の攻めの機会を減らすことも出来ていた。

後半に入ってもその流れは変わらないように見えたが、49分に鹿島は関川郁万のパスをカットされると、そこから名古屋のカウンターを受けることに。最後は相馬のシュートが犬飼智也に当たったこぼれ球を稲垣祥に押し込まれ、これで鹿島は1点差への追い上げを許してしまった。

このシーン、カットされた関川のパスはプレッシャーがかかっていたとはいえ不用意なものであったと言えるだろう。ただ、関川は前半にも何度かパスミスをしているが、その全てが悪いという訳ではない。関川のパスは展開を一つ二つ飛ばしたものが多く、そのパスが通れば一気にチャンスを作り出せそうなパスが多いからだ。パススピードも速く、犬飼がボールの持ち運びなどで局面を打開しようとする姿勢とは対照的に、関川はパスコースとパススピードで局面を打開しようとするプレーが多い。

ザーゴが関川を左のセンターバックで使うのもそうした部分を期待してのことだろう。町田浩樹がコンディション不良でメンバーから外れ、杉岡大暉もフィットしきれていないことで左利きのセンターバックが起用されていない現状、ザーゴは若い関川に経験を積ませようという意図もあるだろうが、関川の左右両足で強いパスが出せることに期待して、犬飼でなく彼を左のセンターバックのファーストチョイスにしているのだと思われる。もちろん、関川にとっても右がやりやすそうなのだが、犬飼が不動の地位を築きつつある現在、関川がレギュラーを確固たるものにするためには守備面はもちろん、こうした組み立ての部分でも遜色なくやれるということを示していく必要があるはずだ。

狙い通りの3点目

1点差とされたことで、油断ならない状況になってきた鹿島。名古屋はここぞとばかりにガブリエル・シャビエルを下げて、山﨑凌吾を投入。2トップに変えて、ゴール前のターゲットを増やす作戦に出た。

58分~

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だが、鹿島はすぐにその不安を払拭した。63分、犬飼の縦パスに小泉慶が反応して裏抜けを狙う。これはクリアされたものの、荒木遼太郎が拾って二次攻撃開始。荒木のスルーパスに土居が抜け出し、クロス。これもクリアされるが、そのボールを再び拾った土居が左足シュートを決めて、鹿島はリードを再び2点とした。

このゴールは今季の鹿島がずっと狙っていた形の一つだろう。ボールを保持しながら陣形を整えつつ、最初の裏に抜け出した小泉へのパスで相手のスペースを突きつつ、相手に後ろ向きで守備をさせることで即時奪回をやりやすくする体制を作る。そのクリアボールをもう一度拾えれば、そこから波状攻撃を続けることが出来る。そこでも相手の裏を突く。プレーに絡んだ全員が各々のタスクを全うしたからこそ生まれたゴールだった。(そんな中でもこぼれ球の位置を知っているかのように位置取りをしている荒木のボールへの嗅覚は地味にすごい)

2点差としたことで再び自分たちの優位を確実なものとした鹿島はその後もペースを渡すことなく時計の針を進めていく。ダメ押しの4点目のチャンスもありながらそこで奪えず、逆に終盤は決定的なピンチを迎えてしまったものの、結果的にスコアは動かずにタイムアップ。3-1で勝利した鹿島は今季初の3連勝を飾った。

まとめ

先制点が何よりも大きい試合だった。スコアレスの時間が長ければ、展開は全く違うものになってた可能性もあるだろう。相手のミスに付け込んで、最初のチャンスで得点できたことで、鹿島にとってやりやすい試合展開になった。

こうした展開は7月に鹿島が陥っていた負けパターンの逆を行っているようなものだ。7月の鹿島はチャンスを迎えながらも決めきれず、逆に一つのミスなどから相手にワンチャンスを決められて、それで苦しくなってゴールを返せずに勝点を落としてしまう。そんな試合が多かった。こうした試合が減って、逆に勝点を稼げるようになってくると順位は自然と上がっていくようになるはずだ。

アウェイ3連戦、しかも全て上位勢との対戦だったが全勝することが出来た。チームの成熟度もかなり上がってきている。いよいよ鹿島が本領発揮する時期になってきた。

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