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自律創造型デザイナーの取扱説明書を7つのポイントで解説!

はじめに

ビジネス業界では日本のデザイナーは欧米に比べて年収が低く、裁量権限が狭い傾向にあると考えられています。日本のデザイナーはクリエイティブに特化していることもあり、人財スキルの中身が見える化されていない=暗黙知になっている部分もあり、個人の裁量に委ねられていたりしてきました。企業内の経営企画、マーケター、ストラテジストが事業の根幹となる戦略を握っていることが多いと思います。デザイナーは、上層部から降りてくる戦略を綺麗にビジュアル化し具現化するような役割を担っていることも多いのではないでしょうか。範囲が下流工程での役割が多く、範囲も限定的です。

しかし、現代のデザイナーは、アートの創作者ではなく、ビジネスや社会の課題に対しても革新的なアイデアを生み出すことが求められています。特に欧州ではデザイナーが戦略面を立案することが当たり前になっているにも関わらず、日本ではスタイリストであり、アーティストであるかのような風潮やイメージが根強く残っています。デザイナーというポジションは、企業の中でも上位に位置付けられていることは稀なのではないでしょうか。

https://note.com/takebonstudio/n/nec118263b45a

以前このような記事を書きました。デザイナーは戦略家になるべきなのか。そもそもデザインには「策略」という意味も込められていました

デザイナーはただクリエイティブな作業をしているだけで良いという時代は終わり、ビジネスの戦略に関わり、マーケティングも理解し、顧客への理解も当然ながらデザインリサーチを通してしていくことが求められてきています。デザイン思考や、人間中心設計、DX、CX顧客体験価値を高める仕組みや仕掛け作りをベースにデザインをしていくことが当たり前の時代に突入しています。何を軸にしてデザインを語るのか?が今問われていると感じます。これからのデザイナーは自ら考え、探求し、核心的な問いや問題・課題を発見し、自律的にソリューションを提案していく、自律創造型のデザイナーに進化していくのではないでしょうか。

それでは、巷で流行っている「自律型人材」とはどんな人材像なのでしょうか。日本能率協会マネジメントセンターによると以下のような定義であるとされています。

自律型人材とは
自律型人材とは、指示を待つのではなく、自らの意思で考え能動的に業務を遂行できる人材を指します。ただし、具体的に何を求めるのかは企業によって異なり、企業ごとに具体的な定義が必要になります。
なお、「じりつ」には「自立」と「自律」があり、それぞれ意味は異なります。「自立」は自分の足で立てる状態のことで、1人で仕事をこなせる、経済的に独り立ちしている状況などを指します。一方、「自律」とは、自分の意志を持ち、自らをコントロールしながら、目的や意義を考えて行動に移せる状態を指します。

日本能率協会マネジメントセンター
自律型人材とは? 育成のための5つの方法とメリット・デメリットを詳しく解説
https://www.jmam.co.jp/hrm/column/0010-ziritsu.html

つまり、指示待ちではなく、自ら問いを立てて、PDCAを回しながら創造的に業務に取り組むことが出来る人が自律型な人材であり、自律創造型デザイナーはこの定義に最も当てはまる存在と言えるでしょう。ビジネスや業務に創意工夫をしたり、上司に言われるでもなく、積極的にデザインやアイデアを提案をしていける人が現代の社会、組織では求めらているとも言えます。では、どんなデザイナーが自律創造型人材になり得るのでしょうか。あくまで個人的な考えですが、以下7つのポイントを書き出してみました。

1.イメージをマネージする【表現力】representation

デザイナーは、視覚的なイメージを思考しやすくするために、豊かなイメージ力を養うための訓練を積んでいます。手書きスケッチを通じてアイデアを形にし、コンセプトをビジュアル化することで、イメージングのスキルを磨いています。これにより、デザイナーは頭の中で具体的なイメージを鮮明に描き出すことができ、イメージをマネージすることが出来るのです。

例えばこのように私のミッションを図解化されたイメージで伝えることが出来ます

そのため、デザイナーは人々の共感を呼ぶイメージをアウトプットすることに長けています。このスキルを用いて、企業内のビジョンやミッションを言語化にするだけでなく、イメ

ージやビジュアルに落とし込んでいけるようになります。ロゴやポスターや動画などの表現手法を用いて、全社員に共感されるインナーブランディングを創出することも可能となります。特に役員やトップマネジメントの思いを形にする時、デザイナーの力は発揮されやすいと考えます。言葉では表現できても、それを誰もが頭の中にイメージすることが出来なければ、ペンで書いた餅に終わってしまいます。

2.アイデアの量と質【発想力】

デザイナーは創造的な仕事をするために、常にアイデアを考え出す必要があります。彼らは日常的な経験や情報をアイデアに変換し、アイデアの数を普通の人よりも多くストックしています。これは、デザイナーが豊かな発想力を持っており、新しい解決策やデザインのアプローチを見つけ出す能力に繋がっています。

学生の頃の実習課題
「医療空間における情報機器デザイン」という課題で描いたアイデアスケッチ
64案以上のアイデアを考案した

例えばデザイナーは日頃、以下のような取り組みを習慣付けてやっていることが多いです。

①Pinterestを活用したイメージ収集
②オープンプラットフォームを活用したアイデアストック
③ポートフォリオ作り
④各プロジェクトにおける没ネタをストックしブラッシュアップ

自分のイメージとアイデアの引き出しを拡張しながら、イメージをマネージし、発想を生み出す独自の手法を持っています。

①Pinterestを活用したイメージ収集

例えばPinterestというサービスを活用し、プロジェクトに参加する度にイメージのフォルダを作り収集を続けています。以下の「Car Design」のフォルダには過去にデザインの参考にしたコンセプトカーなどのイメージがストックされています。

プロダクトデザインで気になったものなどはProduct Designフォルダにいっぱいイメージが溜まっています。

このようにイメージを常にコレクターのように収集し、あらゆる造形美のある製品デザインや機能を持った製品・サービスに精通しておく事で、何か課題が与えられた時にも様々な切り口でアイデアを提案していくことができるのです。新規事業にデザイナーをアサインして見ると、袋小路にかかりそうな課題があったとしても、どこかでブレイクスルーする確率が上がるでしょう。

議論の場では、その場でスケッチを描いて解決策を思いつくままに出し切る

実際私自身も現在関わっている案件ではマーケターとしてのポジションですが、デザイナー的な発想でどんどんアイデアを考えて、エンジニアに提案してみることにしています。一発でダメでも、「だったらこれはどう?」「こういう視点で考えてみたけどどう?」とスケッチを提示して、提案を連続的に続けるようなディスカッションをよくします。アイデアが尽きることは全くなく、課題が山積みであったとしても、解答を考えられるのは様々なアイデアや情報、イメージをネットワーク化して、ある時全てが繋がったように閃きが降りてくることがあります。

②オープンプラットフォームを活用したアイデアストック

デザイナーや企画者はオープンプラットフォームを活用して事業アイデアを積極的に提案している人が多く存在します。私の仲間もビジネスピッチに登壇して起業した友人や、コンペ案件で軒並み最優秀賞を獲得し事業化を実現している人もいます。
オープンイノベーションプロジェクトへの参加によってアイデアのストックがどんどん増えていき、受賞を逃した提案物はそのまま自分のアイデアストックにもなるので、お題やテーマが何か提示をされた時にも瞬間的に過去に提案したアイデアや事業企画などを引き出して、提案に結びつけていくことも可能になるわけです。

私の場合はwemakeというオープンプラットフォームで開催されている企業ごとの課題にアイデアを投稿することを七年程前から実施しており、アイデアのストック数は68件あります。

wemakeでは自分のアイデア一覧ページがあり過去のアイデアを見返すことが出来る
企業は半年のプロジェクト期間で約200案の事業企画アイデアを収集することが出来る

アイデアを考えて提案すること自体が楽しいと感じているこれらのデザイナーを新規事業部門に専属で所属させて、積極的に企画業務に携わる機会を創出することで、たくさんの切り口と魅力的なアイデアをストックしていくことが出来ると考えます。未来を洞察し、バックキャストで現在のその先をデザインしていくことはデザイナーが本領発揮できる分野の一つです

3.セルフマネジメントで目標をクリエイティブする【PDCA力】

デザイナーは、自らの仕事やプロジェクトをマネジメントする能力も持っています。彼らは自己管理においてクリエイティブな方法を見つけ出し、目標を達成するために必要なスキルやリソースを組織化します。デザイナーはプレゼンテーションの経験も豊富であり、自らのアイデアやビジョンを他者に伝える力も備えています。

例えば、デザイナーであれば誰しもがやっていることとして、一つのプロジェクトが終了すると、その内容を振り返り、自分の役割や成果を整理して、ポートフォリオ化する習慣があります。具体的には、アイデアやイメージの整理、プロセス分析まで実施し、次のプロジェクトではより良いアウトプットに繋げるために、再現性を高めていくことを習慣付けているデザイナーが優秀なデザイナーとも言えます。

ポートフォリオを定期的に、例えば3年サイクルで新しいものに刷新をしているというデザイナーもいるでしょう。デザインの実務経験やスキルアップに応じて、作品を入れ替えて、次のキャリアデザインの準備を常にしているわけです。過去のポートフォリオから振り返ると、初期の頃はビジュアルが綺麗でインパクトのあるポートフォリオに注力していたり、最近のものはデザイン業務のみでなく、創造的な組織開発や、プロセスのスタンダード化に取り組んだことや、グラフィック、プロダクトから、UI・UXまでモノからコトまで、多岐に渡る担当範囲を整理しまとめていたりします。

これは長期的なキャリアデザインのPDCAをデザイナー自らが自律的に回していることになります。上手くいったこと、行かなかったこと、社会的に認められた経験、自分の好きを形にしたWILLに基づくプロジェクトなど、多様な自分の生き様を表現していることになります。就職活動から続く習慣は、転職活動のためだけでなく、自己を磨いて、他人に自分のことを知ってもらうための自己表現が出来る職能を持っているとも言えるのではないでしょうか。

4.自己評価と他己評価を常に行なっている【デザイナー視点による評価目線】

デザイナーは、自己評価と他己評価を常に行なっています。彼らは自らの作品やデザインを客観的に評価し、改善点や成果を把握することができます。また、他人の意見やフィードバックを積極的に受け入れ、それを自身の成長や学びに繋げることができます。このような自己評価と他己評価のプロセスによって、デザイナーは自身のスキルや能力を向上させ、より良いデザインを生み出すことができるのです。

自己評価はアート思考により自分が美しいと思うもの、感動した体験などをベースに自分事としてN1をベースに思考を張り巡らせます。そしてエンドユーザーの調査を元にユーザーに憑依するくらいのイメージを持って、デザインのレビューを実施します。自己の造形美や真善美の価値観と、ユーザー価値を対峙させて、デザインや事業・サービス、そして組織をブラシッシュアップしていけるのはデザイナー以外にはいないと思います。

5.何より創造することを楽しんでいる

デザイナーは創造性を最大限に発揮する仕事に従事しています。何より彼らは新しいアイデアやコンセプトを生み出すことを楽しみ、デザインプロセスそのものに喜びを見出しています。この情熱と楽しみが彼らを駆動し、さらなる創造性を追求する原動力となっています。

楽しいことや嬉しいかった事など、感情表現を形で伝える方法を知っているデザイナーは、これからの時代にAIで賄いきれない表現力を発揮する職種の一つになり得ます。感受性の高い人程、敏感に人の感情を察知し、得られるユーザーインサイトは深い部分にまで及ぶでしょう。定量定性によるユーザー調査では得られない、デザインによって生み出される感動体験がこれからの時代を刷新していく力を持っていることを、企業の経営者はいち早く目をつけていったほうが良いでしょう。

株式会社ドリームで描いた30年ビジョン

企業がどのような未来を描き、どうなっていきたいのか?そのイメージを膨らませて、言語化するだけでなく、ビジュアルイラスト化することによって、企業の個性を際立たせて、経営者も現場の人間もみんなを繋げるストーリーで共感の輪を広げていくことが出来るのがデザイナーの強みでもあります。このイラストはその一例です。これは誰かに頼まれてササっと描けるものではなく、現場とトップのディスカッションを聴きながら、みんながどんななりたい姿を思い浮かべているのか?を議論に混ざりながら、解釈してその想いをわかりやすく表現することに徹して描いた力作になります。



6.自分が感動したものやワクワクする体験を記憶してネタ化している

デザイナーは、日常の中で感動したりワクワクするような体験やアイデアを積極的に記憶し、それをネタ化しています。彼らはそのような体験やアイデアを自身のデザインに取り入れることで、新たな視点やインスピレーションを得ることができます。このような体験の蓄積が、デザイナーの創造力や独自性を育みます。

ドリームのコンセプト評価軸
「わくなるあい」を図解化したイメージ


デザイナーと一緒に仕事をしているとワクワクする瞬間が訪れます。ディスカッションをしている時、ブレストをしている時、デザインの仕様を詰めている時、そして初めて世の中に製品やサービス、事業が発表になった時。デザイナーが作り出したブランドの世界観・表現によって、事業にこめたメッセージがユーザーに届いた瞬間は感動を生みます。

感情を突き動かすものを生み出すことが出来るのがデザイナーの最大の醍醐味でもあります。AIの時代、簡単にアイデアを提案したり、ビジネスストーリーを描くことが出来るようになってきましたが、本当に心揺さぶられるような感動体験は人間の手から生まれてくるとも言えるのではないでしょうか。

「手が起電力になる」

インダストリアルデザイナー 川崎和男
恩師の言葉です。

この言葉を信じてずっと鍛錬してきました。デザイン思考ではできない発想、創造力をデザイナーは自分自身の感性を磨き、感動体験を心に埋め込んでいくことで、育んでいます。発想・表現・伝達を三位一体で体現できるデザイナーを自立創造型デザイナーと呼んでみたいです。

恩師が提唱するデザインの基本スキル:発想・表現・伝達を図解化したイメージ
各スキルは重なり合う部分があり、それぞれ描写力、プレゼン力、編集力が
重なり合う部分には存在していると仮説を立てた

7.デザイナーとしての経験

デザイナーとして養った一つ一つの経験そのものが自律創造型であるとも言えます。実務では手描きスケッチを大量に描き、プロトタイプを製作し、レンダリングのイメージ表現力を鍛えてきたことで、デザイナーは視覚的なアイデアを効果的に伝える能力を持っています。仮説検証を誰よりも短期間でクイックに回せるのはこのような具現化力があるからです。
また、プレゼンテーションの経験も豊富であり、他者に自身のデザインやコンセプトを魅力的に伝えることができます。さらに、アイデアを大量にアウトプットする習慣があるため、発想力にも優れています。

このようなデザイナーの素養を軽視してはいけません。彼らから学ぶことはデザイン思考ではなく、デザイナー試行なのです。

デザイナーの試行錯誤のプロセスは確立されたものではなく、固有のプロセスを辿ります。非線形で定量化されておらず、定性的な側面をもち、客観的に評価しにくい要素がたくさん有る為、企業やビジネスの場面では、事業やサービスの売り上げに紐づきにくく、正当な評価がされてきませんでした。

しかし、現代のAI技術の発展によって、特にChatGPTやAI生成技術などによって、よりデザイナーの価値が高まるタイミングが訪れました。機械学習だけでは得られないデザイナー独自の表現技術や、伝達力、発想力によって、自律創造型人財になる可能性を秘めていることをこのブログではアピールさせて頂きました。


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