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プロテウス効果は2021年のキー技術になるのでは!?という話。

2021年もよろしくお願いします!今年一発目に何を書こうかと考えたのですが、「プロテウス効果」というものについて。私自身、この言葉を知ったのは、1年くらい前でしょうか。

たとえば、VR空間などにおいて、
・アインシュタインのアバタを使うことで認知課題の解決能力が上がる【論文
・褐色肌のカジュアルなアバタを使ったときには、サラリーマン風のアバタを使う時と比べると、打楽器をよりリズミカルに叩ける【論文
・背の高いアバタを、使うことで交渉において強気になる【論文
という不思議なことが色々な論文で報告されています。

プロテウス効果とは

要は、「アバターとかで見た目が変わると、実際の行動や心の動きが別人のように変わる」ということです。「変身効果」とでも言えるでしょうか。「プロテウス」は、ギリシア神話に出てくる海の神で、変幻自在に姿を変えられる力と予言力を持っているとされています。。

プロテウス効果自体は、2007年にスタンフォード大学のジェレミー・ベイルソン先生のグループにより提案されています。オンラインなどの仮想空間上のアバター(自分の分身となるキャラクター)の見た目が、ユーザーの行動に影響を与えます。

論文:Nick Yee, Jeremy Bailenson, The Proteus Effect: The Effect of Transformed Self-Representation on Behavior, Human Communication Research, Volume 33, Issue 3, 1 July 2007, Pages 271–290
https://vhil.stanford.edu/mm/2007/yee-proteus-effect.pdf

日本では東大の鳴海先生が積極的に研究を進められています。個人的には、VRを使った拡張満足感とかメタクッキーの研究がスキなのですが、「ゴーストエンジニアリング」という領域を創り、VRなどを用いた心身の変容・拡張について研究されています。以下に丁寧な解説記事が公開されています。

解説:ゴーストエンジニアリング:身体変容による認知拡張の活用に向けて

例えば、筋肉量の多いマッチョなアバタを使ったユーザは、モノの重さを実際より軽く感じることを示すことで、アバターの変身により振る舞いや心に変化が生まれること加えて、知覚にも影響する研究を発表されています。

また、ヒトのアバターだけではなく、ドラゴンアバタを使った研究もされていて、ヒトアバタと比べると、高所への恐怖,落下に対する不安などが抑制されるとしています。【論文

変身というか化粧

VR空間の中でアバターを使って、アインシュタインにするとか、マッチョにするとか、ドラゴンにするとか、元の姿がわからないくらいの激しい容姿の変化がなくても、微笑むとかちょっとした変化がヒトに影響を与えるともしています。

この動画のように少し笑顔にするとか、声を少し高くすることで、ブレスト時のアイデアが1.5倍も出しやすくなったりするようです。これは個人的にもなんとなくはわかります。WEB会議でも相手の顔や声によって会議の雰囲気はより変わりやすくなっている気がするし、より相手に伝えようとするために身振り、手振り、リアクションがいつもより大袈裟になっているような気がします。

この効果は相手に対するものだけではなく、自分に対しても有効なようです。笑っているから楽しくなる、泣いているから悲しくなると表現されるように、表情を少し変える、拡張するという表情を先行させることで、自分の感情も変えられます。

いい感じの自分の顔を見ることによるプロテウス効果で、仕事のモチベーションや気持ちの切り替えが上手く行くというルーティンが生まれる時代になるかもしれませんね。

ここまでいくと、『デジタルな化粧』みたいな感じでしょうか?メイク落としよりも簡単で、次から次へと自分のキャラを変えられます。まつげでも何でも『盛る』という文化が強い日本には、打って付けの技術です。笑 すっぴん、化粧、整形というフィジカルなものでなくても、サイバー的に自分を盛ることで自分をコントロールする時代はもう始まっているのかもしれません。

これは少し前にYoutuberから話を伺った時に、『YouTubeの中の自分のキャラクターにリアルの自分もどんどんと合わせようと無意識のうちにしてしまっているのです』と言われてたことに似ているのかもしれません。やはりフィジカルが主でサイバーが従という関係は古い考え方なのかもしれませんね。

コロナの影響もあり、多くのコミュニケーションにおいて、F2Fよりもサイバーレイヤーを挟むことが当たり前になる時代において、サイバーに一工夫を与え、自分の振る舞いを変えるのはよりスタンダードになっていくのでしょう。

相手を知るために

そして、プロテウス効果には相手をより知るという側面もあります。例えば、過去の研究でも、白人が黒人のアバターを使うと、その後黒人差別の意識が弱まったとされています【論文】。

つまり、アバターを通じて相手側の視点を経験することで、これまで人間が抱いてきた身体や見た目から解放され、相手への理解をより深めることができるかもしれません。多様性、ダイバーシティというなかなか難しいと言うか、本当の意味で相手を理解することが難しくなっていく中で、サイバー空間、アバターというものを通して、相手を知ることができ、相手の存在を知った上だ行動できるようになれば、この世の中のどれだけ争いごとがなくなることかと思います。

まさにドミニク・チェンさんの言う『コミュニケーションとは、わかりあうためのものではなく、わかりあえなさを互いに受け止め、それでもなお共に在ることを受け入れるための技法』にぴったりの技術です。

どのような使い方をしても、『現実を編集』しているということには変わりないので、いわゆるフェイク問題みたいなことには気を付けないといけないととは思います。しかし、益々のネットワークベースのコミュニケーション活性化、多様性の尊重ということが求められる中で、『プロテウス効果』というテクノロジーは非常に重要な役割を果たすと考えています。

より詳しいことを知りたい方は以下のNoteなどがオススメです。

では、また来週~

安藤健@takecando

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