契約が途中で解除された場合に、報酬は請求できるのか?
契約は事前の交渉や締結によって始まりますが、この時点で契約の「解除」について考える人は少ないです。それも当然で、せっかくの契約成立を喜ぶべきときに、わざわざ契約の終了を心配するとは、興ざめですよね。しかしリスク予防の観点からいえば、降らぬ日の傘のごとく冷静な見通しも、また必要です。具体例として今回は、契約が途中で解除されても、売主が報酬を請求できるという法的根拠についてまとめます。
請負・準委任で特に問題となる
契約類型によっても事情は異なりますから、まず単純な「売買契約」を考えます。売買では、商品がお客さんの手に渡ることで、一応、履行の完了が明白になりますから、契約が途中で解約されることによる報酬請求権の問題を生じにくいです。もちろん、「契約不適合責任」の問題は残りますが、それはまた別に検討すべき部分です。
一方で、業務委託契約のように比較的長期間継続する性質の契約(請負や準委任)は、その契約の履行に時間軸がうまれるため、「途中」解約という状況が頻繁に生じます。建築やデザイン制作、システム開発といった業務がイメージしやすいと思うのですが、こうした、履行に一定の期間を要する契約の場合、契約途中で解除された場合に報酬がどうなるのかという紛争が起きやすいです。
民法634条/民法648条による割合的報酬請求権
民法には報酬請求権として以下の規定があります。
民法634条
つまり中途解約された「請負契約」においても報酬が請求できる場合がある、という規定です。その場合とは、条文通りですが、注文者に帰責事由なく仕事を完成できなくなったときと、仕事の完成前に請負契約が解除されたときであり、この場合において、仕事に完成した可分な「部分」があり、それによって注文者が「利益」を受けているときは、をの利益の割合に応じた報酬を請求できます。
たとえばシステム開発を受託した会社が、予定された工程の8割程度の時点で契約が解除されたが、システムは一部の機能を除けば問題なく利用することができる、といったシチュエーションに当てはめられると思います。請負契約の性質は「仕事の完成を約する」ことであって、逆にいえば「仕事が完成」しなければ報酬は請求できないのが原則です。しかし、この原則を一律に適用するとビジネスの実情にそぐわないため、634条によって既履行部分の報酬請求権を規定したものです。結論として、民法上、請負契約の部分的な仕事の完成であっても、その分の報酬は請求できる場合がある、という根拠がうまれます。
割合的な報酬請求は民法上認められている
準委任の方は、旧民法時代から既履行の割合に応じた報酬請求権は認められていましたし、新民法でも、委任契約が途中で終了したときは「履行の割合に応じて」その報酬を請求できることとされています。
民法648条
ということはようするに民法上は、請負でも準委任でも、「注文者が受ける利益の割合(民634条)」や「既にした履行の割合(民348条③)」に応じた報酬が請求できるといえます。途中で解除された業務委託契約において、部分的に報酬が請求できることには、民法上の根拠がある。これが今回の結論ですね。
契約による当てはめが必要
民法のこれらの規定は、たしかに合理的なルールです。ただし問題は、こうした法律の抽象的なルールをどう現実のビジネスに当てはめられるかです。なぜなら「注文者が受ける利益の割合(民634条)」や「既にした履行の割合(民348条③)」が、具体的にはどのように計算されるのかは決められていないからです。
たとえば6カ月間の予定だった契約が、半分の3か月目で解除されたときに、報酬も単純に「半分」でいい、と思えるでしょうか? たしかにそういう場合もあるかもしれませんが、現実にはそう単純には割り切れないと思います。具体的な役務の内容や性質によって、割合は違うはずだからです。民法は、報酬が請求できるとジャッジしてくれましたが、その具体的な計算方法までは定かではありません。よって、実際には事後に当事者が話し合って報酬を決めるか、あるいは、契約書で「中途解除された場合の報酬」について、詳しく定めておくかする必要があります。
理想をいえば、「日数ごとに細かく決められたホテルの宿泊キャンセル料」のように、時期別の報酬計算方法まで契約書で規定することですが、実際にそこまで明確に決める例は少ないです。たとえば以下は、中央建設業審議会の「民間建設工事標準請負契約約款(乙)」(=個人住宅建築等の民間小規模工事の請負契約についての標準約款)という契約書から引用した条文ですが、契約が解除された場合の措置として、出来形部分等を発注者が引き受けた上で、「受ける利益の割合」に応じて請負代金を支払う、と書いてあります。
そもそも、委託された業務の工程が有機的、連続的なものであって「可分」とはいいがたい場合もあるでしょうし、また、「注文者の受ける利益」という概念も、何がどうなっていたら「注文者に利益」があるのか、それはどれくらいなのか、などが、必ずしも金銭的に評価できるとは限りません。建築工事や、受託開発されるシステムなどが、完成前にもなんらかの価値は有しているには違いないとしても、とはいえ、やはり完成はしていない以上、注文者がどの程度の(経済的)利益を得たかを厳密にはかるのは困難でしょう。
どのタイミングで契約を解除されても、完璧に報酬の割合が計算できるような、合理的基準をつくるのは非常に難しいですが、とはいえ売主は、もし契約が途中で解除されたとしても、まったくの無報酬や、報酬の割合で揉め続けて長期間にわたり報酬がもらえないといった事態を避けるべく、なにかしら割合的報酬の基準となる規定をいれておきたいものです。
損害賠償でカバーできるか
では、売主は、実際に契約が中途解除され、報酬について当事者間の主張が食い違って、折り合いがつかない場合はどうなるのでしょうか? 法的にいうと、請負契約では、仕事の完成前に注文者が契約を解除する場合、注文者は損害を賠償するものとされており(民641条)、委任契約においても、委任者が相手方に不利な時期に委任を解除したときや、委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したときは、やむを得ない事由があった場合を除き、相手方の損害を賠償しなければならないとされています(民651条)。つまり、請負にせよ準委任にせよ、発注者側(注文者/委任者)からの中途解除には一定の損害賠償の義務が定められていることになります。もし、割合的報酬請求が認められず、認められないことについて納得がいかない、協議をしても調わない、といったときは、報酬としてではなく解除によって被った損害の賠償というかたちで、カバーすることになります。そこで念のため売主は、契約書上、こうした損害賠償が封じられていないか(解除による損害賠償を買主が免責する規定がないか)を確認しておくべきといえるでしょう。
まとめ
以上をまとめると、中途解除された契約の報酬請求リスクについて、業務委託契約の提供者(受注者/受任者)側は、次の点で契約書のチェックをすべきことになります。
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