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【自滅】明治安田生命J1 第1節 鹿島アントラーズ-清水エスパルス レビュー

戦前

いよいよ開幕となる2021年の明治安田生命J1リーグ。昨季5位に終わった鹿島アントラーズの今季の目標は、もちろんリーグタイトル。ザーゴ体制も2季目となり、よりスタイルの熟成を図りながら、それを結果に結びつけたいシーズンとなる。

その鹿島が開幕戦で迎え撃つのは清水エスパルス。昨季16位に終わったチームは、今季から新監督に東京ヴェルディやセレッソ大阪でも監督を務めていたロティーナを招聘。ポルティモネンセから権田修一、大分トリニータから鈴木義宜など即戦力も多数獲得。巻き返しを期すシーズンとなる。

スタメン

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鹿島はエヴェラウドと上田綺世の2トップで臨み、ボランチには永木亮太を起用した。

清水はスタメンのうち7人が新加入選手になっている。

ロティーナ清水の姿勢

ロティーナのスタイルはとにかく自分たちがペース握ってそれを崩さないことにある。そのために大事なのがオープンな展開にさせないこと。相手に自由に使わせるスペースをなるべく削って、自分たちがコントロールできる範囲内で試合を進める。今節の清水もそんなロティーナのスタイルが現れていた。

鹿島の攻撃時

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立ち上がりから鹿島がボールを握る時間が長くなっていた中で、清水はそれに対して2トップの一角のディサロ燦シルヴァーノが中盤の位置まで下がって4-5-1のブロックを作って対応。とにかく中央を自由に使わせない!という姿勢を鮮明にしていた。

また、清水はボールを保持する時にも4-4-2の形をほとんど崩すことはなかった。ボランチの一角を最終ラインに降ろして鹿島の2トップに対して数的優位を確保することをしなかったのも、おそらくポジションを下手に動かして守備時に生まれるギャップを作りたくないという思考が働いていたのだと思われる。

前から仕掛ける鹿島

守備ブロックを作り揺らぎを作らせない清水に対して、ボールを保持しながらそれをいかに崩していくかという展開になった鹿島。清水があまりプレッシングを積極的に行わなかったため、組み立ての部分では苦労することなくボールを運ぶことが出来ていた。

鹿島が狙っていたのはなるべく高い位置でボールを奪うこと。ゴールに近ければ近いほど得点の可能性は高くなるし、相手の守備に掛ける人数も少なくなる。守備ブロックを崩すことよりも、守備ブロックが形成される前に攻撃を完結させたいという狙いである。

そのために鹿島は前線からのプレッシングを立ち上がりから積極的に行っていく。最前線のエヴェラウドをスイッチにして、2列目の土居聖真らもそれに追従してかなりの圧力を清水の組み立て部隊に掛けていった。結果として、お互い4-4-2同士でマークがハッキリしていたこと、先述したように清水がポジションをあまり動かさなかったこともあり、鹿島のプレッシングはかなり機能していた。清水がリスクを極力避けたこともあって高い位置でボールを奪ってショートカウンター!というシーンこそ作り出せなかったものの、清水のボール保持において自由を与えず、またプレッシングを仕掛けたことで前がかりになっていたものの、清水にその裏を突かせないようにすることも出来ていたため、鹿島は確実にボールを回収して、自分たちが押し込む時間を増やしていった。

我慢比べの中で

鹿島としては中々決定機こそ作り出せないものの、ボールを持って攻めることも出来ているし、ある程度自分たちのやりたいことは出来ている。一方の清水も攻めに出る機会は少ないが、耐える時間が長くなることは想定内。お互いにとって予想通りの我慢比べの時間が続くことになった。

今節の鹿島は昨季のような意図したカオス、どっちつかずの展開をわざと作り出して相手を誘い出し、そこで競り勝ってバランスが崩れたところを刺すというシーンが少なかった。理由はいくつかあるだろう。開幕戦ということもありそこまで積極的にリスクを冒したくなかったこと、清水が誘い出してもあまりバランスを崩してきそうにないこと、そしてそのカオスの中でのプレーを得意とするファン・アラーノのコンディションがイマイチだったこと。今節のアラーノはかなりおとなしく、ボールサイドに極端に寄ることもなく、右サイドに留まっていることが多かった。結果として左サイドの土居がバランスを気にすることなく積極的な仕掛けが出来たし、アラーノのコンディションもこれから試合を重ねるに連れて上がっていくものだと考えれば、何もマイナスなことばかりではないが。

対照的に一週間前の水戸ホーリーホックとの練習試合では身体が重そうだったエヴェラウドは、開幕に向けてしっかりとコンディションを整えてきていた。競り合いの力強さも戻っていたし、身体能力の高さも随所に見せていた。前線から声掛けをして、積極的にプレスのスイッチを入れていく姿は単にエースだけでなく、リーダーとしての姿も見せていた。

荒木遼太郎投入から理想的な先制点

立ち上がりから続く我慢比べの展開は後半になっても変わることはない。お互いにある程度想定内で試合が進んでいることもあり、下手に大きく変化させることを望んでいないようにも見えた。

そんな中で先に動いたのは鹿島の方だった。63分にアラーノを下げて、荒木遼太郎を投入。ここから均衡した関係が徐々に鹿島に傾き出していく。荒木が多用したのはサイドから中央へと横に運ぶドリブル。これまで清水の中央の守備ブロックが堅いのもあってどうしてもサイド攻撃に偏っていた鹿島だったが、疲労から徐々に清水の練度が落ちてきたのも手伝って、こうした荒木のプレーもあって中央でボールを保持する時間が増えていく。それに伴って、清水は落ちた守備練度をカバーするために最終ラインを下げていく。こうして、鹿島はより清水を押し込むことが出来るようになっていった。

この流れから、鹿島は試合を動かす。75分、左サイドのコーナーキックからエヴェラウドのヘッドこそバーに阻まれたが、こぼれ球を荒木がボレーで叩き込み、鹿島は待望の先制点を手にした。エヴェラウドのヘッドの前にスクリーンとなった三竿健斗のプレーも目立たないが貢献度は高い。清水としては、このコーナーキックを与えるプレーでもあったヴァウドの必要以上にセーフティな姿勢が結果として裏目に出ることになってしまった。

鹿島を迷わせた河井陽介

我慢比べの中でリードを手にした鹿島。ここまでの流れは理想そのもの、あとはこの勝ちパターンのまま試合を終わらせるだけだった。

だが、理想は一瞬にして砕け散った。先制点から3分後、清水は左サイドから攻め込み流れていた途中出場の河井陽介がクロス。これに中山克広が合わせ、最後はチアゴ・サンタナが押し込んで同点。鹿島は相手にワンチャンスを仕留められ、せっかくのリードを消してしまった。

この同点ゴールのシーン、まず注目すべきは河井の動き出しだろう。鹿島の先制点が決まる直前にボランチに入っていた河井は、投入直後から左サイドに流れるプレーを見せており、鹿島の守備陣に迷いを生み出そうとしていた。これまでほとんどポジションを動かしてこなかった清水だっただけに、この河井の動きは余計に効果的だった。河井が左サイドに流れ、左サイドにいたカルリーニョス・ジュニオが中央へ入り込むことで、マンツーマンで守る意識の強い鹿島はマークを上手く受け渡すことが出来ずに混乱。同点ゴールのシーンも、中央に侵入しようとしたカルリーニョスには小泉慶がついていくことで対応できていたが、河井のところには誰もついておらず対応が遅れ、河井はほぼノンプレッシャーでクロスを上げることが出来ていた。

自滅する鹿島

この同点ゴールで鹿島は完全に冷静さを失ってしまった。失点シーン時に起こった守備のギャップは修正できないまま、攻守はどんどん間延びしていく。ベンチも拙速さが否めず、修正の指示よりも選手交代で攻めの迫力を増強することに注力してしまっていた。

パニックになる鹿島を尻目に、清水はまたも同じ形から逆転に成功する。83分、左サイドで河井がボールを引き出し、大外のカルリーニョスへ。そのカルリーニョスのクロスに飛び込んで合わせたのは途中出場の後藤優介。鹿島は1失点目と同じく全てのプレーで後手に回り、相手をあまりにも自由にプレーさせてしまった。

リードを許した鹿島は追いつくべく、3枚代えを敢行。だが、その3枚代えの直後の清水の河井のコーナーキックが上田綺世に当たってそのままゴールに吸い込まれ、勝負を決定づける3失点目を喫してしまった。通常、セットプレーの守備時はマークのズレなどが起きやすいため選手交代は一時ストップするのが原則だが、追いつきたい一心の鹿島ベンチはその原則をあえて破って交代に出た結果、手痛いしっぺ返しを食らうことになってしまった。

試合は結果このまま終了。鹿島は3失点を喫しての逆転負けで、3年連続の開幕黒星スタートとなってしまった。

まとめ

鹿島にとっては自滅といっていい試合だろう。先制するまでは理想的な試合運びが出来ていたものの、1失点目で全てが崩れてしまった。開幕戦という大事な試合で上手く事が運んでいただけに、そのプランが崩れる結果となる失点へのショックが大きかったのかもしれないが、それにしても追いつかれてからのピッチ内外の振る舞いはあまりに不甲斐なかったし、優勝を目指すチームのそれではなかった。

とりあえず今改善しなければならないのは、相手のポジションチェンジにどう対応するのか、先制した後にどのような振る舞いを見せるのかをチームとして改めて定義付けしておかなければならないということだろう。マークを受け渡すのか、そのままマンツーマンで付き続けるのか。追加点を狙って攻めに出るのか、時間帯によってはリードを守りきるために撤退守備に移行するのか。75分までの試合運びはおそらくスタイルが体現出来ていただけに継続していきたい部分であるため、そこを変える必要はあまりないと思われる。

ショッキングな負け方でチームは早くも正念場に立たされた。このまま昨季のようにズルズルと言ってしまうのか、嫌な流れを早々に食い止められるのか。チームのリバウンドメンタリティーが試されている。

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