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1兆円産業の産業用ロボットだって最初は苦労したんだなという当たり前の話。

Impress社のデジタルクロス(Digital X)でロボットに関するコラム連載をさせて頂けることになりました。1回目は「ロボットとは何なのか?」、2回目は「自動化の歴史とこれから」について書きましたので、良ければ是非!

原稿など何かを書くというのは本当に怖いことで、書く前には色々と調べたり、情報を取ったりします。今回の自動化、特に産業用ロボットは自分が生まれる前からあるもので、授業とか、伝聞でしか聞いたことがなく、少し調べてみました。

そうすると、今では1兆円産業である産業用ロボットも、当たり前ですが、最初から1兆円産業だったわけもなく、売上ゼロ円から始まったわけです。しかも、調べて見ると、結構ゼロの期間は長いんですね。基本特許がアメリカで出願されたのが1954年、日本で商品化されたのが1969年、ロボットの普及が始まり「ロボット元年」と呼ばれるのが1980年。今回はその期間に何があったか振り返ってみようと思います。

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日本のロボット出荷台数の推移(引用:NEDOロボット白書2014)

産業用ロボットの誕生

産業用ロボットは、ISOとかJISで一応ちゃんと定義がされているのですが、ここでは小難し話は置いておいて、「工場で使うロボットアームっぽいもの」ということにしておきます。

産業用ロボットが生まれたのは、1950年代のアメリカです。54年にジョージ・チャールズ・デボル・ジュニア氏が、動作を記憶させて、その動きを再生する装置に関する「Programmed Article Transfer」という特許を出願したのが最初だと言われています。

その後、ジョセフ・フレデリック・エンゲルバーガー氏がデボル氏の特許を買い取り、産業用ロボットの会社「ユニメーション(Unimation Inc.)」を1961年に共同で設立しました。今で言う、ロボットベンチャーですね。そして、1962年には世界初の産業用ロボット「ユニメート(Unimate)」が完成。米国ゼネラルモーターがダイキャスト工場に導入しています。エンゲルバーガー先生はロボット界では非常に有名なエンゲルバーガー賞のエンゲルバーガ-さんです。

ちなみに、同じくアメリカのAMF(American Machine and Foundry)社も全く同じ1961年産業用ロボット「バーサトラン」を開発し、翌年商品化しています。まさに1961年が産業用ロボット実用化の年といっても問題なさそうです。

ただし、アメリカでは産業用ロボットの普及は思ったよりも進まなかったようです。ロボットは危険なモノ、仕事を奪うモノなどという印象やそもそも性能が不十分だったなど理由は色々のよう。

日本への進出

そんな産業用ロボットが日本に入ってきたのは、1966年にエンゲルバーガーさんが来日し、東京で講演をされたことがキッカケです。講演には、200名、資料によっては約700名ものロボットに興味を持つ経営者が参加したそうです。(エンゲルバーガ-さんはアメリカでの経験から参加者10人くらいと思っていたのに、参加者が多くビックリされたとのこと)

講演を機に、日本におけるロボット熱も更に高まり、1968年に川崎航空機工業(現在の川崎重工業)がユニメーション社と技術提携契約を締結しました。産業用ロボット「ユニメート」の技術が遂に日本に導入されることになったのです。

翌年1969年には、日本初の国産・産業用ロボット「川崎ユニメート2000型」が誕生しています。このときのユニメートは、重さ1.6トン、大きさ1.6×1.2×1.3m、可搬重量はわずか12kg。それでも価格は1,200万円(当時の初任給が3万円なので、現在の価値にすると約8,000万円)。

このめちゃくちゃ高いロボットに大きな期待を寄せたのが、モータリゼーションの進展により販売台数が急増してた自動車業界でした。現在は少子高齢化で人手が足りていませんが、この当時は経済成長で人手が足りない状況になっていたんですね。当時の自動車製造工場では、既に専用機による工程の自動化が一部されていましたが、専用機なので自動車のモデルチェンジのたびに製造ラインを作り直す時間とコストが問題になっていました。

そして、1973年(資料によっては1971年)、日産自動車、トヨタ自動車のスポット溶接ラインにユニメートが導入されました。1台あたり約4000点のプレス部品をスポット溶接する必要があり、「3K(きつい・汚い・危険)労働」とされていたスポット溶接工程の自動化が進められたのです。

更に、アメリカベースの機体は、大幅に変更されています。5軸だった自由度に6軸目を追加し、可搬重量を12kgから25kgへ強化した実質的初国産のユニメート「2630型」は、1976年に商品化され、各社の工場に大量導入されました。

この頃には川重以外にも不二越などもスポット溶接ロボットに参入しています。

1980年、ロボット元年へ

そして、いよいよ後に「ロボット元年」と呼ばれる1980年を迎えます。1980年代の高度経済成長期、そしてそれに伴う活発な設備投資と労働力不足により、日本のロボット産業は1980年以降の10年間で5000億円産業へと急成長を遂げることになっています。

その後のロボット活用は皆さんご存じの通りです。もちろん、1990年代のバブル崩壊、ITバブル崩壊、リーマンショックなどなど多くの機器に見舞われ、瞬間的に出荷台数は落ち込むものの右肩上がりの成長を続けています。逆に、従来以上に費用対効果が求められ、産業用ロボットの効果を最大限発揮させるための利用シーンを明確化、システムインテグレーション、最近ではIoT化などが推進され、活躍の場、規模ともドンドンと広がっています。

なぜロボット大国になったのか?

もちろん、1980年代というのが技術革新タイミングとしてベストだったということもあるかもしれません。

油圧、空気圧駆動から電気式サーボモータへの転換、そして、DCサーボからACサーボへ。マイクロプロセッサの導入により飛躍的な機能の向上し、制御CPUは8bitから16bitへ。その他にも、SCARA型アームなどの多関節型というロボット構造の変化といったロボット自体の発展。そして、エンコーダ、減速機、軸受け等のセンサや機械要素のパフォーマンス向上、ケーブル実装をはじめ各種の部品実装技術の確立、電子制御系ハードウェアのロバスト性の確立など、周辺要素技術の進化などなどは、間違いなくロボット市場拡大に貢献しているはずです。

これに加えて、ユーザ側がロボットを受入れやすかったという日本の文化的特性があったのではないでしょうか?

ここでいう文化的というのは、鉄腕アトムや鉄人28号のようなアニメなどの影響により、欧米と比べると日本人はロボットと親和性が高かったというような話だけではありません。

先行文献でも指摘されていますが、まずは労働制度という違いです。

アメリカの労働組合は職能別の単能工労働者から成り立っている。アーク溶接ロボットが導入されるとアーク溶接工が職を失う。溶接工労働組合は当然ロボット導入に全組織を挙げて反対運動を始める。日本の企業別労働組合の反応は全く違う。終身雇用制度があるためにロボットによる失業問題の心配はない。アーク溶接ロボットが導入されてみても実は人間の参画を不要にするものではなく、アーク溶接ロボットを使いこなして良好な溶接品質を確保する大事な課題は依然として人間に残されている。危険、きつい、汚い3K労働は不要となりより人間的な作業に集中できるようになる。ロボット導入は大歓迎なのである。

これは確実にあると思います。海外にロボットを持ち込んだときのリアクションを見ても、現在でも存在しているような気がしています。

そして、ロボットを実際に使っている中で出てくる色々な不具合や課題に対して、日本のユーザはメーカと互いに切磋琢磨して問題点を解決していっていたようです。現場レベルで、生産技術者、エンジニアが試行錯誤し、改善していったのだと思います。おそらく、アメリカの場合においては、課題の指摘はユーザからメーカにあっても、一緒に解決していくという風土はなかったはずです。本気で使ってくれるユーザが一緒に課題解決まで推進してくれるほど強いものはありません。現在の経験でも、そういう時ほどロボットの完成度が上がるタイミングはないと思っています。

もしかしたら、自動車産業というタイミングが上手く合ったユーザがいた。それに尽きるのかもしれません。

成長産業であり、人手が足りない産業。ユーザ側も本気で課題を解決したかったので、当時の性能がイマイチであっても、ユーザ側も必死に性能改善に取り組んだ。そして、グローバル競争に晒される中、必要なスペックも明確化されていた。

自動車メーカは1970年代当時に、こうも言っていたようです。

産業用ロボットは機能が貧弱、価格も高価でなかなか導入を正当化できる用途が見つからなかった。

今、サービスロボット業界でも良く聞く言葉です。

技術革新も必要ですが、適切な領域でユーザとメーカが一体となり、一つ一つ試行錯誤しながら解決していくしかないのかもしれません。

参考文献

産業用ロボットの歴史を調べるのに、下記が大変参考になりました。ロボット業界の試行錯誤が丁寧に纏められています。お時間ある方は是非。

産業用ロボット技術発展の系統化調査
http://sts.kahaku.go.jp/diversity/document/system/pdf/012.pdf
ロボット白書2014
https://www.nedo.go.jp/content/100563897.pdf
川崎重工HP
https://robotics.kawasaki.com/ja1/anniversary/history/history_01.html

一方で、一般向けの産業用ロボットの書籍はまだまだ少なく以下くらいかなとも思いました。このあたりは増えてくるといいですね!


では、また来週~。

安藤健@takecando

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