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【自作自演のシーソーゲーム】明治安田生命J1 第13節 柏レイソル-鹿島アントラーズ レビュー

戦前

前節、ブラジル人コンビのアベックゴールによってFC東京に逆転勝ちし、4試合ぶりの勝利を手にした鹿島。今節はそこから中2日という厳しい日程の中、今季2度目の連勝を目指すアウェイゲームとなる。

今節の相手は6位柏レイソル。中断明けは3連敗と躓いたが、そこから4連勝で順位を上げてきた。その原動力は何といっても12試合12ゴールと、驚異の決定力を見せているオルンガ。前節はそのオルンガの連続ゴールが7試合でストップして、大分トリニータとスコアレスドローに終わっている。今節はその大分戦から中5日での試合だ。

スタメン

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鹿島は前節から3人変更。ボランチにレオ・シルバ、2列目に和泉竜司が復帰。前線には染野唯月が入った。

柏は前節と同じスタメンで臨んだ。

8分のターニングポイント

中2日の鹿島と中5日の柏。日程面を考えると鹿島は体力的に不利なように思われたが、それを払拭するかの如く鹿島は立ち上がりから超攻撃的プレッシングを敢行。高い位置から柏のボール保持に対してプレッシャーを掛けていった。

それに対して柏は、キーパーの中村航輔が組み立てに参加することで対抗。キーパーが組み立てに参加することによる数的優位を活かし、ボールを前進させていく。ボールの前進はロングボールで行われることが多く、その供給先はほとんどがオルンガ。柏はオルンガの個の力によって起点を作りつつ、主導権を握ろうと試みていた。

そんなお互いに主導権を握ろうとせめぎ合う展開の中、アクシデントが起こる。8分、エヴェラウドと競り合った際に高橋祐治が右膝を負傷。プレー続行不可能となり、柏は早くも1枚目の交代枠を使うことを余儀なくされてしまう。

11分~

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高橋祐に代わって入ったのは、右サイドバックが本職の川口尚紀。柏はセンターバックにケガ人が続出しており、この日のセンターバックの本職は負傷した高橋祐治のみで、相棒の古賀太陽は本職がサイドバックの選手。当然、ベンチにもセンターバックが本職の選手はおらず、柏としてはここから約80分間本職センターバックがゼロのディフェンスラインで戦うことを強いられるという、致し方ない事情とはいえかなりの痛手を負うことになってしまった。

そして、このことが結果的に試合を大きく左右することになった。

柏のボール保持に変化が起きた理由

鹿島は10分を過ぎると超攻撃的プレッシングをやめて、プレスの開始位置をハーフウェーライン付近に変更。プレッシングを掛ける姿勢は維持しつつも、体力を消耗しすぎない方法に変えていった。

鹿島のプレス強度が弱まったことによって、柏はボール保持に余裕が出てくるようになる。こうして試合は徐々にボールを持って攻める柏と、ボールを持たせてカウンターを狙う鹿島という構図になっていく。

ただ、柏のボール保持は普段と異なる様子を見せていた。柏はいつもだとセンターバック、ボランチに加えてトップ下の江坂任が組み立てに加わり、中央からボールを前進させようとする。守備時は2トップの一角として振る舞い、攻撃時はトップ下からボランチの位置まで下がってボールを引き出し、そしてそのままゴール前まで侵入する江坂のタスクはまさにリンクマンそのものなのだが、今節の柏はその江坂が下がらず、組み立てはほとんどが左サイドの三丸拡を経由して、そこから同サイドのマテウス・サヴィオへの縦パスか最前線のオルンガに当てる形となっていた。

こうなった理由としては、もちろんオルンガの存在も大きいだろう。圧倒的なフィジカルを持つオルンガをシンプルに活かす形は相手にとって十分すぎるほど脅威になりえるし、柏はオルンガに当ててセカンドボールを拾うだけでなく、オルンガのスピードを活かした裏抜けを狙うこともできる。柏は今節もオルンガのところは優位に立てるという皮算用をしていたはずだ。

ただ、もう一つ理由として考えられるのが、鹿島のカウンターを警戒していたというものだ。先述したように今節の柏には最終ラインにセンターバックが本職の選手はいない。つまり、守備の耐久力には不安を残している。その状態でエヴェラウドなどとよーいドンの勝負はしたくない。だからこそ、下手に中央に運んでボールを奪われるリスクを考えれば、直接カウンターに持ち込まれる可能性の低いサイドからボールを運んだ方が良い。そう考えて、今節の柏はサイドからの攻撃を増やしたのではないだろうか。

やられたらやり返す鹿島

試合は、ボールを保持しながらリスクを避けつつチャンスを窺う柏の土俵で進んでいきそうな様相を見せていた。ただ、相手センターバックの負傷交代はともかく、この展開はある程度想定できていたであろう鹿島。一度でも事故が起きれば、一発でオルンガや柏のアタッカー陣にやられてしまう。ただ、逆に言うとそこさえ抑えることさえできれば、失点のリスクはグッと下がる

ということで、鹿島の守備陣は立ち上がりからオルンガを始めとする柏アタッカー陣潰しを徹底していた。ボールが入れば、自由を与えることなくすぐさま強烈なプレッシャーを掛けていく。ファウルになってしまうことも少なくなかったが、それでも前半の鹿島守備陣は十二分のパフォーマンスを見せていた。最終ラインは誰もイエローカードをもらうことなく、柏にほとんどチャンスを作らせていなかったからだ。

柏からボールを奪った鹿島はすぐさまボールを柏守備陣の裏に蹴りこむことが多かった。そこに走りこむのはエヴェラウド、染野唯月、和泉竜司、ファン・アラーノといったアタッカー陣。鹿島がオルンガを嫌がるように、鹿島も柏の嫌がる柏守備陣と鹿島攻撃陣の個の戦いに持ち込んでチャンスを作り出そうとしていたし、実際この局面を柏守備陣はかなり嫌がる様子を見せていた。

柏に重なるアクシデント

柏が主導権を握りかけているものの、鹿島のカウンターも効いているという拮抗した展開は進んでいったが、ここで柏にまたもアクシデントが起こる。守備に参加してエヴェラウドとの競り合いになったマテウス・サヴィオが足首を負傷。柏は戸嶋祥郎を投入せざるを得なくなり、これでハーフタイムを除けば残り一回しか交代を使えない状況となってしまった。

好調の個で打開できるアタッカーを失った柏はさらなるアクシデントに見舞われる。前半アディショナルタイム、空中戦で和泉にアフターでチャレンジした高橋峻希に対してイエローカードが提示される。高橋峻はこの日2枚目のイエローカードで退場。前半はスコアレスで折り返したものの、柏は残り45分強を10で戦い、かつ交代枠はすでに2枚消化、さらに残された交代のチャンスはハーフタイムともう一回のみという厳しい状況に立たされる。

ワンチャンスを仕留めるオルンガ

後半開始時~

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ハーフタイムで柏は3枚目の交代枠を切って、イエローカードを貰っていたヒシャルジソンに代えて三原雅俊を投入。高橋峻が退場した右サイドバックにはボランチや2列目を本職とする戸嶋が入った。

10人となった柏は戦い方をはっきりさせた。最終ライン4枚、中盤4枚でブロックを作り、さらにオルンガも守備に参加。守備を固めつつ、攻撃の際にはオルンガ、江坂、仲間隼斗のアタッカー3人でカウンターに打って出るという割り切った戦いを選択した。

これによって後半は鹿島がボールを持って攻める側、柏がボールを持たせてカウンターを狙う側という構図になった。柏が前からボールを奪いに行く姿勢を見せないため安定してボールを前進させることは出来ていた鹿島は、そこから柏のブロックを崩すということに取り組んでいく。粘り強く攻撃を続ける中でどこかでゴールが奪えれば。鹿島の優位は揺るぎないものとなりつつあった。

だが、柏の怪物はワンチャンスを逃さなかった。57分、中村のフリーキックをオルンガが競ると、そのこぼれ球を三原が拾って、そこからボールは再度オルンガへ。オルンガは左足からのコントロールシュートを確実にネットに沈めた。先制したのは一人少ない柏。鹿島にとってはこれまで上手いことオルンガを封じていただけに一瞬のスキを突かれてしまう結果となってしまった。

鹿島の拙攻

まさかの1点ビハインドとなった鹿島。ザーゴ監督は即座に手を打ち、遠藤康と上田綺世を投入。その前に投入していた土居聖真と荒木遼太郎も合わせて4枚の交代枠を切って、前がかりになって柏ゴールに襲い掛かろうとした。

61分~

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鹿島の猛攻は72分に実る。左サイドからのクロスのこぼれ球を拾った三竿健斗が左足ミドルをネットに沈めて、鹿島は同点に追いついた。

この勢いのまま押せ押せで行ければベストの鹿島だったが、ここからボール保持の割に決定機を作り出すことが出来ず、むしろ攻撃でリズムを失う形となってしまった。理由としては、ゴール前であまりに手数を掛けすぎたことにある。

何度も触れているように負傷交代やケガ人の続出、退場者によって柏の守備陣は耐久力に不安を持っている。特に一番不安に思っていたのは上田やエヴェラウドのパワーをぶつけられて、そこに対抗できるかということだろう。

それを鹿島が認識していたのなら、そのパワーを徹底的に相手にぶつけて圧力をかけ続けるべきだったと私は思う。あまり手数を掛けずにシンプルにクロスを入れて柏を押し込み、そこのクロスから直接ゴールが奪えればベストだし、奪えなくてもそのセカンドボールを拾って波状攻撃を仕掛けていけばいい。相手はどうしてもターゲットとなりやすい上田やエヴェラウドのケアにパワーを割かれるため、必然的にそれ以外の選手へのケアが甘くなりがちになる。そこを突いていくのも一手だったはずだ。

だが、同点に追いついてからの鹿島は固執するかの如くゴール前で崩し切ろうとしていた。単純にクロスを供給する形は少なく、ペナルティエリアの前で横パスを繋ぎながら、ペナルティエリアの角から崩す地上戦を選択していたのだ。たしかに、これなら単調な攻撃よりはテンポが生まれるし、バリエーションも多いだろう。ただ、この攻めは今節の相手があの状況で一番嫌がる攻めではなかった。そのため、鹿島は同点に追いついてからの約10分間攻めあぐねる時間が続いてしまった。

この状況から生まれるスキを怪物はまたも逃さなかった。84分、左サイドからボールを受け江坂がシュートしたこぼれ球を拾ったのは、またもオルンガ。左足でシュートを打てる形に自ら運ぶと、1点目と同じようなコントロールシュートを叩き込んで、勝ち越し。鹿島は残り約5分を残した段階でまたもビハインドとなり、窮地に立たされた。

飛び込み続けたことが奏功した土居聖真

ただ、この展開が鹿島を開き直らせたのかもしれない。攻めるしかなくなった鹿島はなりふり構わずボールをゴール前に供給し始める。そこに今までゴール前での崩しにこだわっていた姿はなかった。

柏も勝ち越したものの限界を迎えていた。後半はゴールシーン含むいくつかのチャンスシーン以外はほとんどが守備の時間であり、我慢を強いられ続けていた。さらに顕著だったのはサイドアタッカーの疲労だ。守備の際は鹿島のサイドバックのケアに最後尾まで守備に戻り、そこから攻撃の際は相手ゴール前まで出ていく。そんな上下動を繰り返し続けてバテない訳がなかったのである。

89分。鹿島は左サイドで永戸勝也が仕掛けてクロス。これにニアサイドで右足を出して合わせたのは土居。ボールはネットに吸い込まれ、鹿島は土壇場で同点に追いついた。永戸のマーカーであった江坂も永戸に着いていったが、クロスを上げさせてしまったし、1点目も永戸の左足クロスから始まったように、キック精度を上げてきた永戸に対してその寄せでは不十分だった

さらに、アディショナルタイムに突入した後にドラマが待っていた。右サイドから三竿が上げたクロスに待っていたのはまたも土居。フリーで放ったヘディングシュートがネットに吸い込まれ、鹿島は土壇場で逆転に成功した。

この試合、土居のゴール前までの飛び込みが3得点全てを生み出している。土居自身が決めた2点目、3点目は言うまでもないし、1点目も永戸のクロスに飛び込んだ土居が潰れたところのこぼれ球を三竿が拾って決めた形だ。パワーのあるエヴェラウドと上田にマークが集中する分、自分が飛び込んでいけばチャンスになりやすい。そうしたことを把握しながら、ゴール前に飛び込むことを怠ることなく続けた、土居に対するご褒美のような2ゴールだろう。

結局、ギリギリでリードした鹿島はボールキープしつつ試合を締めて、タイムアップ。3-2で勝利した鹿島は、今季2度目の連勝を達成。順位を今季最高の暫定9位まで上げた。

まとめ

勝点3を掴んだという点では間違いなく評価できる試合だが、自分たちの戦い方によって試合を難しくしてしまった感は否めないだけに、手放しでは喜べない勝利だろう。目指している形で崩すことも確かに大事なのかもしれない。だが、最も大事なのはゴールを奪うことであり、一つの形にこだわりすぎて自らリズムを崩すようでは本末転倒だ。もう少し相手の状況を見ながら攻め方が選択できるようになれば、もっと苦労せずに勝ち星を掴むことが出来るはずだし、それが順位を上げていくことにも繋がるはずだ。

ただ、成長途上のチームがこうした試合で結果として勝点3を拾えたことは大きいだろう。中2日という厳しい状況の中でも勝てたこともプラスになるはず。また、3ゴール全てに土居はもちろん、1点目の他にも幾度も展開を変えるパスで好機を作り出した三竿や、ここにきてクロス精度が上がってきておりついに今節アシストも記録した永戸など、調子が上向きの選手が増えてきたのもプラス材料だ。

次節は中6日で3位名古屋グランパスとの対戦だ。この連勝の流れを継続して上位の名古屋を下して、さらに勢いに乗りたいところ。重要な試合になる。

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