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場面に合った正しい契約書をサクッと作る方法

今日は場面に合った正しい契約書を、深い専門知識がなくてもサクッと作れる方法を解説します。軽いタイトルになっていますが、僕の18年の契約実務の経験を詰め込んでまじめに説明しますので参考になさってください。

【結論】 テンプレートを使う

当然ですが、テンプレート(ひな形)を使う必要があります。契約書の作成スピードを上げるにはある程度できあがっているものを修正するのが、一番早いからです。注意点としてはテンプレートにひきずられて、不要な条文を残さないこと。そして、そもそも良いテンプレートを選ぶことです。

テンプレートの例(画像)

契約書のテンプレートというのはたとえば以下のようなものです。

フリーランス契約書サンプル画像

テンプレートの例の解説

このテンプレートは、令和3年3月26日に策定され、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名で公開された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」という資料に掲載されているものです。

シンプルで、必ずしも「第○条・・・」などと書かなくても、契約書として立派に通用するということがわかります。

ガイドラインへのリンクも貼っておきます。

シチュエーションに合ったテンプレートを選ぶことが重要

テンプレートは、自分の作成したい場面(状況や契約内容)にできるだけ近いものを選ぶ必要があります。逆に、作成したいものにそぐわないテンプレートを使ってしまうとあとで修正が大変です。そこで、時間をかけて丁寧に探すようにしてください。

といっても、今やテンプレートはネットで検索すればたいていみつかります。検索のコツは、目指す契約の類型を知っておくことくらいです。基本的に、外部に仕事をしてもらうときは「業務委託契約書」、販売するときは「売買契約書」、不動産やものを貸し出すときは「賃貸借契約書」など、状況にあった言葉で検索すると効率的です。

あるいは社内の過去の取引で使った契約書など、すでに持っているテンプレートがある場合はそれを使いますが、テンプレートは複数用意したほうが、よりシチュエーションに合う条文をみつけやすいので、少なくとも3パターンくらいは探しておくべきだと思います。

【前提】 分厚い契約書が良いとは限らない

作成に取りかかる前に知っておきたいことですが、テンプレートを探すとき、複雑で長文の契約書の方がなんとなく参考になりそうな気がしてしまうものです。しかし契約書は実態に沿っていないと意味がありませんし、多すぎる条文はかえってじゃまになるものです。

せっかく話がうまくいっていたのに、誰かが余計なひとことを言ってしまったせいで、険悪な雰囲気になってしまった、なんていう経験はありませんか? 契約書にもこれはあてはまります。

僕も以前は、難しい契約書のほうが高度で正しいと思っていたことがありましたが、実際に取引に利用してみるとシンプルで要点をおさえた契約書のほうが、使い勝手が良いし、余計なリスクを負わなくてすむものです。必要以上に複雑、難解な契約書はデメリットもあるので気を付けてください。

【準備】 先に大事な4点を確認しておく

さてここから作成に入るのですが、いきなり書くのではなく、先に契約の要点をあつめておけば効率的です。

関係者へのヒアリングが必要なら済ませてしまい、事前に必ず情報を整理しておいてください。具体的にはどんな情報をあつめたらよいのでしょうか? どんな契約書であれ、次の4つの要点を先に確認しておきましょう。

契約書の4つの要点を確認しておこう
①当事者の表示を確認する(誰と誰との契約なのか。正確な社名、肩書、氏名、住所が必要。)
②お金の流れを確認する(金額と消費税、支払方法、振込先、支払条件、計算方法、日割りなどの必要があるか、振込手数料の負担、その他の経費の負担等。)
③商品やサービスの概要を確認する(債務、なにをやらなければならないのか、目的物の名称や仕様などの明確な定義、具体的に商品はなにか、サービスはなにか、業務の具体的内容、その仕様や検査基準等。とにかく根拠資料をそろえて正確に。)
④特約や権利帰属の問題がもしあれば確認する(著作権などの権利処理がからむ契約の場合は、その帰属を確認する。)

上記は、どれもあたりまえのことのようでいて、意外にも、たいていの方が聞いても即座には答えられなかったり、「まだ迷っている」などといって決めかねたりしていることが多いです。

また、これらの情報は契約書の骨格ともいえる重要事項です。先にこれらの4点を確認しておくことは、飛躍的に作成スピードを高めてくれます。箇条書きでかまわないのでメモにまとめるなど、ぜひ面倒がらずに試してみてください。

【方法】 テンプレートに名前などを書き加える

いよいよ準備していたテンプレートをつかい、前述の4つの要点を見ながら契約書に文字を埋めていきます。当事者の名前や商品、サービスの定義を書き換え、日付を入れ、他にも金額や支払先などの任意の項目を加筆すれば、一応は契約書のかたちになるはずです。

わかるところから書く

このように、いったん簡単なところを埋めてひとまず契約書のかたちにもっていくのがコツです。最初から条文を検討しようとか、第一条、第二条・・・と順番に考えていくと時間がかかるし、なにより作成が億劫になります。テストに例えると、第一問から解くのではなく、解きやすい問題から先に解いてひととおり問題を全部読み終えてみる、あの感じです。

不要な条文を削除する

任意の項目を埋めたら、この時点で明らかに不要な条文があれば削除します。不要な条文とは、実際にこれから締結する契約の内容に無いものです。契約書には、一般的に共通して記載される条項(一般条項)があります。

「一般条項」の例は、目的(何のための契約か)条項、契約期間、商品やサービスなど契約の目的物に関する条項、契約金額や支払に関する条項、納期、秘密保持、損害賠償、知的財産権、解除、準拠法や管轄裁判所、協議条項などがあります。

一般条項を削除することはあまりありませんが、その他の特約などでその契約に特有の事項は、意図する内容とは違うことが多いので、どんどん削除していきます。たとえばたたき台に利用したテンプレート(ひな形)に、「委託業務を実施する際に、当事者間の会議を毎月○日に開催する」とか、特定の目的で委員会を設置して「○○委員会を定期的に招集する」とされている場合で、そのような会議や委員会設置の予定がないのであれば、この規定は削除できます。

【修正】 条文番号を打ちなおす

ここまできたら、いったん条文番号を打ち直しましょう。テンプレート(ひな形)にあらかじめふってある条文番号(第一条、第二条・・・)が、削除や追加などによって、ズレている可能性があるためです。

「あたりまえ」を見直す

また、条文番号を変えることによって、条文中で引用されいてる条文番号(たとえば、「第○条の規定により・・・」などとなっている場合の、その条文数)も、ズレている可能性が高いですので、入念にチェックします。

これもあたりまえのようでいてミスしやすいポイントです。契約書はこうした基本的な部分で一か所でも間違いがあると、書面全体の信頼性がおびやかされますので、本当に気を付けたい部分です。

【改善】 さらにこだわってみる

これで契約書そのものは形になっており、そのまま締結してもできなくはない、というレベルに達していると思います。しかし、問題はここからです。大まかに形がととのったこの段階で、条文を細かく検討していきます。

3つの視点でこだわる

こだわりかたですが3つの視点に分けて考えましょう。

契約書のこだわりかた 3つの視点
①そもそも事実に合っているか?
②不利な記載がないか?
③実現可能か?

①そもそも事実に合っているのか? たとえば当事者の名前や肩書にしても、表記が間違っている可能性があります。支払の条項については金額が間違っていたり、期日や計算方法が違っていたり、振込先が間違っていることもあります。まずはそうした「事実との相違」に着目して、入念にチェックします。

また、実際には取り決めていない契約条件がまぎれていないかも確認します。当然ながらテンプレートに書いてあるからといって、必ずしもそのとおりの条件で契約されるとは限りません。

次に、②不利な記載がないか? です。これもテンプレートの落とし穴ですが、条文内容がわずかに自社に不利に規定されていることがあります。たとえばあなたが「売主」なら、次の点に気を付けて見直してみましょう。(「売主」が不利になりやすいポイントです。)

売主が着目すべき改善ポイント
・支払条項=支払期日は適切か(経理上の事情と合っているか)、消費税が表示されているか、振込手数料は相手方負担か、支払遅延の場合の遅延損害金を設定したか。
・解除条項=相手方がみだりに解除できる内容でないか。
・損害賠償条項=損害賠償の範囲を限定、あるいは賠償額の上限を定めたか。
・契約不適合責任条項=追完方法は適切か、請求期間を合理的な範囲で定めているか、契約不適合の判断基準は明確か。
・秘密保持義務条項=秘密情報を相手方に提供するか、する場合は相手方に十分な秘密保持義務を負わせる内容になっているか。相手方から秘密情報の提供を受ける場合は、秘密情報を具体的に特定できる内容になっているか。
・知的財産権条項=納入する目的物に著作権が含まれる場合、その対価を盛り込んでいるか、また、著作権の譲渡や著作物の利用許諾などの権利帰属問題が明確にわかるよう記載されているか。
・合意管轄条項=合意管轄裁判所は自社の近くにしたか。

そして最後に③実現可能か? です。たとえば自社ばかりを有利に規定し過ぎて、相手方への配慮はまったくなく、一方的な規定だけを並べていれば相手方もサインしてくれないでしょう。そこまで極端ではなくても、契約書を提示すれば相手もそれをよく読み、不利だと考えれば修正を要望してきます。もちろん相手方との関係性や立場といった全般的な交渉力の違いによって、どの程度まで自社が有利な条件で契約できるかは決まりますので、一概にいえることではありません。つまり総合的に判断すべきであって、必ずしも有利な契約書が、適切な内容の契約書とはいえません。ビジネス的な都合があれば、妥協も必要です。

あるいはなにかあると「すぐに書面で通知する」とか、「協議して解決する」といった表現が多用される契約書を見かけますが、あえて批判的に読むというか、本当に通知ができるのか、本当に話し合いで解決するのか、というツッコミを入れてみることも必要です。

あたかも契約書に書けばそうなるかのような期待は、もちろんすべきではなく、むしろ紙に書いたことをなかなか実行できないことの方が多いと考えましょう。契約書は目的ではなく手段、いってみればビジネス取引をスムーズに動かしていくための「道具」にすぎません。であれば、誰もが使いやすい「道具」になるよう、シンプルかつ実際に機能する内容を目指すべきです。

【コツ】 ひと晩寝かせよう

僕自身がやっている作成のコツですが、出来上がったと思っても、あえてひと晩放置して、翌日にもう一度見直してみましょう。きっと、なにか新しいミスや修正したい点がみつかるはずです。なぜそうなるかはわかりませんが、作成したてのときはどうしても「客観的な視点」で読むことができないのかもしれません。

誰か別の人にチェックしてもらうのも良い方法ですが、頼める人が常にいるとは限りません。やはり自分であえてしばらく時間をおいて、別の日に再び取り組んでみましょう。僕の場合は、誤字がよくみつかります。どうして最初に気が付かなかったのだろう? ということもよくあるのです。

主語が抜けていることが多い

誤字脱字やミスで多いのは、「主語が抜けてしまう」ことと、「意義と異議」などの漢字の変換の間違いです。契約書では主語は省略せずに書くことを意識しましょう。テンプレートを使えば、必要な条文が抜けることは少ないです(あらかじめ一般的な条文が含まれているため)。逆に不要な条文が残ってしまうリスクの方が大きいと思います。

不要な条文があっても契約書そのものとしては間違いではないので、自分で作成した段階では残してしまいがちです。しかし、相手方のチェックが入った時になぜその条文が必要なのか? が説明できなかったりして焦ることもあります。また、テンプレートはたいてい標準的な内容であり売主、買主のどちらに有利とかではなく、バランス型の内容になっていることが多いです。そのため、自分では意識しない間に、相手にとって有利な内容がわざわざ書かれていたりもします。意図的に、納得の上でそれを残すなら良いのですが、そうでなければ余計な条文になっていないか気を付けましょう。

【本当のはじまり】 相手からの修正要望をおそれない

さてこのような手順でようやく契約書が完成したとしても、相手に提示すると修正要望が返ってくると思います。

苦労してつくった契約書が修正されてしまうのは、あまり気分が良くないかもしれません。しかし、そういうものでもあります。実際僕も作成をお手伝いしていて、修正や追加の要望が来ないことはほとんどありません。それは契約書の完成度が低いとか、間違っているからではなく、こちらが完成させた契約書は、相手からみればまったくの未完成だからです。

たとえば売主が損害賠償を制限しようとするのは当然ですが、買主が損害賠償の範囲を拡大し、金額を上げたがるのもまた当然なのです。

契約書は修正されるものであり、本当の作成はむしろここから「ようやく始まった」と考えるくらいがちょうどいいのです。相手からなにか言ってくるのが普通だと思っておくのが、精神衛生上も好ましいです。

【まとめ】 誰でも契約書は作れる

現代では、テンプレートが豊富に存在するおかげで、誰でも契約書をつくることができます。極端にいえばテンプレートの名前を変えるだけで、契約書のたたき台はできあがります。良いテンプレートは、スキルを補ってくれる大変便利なものです。

しかし、どんなにすぐれたテンプレートがあっても、それに実際に手を加え、仕上げるのは人間です。そして契約書をつくるときに最も必要とされるのは、契約書の専門的な知識ではなく、その取引(ビジネス)そのものへの熱量と実体験なのです。

取引を良く知る人だけが、本当に最適な契約書をつくることができます。どのような文言をなぜ追加しておく必要があるのか、今ある条文をどう解釈して、どのような変更をすればリスクが低くなるのか、・・・など、きわどい判断は契約書の知識だけではとうていまかないきれません。つまり、現場にいらっしゃるあなた自身が持っている経験こそが、契約書を最適にするのです。

これからも主に条文の改善のための知識や、具体的なシチュエーションにあったひな形を更新していきますので、よかったらあなたのビジネスの参考にしてください。

以上、「場面にあった正しい契約書をサクッと作る方法」でした。

追伸

契約書のひな型をまとめています。あなたのビジネスにお役立てください。


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