アディダスに頭をガツンと殴られた話
「30%OFF商品がさらにレジで50%OFF!!」
このフレーズを見ただけで、ひとつのスポーツブランドを連想してしまうのはきっと私だけでは無い。それもここ最近で増えたのではないだろうか?
そのブランドとはアディダス(リーボックを含む)だ。
-”激安の殿堂”と化した古豪
アディダス、と聞いて知らない人はもういないだろう。70年以上の歴史を持ち、スポーツシーンはもちろん、音楽をはじめ様々なカルチャーシーンにおいてもその存在感を示してきた伝統あるスポーツブランド。
そんなアディダスの近年のアウトレット事情は非常に刺激的だ。冒頭の通りあいさつ代わりに三割引き、そこからさらに半額になることは決して珍しいことではない。
今の状態はスニーカー版 激安の殿堂ドン・キホーテともいえる。定価を買うことを忘れさせる「忘却の殿堂」である(偏見)。
安いことはありがたい。一般消費者が求めるのはいつだって「お得な買い物」だ。俺だってブルガリアヨーグルトが特売で100円を切っていたらとても嬉しい。
しかしその傾向が強くなると、プロダクト単体の「売り」が、歴史でも、デザインでも、カルチャーでもなく、「値段」になる。
アディダスには一生で追いきれないほどのストーリーがあるだろう。それが「安いからアディダス」と選ばれていくのはなんだか、心にしこりが残る。(薄利多売でいいのか!あんたらに正義は無いのか!←過激派)
そういえば、そんなわがままなボヤキをつい数ヶ月前に朝岡周氏とVoicyで話したっけ。
アディダスからしたら大きなお世話でしかないが、めんどくさいユーザーとしては物申したくもなる現状だったのだ。
言葉を選ばずに言えば「アディダスからメッセージを感じない」ことが続いていた。
-アディダスからのアンサーに感じる「希望の残照」
2020年後半、FORUMというスニーカーの復刻が数年ぶりに発表された。
たとえば、ビヨンセ率いる”IVY PARK”や
ハロウィン企画の面々、
その他ショップ等とのコラボレーションなど。
どれも華やかかつ、魅力的なものばかりだったが、私が本当に期待するものは違った。FORUMの歴史を体現する「OG仕様」の復刻。
年の瀬を迎えた年末。その期待にアディダスは答えてくれた。
それがFORUM84 HI "Blue Thread"。
このスニーカーの発売は、これまで心配していた数々の杞憂を期待に変えた。
迷わず、有給休暇を取った。取れなかったら仮病でもなんでも使っただろう。
FORUMの復刻を待ってた人間は数多くいると思うが、”このFORUMこそ欲しかったFORUMだ”、と考えた人間は一握りだっただろう。発売当日の現場の状況がそれを物語っている。
アディダスにボヤいてしまうほど期待する同志、朝岡氏のYoutubeで、詳しい当日の状況が確認できるのでチェックしてほしい。
-スニーカー自身が歴史を体現し、その魅力を語り始める
すでにWeb上でFORUM84の写真や仕様は確認できる。FORUMというモデルの歴史については腐る程語られているだろう。
それでもサクッと復習しておきたい兄貴たちのために、箇条書きで記しておく。
・1984年デビューのバスケットボールシューズ
・包帯(テーピング)から着想を足首のサポート「クリスクロスシステム」
・ミッドソールを網目に包み込み「デンジャリー・ウェブ」搭載(ZXシリーズなどのランニングシューズにも搭載されている。)
・ヒールカウンターを搭載した意欲作(ランニングシューズには既に搭載されていた。)
・ロサンゼルス五輪の選考大会でマイケル・ジョーダンがこのモデルを着用(カラーも同様)
そして2021年も引き続き、アディダスはFORUM84の復刻発売を発表している。・・・もっと書きたいのは山々だが、書き連ねると文字数がやばいのでこの辺で。
要は、前世代のトップテンというシューズを進化させるにあたり、当時のさまざまな技術の詰め込んだバスケットボールシューズ、それがFORUMである。
1984年当時の”技術の結晶”は、現代において非常にアイコニックな印象を受ける。まさにイケてるシューズではないか。
こうしてFORUM84を眺めていると、そんな歴史やウンチクをスニーカー自身が語ってくれているように感じる。←
青白とも表現できるが青は青にあらず、白もまた白にあらず。どちらの色も少々くすんだ青、白で表現されている。実は青白の2色をこのスニーカーで表現するにあたり、5種類以上の性格の違う天然皮革があしらわれている。その素材によって表現される各色が秒な変化をもたらし、単純な青白にとどまらない表現力を発揮しているのだろう。
(ほら、スニーカーから声が聞こえてこないか?←要入院)
経年劣化は感じさせず、しかし、あたかも当時モノの様な風格を表現したこの復刻は、、、、カルチャー仕様とでも名付けてみよう。
このスニーカーを眺めているだけで、1984年からの贈り物のような感覚になり、その歴史や文化に想いを馳せてしまう。
こんなに懐古的にFORUMの歴史を体感する機会をくれたことに感謝しかない。が、しかし、アディダスはこのFORUM84について、歴史書物的な楽しみ方を提案したいわけではなかったのだ。
-歴史よりもこれからのストーリーを大切にしてほしい
アディダスはこのFORUM84に展開に際して、ワールドワイド向けのプロモーションビデオを製作している。
そこに日本人フォトグラファー、池野詩織氏が登場する。
池野氏はFORUM84を前にしてこう語る。
「(歴史を)知ることは大切だとは思うけど、自分にとってのストーリーの方が大切かな、と思います。」
頭をガツンと殴られたような気がした。
FORUM84自身の魅力が語る歴史的後光に圧倒され、心酔しきってふわふわになっていた脳みそがグラっと揺れた。
こんなにも歴史が詰まったスニーカーかつ、その歴史や文化をこれでもかと感じさせる神がかりなカルチャー仕様での復刻。そんなFORUM84が世界に発信するメッセージがこれ。
「歴史は大切だが、お前とコイツの未来のストーリーを大切にしてくれ」
池野氏を通じて投げかけてきた、アディダスの意欲に素直に敬意を評したい。
歴史や機能の羅列によって、FORUM84の神格化プロモーションはどうにでもできただろう。しかしアディダスが選択したのは、遺産の完全リリース。消費者各々でストーリーを紡いでくれ、と言う粋な遺産のばら撒きだったのだ。
アディダスは、このFORUM84が”FORUM”の言葉の意味通り「人々がFORUM84とのストーリーを交わす”Forum”となる」、未来を願っているのかもしれない。
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