見出し画像

筑波大学に着任します(1日ぶり2度目)

はじめに

タイトルどおりですが、4/3に辞令の交付があり、4/1付けで筑波大学 図書館情報メディア系 助教に着任しました。(ちなみに、4/3はクラスターの出社初日でもあるので、辞令の交付については連絡をいただいて実際に出席はしていないです)。3/31に筑波大を退職してacadexitするというエントリを書いてあれだけバズらせておいて、4/1にまた筑波大に着任するなんて詐欺じゃないか!だまされた!と思われると思いますが、これには深い訳がありますので順に説明させてください。

ちなみに、本エントリは前エントリである退職エントリを前提にしている部分が多々あるので、もし未読の場合はそちらを読んでから読んでいただくことをおすすめいたします。(そうじゃないと意味がわからない部分が出てくるかと思います。)

いったいどういうことなのか

察しの良い方はお気付きかと思いますが、クラスター メタバース研究所と筑波大学のクロスアポイントメントになります。クロスアポイントメントとはなんぞや、という方は経産省の説明あたりを読んでみてください。まぁ簡単に言うと、大学と民間企業の兼業では、民間企業の研究者が大学の客員研究員(非常勤)を務めたり、大学教員が民間企業の研究顧問(非常勤)を務めたり、といった、主従がはっきりした形でしか認められてこなかったところ、大学と民間企業、どちらでも常勤のポストで働けるような仕組みを作ろう、ということで整備された制度になります。もちろん人間の体力には限界があり、どちらもフルタイム分の役割を課されてしまうと過労死してしまいますので、労働力の割り振りについては話し合いの上でその割合を決定します。

クロスアポイントメントに至った経緯

これも一言でいうと、筑波大学とクラスターのご厚意ということになります。そもそも、クラスターへの転職が決まった際に、僕の研究室ではM1が1名、修士課程に進学するB4が6名いる状況であり、また外部研究室から修士課程に進学してくるB4の1名も合わせると、8名の学生の指導について先行きが不透明な状況でした。
正直言って、これだけは転職にあたって非常にネックになっていたところで、なんとか学生さんの不利益にならない形で他の先生に指導を引き継ぐか、もし学生さんが希望するなら僕がなんらかの形で修士の修了まで指導を継続できるようにしようと決意を固めていました。また、この件について転職面接時に研究所長(CEO)と相談をさせていただいたところ、研究所所属の名前で論文が出る研究活動になるでしょうから、研究所の業務としてやってもらって大丈夫ですよ、という非常にありがたいお言葉もいただいていたこともこの決断を後押ししていました。
ということで、上記のような旨の話を系長(退職エントリでも述べたように筑波大は教教分離ですので、教員関連の相談は所属している系が管轄です)にご相談したところ、「学生さんの指導を担当する職務について、クロスアポイントメント制度で担当しませんか」という非常にありがたいお話をいただきました。

もちろんそこで、それはいいですねやりましょう、とあっさり採用できるほどクロスアポイントメント制度は簡単なものではなく、図書館情報メディア系にもクラスター社にもたくさんのご協力をいただいて、諸方面の承認をいただいた上でやっと4/1からこのような形で働ける、という状況です。その意味では、突然クロスアポイントメント制度で働きたいです!と言い出してOKを出していただいた上に、制度整備までしていただいたクラスター社には本当に感謝です。

どのような働き方になるのか

具体的には、クラスター メタバース研究所と筑波大学のエフォート比率が8:2になります。そのため、軸足を置くのはメタバース研究所で、僕自身の研究拠点も五反田にあるメタバース研究所のラボに置きます。一方で、筑波大の学生の研究指導を担当する助教としての身分も当然残っているので、筑波大の研究室も残ります。とはいえ、2拠点に研究設備を分散させてしまうと研究効率が落ちてしまうので、学生さんの移動負担等も考えながら、研究の実施において一番効率が上がる形で徐々に五反田のラボに研究拠点を集約していければよいかな、とは考えています。

また余談として、後任の先生が見つかるまでは、僕が担当していた講義を非常勤講師でお引き受けする話になっていました。ところが、クロスアポイントメント制度で助教になってしまったので、教員がその大学の非常勤講師を務めることは制度上できないために、1年目だけは業務に講義担当が加わることになっています。

予想されるご意見への言い訳

Acadexitしてないじゃないか!

はい、もちろん正確に言うとそうなんですが、エフォート比率から見てほとんどアカデミアは辞めているに等しく、個人的にはacadexitしたと思っているということでここはひとつお認めいただけると…。

といっても認めていただけない人のためにもうひとつ材料を提供しますと、退職エントリで書いたように僕はテニュアトラック助教だったのですが、今回は任期付助教、しかも修士課程の学生さんが修了する2年間の任期での採用で、その後の更新については一切保証されていません。(ちなみに担当するのはいま配属が決まっている学生さんのみで、新しい学生さんについては一切受け入れません。)
普通に考えると、学生の指導が助教としての身分を持っている第一の要因なので、学生さんが全員修了すればそこでクロスアポイントメントも終了、というのが妥当だと思いますので、その意味でも僕はacadexitしていると思っています。

なんで1回退職して着任なんてややこしいことしたの?

テニュアトラック助教から任期付助教に転換しての採用になるため、一度退職してから再度雇用される必要があったためです。なのでバーチャル退職などではなく、きちんと退職、着任の手続きを踏んでいます。

退職エントリ書いた時点でなんでこのこと隠してたの?

隠していたのではなく言えなかったのです。これはアカデミアにおける決め事(紳士協定?)なのですが、「辞令交付まで着任についての情報をパブリックに公表してはいけない」と言われています。今年は4/1が土曜日でイレギュラーだったので、本来は4/3に辞令交付があるであろう人も4/1に着任についての情報をパブリックに報告されている例がけっこうありましたが、僕はこれまで接してきた人生経験豊富な先生方はみなさん辞令交付までは言ってはいけないよ、とおっしゃっていたので、僕は辞令交付があるタイミングまでは言わないようにしています。(なのでこのエントリも4/1ではなく、4/3に書いています。)

まぁもちろん、こんなにバズるとは思っていなかったので、多少ウケを狙っていた部分があったのは否定しませんが、一切ウソは書かないように気を配って書きましたので、そのあたりは読み返していただけますと。(例えば、「テニュアトラック助教を退職します」とは書いてますが、「助教を退職します」とは書いていないです。)

退職エントリの追記

正直、こんなにバズるとは思っておらず、ちょっと困惑した部分もあったのですが、みなさんがいろんなことを議論するきっかけとなれたようで、その意味では書いた価値があったのかなと思っています。
(あと深い意味も考えず設けた投げ銭だったのですが、たくさんの人が購入してくださっていてありがとうございます。引っ越しやらが重なり金欠だったのでありがたいです。)

まぁネット上に記事を書き、それをSNSで拡散するということは、さまざまな意見を浴びること自体は覚悟の上なのですが、それでも自分のパーソナリティを違った形で捉えられてしまうのは悲しいのと、誤解が生じているところがあるなと思ったところもあったので、その点についてはいくつか追記しておきたいと思います。

僕の年収は転職しても2倍になりません

これはミスリーディングだったのですが、あくまでも「Big Techやユニコーンベンチャーにいった同期の年収」が僕の現在の年収の2倍なのであって、僕の年収はクラスターに転職しても2倍にはなりません。(ベンチャー界隈の給与事情を知っている方であれば察しはつくかと思います。)
もちろん、さすがに下がるということはありませんので、1倍以上2倍未満であると思っていてください。

僕は学生さんと研究するのが大好きですし、教育に本気で取り組んでました

大人気ないことはわかってるんですが、これは僕としてすごく大事にしている部分なのに誤解された意見が書かれていたのが悲しかったし悔しかったので反論したいと思います。
まず、僕は1人で研究するよりも学生さんと研究する方が好きです。そもそも、そうじゃない人間は「議論できないからつらい」とかいう話はあまり言い出さないと思います。また、学生さんにはさまざまなタイプがいて、型にはまった指導というのはないのですが、それでも真摯に向き合い続けるとふとしたきっかけで成長して成果を発揮してくれる、という瞬間を何回も見てきました。こういう瞬間があるからこそ、教員生活を続けていこうと思えていたのだと思います。
また、これは阪大時代の研究室の教授の受け売りも入っているのですが、学生さんの研究室における活動というのは、これからの社会での飛躍における滑走路での加速にあたると僕は考えていました。なので、ここでどれくらい加速させてあげられるかが学生さんの人生を左右すると思っており、サーベイ・研究能力についても、論文執筆・プレゼン能力についても可能な限り引き上げようと本気で努力していました。
僕はあまりこういうマウンティング的なことを書くのは好きではないのですが、実際に2022年度の研究室の卒論生6人中、卒論の研究成果を評価されて、1人が情報学群長賞(他大学でいう学部長賞)、1人が校友会江崎賞(これも全学表彰)、1人が学類長賞(他大学でいう学科長賞)を受賞しました。また、卒論生と研究協力学生に関連する論文は国際会議論文(ポスター・デモ)が3本、国内会議論文が5本と、PIが1人の研究室としては十二分の成果を挙げていたと思います。ここからも僕が研究室での教育に本気で取り組んでいたことがわかっていただけるかと思います。

また、講義についてですが、こちらについても僕は人にものを教えるのが好きなので、けっこう本気でやっていました。大学教員の方であればわかると思いますが、講義というのは手を抜こうと思えば教科書をそのままパワーポイントに起こしてしまうなど、いくらでもやりようがあったりするのですが、僕は最先端の研究を知っている教員が講義を担当する以上、基礎的な内容からそれに基づいた学会発表の研究まで紹介して、できるだけ興味を抱いてもらうような講義構成にしたいと思い、あまり教科書ベースのような内容にはならない講義資料を作って講義をしていました。(そのために講義前日は徹夜の連続でしたが…)
また、学部の講義はZoom開講だったので、CommentScreenを採用し、学生さんからの質問についてリアルタイムで回答することでインタラクティブ性を確保することで、こちらもできるだけ興味をもってもらえるように意識して講義をするようにしていました。このように、がんばった甲斐もあってか、幸い授業評価アンケートや、僕が口頭で学生さんに聞いたところでは評判は上々だったようです。

ということで、僕はアカデミアを離れますが、学生さんと研究するのは大好きですし、メタバース研究所でも学生インターンさんを受け入れて、チームを作ってある面では教育、指導をしていきながら研究を進めていきたいと思っています。

「雑用」について

あまり深く考えず「雑用」という言葉を使ってしまい、それが僕の言いたかった主題とは違ったところで話題になってしまっているので少ししまったなぁと思っています。
ここで、「雑用」について少し整理しておきたいと思います。
まず、僕は決して教育業務や運営業務一般を「雑用」だとは思っていません。そもそも、それらの大事さをわかっているからこそなので、教育業務や運営業務をやっているから給料をもらえている、と書いているわけですので。ただ、特に運営業務には真の意味での「雑用」、つまりバイトを雇ったり、アウトソーシングしたりでできることが含まれていることが多いです。よく話題になる大学入試共通テストで寒空の下入口に立ち続ける警備業務などはその最たる例でしょうか。このあたりは同僚の金森先生のTweetがまさにその通りということをおっしゃっていたのでここで引用させていただきます。

ただ、僕が退職エントリで使った「雑用」という言葉の意味は上の「雑用」の意味ではなかったです。その意味では言葉選びがよくなかったですね、すみません。僕は「雑用」という言葉を「研究・教育に関連しない活動」という意味で使っていました。ただ、このような活動というのは減らす努力をしていかないと単調に増加を続けていく傾向にあると(個人的な意見ですが)思いますので、あえて悪しき言葉遣いをしてまでも合理化していかないと、研究時間の確保はおぼつかず、僕のような羽目に陥ると思います。

PIについて

僕がPIになることを強いられて苦境に陥って退職した、といった受け取り方をしている人が結構いらっしゃったように見受けられたので、その点も補足しておきたいと思います。
まず、僕はテニュアトラック助教の着任時に自分から希望してPIになっています。理由は主として自分の専門と近い先生が分野内にいらっしゃらなかったというところが大きかったでしょうか。そして、若手がPIになることにはさまざまなメリットデメリットがあるかと思いますが、筑波大学 図書館情報メディア系については、PIになってもよいしならなくてもよいという形で、どのような形での運営でも系として支援してくださる体制が整っていました。
また、本筋からは逸れますが、筑波大については、ITF助教という制度が始まっており、年50万円の研究費が出るなど、PIとして厳しい状況をなんとかしようと工夫した制度になっていると感じました。僕の後任人事もITF助教制度として公募がかかっていますので、もしアカデミアを考えていらっしゃる方がいればご検討ください。(テニュアトラック助教への昇任もあります。)
https://jrecin.jst.go.jp/seek/SeekJorDetail?fn=3&id=D123020671&ln_jor=0

おわりに

ということで茶番感が漂う感じですが、幸いなことに、クロスアポイントメントという珍しい形態で、学生さんとの研究活動に携わりつつも、企業研究所で研究活動に専念できる体制をスタートできることになりました。これも周囲の方々のサポートあってのことで本当に感謝しています。
僕が尊敬してやまない東大の川原先生がTweetされていましたが、もっとアカデミアと民間の間で研究者が行き来できるような未来が理想だと思いますし、その垣根を無くしていけるようにがんばっていきたいと思います。学会などで見かけた際はどうぞよろしくお願いいたします!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?