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薄い本


前にも書いたけど、基本的には嫌いなんですよ、まとめサイト。
編集が恣意的だから。

「マンガ図書館Zで公開されていた『この女に賭けろ』が無断転載だった件のまとめ」を読んで、またやるせない気分になったのです。

まず著者に無断で、それから著者になりすまして、アップロードする人が悪いのです。

でもそれを誰も止められない。

またそういう人が出てくるだろうという推測は「マンガ図書館Z」の中の人達にも容易に想像できたはずです。でもまず違法アップロードの拡散を止めたいという赤松健さんの思いが、先走ってしまったのかもしれない。

Youtubeなどを見てもそういう状態。
お金が絡むこととなると、ことはなかなか簡単ではありません。

とはいえボクは赤松健さんがマンガを描きながら行っている現在進行形の戦いには、敬意を表しております。

まずは、ありがとうございますと申し上げます。

またそれとは別に、問題があれば個別にも問題に対応してらっしゃるというのだから、なおさら頭がさがります。

スキャンレーションに対抗する完璧な手段はありません。
たとえ一枚一枚に透かしを入れても、悪人は透かしを晒したまま拡散するでしょう。

昨晩風呂に入りながらこんなことをつぶやきました。

「本という体裁を3Dスキャナで作り上げても、中身は作れない。が、本という体裁をバラバラにするとあっという間に中身のコピーが出来上がる。結局紙の本の優位は、ただ本という体裁にあるのだ。」

小説の師匠で友人でもある津原泰水からは、文庫が悪いとは言わないけれど、早く四六版や単行本の世界にいらっしゃいと常々言われています。

ボクらはまだユーザーフレンドリーでありたいし、書く内容も装幀に耐えませんよと遠慮を申し上げているのですが、これらの問題をつき合わせて考えると、やはり師匠が文章の次か同じくらい腐心している「装幀」に突き当たってしまうのです。

装幀を英語でformatっていうのかなぁと思って調べてみたら、確かにヒットしたので、先に進めます。

formatというのは「ある規則に則って」と考えることが出来ます。規則通りにやれば誰にでも作れるわけだから効率的だし、模倣がしやすいのです。

マンガで単行本というと、小説で言えば文庫に近いもの。文庫というのは安いし小さくて持ち運びにも便利です。

しかも内容はマンガであれば雑誌の、小説であれば単行本からのお下がりであることがほとんどです。書き下ろしは除くけれど、大抵はあとがきや、細かな直しなどはあっても、外側にはソフトカバーがかかって、基本的にはハードカバーであることはありえません。

廉価版なのです。

本というものはヒットすればするほどたくさん市場にばらまかれ、同じフォーマットの本を持つ人の数が増えます。

すると中古市場に溢れだし、その価格は1円にまで下がります。小さいがゆえに送料も250円で賄え、電子書籍よりも安く買えてしまうのです。

電子書籍には電子書籍なりの便利さがあって、それも否定はしません。
ボクも何冊も買っています。

またたくさん市場に流れているということは、一冊一冊の稀少価値も自ずと少なくなります。50年〜100年と所蔵していれば別ですが…所有者がその本にそういう思い出を見いだせなければ、容易に捨ててしまうか分解することが可能です。

分解された本は、文字の書かれたペラい紙になり、容易にスキャンできるようになります。

結論を言えば、スキャンレーションに晒されにくするためには「分解されにくい厚くて装幀に凝った所有欲を高める本」を作るしかありません。

例えばあなたが5000円払って買った豪華な装幀の本を「ちょうだい?」って言われたらどうします?「スキャンしたいから分解させて」って言われたらどうします?

普通は断るだろう。

つまりはそういうことです。

所有者が内容も含めたその装幀の本を大事にしたいと思いたくなるような本をアナログ的に作らなければ、容易にデジタルハックされてしまうのです。

つまりボクらは自虐的に同人誌のことを「薄い本」と言っているのだけれど、これは別の言い方をすれば「容易にスキャンされやすい本」を作っているということに他ならないのです。

よほど装幀に凝っていれば、その本を二冊持っていなければ分解しょうとは思わないだろうし、たとえスキャンしても、例えばこんな同人誌は再現できないのです。

3Dスキャンするのもかなり面倒そうですよね。

愛着の湧く本を作らなければ、流通のために印刷というコピー技術を作って作られている以上、デジタル技術を使った複製は容易いのです。
ボクらも仕事上ではその恩恵に預かっています。

動画にしたってDRMを解除しなくてもCPUの性能が上がりHDDの容量が増え安価に増設される時代においては、画面キャプチャでも再現できるし、そもそもハッカーに白も黒もなく、デジタル技術の出処は同じです。防ぐことができれば破ることができる。ただそれだけです。

それに抗うには残念ながら「購買者の所有欲」や「好意」に期待するしかなく、ボクらはそれに応えるための本を作っていかなければならない。

もしくは「そんな高い本なら買えない」とそっぽを向かれるか…

もちろん他に手立てがないわけではありません。

ただファンサブやスキャンレーションに携わる人々たちが手弁当もしくは低賃金でそれを行っている以上、こちらもそれに手弁当で対抗せねばならないことになり、それを企業が行うとブラック化してしまうのです。

具体的には、印刷される前に「英語」「中国語」「スペイン語」に翻訳して、正規版と同時に、彼らにとってリーズナブルな金額で配信することです。

でも、そんな売れるか売れないか分からないことにつきあってくれる出版社や放送局、映画配信会社はいるでしょうか?

同人誌ともなれば、なおさらです。



企業が行えないならボランティアの出番ですが、そんな志願兵は…

ボクの知る限りその志願兵は「マンガ図書館Z」しか見当たらないのが現状なのです。

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