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【相手を知る】明治安田生命J1 第33節 ヴィッセル神戸-鹿島アントラーズ レビュー

戦前

前節は北海道コンサドーレ札幌相手に思うような試合運びが出来ず、0-1で敗れた鹿島アントラーズ。今節はそこから中2日で、アウェイ3連戦の3戦目だ。

鹿島を迎え撃つのは11位ヴィッセル神戸。優勝争いを目指した今季だったが中々波に乗り切れず、シーズン途中にはトルステン・フィンク監督が退任。現在は三浦淳寛スポーツダイレクターが後任として指揮を執っている。ただ、三浦監督就任後は4連勝と好調さを見せていたものの、ここ3試合は勝ちなし。前節もサンフレッチェ広島に1-2で敗れており、今節はそこから中2日で迎える。

なお、両者は第10節で対戦。鹿島は2度先行を許す苦しい展開だったが、前半にエヴェラウドのヘッド、後半アディショナルタイムには荒木遼太郎のプロ初ゴールで追いつき、2-2のドローに終わっている。

前回対戦時のレビュー

スタメン

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鹿島は前節から4人変更。センターバックに町田浩樹、左サイドバックに永戸勝也、2列目に和泉竜司が入る。また、エヴェラウドがベンチスタートとなり、前線には19試合ぶりのスタメンとなる上田綺世が起用。ベンチには久々に伊藤翔が入った。

神戸は前節から7人変更。 キーパーは前川黛也で、最終ラインは右から古巣対戦となる西大伍、菊池流帆、大﨑玲央、初瀬亮の4バック。アンカーに山口蛍を置いて、インサイドにアンドレス・イニエスタと安井拓也。前線は鹿島キラー藤本憲明を頂点に、右に田中順也、左に古橋亨梧という並びになった。

神戸の組み立てを逆手に取る鹿島

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試合は神戸がボールを保持する形でスタートした。神戸の組み立てはピッチ全体を最大限に活かす形で行われる。センターバックはペナルティエリアの幅ほどに開いて起点となり、インサイドのイニエスタと安井が中央でボールの受け手となる。サイドを広く使うのはサイドバックとウイングの役目で、ウイングはサイドから裏への抜け出しも狙って、相手の最終ラインを下げさせる役割も務めるなど、個々の役割が明確化されていた。

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鹿島の守備は神戸の役割が明確化された組み立てを逆手に取るような守り方を採用していた。基本的に高い位置からプレッシャーを掛けに行くものの、それは高い位置でボールを奪うためというよりは、相手の選択肢を削ってミスを誘おうという気色の方が強かった。2トップはセンターバックからのパスコースをサイドバックかインサイドハーフに出させるように限定。彼らに出たところで鹿島の2列目やボランチがプレッシャーを掛けることでさらに選択肢を狭めてミスを誘い、あわよくばボールを奪う。神戸が前線の選手の裏抜けを活かそうとしてきた時には、最終ラインの選手がマンツーマン気味で付いていき対応。鹿島は神戸の組み立てに対して確実に罠を仕掛けて、その罠にハメるように誘導していくことを狙い続けていた。

また、神戸の組み立ては配置的にはオーソドックスなものでおかしな点はなかったが、2つの点で鹿島を大いに助けていた。一つは組み立ての方法が鹿島に完全に読まれていたこと。相手が何をしてくるか分かれば、こちらとしては対応がしやすいし、この読まれている状況では自分たちが変化を見せるか、クオリティを極限まで上げるかしないと、そう簡単に守備網を突破するのは難しくなる。

もう一つは、個々の距離感をカバーできないレベルにまで広げすぎてしまったこと。ピッチ全体を広く使う意識は良いのだが、もしボールを奪われた時に神戸は即時奪回に動ける人数が少なく、ボール奪取からのカウンターを狙う鹿島にその機会を与えてしまうことがあまりにも多かった。特にセンターバックという守備の根幹を担う選手たちがかなり広がってプレーしていたために、中央が手薄になることが少なくなく、彼らやアンカーの山口は明らかにタスクオーバーな守備範囲をケアすることを強いられていた。

良い守備から良い攻撃という流れでリズムを掴んだ鹿島は、徐々にプレッシャーを掛けていく位置を高く設定していく。そうして生まれたのが12分の先制点だ。鹿島は左サイドの高い位置でボールを奪うと、三竿健斗から上田へ。上田はフリーで受けると落ち着いてディフェンスをかわして、シュートをゴールへと流し込んだ。多少のプレッシャーなら苦にせずゴールに流し込める上田の特長が活きた得点でもあったが、そこに至るまでの流れが鹿島としては完全に狙い通りだった。

クオリティで殴る神戸と、相手を使う鹿島

攻め手が鹿島に完全に読まれている中で、神戸としては苦しい試合運びを強いられていた。

そうした中でも神戸は状況を打開しようと試みる。頼るのは個の力だ。イニエスタや西のボール捌き、山口の豊富な運動量、古橋のスピード。リーグ随一のクオリティを持つ彼らの力を活用することで、神戸は鹿島の狙いを外してチャンスを作り出そうとしていた。

ただ、鹿島も最終局面では落ち着いていた。沖の好セーブもあったが、何よりもセンターバックの安定感は特筆ものだった。簡単に中央を空けることなく侵入してきた攻撃陣を止め続け、機を見たインターセプトで攻撃の芽を摘む。彼らの存在もあり、鹿島は神戸にボール保持こそ許すものの、一方的な展開を許さなかった。

そんな中で、鹿島はさらにリードを広げる。43分、左サイドからのスローインを上田に送ると、神戸はセンターバックの菊池が出ていき対応。しかし、上田は菊池の動きを逆手にとって簡単に落として、ファン・アラーノへ。このアラーノが持った時点で神戸の守備は完全に後手の対応になっており、アラーノが運べば運ぶほど彼に守備陣が集中。最後はアラーノの折り返しをフリーで和泉が押し込み、追加点。神戸の守備を上手く利用した形となった。

ボール保持で押し込む神戸

神戸は後半開始から安井に代えてセルジ・サンペールを投入。彼をアンカーに置くことで、中央からの組み立てでも打開を図ろうとした。

鹿島は2点リードしたこと、連戦のコンディションもあって、前半よりも強度が低下。守備に極端な綻びが生まれることはなかったが、先制点のような高い位置でボールを奪うシーンが減っていった。

鹿島にカウンターの機会を作らせなくなった神戸は徐々にボール保持から鹿島を押し込んでいく。その中で得点を奪ったのは61分。左サイドからのコーナーキックを西がすらして、藤本が押し込み、鹿島は1点差に追い上げられてしまう。エヴェラウドがいなかったことでニアのストーンが超えられやすくなり、また西のマークに付いていたレオ・シルバがあっさりと西を離してしまったことで、簡単にボールに触らせてしまったのが、鹿島としては痛かった。

劣勢から盛り返したエヴェラウドの存在

高い位置でボールを奪う機会が減り、押し込まれていく鹿島。そんな中で状況を変えたのは68分の選手交代だった。

68分、鹿島は上田に代えてエヴェラウドを投入。結果的にエヴェラウドは今節シュートシーンにこそ絡む機会は少なかったが、彼の登場は鹿島にとって試合の流れを大きく変えてくれることになる。

鹿島にとって良かったのはボールの収めどころが出来たことだ。エヴェラウド登場までの鹿島は、カウンターで一気にゴールに迫るか、守備で耐え忍ぶかの二局面しかなく、自分たちがボールを持って落ち着く機会が極端に少なかった。それをエヴェラウドが入ったことで、カウンターだけでなく迷ったらとりあえずエヴェラウドに入れる、ということを徹底したことで彼のところでボールを落ち着かせることが出来るようになり、また彼もそうした期待に応えてくれたことで、鹿島はボール保持の時間を増やして、劣勢から徐々に盛り返していった。

その流れを引き戻した中でダメ押し点が奪えたことも大きかった。78分、鹿島はボール保持から犬飼智也が裏へとボールを送ると、そのルーズボールをアラーノが収め、最後はアラーノからボールを引き取った土居聖真が左足でシュートを決めて、3点目。これで試合は決まったといっていいだろう。

結局、3-1で試合終了。鹿島は連敗を阻止。ノエビアスタジアム神戸でのリーグ戦6連勝となった。

まとめ

相手の攻め筋を素早く見抜き、適切な対応策を打って自分たちのペースに持ち込んだ。そうした意味では快勝と言える試合だろう。連戦でコンディションが難しい中、自分たちが意図したように試合を進めることで、必要以上に消耗することもなかった。その点は前節の課題を改善することにもなった。

やはり、今の鹿島で一番大事なのは前線からの守備がどこまでハマるかという点だろう。この点が思うようにいけば試合を自分たちのものに出来るし、逆にいかなければ試合は苦しくなり、ガス欠が目立つようになってしまう。この点だけに頼らないようなチームを作っていくのと同時に、どんな相手にもプレスがハマるような完成度を目指していくのが、今後のチームの目標となるだろう。

次節は再び中2日での試合だ。今の順位からさらに上を目指していくにはもう落とすことは許されない。今節で掴みかけた良い流れを確実なものとしたいところだ。

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