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【今の自分を無駄にするな】鹿島アントラーズ 2022シーズンプレビュー

監督不在の開幕

前代未聞の事態である。鹿島アントラーズにとって、国内タイトルから5年遠ざかっていることや、今季は初の欧州出身の監督を迎え入れることもそうだが、そんなことは今から触れることに比べてみれば、些細なことと言えてしまうかもしれないくらいに、前代未聞である。

シーズン開幕を迎えるにも関わらず新監督が合流していないのだ

いくらコロナの関係で致し方ないこととは言え、今年に入る前から予想できていたこととは言え、この事実は重い。昨季も目標から大きく届かない成績に終わり、チームを去った実力者たちも少なくない。そんな中で、チームは今季リスタートを期し、フットボールダイレクターも交代して、ブラジル路線から方向転換。スイス人のレネ・ヴァイラー新監督を迎え、各ポジションへの即戦力の補強も実施。これまでの遅れを取り戻そう、そんな折にその肝心の新監督がいないのである。

もちろん、新監督はリモートでチーム方針や自身の哲学、スタイルを示したり、指示を出すことは出来るし、新監督が来日するまでは8年ぶりにチームに復帰した岩政大樹コーチが中心となってチーム作りを進めていくことになるため、もうどうしようもないという訳ではない。岩政コーチはJクラブでのコーチは初めてだが、昨年は上武大学で監督として指揮を執り、また解説者としてその慧眼を高く評価されている。岩政コーチにとってみれば、いきなりの大チャンスとも言えるし、腕の見せ所とも言える。

ただ、である。いくらリモートでコミュニケーションが取れるとはいえ、それには限界がある。リアルタイムではないし、得られる情報は全てではない。ましてや、試合中に指示を出したり、意思決定することは不可能だ。そんな状況の中で新監督は仕事をこなすことが求められているし、岩政コーチは現場指揮を執らなければならない。お互いにとってやりづらいことこの上ない環境である。

そんな中で岩政コーチに求められているのは、チームをいい状態のまま来日してきた新監督に引き継ぐことになる。そうした面を含めて考えると、個人的におそらく岩政コーチが新監督不在の間に劇的にチームを変えることはないと予想している。布陣も慣れ親しんだ4-4-2あるいはその亜種である4-2-3-1から変えることはしないはずであり、極端な話だがスタートから5バックでベタ引きして守ったり、バルセロナのようなポンポン回すパスサッカーにすることはないはずだ。監督がザーゴになった時のような変化は起こり得ないと見ている。

なぜか。いい状態というのは何も成績に限った話ではない。それと同じかそれ以上に監督がチームビルディングを行う際に手を付けやすくなっているということこそが、求められているからである。料理を作る際に、すでに鍋に食材や調味料が投入されている状態では、そこから軌道修正するにも既に味が付いてしまっているため限界があるのと同じように、チーム作りでもあれこれと手を加えてしまうと、そのやり方から方向転換する際に手間は余計にかかってしまう。それならば、下ごしらえをしっかりしてくれていたり、具材のカットや料理道具の準備を進めておいてもらった方が料理の幅が広がるのと同様に、具体的なプレー原則よりかは監督の示したゲームモデルが浸透しやすくなるようなコンセプトをチーム内に根付かせることに重点を置いた方が、後々監督の仕事がラクになっているようになる。

おそらく、成績が上手く上がらないからといって、監督が来るまでは手を変え品を変えすることはないはずだし、大きくチームを動かすこともしないはずだ。昨季からのベースを軸に、曖昧になっていた部分に一定の基準を設けることで、ひとまず戦っていくことになる。本格的にチームが変わり出すのは、新監督がチームに合流してからであろう。

誰を選んでいくのか

ヴァイラーが一体どういったチーム作りをしていくのか、具体的にどんなスタイルをスタイルを志向しているのか、現時点では不透明だ。ただ、どういったスタイルであろうともある程度対応できる面々は揃っている。守備陣の層の薄さは気掛かりだが、補強もピンポイントで複数ポジションこなせる選手たちを補強。極端に尖った選手をあえて集めないようにして、新監督が手駒不足に悩まないような編成にはなっている。より、新監督のスタイルが反映されていくのは、順調にいけば来季以降になるだろう。

そんな中でも、最前線や2列目といったアタッカーは昨季以上に充実している。特に量の部分だ。FWには上田綺世、エヴェラウドという2枚看板に加え、鈴木優磨が復帰。そこに3年目の染野唯月もいるため、センターFWはレギュラーを張れるレベルを4枚抱えていることになる。さらに、2列目には荒木遼太郎、土居聖真、和泉竜司、ファン・アラーノ、アルトゥール・カイキといった昨季主力として出ていた面々に加え、成長株の松村優太や新加入の樋口雄太、仲間隼斗も加わった。さらに、ボランチが本職になりそうだが名古新太郎や中村亮太朗もこのポジションでプレー可能であり、2列目のポジションはリーグでも屈指の陣容と言える。

しかし、そこには懸念材料も残っている。4-4-2にしろ、4-2-3-1にしろ、使えるアタッカーは4人しかない。つまり、誰かは必ずスタメンから外れることになる。1トップを採用すれば上田、エヴェラウド、鈴木、染野のうち3人はスタメン落ちの可能性が高くなるし、2トップを採用すれば彼らの使う幅は増えるものの、荒木が昨季最も活きたトップ下のポジションはなくなってしまう。バランスを考えると、全てを取り入れて良いとこどりをするのは現実的ではない。必ずどこかで取捨選択を迫られることになる。

昨季はこの部分で苦労し、ベストな組み合わせを探す作業がシーズン終了まで続くことになった。開幕当初はエヴェラウドと上田の2トップでスタートして躓き、監督交代後は荒木をトップ下に起用して持ち直しながら、2トップへの回帰など試行錯誤を続けたものの、結果としてディエゴ・ピトゥカと荒木が噛み合わず。その後、安西の復帰などもあって荒木の優先度が下がり、カイキや土居といった身体を張れる選手を重宝し出したが、最終盤はそのカイキが離脱したことで再び荒木がトップ下の座につくようになる、というようにシーズンを通してメンバーが定まらず、またそれによって攻め筋も変えざるを得なかった。今季も同じことを繰り返していては、中々順位も上向いていかないだろう。

早い話が、誰の優先度を上げて、誰を犠牲にしていくのかということである。サッカーで一度にピッチに立てるのは11人と決まっている。その11人をどういった基準で選んで、やりくりしていくのか。その辺りのマネジメントが今季も引き続き、大きなカギとなってくる。

現時点での今季の予想布陣

もう猶予はない

さあ、そんな様々な困難が予想される中での新シーズンである。チームはもちろんタイトル獲得を目標に掲げているが、それはそんな簡単なことではないだろう。昨季タイトルに近づいた訳でもないチームが、監督不在の中スタートして、11月までという例年より短いシーズンの中で昨季以上の結果を出そうとしている訳である。正直、いつもの基準なら結果云々よりも来季に繋がるものが一つでも多ければ、結果は昨季やザーゴ1年目と同じくらいでも及第点と言えるはずだ。

ただ、鹿島にはもう結果は先々で良い、なんてそんな余裕はない。2年連続で王者川崎Fにはリーグ戦で大差をつけられ、3年連続無冠、国内タイトルで言えば5年間無冠というワースト記録を更新し続けているその姿に、もはや常勝軍団の面影はない。ただのそこそこ勝つチームに成り下がっているのが実情である。

そんな中でも他チームは日進月歩で成長を続けている。そんな中で遅れを取っている鹿島がこれ以上の猶予を持って待っていては、王者の地位はさらに遠ざかるし、今の上位チームという地位すら危うくなってくる。今の監督やコーチ陣は今季からチームに加わった面々が多いため、本当はそんなクラブ事情まで背負ってもらう必要はないのだが、鹿島がまた常勝軍団の地位を築きたいのなら今季のタイトル獲得は目標ではなく、ノルマである。強いアントラーズでいたいのなら、良いサッカーをしてその上で勝つしかないのだ。すぐにでも。

そのために重要になってくるのが、ここから迎える序盤戦だ。新チームで迎える今季、チームにはやってやろうという高いモチベーションと本当にこのチームで勝てるのかという疑念が渦巻いている。ここ数年のように序盤で勝点を取りこぼしているようだと、巻き返すにせよ勝ち癖のないチームにとって大きなディスアドバンテージになってしまうし、逆に付け焼き刃でも結果を手に入れることが出来れば「俺たちはやれるんだ」と思えてくる。それが引いては自信に繋がっていき、後々大きな意味を持ってくることになるということは、過去にタイトルを獲ってきた先輩たちが証明してくれている。鹿島が直近なすべきことは、疑念を消し、モチベーションを自信にするため、序盤戦でとにかく勝点を拾っていくことだ。

『ONE OUTS』17巻より

ましてや、今季の序盤戦は第2節で王者川崎F、第4節では昨季3位の神戸と、上位チームとの対戦が待っている。この2チームは落ち気味でいって勝てるほど甘くはない。ライバルとの対決でさらに自信を失い、差をつけられないためにも、序盤戦の中でも特に開幕戦は重要な試合となる。アウェイでのG大阪戦、相手は片野坂知宏新監督を迎えておりそう簡単に勝たせてもらえるとは思えないが、ここで6年ぶりの開幕戦勝利を持ち帰って、流れを掴みたいところだ。

「永遠は短い」

鹿島アントラーズが再び王座に返り咲くため、「いどむ」シーズンが始まる。

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遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください