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人間中心設計「HCD専門家」を受験してみた

今年の1月にHCD専門家を受験してみました。UXデザイナーとしては登竜門的な存在の資格になっています。スペシャリストと専門家の2種類の資格があり、スペシャリストと専門家を比べると専門家の方が合格条件が厳しくなっています。詳しくはHCD-netのサイトに詳細が載っていますので参考にしてみてください。


プロダクトデザイナーがHCD専門家を受験した理由

私は今までプロダクトデザイナーとして、アイデアを実現する為のモノをデザインしてきましたが、人間中心設計はマーケティングリサーチをするようになってから意識をし始めました。ユーザーの事を知らずしてサービスは作れないという人間中心設計の考え方に迎合しているわけではなく、あくまで自分が何か対象物をデザインする時に一つでも参考になる根拠データがあるなら参考にしながらデザインしたいと考えていました。使用者の利用状況を把握した上で最適解を見つけ出していく方法に興味があり、受験を通して何か得られるものがあるのではないかと考えました。

注目する人達がこの資格を持っていた

元ゆめみのCDOの曽根さんは人間中心設計スペシャリストを取得されています。以前少しお話させて頂く機会があり、色々と書籍を紹介してもらった事があります。HCDについての知識があいまいなままだったことを痛感しHCDの資格に興味を持ち始めたきっかけにもなりました。曽根さんのスペシャリスト受験記録を参考にさせて頂きました。

前職の企画職でブランド商品開発をしている時に、ユーザーリサーチの方法を探索していて、えそらの喜田竜二さんにも相談する機会がありました。問題の本質を鋭く分かりやすく解説するUXワークショップを開催されていて、全ての回を受講し、ディスカッションもさせて頂いた事があります。オリジナルの四コマ漫画によるユーザーシナリオの構築プロセスは誰もが活用出来るフレームワークで目から鱗でした。ワークショップアーカイブ情報がありますので、こちら参考になるかと思います。喜多さんはHCD専門家で、誰にでもわかりやすいHCD手法を開発されている方で、無料でその方法論を公開しているので是非皆さんも体験してみてください。

このように、プロダクデザインからUXデザインへ移行する時期に、私の中で人間中心設計の専門的な資格を取りたいという想いが漠然とですが、強まっていきました。

ユーザー起点のマーケティングリサーチの必要性を論理的に説明出来るようになる

現職の新規事業開発ではマーケティングリサーチを行う機会が増え、市場で受容されるコンセプトなのかどうかを確かめることが成功確率をあげるための近道だろうと考えています。そこで、その証拠となるリサーチ結果をどのように分析し評価してプレゼンするのか?というスキルも重要になってきます。以下のnoteに詳しく調査方法について解説していますが、HCDの視点ではどうなのか?というところが気になっていました。

HCD専門家は調査から分析評価、プレゼンまでをコアコンピタンスとして規定しているので、調査結果に対する説得力があります。論理的に根拠を明示し、市場規模の妥当性を説明できるスキルがあることを実証できるわけです。

受験までの準備

想定以上に大変なボリュームでした。各コアコンピタンスについて今までの経験を論理的に破綻なく記述していく必要があります。コンピタンス同士の論理的な繋がりも把握し記述していくことが求められます。そして似たような経験をコピペすることは許されません。私は11月の説明会に参加しそこから記述を始めました。年末年始は書類作成に掛かりっきりになりました。1つのコアコンピタンスに記述する量は500m文字×3項目=1500文字です。3項目は、目的と対象、体制と実施内容、工夫とアウトプットについて記述します。基本コンピタンス13項目、プロジェクトマネジメントコンピタンス3項目、導入推進コンピタンスが4項目あるので、合計で20項目のコンピタンスがあることになります。1つのプロジェクトで記述できるコンピタンスは20項目あることになります。20×1500=30000文字ですね。この時点でかなり膨大な記述が必要であることが分かりますが、さらにプロジェクトは5つまで記載することができますので、MAXでは30000×5プロジェクト=150000字となります。ただし、プロジェクトごとにどのコンピタンスが適用できるかは自ら判断して選定できるので必ずしも20コンピタンスを全て記載する必要はありません。専門家とスペシャリストで必要な要件も違うため、どちらを受験するかで項目数を足したり減らしたりすることも可能です。

今までの経験知識の棚卸し

まずは過去の経験を棚卸しして、どんなプロジェクトでコンピタンスを適用した事例が当てはまるかを検討していくことから始めました。気になっていたこととしては、インタラクション設計の経験が少ないことです。フィジカルなプロダクトデザインの経験は豊富にありますが、デジタル領域でのプロダクトデザインの経験は前職でIoT製品のデザインをした経験と、現職でのメディカルデバイスの経験のみです。そもそもHCDの資格はマンマシンインターフェイスの設計で考慮すべき項目を網羅しているモノですので、果たしてフィジカル領域の経験は記載して良いのかどうか迷いました。
プロダクトの経験だけだとNGであるとはどこにも書かれていなかったので、仮説検証を回した経験を中心に整理していきました。ユーザーを取り巻く利用状況を調査しデザインや設計に反映した事例を記載して行きました。

人間中心設計としての思考

記載し始めて気づいたことは、ユーザーの利用状況を把握することは、プロダクトデザイナーとして普段自然に考えていたことでした。モックを作ればモニターして検証しますし、体格差がある人をどこまで適用範囲にするかを決めなければいけない場合には、ユーザーテストを繰り返し、モックの修正も頻繁に行いながら体感の良いものに仕上げていく、というプロセスを踏んで開発を進めて行きます。このステップは、まさに人間中心設計の考え方なんだということを改めて認識した次第です。
また、コアコンピタンスの連鎖も重要であり、どのコンピタンスがどのコンピタンスと関係があるのかを把握しながら記述をしていく必要がありました。フェンリルのスギウラトモコさんのnoteの記事にはこのように記載があります。

【A10】を証明しようとすると、【A8】【A9】【A12】が密接に絡み、これをプロセスの一部として活用した結果や具体例、工夫などを書かねばならない。さらに言うと、別のコンピタンス【A12】を記述する時にも、【A8】【A9】【A10】【A11】がプロセスの一部で活用した目的、具体例、工夫、結果がリンクしている必要がある。

スギウラトモコさんのnoteの記事
提出ギリギリまでもう無理かもしれないと思っていたHCD専門家に合格した話

https://note.com/f_sgur/n/ncd720da02415

実務でこの資格はどう役に立つのか?

HCD専門家の資格は実務でどのように役に立つのだろうか?
例えば、新規事業で悩んだ時の羅針盤になり得ます。評価基準が定まっていない場合はHCDプロセスを通してユーザー理解を深めるだけでも、仕様を決定する際のヒントになりますし、体系だったプロセスなのでどんなフェーズでも適用することが可能です。
また、デザイナーだけでなくあらゆる部門の人が取るべき理由があります。共通言語を用いてコミュニケーションが取れるようなるので、得意先や役員クラスの方へ説明をする時にも武器になります。特にこの資格を持っている人が多い組織であればあるほど、この資格は強力に効いてきます。私は日本特殊陶業の中で初のHCD専門家を目指していますが、社内でも広めて行きたいと思っています。まずはマーケティングチームメンバーから受験してもらいつつ、他の部門の方にも是非応募してもらえたらと思っています。事業を成功に導く体系だったプロセスを知ることが重要だと考えているからです。

ポスト人間中心設計

人間中心設計の概念だけでなく、今後はもっと広い視点で物作りやサービスを考えていかなければいけない時代に突入しています。例えばLife Centered Designという生物や地球などの命を中心に設計していくプロセスが重要だという考え方も主流になってきています。

デザインする対象(モノやサービス)を考える時に、あらゆる生態系や自然に与える影響、地球環境全体を考慮し、「すべての生命を中心」に設計しようという概念のこと。

地球環境は待ったなしの状況なので、人間だけでなく、あらゆる命や地球全体への影響も考慮した開発は正に僕たちデザイナーの手にかかっているはずです。このプロセスに関しては今後もキャッチアップして行きます。


230329追記

結果的に人間中心設計専門家に合格することが出来ました。年末年始は書類作成に追われましたが、新たな知見を得るための思考が出来た時間で至福の時間となりました。去年受験することを決意し、転職してUXデザイナーの経験を積み、プロダクトデザインにおけるユーザー中心設計経験と、デバイス開発におけるUI UXデザイン経験、そしてキーニーズ法によるマーケティングリサーチプロセスを経験しました。

ユーザーを起点とした人間中心設計の考え方を学べたことが良かったです。今後は、テクノロジーと、ビジネス、デザインを三位一体で統合できる事業開発、組織開発に貢献して行きます。




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