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ヴァイラー鹿島は第2段階へ

ガス欠した鹿島

走り勝てなかった。端的に言えば、それに尽きる。

明治安田生命J1リーグ第8節、横浜F・マリノスをホームに迎えた試合で、鹿島アントラーズは0-3の完敗を喫した。10年ぶりにカシマでマリノスに白星を許し、立っていた首位の座もあっという間に譲らざるを得ず、5連勝で波に乗っていたところに水を差される格好となった。

試合としては、鹿島にもチャンスはあったが、終始マリノスが主導権を握っていた。鹿島が苦しんだのはマリノスの組み立てを制限できず、ボールを回され、追いかけ続ける状況を作らされたことだ。メンバーを変えない中3日の連戦で気温も上がっていたデーゲームで、その状況を作られるとしんどくなるのは目に見えている。一番パワーを発揮したいはずの試合終盤で鹿島は明らかにガス欠に陥っていた。

レネ・ヴァイラー監督も打てる手は打った。その中でおそらく一番勝負手だったのは、63分の2枚代えだ。動きの落ちてきた2列目の助っ人2人を下げて、土居聖真とジョーカー松村優太を投入。もう一度ギアを上げて相手を押し込みたかったのだろうが、これがハマらなかったのが結果的には痛かった。監督自身も試合後の会見でここについて触れており、問題だったのは3失点を喫したラスト10分ではなく、その前を含めてのラスト30分であるという認識を示している。

前半、後半合わせて60分くらいまでは自分たちはものすごく良い試合をしていましたし、1-0、2-0になる可能性もあった試合ではないかと思います。ただ、後半のそれ以降の時間帯というのは、自分たちのほうが苦しむ時間が長く、相手のサブから入ってきた選手もパワーを持ってプレーを仕掛けてきたと思います。

https://www.jleague.jp/match/j1/2022/041004/live/#coach

代えの効かないボランチ

鹿島が今節の結果で露呈した課題は2つある。1つは現状の戦い方で持っている手札があまりにも少ないことだ。連戦にも関わらずメンバーをほとんど入れ替えずに戦っているのは、調子が良くてそれを継続したかったという意味合いもあるだろうが、他に代えられるメンバーがいないという可能性は捨てきれない。前線の強力2トップもそうだが、特にボランチは完全に代えが効かなくなっている。新加入の樋口雄太とヴァイラー体制になってからこのポジションで使われている和泉竜司が現状ではボランチのファーストチョイスになっているが、攻撃面ではどんどん前に出て強力2トップが作ったタメを活かしてチャンスを作り出し、守備面では広範囲に動いてピンチの芽を摘んでいく。この2人の絶妙なバランス感覚で成り立っている部分が今の鹿島にとっては大きく、逆に言えば2人にかかる負担は尋常ではない。ディエゴ・ピトゥカを例の一件で欠いてからは余計にだ。

今節でも後半に主導権を握れなかったのは、この2人を高い位置でプレーさせられなかった部分が大きい。ずっと低い位置で守備に奔走させられ、せっかくボールを奪って2トップにボールを預けても、スタミナを消耗していて前に出ていけるパワーがないため、2トップは孤立無縁の状態で相手守備陣とバトルしなければならず、結果として攻撃は単発に終わり、また相手のターンとなってしまう。特に後半はこの繰り返しだった。

ならばメンバーを代えればいいのでは、と思うがそう簡単な話ではない。樋口や和泉くらい攻守において走れて、バランスも取れて、仕事の出来る選手で、ヴァイラーの要求水準を満たしている選手が他にいないからだ。だからこそ、ヴァイラーはボランチの消耗が分かっていながら、本職がボランチの選手をベンチに入れず、和泉を下げる決断も77分まで引っ張らざるを得なかったわけである。

おそらく、この問題は今後も続く。ヴァイラーとしては樋口や和泉のようなタスクをこなせる選手がチーム内で出てくるか、出ないならば現状のいる選手に合わせて戦い方を調整していくか、新たに補強してもらうかの選択肢がある。その中でどういう振る舞いを見せていくか、ここはチームビルディングの中で乗り越えなければならない壁となる。

3バック導入で戦い方は広がるか?

もう1つの課題は前述したものとも関連してくるが、戦い方が一本槍しかないことだろう。前線の強力2トップを活かしつつ、攻守に休みなくアグレッシブに動き続けて成立する今の戦い方は、上田綺世と鈴木優磨ありきで成り立っているし、そもそもピッチに立つ面々のコンディションが一定以上のレベルにあることが最低条件になっている。90分間走れなければ、お話にならないのだ。だが、今回のような連戦やこれから迎える夏場の試合のことを考えると、これだけでシーズン通して戦い抜いて結果を出すには無理が出てくる。さて、その時にどうする?というのが、今の鹿島には突き付けられている。

ただ、ヴァイラーはこの辺りを把握しながら、あえてまだ手を付けていない節がある。そもそも、昨季までの鹿島は選手個々の判断にこうした戦い方の幅の部分が託されており、チームとして統一した意志を持って試合を進めることは少なかった。そんな中で、キャンプにも合流出来ず、まだ来日して一月のヴァイラーは限られた中で、現状のいる選手の力を最大限に活かして、今すぐチームに浸透しそうな観点で選んだのが、今の戦い方なのだろう。ある程度結果を出し続けながら、チームのスタイルを構築させていくには、あれこれ取り組むよりも、チームとしての幅が狭まることを許容しながらも、一つのスタイルを築くことを優先した。こうしたチームビルディングのやり方をヴァイラーは選択したが故に、今節はそれが結果として裏目に出てしまった。

例えば、今節だったらヴァイラーはスタートから3バックを採用したかったのではないかと個人的には思っている。マリノスの組み立てに現状の4-4-2でプレスを掛けようとすると、相手の3トップに対して4バックで対応することになるため、必然的に鹿島のプレス部隊よりもマリノスの組み立て部隊が数的優位に立つことになる。キーパーを加えれば、更にだ。この数的優位を活かされた結果、鹿島は相手ボランチの岩田智輝とトップ下の西村拓真を捕まえることが出来ず、ここからプレスをかわされてボールを運ばれ続けた。

ここを3バックで対応出来るようになると、相手の3トップを3バックで見なければならないというリスクの高い状況にはなるが、プレッシングは基本的に数的同数で仕掛けることが出来る。これをやってのけたのがサンフレッチェ広島。3バックに対人の強い選手を置き、マンツーマンでプレスを仕掛けることによって、マリノスに主導権を握らせずに勝利した。ヴァイラーもチーム状態が整えば、この再現を狙いたいはずだ。

ただ、今節においてそれを採用するにはリスクが高すぎた。チームは今の段階で調子が良いし、連戦のため準備期間も短い。その中で今までやったことのない3バックを唐突に導入するのは、今までの文脈を無視することに繋がりかねないし、勝ち負け以上に今後のマネジメントが難しくなってしまう。今節が重要な試合だったことを否定はしないが、リーグ戦はまだ中盤戦にも入っていないし、ぶっちゃけこの試合を落としたからといってリーグ優勝出来ないわけではない。そう考えれば、今節の目先の勝点3を取りにいくためにチームを大きく動かすよりも、今後のことを考えて糧とした方が良いのでは、という判断は理にかなっている。ヴァイラーのコメントの通り、3バックは今後選択肢の一つに加わってくるだろうが、今はまだその時期ではないということだろう。

勝ち負けに関係なく、自分たちにいくつか課題がある中で、3バックについては自分のやり方を落とし込みたいものの1つだと思っています。

https://www.jleague.jp/match/j1/2022/041004/live/#coach

チャンスが巡ってきた

今節の敗戦でチームの昇り調子は一旦止まってしまった。だが、落ち込んでいる暇はない。この後も中2日、中3日で連戦が続く。一番大事なのは、ここでズルズルと連敗しないこと。強いチームになりたいのなら、嫌な流れは一度で止めるべきなのだ。

そのために必要なのは、今まで出場機会の限られていた面々の奮起だ。ルヴァンカップのセレッソ大阪戦は流石にターンオーバーを敢行するだろうし、そうなれば今までの戦い方をそのまま採用する訳には必然的にいかなくなる。出てる面々に合わせた戦い方を採っていく必要がある。その中で、出場した選手が結果を残せば、そうした選手をチームのスタイルに組み込んで戦い形を調整していくことが出来るし、逆にチャンスを活かせなければ今の主要メンバーへの依存度はより強くなってしまう。

序列を考えた上記の記事の時にも書いたが、ヴァイラーの中では今誰がチームの中でハマりそうなのかその見極めの真っ最中なのだろう。そこで結果を出せない選手はチームの中で生き残っていくことは出来ない。ヴァイラーが全くの外部から招聘した監督なだけに、過去の脈絡などは一切無視出来るから余計にだ。チームの可能性を、自身の可能性を広げるために、是非個々の奮起に期待したい。

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