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出会いは唐突、別れは刹那、思いは一生

2年程前だろうか。

小夏の候、僕は1人でK駅の喫煙所でタバコを吸っていた。
なぜ、K駅に来たのか、なぜ、1人だったのか、今でも覚えていない。時間もわからない。
カレンダーを見返しても、何も書いていない。

だが、これだけは言える。
その日、その時間、何分何秒まで、奇跡だったと今では思う。

金髪、ラッパー並のネックレス、へそ出し、複数のタトュー、派手目の服装、圧倒的な美貌。思わず目の前から消えてしまいそうな身長。
僕の視覚が瞬時に捉え、脳へと伝達された。
瞬く間に僕の視界は、もはや死角もが、その女の子で埋め尽くされた。

これが、当時の彼女、今では元彼女、いわゆる元カノとの出会いとなった。

すると、少し下手くそな日本語で彼女は僕に話しかけてきた。
「すみません、ライター借りていいですか」
1秒後に、周りの雑音に掻き消される程の小さな声で、
「あ、、はい、」
と僕はライターを差し出そうとした。

彼女は、肉厚の唇にタバコを咥えて、僕が手にしているライターを見つめながら、顔をライターの方へ近づけてきた。

彼女が僕に火をつけて欲しいことを、瞬時に察知した僕は、ライターを持っている右手を差し出そうとした時だった。

後に、彼女に聞いたが、
人をあまり信用できないから、手を添えてあげる。
と言っていた。

僕の右手に、小さく、少し冷たい両手で包み込んできた。
僕は火をつけた。
その後、タバコを吸い終わるまで、楽しく、儚い5分間を過ごした。
何を話したか、今は欠片も覚えていない。

だが、その帰り道、インスタで誰かと僕はダイレクトメッセージをしていた。
その夜、彼女の声、顔、香りが常に脳の片隅にこびりついていた。
これが何なのかを解るまではもう少し後のことだ。

そうして、2回目のデートのことだった。
夜、喫茶店に行った後、彼女の家に泊まることになった。
なぜ、そうなったのかはわからない、下心があったのかもしれない、そこは当時の僕にしかわからないことだ。

チャミスル2本と少しのつまみを片手に、彼女の家に入ると彼女の匂いがほのかに感じられた。
彼女はチャミスルが好きらしい。
中学生から日本に来て、7年経つと言っていた。

彼女は、純韓国人で、日本語、英語、韓国語の3ヵ国話せた。さらに、幼少期から歌を人前で歌うことがあり、プロレベルの歌声だった。
彼女の歌声に何度泣きそうになったことか、
また、彫り師を目指して日々刺激のある生活を過ごしていた。

僕にとって彼女は、魅力的で僕に最高の影響を与えてくれる、欠くべからざる存在だった。

寝入りばな、僕は彼女に呟いた。
「出会いは決して良いとは言えんけど、俺は、〇〇のことが好き。」
すると、彼女は目に喜色を浮かべ、まぶたから涙が溢れていた。
その時、僕ははじめて人に対して、彼女の全てを守らなければいけないと感じた。

それからの日々は、言わずもがなだが、至極充実していた。

丁度、1週間が経ち、彼女からの連絡が少なくなっていった。
僕は、心配、不安に陥った。そして、僕は問い掛けた。
すると、彼女は忙しいの一点張りだった。

それから、2.3日後、耐えきれず、彼女に会いに行った。
今思えば、この言動、行動がそもそも間違っていたと気づいた。

案の定、彼女はしばらくは会いたくない、夢に向かって頑張りたいと言った。
その帰り道、彼女からのお別れの連絡が届く。

車の中で、窓を少し開け、涼風が吹き抜けた。
赤信号、携帯を手に取り曲を変えた。

「Shmphony」

迦陵頻伽であった彼女の好きな曲だ。

僕は大粒の涙を零し、思う。

儚さ、寂寞、後悔、

この先、何年経とうが、忘れない、忘れられないだろう。

終幕

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