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【君が輝く夏が見たい】明治安田生命J1 第9節 鹿島アントラーズ-サガン鳥栖 レビュー

戦前

水曜日のルヴァンカップでは川崎フロンターレに2-3で敗れ、プライムステージ進出の可能性が消えた鹿島。タイトルを早くも1つ失ってしまったことは残念でならないが、すぐに次の試合がやってくる。今節は中2日でのホームゲームだ。

対戦するのはサガン鳥栖。クラブの財政事情もあり若手主体の陣容に切り替えた今季は、中々ゴールが奪えずに苦しむも、前節FC東京に勝って初白星。現在、鹿島と同じ12位に位置している。なお、水曜日のルヴァンカップでは終了間際の失点で横浜FCに0-1で敗れている。

スタメン

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鹿島は水曜日の川崎F戦から5人変更。エヴェラウドを左サイドに置き、前線には白崎凌兵と伊藤翔のセット。ボランチには永木亮太、右サイドバックには今季初スタメンの小泉慶が起用され、そしてキーパーにはこれが公式戦デビューとなる沖悠哉が抜擢された。

鳥栖は前節のFC東京戦から2人変更。前節は2トップだったが、今節は趙東建の1トップで、トップ下に原川力を置いている。また、左サイドバックには2種登録の16歳、中野伸哉が起用されている。

鹿島と鳥栖の近似点と相違点

両チーム、狙っていることは同じように見える入りで試合は始まる。最終ラインから組み立てながら徐々に相手陣内へと押し込んでいき、その流れから高い位置でボールを奪って手数を掛けずにゴールへと迫る。ポゼッションを軸にしつつ、ハイプレス&ショートカウンターを狙いたいといった感じだろう。

となると、自分たちがやられたくないこと=相手がやりたいことの構図になってくるので、お互いに相手の狙いを壊しに行こうとする動きが増えていく。具体的にはポゼッションへのハイプレス、ハイプレスに相手が来たところを中距離のパスなどを交えて外して前線のアタッカーにボールを預けるようなプレーが立ち上がりから多く見られていた。

狙いが上手くいっていたのは鳥栖の方だった。理由としては走力だろう。ルヴァンカップでほとんどメンバーを入れ替えなかった鳥栖に対し、メンバー固定で戦っていた鹿島の方が走れないのはある種当然の結果だ。スタメンの平均年齢で鳥栖の方が下回っているのも余計に追い打ちをかける。プレスやカウンターで前に出ていく、切り替えの際に必要となるエネルギーをより多く発揮できていた鳥栖は局面の争いで競り勝つことが多く、徐々に主導権を掴んでいく。

また、鳥栖はキーパーの高丘陽平が優秀だった。高丘は鹿島が前がかりになるのを逆手に取って、センターサークル付近に降りてきた前線の選手(主に趙東建)にミドルパスを通して、そのパスの受け手が起点となって攻撃をスタートさせる。つまり、攻撃のスイッチを入れるパスが多かったのだ。これはキック精度の高さも求められるが、的確な状況判断が求められるプレーでもある。ピッチのどこにスペースがあるか、どこに味方がいて相手がいるか。どこにパスを通せば、チャンスに繋がりそうか。そうした部分の判断が高丘は非常に正確だった。この試合、高丘は鳥栖の司令塔となりチャンスメイクに繋がるパスの供給役となっていたのだ。

鹿島の上回っていた部分と沖悠哉の繋ぎ

ただ、鹿島も全くダメだった訳ではなかった。鹿島が鳥栖より上回っていた部分、それは守備から攻撃への切り替えの質である。

この試合、後半半ばまでは鳥栖の方が攻撃機会が多かったのは間違いない。しかし、鳥栖は攻撃に移ろうとする段階でのミスが多く、そこでボールロストして攻撃機会をフイにしてしまうことが幾度も見られた。

その点、鹿島は回数こそ鳥栖より少なかったがそういったミスは少なかったため、中途半端な位置でボールを失うことは少なかった(ゴール前に持ち込む部分でのミスは結構あったけど)。これは前線の役割分担がハッキリしていたというのもあるだろう。エヴェラウドや伊藤が裏抜けを狙い、高い技術を持つ白崎や土居聖真がカウンターの第一歩となる。それぞれの武器を活かせるようなすみ分けが出来ていたのだ。

また、今節の鹿島は組み立ての部分のミスも少なかった。その要因は何と言っても沖の存在だろう。足下の技術に自信を持つ沖は組み立てにも積極的に参加していく。これまでの鹿島はボランチの1枚が最終ラインに降りて数的優位を作り出す形を採用していたが、今節は沖がその降りるボランチの役割を果たしていたため、そうした動きはほとんど見られなかった。

これにより大きかったのは鹿島は攻撃に11人全員が加われるようになったということだ。相手の守備も11人いるが、キーパーは基本的にゴール前を離れることが出来ないので、ボールを奪うというフェーズに参加できるのは実質10人だ。こうなると、鹿島は攻撃の際にピッチ上のどこかで必ず数的優位を作り出せる状況になる。沖のような組み立ての上手いキーパーを起用するメリットはこうした部分にある訳だ。

その沖は鳥栖が前線からのプレスを裏返すかのように正確なロングボールを供給していく。そのロングボールも送られた先の空中戦で競り勝てるところに供給されており、鹿島はこのロングボールからのボールロストも少なかった。これが今節の鹿島が被カウンター回数が少なかったことに繋がっていることは間違いない。沖が今のプレーに加え、前述した高丘のように司令塔然とした振る舞いが出来れば、鹿島は沖のキックからチャンスを生み出すことも出来るようになるはずだ。

チームを甦らせた三竿健斗と荒木遼太郎

鳥栖も鹿島もチャンスに繋がる部分が何度かある中で、試合は徐々に鳥栖のペースになっていく。鹿島としては連戦でエネルギーの上がらない守備陣が押し上げられない一方で、カウンターの質の高さを実感していたり、元々のスタイルであるハイプレスを実行しようと前がかりになっていく攻撃陣との間で、間延びが生まれ始め空いた中盤のスペースを鳥栖に使われるようになっていったのがその要因だろう。

後半になると、鹿島攻撃陣もエネルギーが落ち始めたことでカウンターの一手が打てなくなり、均衡が崩れ始めていく。後半開始から15分過ぎまでは完全に鳥栖の攻勢の時間となっていた。鹿島は水際での小泉のボール奪取や沖のファインセーブでどうにか凌いでいたが、このままだと失点は時間の問題だった。

この状況でザーゴ監督が動く。59分に一気に3枚代え。三竿健斗、荒木遼太郎、和泉竜司がピッチに投入された。

59分~

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この交代で鹿島は甦った。大きかったのは三竿と荒木の存在だ。エネルギー全開でピッチを駆け回り、次々とボールを奪い取ってはすぐさま攻撃に繋げていく。当たり前の部分ではあるが、今日ここまでの鹿島に一番足りなかった活力を三竿と荒木は見事に注ぎ込んでくれたのだ。

プレスバックを怠らず攻撃で違いを作り出せる荒木、ボールを奪えて前に付けられる三竿、低調なチームの中でも運動量多くボールも奪えていた小泉、この3人によって一気に活性化した右サイドから押し込むことで鹿島は主導権を取り戻していく。

逸材たちの共鳴で生まれた2つのゴール

主導権を握っていつでも点が奪えそうなはずだった鳥栖だったが、ゴールを奪う前に状況が変わりだしてしまいつつある。金明輝監督はもう一度流れを取り戻すべく前線を豊田陽平と石井快征のセットに変更。一方、ザーゴは運動量の落ちてきた土居に代えて染野唯月を同じポジションに投入。掴みかけた流れを手放さないように一手を加えていく。

67分~

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結果的に交代策を活かしたのは鹿島の方だった。67分の交代から2分後、鹿島は左サイドで得たコーナーキックがクリアされた後のこぼれ球を小泉が拾ってクロス。これを染野が落としたところにいたのは和泉。和泉は胸トラップでDFをかわすと流れるような左足ボレーでネットに突き刺し、これで鹿島は待望の先制点を掴み取った。

和泉はこれで移籍後初ゴール。今まで中々チャンスを活かし切れていなかったが、このシーンでは高い技術に加え、ゴール前での落ち着きが見られる和泉らしいゴールだった。また、アシストした染野も見逃せない。179cmとそこまで上背がある訳ではないが、彼は空中で止まっているかの如く滞空時間が長い。それを活かしたヘディングでの落としだった。

苦しい時間帯を耐え、先制したことで一気に楽になった鹿島。流れに乗ったように攻勢に出たいはずの鳥栖を押さえて、どんどんカウンターでチャンスを作り出していく。その中で、80分に試合がもう一度動く。和泉から右サイドにいた荒木にボールが渡ると、荒木はドリブルで中央に運んでスルーパス。これに斜めの動きで染野が抜け出してキーパーを釣り出し、ヒールパス。これを受けた和泉のプレゼントパスを最後はエヴェラウドが沈めて、追加点。この追加点で鹿島は勝利をほぼ決定的なものにした。

得点に絡んだ前線4人の動き出しと状況判断が素晴らしいゴールだった。空いたスペースへの動き出しを続けた和泉と最後にきっちりゴール前に詰めていたエヴェラウドはもちろんのこと、DFよりも一歩早く抜け出した上に、シュートコースがないと見るやすぐさまパスに切り替えた染野の冷静な判断も称えられるべきだろう。

また、荒木のスルーパスまでの流れは彼の良さが凝縮されていた。荒木の良さは認知、プレー選択のスピードの速さだ。荒木自身、足の速さという面でそこまで目立ったプレーヤーではないが、彼のプレーにはスピード感が感じられる。局面を正確に把握して、どのプレーが一番適切なのか。それを素早く判断して実行に移せるのが彼の一番の魅力だろう。その上でボールタッチやパスの技術の高さが土台にあるため、シンプルなミスも少ない。このゴールシーンでも、ドリブルでのカットインを選択した後、和泉へのスルーパスを選択しかけているが、カットされる可能性が高いと見るやすぐさまキャンセルして、もう一つ持ち運んで染野へのスルーパスを選択している。

2点リードとなった鹿島は最終盤になってもカウンターでチャンスを作り出しながら、最後は関川郁万を投入して5バックに移行。最後まで失点を許さずにタイムアップ。鹿島は2-0の完封勝利で沖のデビュー戦に花を添える結果となった。

なお、完封は今季初めて、リーグ戦での連勝は昨年9月以来となる。

まとめ

交代選手が登場してくるまでの鹿島の出来は決して褒められたものではなかった。スタイルの体現に必要な運動量がそもそも不足しており、攻守に連動性を欠いていた場面が目立ったからだ。

ただ、そんな中で勝点3を掴み取ったことは評価すべきだろう。これからも連戦は続いていく中で、最低限の運動量すら担保できない試合も出てくるかもしれない。そうした中でも勝点を拾っていけるかどうかが順位を大きく左右してくることは間違いないだけに、今節の勝点3の持つ意味は決して小さくない。

一方の鳥栖にとっては狙い通りに試合を進めながらもセットプレー一発で失点して、流れを失ってしまうというやるせない試合だろう。豊田と石井を投入して前線のパワーを増したはずの直後に失点してしまったのも痛かった。あの交代をもう少し早めて、攻勢の時間に一気に畳み掛けるのも一つの手だったかもしれない。

新加入選手が結果を残し、若手が台頭するという、良いサイクルを迎えつつある鹿島。ただ、リーグ戦はここからヴィッセル神戸、横浜FC、ガンバ大阪、FC東京、柏レイソルと一筋縄では行かない中位以上との対戦が多く控えている。こうしたチームにどこまで戦えるか、どこまで勝点を奪えるかが、チームの成長度合いを測る指標になりそうだ。

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