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『王様戦隊キングオージャー』第5話感想

第5話 冬の王来たる



 イシャバーナ国王ヒメノ・ランによって、イシャバーナへとさらわれた自称邪悪の王・ギラとンコソパ総長ヤンマ・ガスト。
 3人はイシャバーナに襲来したバグナラクを見事に撃退した。ヒメノがけが人の救助に向かおうとしたその時、突如としてゴッドカブトが現れ、クワゴンを襲う。

 クワゴンに乗り込み、対抗するギラ。ヤンマとヒメノもともに乗り込んで難を逃れる。ヤンマにゴッドカブトが三大守護神のうちの1体であり、乗り手がラクレスだと知らされ、驚くギラとヒメノ。
 ギラたちはいつの間にかイシャバーナから追いやられ、ついにはゴッドカブトの砲撃によってシュゴッドと共に散り散りになってしまう。
 しかしゴッドカブトに乗っていたのはラクレスではなく、ハチオージャーことトウフの王殿カグラギ・ディボウスキだった。

 ヤンマとヒメノはトウフの国内で再会する。ヒメノはヤンマに3大守護神とは何かと尋ねる。ヤンマによれば、3大守護神はシュゴッドの中でも特別な存在で、この3体がキングオージャーと合体してレジェンドキングオージャーとなり、人間とバグナラクとの争いに勝利を導いたという。
 ヒメノは欲しがるが、ヤンマに2年前にラクレス専用のシュゴッドに作り変えられたことを教えられ、不機嫌になる。
 そして二人は喧嘩しながらタキタテ城に向かう。

 ギラはトウフ国内の田園地帯にいた。そこで対峙するクワゴンとゴッドカブトの会話から、この2体は元々は友だちだったことを知る。
 ゴッドカブトが去った後、ギラはトウフ国の王殿、カグラギ・ディボウスキと出会う。例によって自分をシュゴッダムに突き出せと言うギラ。
 自首をするのはラクレスを倒すためだと告げたギラに、カグラギは大げさに感激して見せ、救世主だなどと持ち上げる。

 ギラはタキタテ城の城下町に案内され、トウフの豊かな農産物や食文化を目にする。カグラギが言う。「食とは、命なり」
 そんな時、バグナラク襲来の知らせがもたらされる。その場を離れようとしたギラを止め、自分に任せろと言うカグラギ。

 城下町の別の場所で、到着していたヤンマとヒメノがバグナラクと戦う。デズナラク8世とカメジムも現れ、ゴッドカブトを渡せと要求する。
 そこへ現れたカグラギは、ゴッドカブトを渡すとは言い、のらりくらり駆け引きをするが、カメジムにその手が通じるはずもなく、トウフ国内の山陰に潜んでいたタニジームの砲撃で田畑を焼かれてしまう。
 カグラギはデズナラク8世に翌日にゴッドカブトを渡すと約束する。

 シュゴッダム国内で民たちの慰問を行っていたラクレス。慰問を終えてカグラギと密談をするが、お互いの腹の探り合いをしただけに終わる。
 ラクレスは側近のドゥーガにリタ・カニスカの動向を尋ねる。リタはシュゴッダム王室の厨房の記録を調べに来ていた。

 トウフ国・タキタテ城内の王の間では、カグラギがラクレスとの交渉に失敗したと嘆いてみせるが、ギラたちは目の前の食事に夢中で話を聞かない。
 カグラギは〈秘儀・ちゃぶ台返し〉で一気に主導権を握り、ギラたちそれぞれの心に引っ掛かるキーワードを使い、バグナラク撃退への協力をとりつける。

 翌日。約束通りにやってきたデズナラク8世をまんまと欺いたカグラギは、ハチオージャーに王鎧武装してサナギムたちを倒す。
 そしてそれぞれのシュゴッドに乗り込んだギラたちを、タニジームと戦わせようとするが、砲撃で焼かれる田畑をゴッドカブトで守ったことで、ギラに実際の乗り手はカグラギだと見抜かれる。

 カグラギを仲間に誘ったギラは、ゴッドカブトにも仲間になれと呼びかける。クワゴンがゴッドカブトに抱きつく。すると、ゴッドカブトの制御が解除され、自我を取り戻す。
 ともに戦う意思を示したゴッドカブトとキングオージャーが合体したカブトキングオージャーは、タニジームを膨大な量のエネルギー弾で山ごと消し去り、勝利を収める。

 戦いののち。カグラギはギラの手を取り、微笑み合う。いくつかの不審な点に気付いた巡らせヤンマは、カグラギの意図を見抜く。

 しかし時すでに遅し、カグラギは「民のためには泥にまみれて手を汚す」と告げるやギラを確保し、ある人物の名を呼ぶ。
 現れたのはゴッカン国王であり、最高裁判長のリタ・カニスカ。カグラギがギラを「トウフ国侵略容疑」で通報したのだった。
 そうしてギラは国際裁判にかけられることになった……とさ。

 以上、第4話の創作あらすじでした。そして今回、なんとOPなしです!

明かされた手掛かり

 吹雪の中、なぜか高笑いするギラ。彼は鎖で拘束され、高速で吹雪の中を飛ぶゴッドパピヨンから吊るされている。
 相当の寒さなのだろう、ギラが「これが罰というわけか!」と言うのも当たり前であるが、リタ様は「移動だ」と答える。ギラはそうか、とだけ言い、あとはひたすらに高笑いをしている。
 ゴッドパピヨンが向かう先には、威厳を放つザイバーン城。

 吹雪の中で高笑いしてたら、普通なら口の中の水分が凍っちゃうと心配するところです。しかし「ギラだからきっと平気」と5話目にして思えてしまいます。さすが主人公……いや、これも行間???

 シュゴッダム。コーカサスカブト城・王の間。
 厳しく言及するラクレス様の声が響き渡る。
「国際犯罪でなければゴッカンは動かない。君のおかげで……!」
 玉座に座るラクレス様。玉座近くに控えるボシマールさんとドゥーガさん。他国の王様用の円壇の真ん中に立ち、向かい合うカグラギ殿。
「国際裁判長リタ殿は、氷のように無慈悲なお方。あのギラという大罪人も、一巻の終わりでしょう!」
 悪びれるどころか、扇を広げて見得を切るカグラギ殿。

 すかさず叱責するように、ドゥーガさんがゴッドカブトを奪われた失態を無かったことにはできないと問い詰める。カグラギ殿はその言葉尻に被せて「そんなことより!」と般若のごとき形相を見せる。今最も警戒すべきは、ゴッドカブトをバグナラクに奪われることだと主張する。

 小指を立てた右手をあごに添えつつ話を聞いていたボシマールさんが、ラクレス様の方へと振り向く。どこか面白がるような笑みを浮かべていたラクレス様は、ボシマールさんの残りの3大守護神も急いで探させるかという進言に、笑みを納めて、それはそれは柔らかく「ああ」と答える。
 やっと手掛かりを解読できた、というラクレス様にボシマールさんが驚きと喜びが入り混じった声を上げる。じっと聞き耳を立てているカグラギ殿。

 ラクレス様は玉座から立ち上がり、天井の壁画を見上げる。「もう一つは、氷の寝床で眠っている」
 その天井壁画には、はっきりとサソリの姿が描かれている。

 ラクレス様主従とカグラギ殿のやり取りについて。「これ本当に子供向け番組かな?」と思うような重みと渋みと迫力があります。

 まずは、ゴッカン=リタ様が動く条件が国際犯罪であることがラクレス様の言葉で明らかになります。
 特に説明はないものの、当然ながら5王国それぞれに国内法があり、各国内の犯罪はそれぞれの国の法に則り裁かれていると思われます。
 国をまたぐ犯罪、チキュー規模の犯罪、国内法では手に余る犯罪を裁くのが、最高裁判長であるゴッカン国王の役割となるのでしょう。

 では、ギラの場合はどうでしょうか。
 ギラの反逆罪は〈シュゴッダム国民によるシュゴッダム国王への反逆〉ですから、シュゴッダムの国内法が適用されます。国王の面前で堂々と反逆したのですから、裁判も何もありませんが。
 通常、王政国家において王への反逆は何よりも重い罪ですので、死罪は当然、良くて死ぬまで監禁です。逃げればもちろん指名手配されます。

 シュゴッダムが他国に手配書を配ったのも、国外逃亡した〈シュゴッダムの指名手配犯〉を確保するのに協力を得たいためです。あくまで自国内の犯罪として扱い、国内の法によって裁きたいので、リタ様には正式に何も出していません。

 ギラを捕まえた場合と捕まえない場合を天秤にかけたカグラギ殿は、「ギラ=シュゴッダム国民によるトウフ国侵略」をでっち上げ、リタ様を巻き込んでギラについての諸々を国際裁判へと持ち込みました。それがラクレス様にとって痛手になるかどうか、ふざけながらも見極めようとしています。

 シュゴッダム側の主張を代弁しているとはいえ、シュゴッダムの武官のドゥーガさんが、一国の王であるカグラギ殿に対して難詰するというのは本来は許されません。この会見の場が非公式であること、内密にゴッドカブトを預けたこと、カグラギ殿自身が自ら進んで協力しておきながら失敗したことを差し引いても、シュゴッダム国民の自尊感情みたいなものや、カグラギ殿への個人的な不信感がにじみ出ている気がします。

 ラクレス様はラクレス様で、結構な威圧感を言葉に込めてカグラギ殿をなじっておきながら、実際にはさほど腹を立てているわけでもなさそうです。ゴッドカブトを奪われた弁明をせず、バグナラクに取られる方が心配だと話をすり替えたカグラギ殿の言葉を、笑みを浮かべて聞いています。

 初見ではカグラギ殿の見え透いた嘘に笑いが抑えられないように見えました。しかし改めて見ると、ラクレス様の中で何かの思惑があり、それがあまりに上手く行ってしまって一人で上機嫌になった、という笑い方です。
 いやあ、本当に色々とマジですごいわ……行間が深すぎるわ……。

 そして、3大守護神のうちの1体の手掛かりが示されます。バグナラクにある天井壁画ではボロボロになって分からなかった部分、シュゴッダムの天井壁画には3体ともはっきり描いてありますが、それが3大守護神だと分かったのが第3・4話です。そして今回で居場所の手掛かりを得られたのが、バグナラク側では正体不明だったサソリのシュゴッドとなります。
 その手掛かりを聞いたのは、この王の間にいる人々だけ。この短い時間に深い行間だらけだ!

王の資格とは

 ゴッカン。ザイバーン城の正面階段の前。吹雪の中、木の枝を持って立つリタ様側近の眼鏡女子=モルフォーニャさん。
 リタ様がギラを連行してザイバーン城の前に姿を現す。モルフォーニャさんが「ご愁傷さまで~す!」と、字面にそぐわない笑顔と明るい声をギラに向ける。身も心も冷え切ったギラは、その言葉に反応する元気もない。 リタ様が「被告人だ。白玉にしておけ」と、ギラをモルフォーニャさんの前に放り出す。そのままギラが倒れ込む。

 ザイバーン城の正面階段の前。モルフォーニャさんができました、と満足そうに言い、近くのかがり火に手をかざして暖を取る。なんと、ギラを芯にした2段重ねの雪玉が出来上がっていた。ご丁寧に上の段には目と鼻と口が付けられ、下の段にはモルフォーニャさんが抱えていた木の枝が左右に刺さっている……誰がどう見てもカワイイ雪だるま!

 ギラから没収したオージャカリバーを手に、リタ様が雪玉の中のギラに、キングオージャーを奪って他国を侵略しようとしたかと尋問をする。
 ギラは寒さで脳がバグってたのと、目の前に王様がいる時の条件反射で、邪悪の王モードで世界を支配するとかシュゴッダムに連れて行けとか口走り、高笑いするが、体が冷えすぎて歯の根が合わず、まるで様にならない。

 リタ様が冷静に「そうはならない。お前はここで裁かれる」と返す。ギラは慌てて、自分は悪人のフリをしていたのだと弁解する。しかし、リタ様は今さら命乞いかと冷たく突き放し、ギラの悪事への調査を進めていると告げる。ギラは必死にみんなを守りたかっただけと説明する。

 ギラから視線を外したリタ様は、そのまま背を向けて歩み去る。その背中に必死に呼びかけるギラ。モルフォーニャさんはリタ様が仕事を終えたと思い、自分も退勤したいと大きな声で呼びかける。

 重たそうな格子状の城門の前でリタ様が立ち止まる。大きな音とともに門が上へと上がっていく。「客だ」と短く告げるリタ様。
 門の外側にはサナギムたち。自分も戦うと叫ぶギラを、モルフォーニャが雪玉ごと押して城門から遠ざける。意外にパワフルだな。
 リタ様は「この剣は王の証。お前に持つ資格はない」と、ギラのオージャカリバーを雪の中に突き刺す。リタ様の言葉に、ショックを受けるギラ。

 記念すべき(?)ギラのゴッカン初上陸です。それにしても、ゴッカンに連行された容疑者を雪玉に閉じ込めるというのは、事実上の拷問ですが、見た目とのギャップが激しすぎて思考が停止します。

 ギラはンコソパの名前も知らなかったくらいですから、ゴッカンがどんな国で、その国王がどういう存在なのかも恐らく知らなかったでしょう。知っていれば邪悪の王モードで脅迫()するなど考えもしなかったはずです。
 現在のギラは王を自称するものの、その身分だけでなく、意識も知識もシュゴッダムの一国民レベルで留まっていることが示されています。

 雪玉に容疑者を閉じ込める効果の一つとして、寒さで思考力が落ち、また生命の危機にさらされるため、容疑者の人間性が現れやすいのでしょう。
 ギラはそもそも論理立てて説明することがあまり得意ではなさそうなので、雪玉になったことを差し引いても、この場での説明も余りに言葉が足りません。「悪人のフリをしていただけ」では、リタ様でなくても命乞いとしか受け取れません。
 「みんなを守りたかった」という思い、それはギラの真実ですが、裁判で扱うのは事実、つまり「彼が何をしてきたか」です。

 リタ様にオージャカリバーを持つ資格はないと告げられたギラは、その言葉にショックを受けます。「王の証」のオージャカリバーを持っていること、扱えることと「王の資格」があることは同じではないのでしょうか。
 「王の資格」とは、そして王とは何か。『王様戦隊キングオージャー』の物語の根幹に関わるこの問いは、今後も折に触れて繰り返され、ギラだけでなく他の王様たちにも突きつけられることになります。

変身!パピヨンオージャー

 リタ様がサナギムたちに凛とした声で問いかける。
「お前たちは奪うものか、奪われたものか」
 1体のサナギムが手を差し出して「ヒホウ、ワタセ」と要求する。
 リタ様はそうか、と小さな声で応じ、背中に負ったオージャカリバーを手にする。その左目で、サナギムたちを冷たく見据える。「奪うものよ。そこで凍るまで、ゴッカンの吹雪に震えろ」

 リタ様がオージャカリバーを剣先を下にして垂直に立て、虫型の装飾を操作する。オージャカリバーの起動音が鳴り続ける中、リタ様は直立不動のまま、静かに目を閉じる。
 「王鎧武装」の声とともにリタ様が目を開く。その時、ゴッカンの激しい風にリタ様の前髪が吹き上げられ、普段は隠れている右目が露わになる。その瞳は左とは異なり、まるで氷が張っているようだった。

 いよいよリタ様の王鎧武装フルバージョン!リタ様が端正な立ち姿で両手でオージャカリバーを持ち、剣先を下に打ち付ける!鳴り響く硬質な金属音!リタ様は端正な立ち姿のまま、ゴッドパピヨンの守護の力を受けてパピヨンオージャーに変身!ターンをして、オージャカリバーを構える。
 最小限の動きで変身するヒーロー、初めて見たよ!カッケェ!

 ザイバーン城の外で、オージャカリバーを手に自然体で待ち構えるパピヨンオージャー。襲い来るサナギムたち。先頭のサナギムのガンショベルをオージャカリバーでわずかにそらして、一直線に切り下げる!何と速く、重い斬撃!
 続いて3体のサナギムが同時にパピヨンオージャーに襲いかかるが、何とパピヨンオージャーはそれを体で受け止め、勢いが止まったところで剣を横に払う。まとめて斬られ、後ろに倒れるサナギムたち。
 もう1体がすかさず襲いかかるが、まるで歯が立たずに秒殺される。

 パピヨンオージャーが「消えろ」と冷たく言い放ち、オージャフィニッシュを発動する。オージャカリバーを一振りすると、無数の紫色に輝く蝶が刀身から現れて、サナギムの群れに向かって飛び立っていく。
 無数の蝶の中で、素早く剣を振るうパピヨンオージャー。悲鳴を上げるサナギムたち。真っ正面にいたサナギムの1体を捕まえ、その体を蹴って後ろ向きに高く飛び上がる。
 パピヨンオージャーが宙を舞う間に、傷ついたサナギムたちの体を覆うように蝶が群がる。
 パピヨンオージャーが着地し、サナギムたちに背を向けた時、サナギムの体に群がった蝶たちがひときわ輝き、発火して激しい炎へと変わる。
 炎を背に、何の感慨も余韻もなく、その場を離れつつ王鎧武装を解く。

 城の入り口前で呆然と見ていたギラ。モルフォーニャさんはまるで興味がなかったようで、雪だるまの木の腕のバランスを気にしている。
 リタ様が何事もなかったかのように城の長い正面階段を上がってくる。
「招かれぬ者は入れず、許されざる者は逃がさない。最果ての牢獄、ゴッカンへようこそ」
 リタ様が城内へと入ってくる。誰も逃がさぬように、扉が閉じる。
 寒風が吹きすさぶ中、雪と氷に覆われたザイバーン城。

 パピヨンオージャーの変身とアクション、必要最小限の動きで最大の効果を生み出すという、これまたどの王様たちとも違う渋みとカッコ良さが全面に出たものでした。リタ様の性格と他者の言動を受けて行動する裁判長という立場を反映して、武道の〈後の先を取る〉ようなイメージと言ったらいいのでしょうか。リタ様のオージャフィニッシュも、無数の蝶が舞う幻想的な光景と、触れたら爆炎を上げるというギャップが激しくて、なかなかにエグイです。

 静かに現れるメインタイトル。

 提供様カット。
 ザイバーン城正面の長い石造りの階段。どこもかしこも雪と氷に覆われていて、見るからに冷たそうだし、階段は滑りそう。
 その階段を登り、城の正面の上へ上へと上がった先、ザイバーン城を象徴する巨大天秤の支点に、ゴッドパピヨンがとまっている。吹雪など気にしない様子でゆったりと羽を動かしている。

リタ様ともっふん

 ザイバーン城内。王の間であり法廷では、とある裁判の真っ最中。
 王の間全体が半透明の素材と美しくも硬質なデザインで装飾されていて、ゴッカンの氷を思わせる。天井のシャンデリアが華やかさを醸している。
 中央の奥、少し高い壇の上に玉座であり裁判長の席がある。玉座の上にはゴッカンの紋章。
 玉座の左右には、右手に剣を持ち、左手には天秤を掲げ、目隠しをした女神像。

 法廷の左右には、裁判の資料らしき映像が大きく映し出されている。
 被告の左側には被告の氏名や素性など、右側は被告が行った犯罪の内容が表示されているようだ。右側の映像には、丸みを帯びた形の、白くて毛足が長くて、見るからにモフモフしているキャラクターの人形が表示されている。あ、これンコソパの街の広告で見かけたぞ。

 今まさにリタ様が判決を被告に言い渡すところだ。リタ様は裁判長席でもある玉座に、背筋を伸ばし、少し足を開いて座っている。足の間、体の正面にオージャカリバーを立て、両手をその剣の柄の上に置いている。王の間全体の荘厳な雰囲気と身につけた衣装と相まって、そのたたずまいは侵しがたい威厳を放ち、神秘的でさえある。一言でいうとカッコいい。

 被告はこのキャラクターの人形を大量購入し、定価の数十倍もの価格で売りさばいていたという。つまりはいわゆる転売ヤーで、服装からしてンコソパの民のようだ。ゴッカンで裁かれているということは、国をまたいで転売を行っていたのだろうか。

 判決は「マイナス10℃の牢獄で半年過ごすこと」。リタ様が判決の確定を示すように、オージャカリバーの剣先を床に打ち付ける。
 被告の男性は、判決を受けて「転売の何が悪いんだー!!!」と叫びながら、証人台から傍聴席を越えて、玉座の真向かいのいかつい魔物の像へと飛ばされていく。魔物の口が待ってましたとばかりに開き、被告はその口の中へ叫び声とともに消える。口が閉じられると、元の静寂が戻る。
 その一部始終を、傍聴席で見ていたモルフォーニャさんが、被告が消えた方へ振り返り、笑顔で手を振る。
 転売、ダメ、絶対。

 ザイバーン城内。裁判を終えたリタ様に、大量の書物を抱えたモルフォーニャさんが声をかける。モルフォーニャさんは他の国の側近と違い、リタ様を呼び捨てにしている。モルフォーニャさんの性格か、リタ様との関係性によるものなのか。

 リタ様が立ち止まる。モルフォーニャさんが追い付き、ギラの裁判の日取りを相談すると、リタ様は「少し待て」と言い、とある一室へと入る。

 部屋に入ったリタ様が、内側から鍵をかける。一つ、二つ、三つ……いくつものタイプが違うカギをかける。
 部屋の中には、転売ヤーが転売していたキャラクターの人形が……ちょっと待って、だいぶ大きいぞ?

 視点が俯瞰に変わり、室内の全体を映し出す。
 巨大なキャラクターの人形は、窓辺に置かれたソファーに座っている。部屋の真ん中には黒が基調の四角いじゅうたんが敷かれ、さらにそこにモフモフの丸いじゅうたんが敷かれている。
 丸いじゅうたんの上には、それはそれはたくさんの小さな人形が置かれているが、どれもソファーの人形と同じキャラクターである。
 小さな人形たちは、何かを食べたり並んで座ったりと、それぞれに設定があるらしい。
 壁にはポスターが貼られ、ハンガーにはキャラの絵がプリントされた紫色のパーカーがかかっている。
 どうやらリタ様は、このキャラのオタクのようである。

 グッズの攻撃力が半端ないので、趣味部屋かと思いきや、片隅にはシンプルな執務用の机と椅子、部屋の四隅には乱暴に積み上げられたり、床に散らばった書物や紙が大量にある。本来はリタ様の執務室のようだ。
 これほどに公私混同を極めていれば、鍵はいくつあっても足りない。

 「りったん、お帰り~」くぐもった低い声でそう言うと、リタ様は背負っていたオージャカリバーを外してソファの横に置き、人形に膝枕をしてもらう形で、ソファに寝そべる。人形の右手と手をつなぎながら「もっふん、もうやだよ」と話す声は、元のリタ様のものである。なるほど、一人二役!
 以下、リタ様ともっふんが会話している前提でお送りする。

 もっふんが手を振って、どうしたのと話しかける。リタ様がもっふんの転売ヤーを半年しかぶち込めなかったと少しだけ悔しそうに語る。死罪でいいのに、と物騒なことを言う高い声。小さいもっふんだろうか。
 部屋の扉の前で聞き耳を立てていたモルフォーニャさんが、楽しそうに身悶えして、抱えていた資料を落としかける。

 起き上がったリタ様は、普段は立てている高い襟を下ろし、ソファにもっふんと並んで座っている。もっふんの右腕がリタ様の後ろに回され、肩を抱いているように見える。
 リタ様はギラの判決について、有罪でいいよね、と相談する。「ダメ?」と言いつつもっふんを見る。返事はない。
 リタ様は抑揚なく「ダメだよねー、まだ調べなきゃいけないこと残ってるもんねー」と呟く。もっふんが「人間の鑑!」と褒める。
 抱えていた資料を床に置き、耳だけでなく体全体を扉にくっつけたモルフォーニャさんが、ニヤニヤしている。面白さに耐えきれず、音を立てないように両手をモダモダと動かしている。

 もっふんに褒められたリタ様は、襟を立ててファスナーを閉めると、リタ頑張る、と気合を入れる。オージャカリバーを手に取り、立ち上がる。
「ちゃっちゃと調べて、さっさと有罪にしてやる」
 およそ公正中立をモットーにすべき立場の人間とは思えぬ……いやだからこその隠された本音を口にし、歩き出す。
 リタ様が出てくる気配に慌てるモルフォーニャさん。

 モルフォーニャさんが資料を手に扉を離れるのとほぼ同時に、リタ様が部屋の中から出てくる。
 さもずっとそこにいたかのように目をそらしてとぼけているモルフォーニャさんに、リタ様が告げる。「まずは各国王の聞き取りと、情報収集」
 スタスタと歩き出すリタ様。「え、出張……?」つまり長時間勤務が決定し、呆然とするモルフォーニャさん。彼女の手から資料が落ちる。

 制作発表当時から触れられていた、リタ様の意外な一面が明らかになりました。そして記念すべきもっふんの(厳密にはグッズ)初登場です。リタ様はもっふんのかなりのガチオタのようです。
 もっふん初登場時は転売ヤーが生まれるほど人気のキャラクターとしか分かりませんでしたが、さすがゼンカイやドンブラetcを世に送り出し続けた東映特撮のスタッフ、まさかまさかの展開がこの後にバンバン出てきます。
 もっふん誕生の経緯は東映公式の番組サイトなどで明かされていますので、興味のある方はそちらもご覧ください。

 地帝国バグナラク。デズナラク8世がカメジムに問い質す。
「チキューの秘宝、2体目の守護神……間違いなくそこにあるんだな?」
 激しく燃え盛るかがり火。その明かりさえようやく届くかというほどに高い天井の、色味の少ない壁画。暗さとほぼ線画であることと劣化で、絵のあちこちが判然としない。
 カメジムが必ず、とひざまずきつつ答える。「虫の知らせがありまして……」と、カメジムはさも愉快そうに声を立てて笑う。
 対照的に静かに立つデズナラク8世。

リタ様、職権を発動する

 ンコソパ。ペタ城内、ヤンマ君のワークスペース。
 リタ様が鋭く問う。「ギラがキングオージャーを動かせたのは、お前が手引きしたからか?」
 玉座代わりのワーキングチェアに座り、目を合わせないものの話は聞いているヤンマ君。側近のシオカラ君と親衛隊員たちとが、その左右に並んでヤンキー座りしてリタ様を睨んでいる。
 シオカラ君がそんなわけないと立ち上がって抗議する。リタ様が床にオージャカリバーの剣先を大きく打ち付けると、シオカラ君は尻尾を巻いた犬のごとくすごすごと背を向け、リタ様から離れる。

 リタ様はヤンマ君を見据えつつ「ギラの刑が確定したら次はお前だ。恩赦で減刑してほしければ協力しろ」と告げる。
 ヤンマ君はリタ様を見ないで答える。「アイツが勝手にトリプルAの生体認証を突破したんだよ」

 つまり何だ、と重ねてリタ様が問う。ヤンマ君はワーキングデスクの上のいつものドリンクを手に取る。
「そう簡単に奪えるモンじゃねえんだ。アレを使えるのは、王の資格を持つ者だけだ」
 そう言って、はじめてヤンマ君はリタ様を見る。

 ヤンマ君の言葉を聞いたリタ様が、目を閉じ深く息を吸う。そして上を向くと、突如絶叫する!「ウヴァアアアアアアアーーーー!」
 耳をつんざく大声に、腰を抜かしたり耳を押さえたりするシオカラ君や親衛隊員たち。ヤンマ君は、口から勢いよく飲み物を吹き出す。口を拭ったヤンマ君が「アァ?」とリタ様を見る。

 リタ様は周りのことなどお構いなしに、両手で小さいもっふんの人形を持ち、もっふんに話しかける。「サイアクー。やっぱソッチだったね」
 コクコクとうなずく(ように)小さいもっふん(を動かすリタ様)。

「協力しただろ。俺の裁判はナシだよなあ」
 ワーキングチェアの背もたれに背中を預けてリラックスした姿勢で、当然のようにヤンマ君が言う。シオカラ君はヤンマ君が噴き出した飲み物がかかったのか、しきりに肩の辺りを払っている。親衛隊員たちは座り直してリタ様を見ている。
 リタ様がつかつかとヤンマ君の近くへと歩み寄る。
「舐めるなよ!お前が国王だろうと……」

「……知ったことか!」
 イシャバーナ。フラピュタル城内、王の間。
 リタ様に詰め寄られたヒメノ様が、目を丸くして体を反らす。かろうじて二人の間に通されたセバスチャンの腕一本が、一触即発を防いでいる。
 ギラの逃亡に手を貸した罪は必ず裁く、と鼻息も荒いリタ様。体勢を立て直したヒメノ様がやれるものならやってみろ、とリタ様の目をのぞき込む。
 にらみ合う二人。ヒメノ様を守るというより、ゴングが鳴ってもにらみ合うファイターに割って入るレフェリーのようなセバスチャン。

「ときに、優秀な医師はいるか?」
 唐突なリタ様の質問に、ヒメノ様とセバスチャンは顔を見合わせる。ヒメノ様が、くるりと体の向きを変えてリタ様の前を離れる。
 王の間から見渡せる、治療スペースでもある大広間をセバスチャンが手で示す。リタ様が振り向くと、そこには大広間に降りたヒメノ様。
 ヒメノ様は優雅な仕草で右手を胸の辺りに当て、左手でドレスのスカートの一部を持ち、西洋風のお辞儀をしながらイタズラっぽく微笑む。「ここにおりますが?」

 トウフ。タキタテ城内、王の間。
 玉座ではカグラギ殿が、ギラが盗賊団の親玉だというウワサだの、毒虫を主食にした化け物だのと、熱心に与太話を語っている。
 その正面、サイズ感がバグってる(Ⓒ東映公式サイト)装飾品が置かれた大広間では、やはりサイズ感がおかしいドデカ座布団に座ったリタ様が、何人もの黒子に囲まれている。どでかいちゃぶ台の上には、数々のトウフ自慢の料理が並んでいる。
 大きなお椀を手にしたリタ様は、「もういい」とだけ言い、立てた襟の内側に器用に箸を差し入れ、口をもぐもぐさせる。カワイイ。

 シュゴッダム。コーカサスカブト城内、王の間。
「ギラはもちろん死罪になるんだろ?」
 リタ様に背を向け、玉座の前を後ろ手で歩いていたラクレス様が振り返り、砕けた口調で問いかける。玉座の左右にはボシマールさんとドゥーガさんが控えている。

 玉座の向かい側、リタ様が円形の壇の中央に立っている。「それはお前が決めることではない」と冷静に答える。
 ラクレス様はリタ様から視線を外して小さく笑い、何かを手に取る。金属が鳴る音がする。ラクレス様は手にしたものを見つめながら語る。
「私は、脅威と見なしたものは例外なく力で排除する。ギラも……」
 ラクレス様の両手にあるのは、見慣れない黄金色の剣だった。彼はまるで剣そのものというより、剣が持つイメージを誇張するように刀身に触れる。
ラクレス様がリタ様を見据えて笑みを浮かべる。砕けて柔らかだった口調に、威圧が加わる。「そしてもし、それを解き放つようなことをするなら、君の国も」

 黙って聞いていたリタ様が一直線にラクレス様に歩み寄る。リタ様の上衣の長い裾が揺れる。右手の手袋を外し、ラクレス様の前で立ち止まる。
 次の瞬間、リタ様の右手が素早く翻り、ラクレス様の左頬を打つ。王の間に乾いた音が響き渡る。

 予想外の展開に驚くボシマールさんとドゥーガさん。緊迫した空気の中で、打たれた勢いで顔を左に向けたままだったラクレス様が、何が起きたかを理解したように口元を歪める。
 「失礼、蚊がいたもので」リタ様が平然と右の手のひらを見せる。確かにそこには、小さく赤いものがある。

 ラクレス様は作った笑みをリタ様へと向ける。「法に則れば、暴行罪ではないのかな?」優雅に問いかけるが、目の奥は笑っていない。
 リタ様は「この程度で痛むのか」と、珍しく小馬鹿にしたように目に笑みを浮かべ、くるりとラクレス様に背を向ける。
 その背中を作り笑顔で見送るラクレス様。しばらくののち、笑みを消したその目元には、どうしても抑えきれない感情が現れていた。

 ということで、リタ様が職権を発動して各国に出向き、王様たちに事情聴取を行いました。意外にもリタ様は杓子定規にただ問いただすのではなく、相手によって硬軟を使い分けています。常日頃から、国をまたいで悪事を働くような連中を相手にしているのですから、自然と押し引きや駆け引きにも長けてくるのでしょう。
 カグラギ殿のおもてなしによる懐柔も、はなから中正公立を盾に断るのではなく、もてなされながらもその証言の真実性を冷静に判断しています。

 最後にシュゴッダムを訪れたリタ様は、ラクレス様からギラへの判決次第では武力行使も辞さないと圧力をかけられます。
 裁判官に対して懐柔を試みることはもちろん、まして圧力をかけることなど、あってはならぬことです。いくら日々冷静沈着を心掛けていても、越えてはならない一線があるのだ、とばかりにリタ様は強烈な平手打ちをラクレス様にお見舞いします。

 初期のラクレス様はとにかく高圧的ですぐに武力をチラつかせる「ザ・悪い奴」です。この時点ですでにラクレス様の道具(熱烈なラクレス様ファン)以外の視聴者は、「リタ様よくぞやってくれた!」と心の中や外でガッツポーズを決めたと思います。

 「殴ったのは蚊がいたから」は、他の物語であれば殴られた側は強者で、殴る側は弱者です。弱者が強者にその思いや存在を刻み付け、強者にやり返す手段として用いられることが多い印象です。
 しかし、国の武力がどうであれ、ラクレス様とリタ様は対等です。上下も強弱もありません。一国の王が一国の王に対して実力行使に及んでおきながら「蚊がいたから」では、動機としては弱すぎます。

 ラクレス様もさんざん煽っておきながら、よくもいけしゃあしゃあと暴行罪だと言ったなあと思いますが、これに対するリタ様の「この程度で痛むのか?」は秀逸でした。

 武を誇るシュゴッダムの国王であり、武力行使をチラつかせたラクレス様が、たかが平手打ち一発で国際裁判をやるのかと言外に告げています。
 裁判になったら、正当性がどうれあれ、国の名誉にも威光にも傷がつき、確実にシュゴッダムとラクレス様の評判は下がります。それは今後の内政外交に大きく影響を及ぼします。

 なおかつ、ラクレス様個人に対して「お前弱いんだなー」と言ってるのも同じなので、ラクレス様が何をどう言っても「弱い犬ほどよく吠える」状態になってしまいます。彼は口をつぐむしかなくなりました。
 『王様戦隊キングオージャー』は、会話の展開や言葉の選び方のセンスが本当に素晴らしいです。

 国王として笑みを作って見せはしますが、ビンタされたり小馬鹿にされたりして、腹が立たないわけがありません。抑えきれなかった感情が目元だけに現れます。それがかえって「ラクレス様もまだまだ青いな、修行が足りないな」感を醸し出しています。そう、彼もまだアラサーの青年なのです。

裁判前の夜

 ゴッカン。夜。ザイバーン城内の牢獄。
 裁きを受けた転売ヤーが牢獄の鉄格子を掴み、リタ様に対して恨み言を叫ぶが、寒さに耐えかねてひざを付く。
 その横には、鉄格子に背を向け、ひざを抱え背中を丸めて座るギラ。彼は目を閉じ、ンコソパで見たコガネちゃんとブーンのことを思い返している。

 ギラの背後にそっと忍び寄る影が一つ。その影はギラの頭へと手を伸ばし、髪の毛を数本ほど一気に引き抜く。一本でも痛い時があるのに、まとめて何本もとなれば相当痛い。さすがのギラも大声を上げて振り返る。

 人影の正体はモルフォーニャさんだった。「元気出た~?」と笑いを含んだ声で問いかける。そんなわけないと食ってかかるギラ。ギラの剣幕にモルフォーニャさんが怯えるフリをする。

 視点が牢獄の内部を俯瞰で見る位置に変わっている。鉄格子の間近にいるのは転売ヤーとギラだけで、真ん中に一人か二人、他はみな、風雪を避けるように牢獄の奥や壁際にいる。鉄格子との距離がシャバへの未練の濃さを現しているのだろうか。

 モルフォーニャさんがどこか楽しそうに「仕方ないかあ。死罪だもんねえ」と続ける。ギラは険しい顔で死罪という言葉の重さを噛みしめる。
 ふと、ゴッカンの国民はほぼ全員が罪人か元罪人だと話すモルフォーニャさん。ギラはちゃんと聞いていて、この国の民はみんな一度、裁判長に裁かれているのかと呟く。

 モルフォーニャさんはウキウキした様子で「だから国民全員、リタのことが嫌いなの。あなたも恨むならリタを恨んでくださいね~」とささやく。
 モルフォーニャさんの言葉に合わせ、囚人服をまとった受刑者たちの映像が流れる。大人しい者も荒れている者もいるが、みな陰気である。

 モルフォーニャさんはついでに転売ヤーにも自分ではなくリタ様を恨め、と話しかけ、立ち去ろうとする。
 じっと考えていたギラは、潤んだ目を伏せ、「恨まない」と涙声ではあるものの、きっぱりと言う。聞きとがめたモルフォーニャさんが振り向く。

 ギラの真剣な雰囲気に、どこかわざとらしかったモルフォーニャさんの笑顔が、優しく見守るように変わる。
 「正しさを守る人ほど嫌われる。だから……あの人がそうだと言うなら……受け入れる」
 ギラがとつとつと語る。話しながらもこらえきれずに涙を見せ、唇を噛みしめる。「でも、悔しい……かも」
 ギラの真情を受け止め、優しく深くモルフォーニャさんがうなずく。そして来た時のように真意が分からない笑顔を浮かべ、くるりと背を向けると、鼻歌交じりにスキップをして去っていく。

 城内の一室。リタ様は立体ホログラムを使用した通信機器で誰かと会話をしている。まとめて結い上げた金髪に、耳飾り……ということは?
 通信を終えるや、目を閉じ深呼吸するリタ様。室内に絶叫が響く。

 裁判を控えたギラとモルフォーニャさんの会話の場面。モルフォーニャさんがリタ様に信頼されている理由が垣間見えます。
 普段は面倒臭がりで、気分屋で、ちょっと(だいぶ?)他人をおちょくっているような言動を取っていますが、必要な仕事は何だかんだでこなしているようですし、ギラが思いを語る時には優しく見守り、茶々を入れずにきちんと受け止めます。優しさと賢さを併せ持ちつつも、悪人たちに付け入るスキを与えない所がリタ様の側近たる所以なのでしょう。

 ギラはこの時、恐らく初めて「自分が死ぬかもしれない」と思ったのではないでしょうか。それはラクレス様に「世界の敵となった」と言われた時とは別の絶望や恐れを彼にもたらしました。
 〈理不尽な死〉を目前にして、本当の無念や悔しさをギラは知りました。

リーガル・ハイ in ゴッカン

 ゴッカン。ザイバーン城。相変わらずの荒天である。
 いよいよギラの裁判当日となり、各国の王たち側近たちが続々と法廷へとやってくる……が、城内と法廷とをつなぐ橋が不意に揺れる。橋は二つあり、片方にはヒメノ様とセバスチャン、もう片方にはヤンマ君とシオカラ君、カグラギ殿と黒子のクロダが乗っている。ヒメノ様たちの方は法廷の床より浮いていて、ヤンマ君たちの方はかなり沈んでいる。そんなところに文字通りの天秤仕掛けがあるとは、さすがはザイバーン城。

 恐らくは重量がアンバランスなので、ヤンマ君側の誰かが釣り合うようにヒメノ様側に移動すればいいだけなのだが、そうは問屋が卸さない。どっちが合わせるかで揉めるヒメノ様とヤンマ君。

 ヒメノ様が強めの圧を込めてセバスチャンを呼ぶ。「かしこまりました」と答えるセバスチャン。何をどうするつもりなんだ、セバスチャン。
 同じことを思ったようで、ヤンマ君がセバスチャンに噛みつく。ヨボヨボとヤンマ君に言われ、ほぼほぼ25歳だと言い返すセバスチャン。何故か高笑いで張り合い出す二人。ト○とジ○リーか。

 そんな賑やかな若者たちのてんやわんやを、すでに傍聴席に座っているドゥーガさんとボシマールさんがずっと冷ややかに見ている。ボシマールさんはバカにしたように鼻で嗤うと、開いていた書物を閉じる。ドゥーガさんはなおも王様たちを見つめている。やっていいなら口を挟みたかったのかもしれない。
 二人の前、最前列の傍聴席にはラクレス様が座っている。彼も従者たちと同じく、わずかに顔を傾け、背後の様子をうかがっている。

 ヤンマ君とセバスチャンがト○とジェ○ーのごとく仲良くケンカし始めると、ラクレス様は傾けていた顔を正面に戻し、その眼に圧を込め、わずかにあごを上げて前を見つめる。
 ラクレス様の視線の先には、被告人として法廷に立っているギラ。ギラは視線を感じて後ろを振り向く。まともに視線がぶつかる二人。
 ギラはラクレス様を睨みつける。我知らず、その名を口にする声には怒りがこもる。

 王の間でもある法廷に、オージャカリバーを手にしたリタ様が現れる。玉座でもある裁判長席の前に立ち、オージャカリバーを下向きに持ち、剣先を強く床に打ち付ける。開廷の合図だ。
 傍聴席にゆったりと腰を落ち着けるカグラギ殿。カグラギ殿の背後を守るようにクロダが立つ。ぎりぎり駆け込むモルフォーニャさん。
 ギラは目を閉じ、深呼吸をする。
 リタ様の声が法廷に響く。「これより、ギラの判決を言い渡す」

 尋問も何もなく、いきなり判決と言われ、自分の話を聞いてくれないのかと慌てるギラ。リタ様に待ってくれと必死に訴えかける。
 リタ様の言葉の続きを、固唾をのんで見守るラクレス様。
 果たしてリタ様の判決は……?

「被告人ギラは、無罪」オージャカリバーを打ち付ける音が、ひときわ高く大きく法廷中に鳴り響く。

 傍聴席では。
 予想通りだと言いたそうに鼻で嗤うヤンマ君。
 つまらなそうにひと房の髪の先を指に絡めているヒメノ様。
 ほっとしたような顔のモルフォーニャさん。
 驚いて顔を上げるカグラキ殿。クロダは……何も分からない!

 ギラは、頭が追い付かずに「え?」と呆然としている。

 ラクレス様が優雅な笑みを作って立ち上がる。
「失礼、よく聞き取れなかったが……?」
 ボシマールさんとドゥーガさんも、釣られたようにゆっくり立ち上がる。
 リタ様は「無罪だ。む・ざ・い」とだけ繰り返す。

 当然ながらラクレス様が納得のいく説明を要求する。裁判は原則的に判決の後にその判決に至った理由を説明するものだが、被告人尋問も行わずにいきなり無罪判決になれば、説明をせかしたくもなる。

 リタ様が、ギラがオージャカリバーの生体認証を突破したことは、逆説的にギラが王の資格を持つ可能性を示していると説明を始める。ラクレス様が根拠のない憶測だと反論する。
 するとそれはそれは楽しそうに、ヤンマ君がラクレス様の言葉を大声で否定する。ヤンマ君は傍聴席の背もたれに右ひじを乗せてもたれかかり、ラクレス様に向けて「裁判長が正しい」と言い、ニヤリと笑う。
 そんなヤンマ君を冷たい目で見るラクレス様。

 リタ様の「レインボージュルリラ」という言葉に、ラクレス様は大きく目を見開き、裁判長席へと視線を戻す。同じように驚くギラ。
 リタ様が続ける。〈レインボージュルリラ〉という料理はチキュー上のどこにも存在しないこと。唯一、コーカサスカブト城で十数年前に供された記録を発見したこと。

 ギラの幼少期の記憶が蘇る。周囲の光を反射して、キラキラと光るゼリーが容器いっぱいに入っている。それをスプーンですくって一口食べる幼いギラ。隣に座る10代前半くらいの少年に「美味しい」と笑顔を向ける。その言葉に少年も優しい笑顔を浮かべ、「良かったな」と返す。ギラも隣の少年も、お揃いの上品かつ高級そうな衣装を着ている。

 二人がいる場所からは、城壁とシュゴッダムの紋章が入った旗が見える。ギラがもう一口食べようとした時、一人の文官が通りかかる。巻き癖のある髪を真ん中分けにした特徴的な髪型、丸みのある体型、左手には書物を抱えて……もしやこれは?
 その文官は二人の姿を認めて立ち止まると、穏やかで上品な笑みを浮かべて向き直り、少年に呼びかける。

「ラクレス様、国王がお呼びです」
 文官……ボシマールさんが右手を胸に当て、端正に一礼をする。

「こぼさずに食べるんだぞ、ギラ」ラクレスと呼ばれた少年は、そう言って優しくギラの頭をなでる。満面の笑みでうなずくギラ。

 リタ様の声が、ギラを思い出から現実へと引き戻す。「彼の本名はギラ・ハスティー。ラクレスの弟であり、シュゴッダムの王族だ」

 傍聴席。
 衝撃の事実に背もたれから肘を下ろし、目を見張るヤンマ君。その後ろで傍聴席の椅子を吊り下げているパーツに抱きつくシオカラ君。
 予想外の展開にニヤリと腹黒く笑いながら、あごをさするカグラキ殿。その後ろでは、クロダが覆面の上から両手で口を押えて驚きを表している。

 他国の王や側近の反応は当然として、最も不可解な反応を見せたのはドゥーガさんだった。ギラでもラクレス様でもなく、ボシマールさんを見つめている。ボシマールさんはボシマールさんで、驚いたというより、ドゥーガさんがなぜ自分を見てくるのか分からない、というような表情でドゥーガさんを見返している。
 うわあ、初見だと「二人して超ビックリして何も言えない」みたいに見えたけど、見直したら全然違う!!!行間が深すぎる!!!!

 ギラが信じられないという風にラクレス様を見る。ラクレス様はギラの視線を一度受け止めてから、リタ様に向けて「何を根拠に」と問う。まるでギラの心の声を代弁するように。
 しかしその問いに答えたのは、リタ様ではなくヒメノ様だった。
「この私が遺伝子照合したのだから、間違いない」

 イシャバーナ・フラピュタル城内で専用の機械を用いて遺伝子照合をしているヒメノ様。その結果に「ウソでしょ」と驚く。
 では照合した遺伝子はいつどうやって採取されたのか?ということで、リタ様の平手打ちと、ゴッカンでギラの髪の毛が抜かれた場面が示される。
 ラクレス様に輝く笑みを向けるヒメノ様。険しい表情のラクレス様。

 リタ様がラクレス様に「知ってて隠していたな?」と問う。ラクレス様は答えず、視線をさまよわせる。ギラはまだ頭が追い付いていない。
 リタ様が構わず続ける。反逆者が兵器を奪って破壊行為を行ったのではない。「王族が自分の物を使い、王族としてやるべきことをやった。法に則れば何の問題もない」
 リタ様の言葉を、じっと聞いているギラ。ギラが「正しい人」だと評したリタ様に、自分の行動が正しかったことを認められたのだ。

ゴッカンは不動なり

 ラクレス様が反論する。ギラは侵略をした、民を守ったと何故言い切れるのか、と。
 リタ様は淡々と民が証言した、と答える。ラクレス様は反論した時の姿勢のまま、ほんの少しだけ眉をひそめる。

 リタ様は語る。各国の民たちは被害を訴えるどころか、誰もがギラに恩義を感じていた、と。
 リタ様は各国をめぐり、王様たちだけではなくギラと関わった民たち、特に子どもたちから証言を集めていた。破壊行為があったなら、真っ先に被害に遭い、怖い思いをしたであろう子どもたちに。
 リタ様が出会った、どの国の子どもたちも笑顔でギラの話をした。誰もがギラはいい奴だったと話した。コガネちゃんに至っては、みんなのために悪役になるような人なのだ、とリタ様に真っ直ぐに訴えた。

 ラクレス様が声を放って笑い出す。やがて笑顔を納めると、リタ様に向けて忠告を忘れたのか、と睨みつける。ギラを解放することは自分を敵に回すことだ、と怒鳴り声を上げるが、何故か、全然怖くない。

 ラクレス様の脅迫を物ともせず、リタ様が淡々と告げる。
「法とは、王を穿つ矛」
 肩で息をしつつ、リタ様の言葉を目を見張って聞くラクレス様。
「法とは、民を守る盾」
 ラクレス様を見つめていたギラが、静かにリタ様の方へと振り返る。

「……なればこそ、ゴッカンは不動なり!地が裂け、天が降ろうとも、このリタ・カニスカは揺るがない!」
 ラクレス様に、というよりまるでチキュー全土に言い渡すように告げる。
「私が無罪と言ったら、無罪だ!!!!」
 覚悟と決意を示すように、リタ様は何度も力強くオージャカリバーを床に打ち付ける。高らかに、力強い音が法廷中に響き渡る。それは判決の確定と、裁判が終わったことを示していた。
 ゴッカンの凍土よりもなお固く揺るがぬ姿を、陶然と見上げるギラ。

 リタ様を鋭く見据えていたラクレス様は、感情を無理やり抑え込むように深呼吸をして、荒々しく傍聴席を離れる。無言でついて行くドゥーガさんとボシマールさん。
 立ち去るラクレス様一行には目もくれず、カグラギ殿は右手で顔を隠しているが、その手の下でふてぶてしい笑みを浮かべる。

 ギラは、安堵や喜びや感動などで胸いっぱいになり、絞り出すようにリタ様に「ありがとう」と伝えるのがやっとである。
 リタ様は先ほどと変わらぬ姿勢と口調で「仕事をしただけだ」と答える。

 誰かからの告発を受ける、または国際犯罪として認知された状態で行うからなのか、ゴッカンでの裁判は私たちが知る方式とは異なっています。被告の容疑を追及する検察官も、被告の主張を代弁する弁護人もいません。事前の資料や、モルフォーニャさんたちザイバーン城で働く人たちの地道な調査に加え、それだけでは分からないことは、ギラの裁判のように、リタ様が直接調査したり、証人を法廷に呼んだりして、より多くの情報を集めるのでしょう。それらの全てを天秤にかけて判断するのはリタ様です。
 
 つまり、リタ様まで続く代々のゴッカン国王は、どんな相手のどんな話も受け入れる度量と、全ての情報を取捨選択し虚実を見抜く透徹した賢さと、どんな事情を抱えていようと流されない不動の意思、その全てを兼ね備えていなければならない過酷な立場です。
 そりゃあストレスがたまるし、叫びたくもなります。癒しを求めて底なし沼に自ら身を沈めてしまいます。ぬいぐるみと会話なんて当たり前です。

 それにしても、裁く人がいて、裁かれる人がいて、証人がいて、白を基調にした法廷……知ってるッ!!知っているぞッッッ!!!
 これは……お白州だッッッ!

 最近は時代劇そのものも少なく、まして裁判モノなどやってるのは衛星放送くらいなので、ご存じない方もあろうかと思います。お白州というのは『鬼平犯科帳』や『大岡越前』、『遠山の金さん』などではよく出てくるのですが、要は江戸時代の法廷です。

 大岡越前も遠山の金さんも、江戸の町奉行、つまり江戸の警察と司法の組織のトップです。江戸の町の治安と裁判を担当しています。鬼平こと長谷川平蔵は〈火付け盗賊改メ方(略して火盗改メ)〉という組織のトップで、こちらは特に火事と窃盗犯を担当します。それぞれのドラマの詳細は別の話なので割愛します。

 町奉行にも火盗改メにも、いわば警察官である同心がいて、さらに同心を助ける岡っ引きなどがいます。彼らが捜査をして犯罪者を捕まえます。捕まえた犯罪者を(拷問して)取り調べ、その後にお奉行様なり火盗改メの長官なりが裁判官として法廷で裁判をし、判決を下します。お奉行様の部下が検察官であることもありますが、基本的に弁護人はいません。必要とあれば証人が呼ばれます。

 裁判は奉行所や火盗改メの長官が住む役宅の内庭で行われます。その場所の通称が「お白州」です。なぜ「お白州」なのか。
 簡単な話で、白い砂が敷き詰められているのです。被告や証人は白い砂の上に置かれたゴザの上に座ります。一方で裁く側は、お白州がある庭に面した専用の座敷にいます。あと、裁判の経過と判決を記録する書記もちゃんといます。
 ゴッカンの法廷のコンセプトに「お白州」のイメージがあったかどうか分かりません。スミマセン、私が勝手に喜んでいるだけです。
 
 各国の子どもたちがギラについてリタ様に語る場面。リタ様は普段通りのリタ様のまま接しています。リタ様が子どもたちにも全身で向き合うからこそ、子どもたちは素直に自分たちが思ったこと感じたことを伝えます。お団子を食べるリタ様、めっちゃ可愛かった(*^-^*)

 それにしてもコガネちゃんは、10代前半とは思えぬほどにしっかりしています。ギラが天然だからでしょうか。彼女はギラは悪人じゃないと一方的に情に訴えるのではなく、ギラがなぜ悪人たりえないかを簡潔かつ的確に話しています。
 コガネちゃんだけでなく、この作品に出てくる女性陣、みんな賢くて芯があって強いんですよね……つまりみんな大好きです。

5人の王様、王鎧武装!

 ギラの裁判が結審した直後、法廷全体が揺れる。何事かと辺りを見回すギラ。傍聴席を吊るす鎖が揺れて音を立てる。

 ザイバーン城の正面階段の前庭、つまりギラが雪玉にされた場所。
 そこに轟音と共に姿を現したのは、アリジゴクのBNAを持つ怪ジーム=ジゴクジーム。彼は高笑いをすると、自分の掘った穴から地獄に案内してやる、と吹雪の中で高らかに叫ぶ。

 視点が上からに変わる。前庭にはなかなかに大きな穴がいくつも空いている。そこからたくさんのサナギムがはい出してくる。先に地表に現れたサナギムの数もかなり多く、ずいぶん前から侵攻を始めていたようだ。
 グッと引いたロングショットに切り替わる。穴は前庭全体にボコボコ作られていて、よくもまあゴッカンの凍土をぶち抜けたものだと逆に感心する。

 ジゴクジームが木の枝の間から、異変を察して様子をうかがう。
 吹雪の中、颯爽と現れたのはオージャカリバーを手にした王様たち!ヤンマ君を先頭に、ヒメノ様、ギラ、カグラギ殿と続く。
 横並びになり、それぞれのポーズでオージャカリバーを構える王様たち。ギラは持つ剣がない代わりに、マントの一部をマフラーのように巻いていたのをほどいて、後ろに回す。風に舞うマントがカッコいい!

「五王国同盟は国が一丸となって敵を打ち倒すために制定するものである」
 最後に現れたリタ様が、五王国同盟の条文の一部を暗唱しながらギラの横に並び、ギラの胸にギラのオージャカリバーを押し付ける。
「戦え。拒否権はない」
 そして他の王様たちにも戦うことを命じる促す。

 ヒメノ様が振り返る。何でもいいから早くしろ、と苛立ったように言い、寒すぎると身を震わせる。南国に生まれ育ち、南国仕様の生地にオフショルダースタイルのドレス姿だから、それはそれは寒いだろう。
 ヤンマ君も振り返り、同盟外された気がするんだけどと笑顔で嫌味を言う。いやアナタは自分から抜けたのよ?
 カグラギ殿がしれっと笑顔で「この日が来るのをずっと信じていた」と言い、ギラとヤンマ君とヒメノ様に同時に「ウソつけ!」と突っ込まれる。

 ギラがオージャカリバーを封印していた鎖を外す。久々の邪悪の王モードで「俺様がひねり潰す!」と以前に比べて頼もしさが増した笑みを浮かべて前に出る。

 他の王様たちもそれぞれに自らのオージャカリバーを操作する。ギラが意気揚々と「王鎧」まで叫んだ時。
 ギラの左右にいたリタ様とヤンマ君が、邪魔だと言わんばかりに同時に足を延ばしてギラを蹴り倒す!雪の中に突っ伏すギラ。
 リタ様とヤンマ君はもちろん、ヒメノ様とカグラギ殿も倒れたギラに目もくれずにそのまま前に出て、一斉に王鎧武装と叫ぶ。七色に輝く四本の剣。

 蹴り倒されたギラは何が起きたか分からず、起き上がった後もキョロキョロする。前に出た王様たちの様子に気付き、完全に出遅れたと悟って悔しそうに叫ぶ。一歩も二歩も遅れて、オージャカリバーを構えて王鎧武装する。
 ザイバーン城の陰にいたシュゴッドたちが飛び出し、それぞれの王に自分たちの力を分け与える。
 王鎧武装を終えた王様たち。それぞれに個性あふれる構えを見せる。
 一人一人でもカッコいいのに、五人並んだらとてつもなくカッコいい。
 でも、誰も名乗らない!

 よく分からない奴らが来たので見守っていたジゴクジームとサナギムたち。とりあえず攻撃しておけとばかりに、襲い掛かる。
 高笑いをひとしきりぶちかまし、走り出すクワガタオージャー。

 ザイバーン城近くの林の中。
 舞うように剣を振り、サナギムを蹴散らすカマキリオージャー。
 重心低く重みのある斬撃でサナギムを斬り伏せるハチオージャー。
 剣と矢、武器を使い分けてサナギムを殲滅するパピヨンオージャー。
 林の中を高速で移動しては、早撃ちで倒していくトンボオージャー。
 がむしゃらにサナギムたちを斬り捨てるクワガタオージャー。

 とうとうジゴクジーム自らがクワガタオージャーと刃……ドリルを交える。クワガタオージャーはオージャフィニッシュを発動させ、ジゴクジームにダメージを与える。
 するとジゴクジームは一度地中に隠れて遠ざかり、離れた場所で巨大化しながら現れる。

5人が操縦、キングオージャー!

 巨大化したジゴクジームを見て、クワガタオージャーはキングオージャーを降臨させる。集まり、合体するシュゴッドたち。
 ようやく王様五人が集まった状態で、守護神キングオージャーがチキューに降臨したぞ!
 
 ギラがノリノリで他の王様たちに自分に続けと呼びかける。守護神キングオージャー(以下キングオージャー)がシュゴッドソードを振り上げる。
 ジゴクジームが、シュゴッドソードを持つ手を攻撃する。衝撃で手から外れ、ポーンと飛んで行って地に突き刺さるシュゴッドソード。「あ……」と冷静な声を上げ、自分の右手を見つめるパピヨンオージャー。

 ジゴクジームの胴を挟み込むキングオージャー。トンボオージャーが素人は引っ込んでいろ、と叫び、両腕を離すように動かす。締め上げられていたジゴクジームの体が解放される。見本を見せてやる、とトンボオージャーが言った時、ハチオージャーが自分に任せろと割り込んでくる。

 空高く飛び上がったキングオージャーが、ジゴクジームめがけてライダーキックをぶちかまそうとする。しかし、高さを取り過ぎて時間の猶予があったことと、そもそもそれほど体力を削れていないのとで、簡単にジゴクジームに反撃される。ジゴクジームがドリルを旋回させながら勢いよく地面にその腕を突き刺す。するとジゴクジームの周辺から突かれた衝撃で何本もの雪の柱が立ち、視界を遮る。体勢を崩すキングオージャー。

 その隙にまた地中へと潜るジゴクジーム。忘れられたかのように地面に刺さったままのシュゴッドソード。羽を動かし、何とか自力で脱出しようとしながら、パピヨンオージャーが冷静に「逃げたぞ」と告げる。

 カマキリオージャーが、敵を倒したいなら他の連中は降りればいいとなかなかのワガママを叫ぶ。キングオージャーの右足が輝き、ゴッドカマキリの姿に戻ると、何と片足スキーの要領で、一気に雪原を爆速で移動していく。
 雪の中を潜っては飛び上がって逃げるジゴクジームと、右に左にバランスを取りつつ追いかけるキングオージャー。
 地中を突き抜け、崖の下の方から飛び出すジゴクジーム。崖の上から飛び出しながらジゴクジームの姿を目に留め、絶好の機会に「執刀する」と、とどめを刺そうとするカマキリオージャー。

 まさにジゴクジームに必殺の回し蹴りを叩き込む寸前、ヤンマ君が邪魔すんなと割って入る。タイミングが狂い、キングオージャーの右足はむなしく空を切り、蹴りに込めたエネルギーだけが空の彼方へ飛んで行く。
 九死に一生を得たジゴクジームは、またしても地中に潜る。

 呼び寄せられたゴッドカブトが変形し、カブトキャノンになる。トンボオージャーがそこだと言って狙った場所は、何とシュゴッドソードが突き刺さったままの場所のすぐ近く。
 冷静に私に当たる、と抗議するパピヨンオージャー。
 直撃はしなかったものの、ゴッドカブトのキャノン砲である。リタ様が刺さっていた地面周辺から爆炎が上がり、地面ごとシュゴッドソードとジゴクジームが吹っ飛ばされる。リタ様の絶叫が響き渡る。
 とうとうリタ様が「貴様らの罪は必ず裁く!」とお怒りモードになる。

 ドタバタを経てキングオージャーの手にシュゴッドソードが戻ってくる。
 切り結ぶジゴクジームとキングオージャー。徐々にキングオージャーの方が優勢となり、とうとうジゴクジームが地上に倒れる。
 だが、戦闘の真っ最中なのにケンカを始める王様たち。誰もが自分主導でジゴクジームを倒したいのだ。
 ギラが苛立って叫び声をあげる。すると全員が同じことを叫ぶ。
「いいから黙って……引っ込んでろ(ヒメノ様:引っ込んでなさい)!」

 突然、シュゴッドたちのシュゴッドソウルが目も眩むほど輝き出す。

 ジゴクジームがよれよれと立ち上がる。さっきまでと違い、キングオージャーの動きのキレが一段と上がる。
 空高く飛び上がるキングオージャー。ハチ、カマキリ、トンボ、クワガタ、パピヨン……それぞれの各国のシュゴッドたちが光り輝く。その光はゴッドパピヨンへと集まり、ゴッドアントがパワーをチャージするようにシュゴッドソードの刀身の先へと移動する。パワーが充填され、光り輝くシュゴッドソード。

 空中から一気に下降してくるキングオージャー。迎え撃とうとするジゴクジームだったが、シュゴッドソードのパワーには叶わず、袈裟懸けに斬られて天を仰いで倒れる。断末魔の叫びと共に爆発し、火の粉や煙が上がる。それを避けるように背を向けて立つキングオージャー。

 巨大ロボ戦。ギラが俺様に続けと他の王様たちに呼びかけてから、シュゴッドソードがキングオージャーの手に戻ってくるまで、BGMとして『全力キング』の1番が流れています。曲自体の疾走感と、王様たちの我の強さとそれぞれが主導権を握っている時に見せる、様々なキングオージャーのアクションに合っていて、本来は脂マシマシこってり味なのにスルッと入ります。
 逆に、たまたま「お前らが引っ込んでいろ」という思いだけが強く一致してから『降臨せよ!キングオージャー』が流れます。

 全編を通して『王様戦隊キングオージャー』は楽曲も全部素晴らしく、また使い方や合わせ方がとても巧みな作品です。
 まさか、出来上がった場面に合わせて作曲したり編曲したりするという、フィルムスコアリング方式の曲があるとは思いもしませんでしたが。

 ジゴクジームが最後に斬り倒される時、斬られるところを直接見せずに、キングオージャーの目への映り込みで見せるという演出にしびれました。映り込みを使った演出は他の作品で見かけることはありますが、ここまでカッコいい仕上がり中々ないですよ。

 ザイバーン城前。
 キングオージャーから降りて、雪の上に立つクワガタオージャー。王鎧武装を解いたギラが、視線を送って小さく笑う。
 すでに王鎧武装を解いている王様たちが、円を描くように立っている。誰も何も言わず、しばらくすると全員が背を向けて歩き出す。
 腰にオージャカリバーを納めながら、ギラが不敵に微笑む。
「首を洗って待っていろ、ラクレス!」
 ザイバーン城を飛び立つ、ゴッドカマキリ、ゴッドトンボ、ゴッドハチ。
 
 ザイバーン城内。
 リタ様が右腕でモルフォーニャさんを支えながら問いかける。城の廊下には、ジゴクジームが空けたらしい、大きく深い穴がいくつも掘られている。
 モルフォーニャさんは負傷していた。
「アイツらが……、何かを奪って……」
 途切れ途切れにモルフォーニャさんがリタ様に説明する。

 ザイバーン城内を含み笑いをしながら闊歩するカメジム。後ろに回した右手の中には、小さな琥珀色の物体。

 心当たりがあるように顔を上げるリタ様。
「まさか……本当にこの国に……」

 地帝国バグナラク。ひざまずいたカメジムが、うやうやしくデズナラク8世に手に入れた琥珀色の物体を差し出す。受け取るデズナラク8世。

 呆然としたままリタ様が呟く。「……秘宝が……」

 地帝国では、デズナラク8世が満足そうに「まずは一つ」と言い、手に入れた琥珀色の物体を見つめ、力強く握りしめる。
 物体の中心には、小さなサソリの姿が見えた。

 以上、ここまでが第5話本編でした。

 第1話~第5話までは作品全体のカラーや方向性を決める、いわゆる「パイロット版」に当たるそうです。序盤であらゆる方面でクオリティが高いと思った作品、ここ最近では『鬼滅の刃』『真田丸』『麒麟が来る』『青天を衝け』『鎌倉殿の13人』ですが、全く遜色ないです。
 30分足らずのドラマで、分かりやすさとワクワクと人間ドラマと政治劇とコメディを詰め込んで、渋滞させずに全てを高いレベルで成立させるって、考えれば考えるほど、人間業ではないようなすさまじいことをしています。

 もっとすさまじいのは、このレベルがスタートラインに過ぎない、という点です。放映当時では思いもよらないほど、この後、全てにおいて幅と深みとギャグのキレが増し、ドエライ展開になっていくのです。
 序章の概念壊れるわ……。

 第5話は序章としては最後、次の段階に飛ぶためのジャンプ台として、様々な仕掛けが施されています。
 未見の方に対し、あんまり書いても見る楽しみが減っちゃうかなーとか、いや、まだ誰も気付いていない何かをその人が見つけるかもしれないし、と偉そうに色々思ったりするくらい、多重構造です。

 第5話では、3大守護神争奪戦、リタ様とゴッカン、ギラの裁判についてがメインとなります。
 3大守護神争奪戦は、第2ラウンドともいえるサソリのシュゴッドに焦点が移ります。在り処のヒントと、そしてそれが本当だったと明かされます。
 これはギラの裁判のきっかけでもあり、次の段階へのプロローグでもあります。
 ギラの裁判も、それを通してゴッカンやリタ様の王としての在り方がが描かれ、なおかつギラと他の王様たちの関係性を確認する側面もあり、その他にも色々と……と、かなり長くなるのでここだけ後に回しました。マジで長いです。長いので見出し付けました。

ギラの裁判:オモテ

 ギラの裁判をめぐるエピソードに《リーガル・ハイ in ゴッカン》と見出しを付けたのは、私がこのドラマが大好きだったとか、「裁判ものドラマと言えば」という理由だけではありません。本家に負けず劣らず、オモテもウラも、深い行間もあるからです。

 まずオモテの部分から。
 オモテであり本筋は「冤罪で逮捕された主人公が、逆転に次ぐ逆転で無罪になった」という、ヒーロー物らしい胸のすくような流れのため、放送当時は拍手喝采を送った視聴者が多かったことと思います。私もそうです。

 第5話の内容について、ギラが無罪を勝ち得た理由が「王族であったから」と説明している媒体があります。
 しかしギラの無罪は、事実と客観的な証言から論理的に導き出されていて、明かされた血筋や素性の故ではありません。
 そもそもギラがゴッカンに連行された容疑は〈シュゴッダムの犯罪者によるトウフへの侵略〉です。王族であっても、他国侵略は国際犯罪です(ラクレス様がいきなり攻め込まず、武力をチラつかせて脅迫交渉するのはそういうことです)。

 ギラによる破壊活動に該当しそうなことは、トウフで王鎧武装し、クワゴンに乗ってカブタンと格闘したり、バグナラクと戦うためにキングオージャーを降臨させたことです。
 ですがそもそも、何故ギラはオージャカリバーで王鎧武装できるのでしょうか。まずここを立証する必要があります。

 「王の証」であるオージャカリバーは、チキューで最も優秀なエンジニアによって、最高難度の生体認証が設定されています。つまりは遺伝子レベルで合致しないと王鎧武装は不可能であることを、エンジニア本人=ヤンマ君が証言しました。

 血のつながらない全くの赤の他人同士でも、同じような遺伝子構造を持っている可能性は極めて低いですが無いわけでもありません。
 しかし、それよりももっと可能性の高い仮説があります。「ギラとラクレス様が同じ遺伝子構造を持つほどに近い親族である」ことです。
 最も近い親族、それは「同じ親を持つ兄と弟」です。

 ラクレス様と親が同じであることは、ギラがシュゴッダムの王族であることを意味します。確かにシュゴッダムを揺るがす一大事ですが、ギラがオージャカリバーを使える最も重要な根拠であり、オージャカリバーを使えたから、彼はどの国でも同じように民を守るべく行動を起こしました。

 ギラが、たまたまラクレス様と似た遺伝子を持つ赤の他人ではなく、「ラクレス様の弟」である状況証拠が〈レインボージュルリラ〉です。
 この食べ物がチキューのどこにも存在しない料理であること、シュゴッダムの王室の厨房の資料に、たった一度だけ誰かに出された記録があることを確認したのは、チキューの最高裁判長自身です。

 チキューのどこにも存在しない料理の味を知っているのは、たった一度の提供された機会にその料理を食べた者だけです。シュゴッダム、ひいてはチキュー全体において、〈レインボージュルリラ〉を食べたと明言しているのはたった一人だけ、ギラです。
 彼自身の記憶と、王室に保管されていた記録は「ギラがシュゴッダムの城内にいて、王室の記録に残されるような珍しい料理を提供される立場」だったことを示唆します。

 もちろん状況証拠だけでは足りないので、実際に「ラクレス様とギラが兄弟関係にある」ことを科学的に証明する必要があります。
 それはチキューで最も優秀な医師による遺伝子照合の鑑定結果により、確実なものとなりました。

 これでようやく「ギラがラクレス様のオージャカリバーを使えた理由」の証拠が出揃いました。逆に言えばそれだけです。
 有罪無罪を判断するには、ギラ自身の供述の真実性と事実性、彼による侵略の被害の有無の調査が必要です。
 それもまた最高裁判長自身が地道に調べ上げ、客観的な証拠として積み上げました。

 ギラによる被害は無かったという各国の民の証言と、ギラの供述の妥当性、リタ様の調査結果が一致し、侵略行為はなかったと認定されました。
 オージャカリバーを使ったことは、むしろ「民を守るために王族の務めを自ら果たした」として、正当であったと認定されました。
 こうして〈トウフへの侵略〉容疑は晴れ、ギラは無罪となりました。

 ギラの他国侵略の容疑はそもそもカグラギ殿による冤罪ですから、庶民だろうが王族だろうが真っ当な裁判さえ行われれば無罪放免です。さらには、王族である素性が明らかになったことで〈シュゴッダムの国民による国王への反逆罪〉も成立しなくなるため、シュゴッダム国内のギラの指名手配と死刑判決さえ無効となり、〈シュゴッダムの犯罪者〉でもなくなります。
 全ての国王がこの裁判の一部始終の証人ですから、今後の内政と外交を考えるとラクレス様も引き下がるを得ません。
 ……とここまでがオモテ。

ギラの裁判:ウラ

 では、ウラの部分は何か。
 まずは、各国の王がこの裁判に出向いたのは別にギラのためではない、ということです。

 ヤンマ君とヒメノ様には、ギラの逃亡に手を貸した容疑がリタ様によってかけられていました。ギラの次は、自分たちが裁判にかけられます。

 リタ様はヤンマ君への事情聴取の際に司法取引を持ち掛けています。彼はソレ目当てでゴッカンへやってきました。

 ヒメノ様はリタ様に医学的な立場で協力を求められ、その証言者としてやってきました。

 カグラギ殿はギラによる被害を訴えた当人ですが、そもそも冤罪ですし、ギラを国際裁判にかける目的は別にあります。

 ラクレス様は自らが反逆罪で指名手配したギラの裁判ですから、その判決の行方を自ら確かめたいと申し出ても不思議ではありません。

 ヤンマ君やヒメノ様については一緒にバグナラクを撃退しておきながら、と思いますが、よく考えたら「ギラに仲間に誘われたけど、仲間になるとは言ってない」ので、仕方ありません。

 オージャカリバーの生体認証について証言したヤンマ君も、遺伝子照合の鑑定結果を出したヒメノ様も、ギラの無実よりもラクレス様に一泡吹かせることに気を取られています。
 カグラギ殿の本来の目的はギラが国際裁判で裁かれることで、ゴッドカブトに関わる密約や失敗の責任をうやむやにし、ラクレス様との関係をオモテでもウラでも対等にすることです。

 ギラが悪人ではないことは彼らには分かっていますし、どうせ無罪になると予想していたのでしょうが、わざわざ法廷でギラがどういう人物で、自分の国でどのように振舞ったかをリタ様に証言する気はありません。
 彼らにとってギラの存在は、この時点でその程度の重みしかありません。
 もともと法廷が広いということもあるのでしょうが、ギラと傍聴席の距離は、そのままお互いの心の距離を示しているようにも感じられます。

 だからでしょうか、ギラは傍聴席の誰でもなく、リタ様にだけ「ありがとう」と伝えます。無罪判決を出してくれた、ということではなく、真摯に彼の行動と人となりとを地道に検証し、ギラという人物にきちんと向き合ったことに対して感謝を述べたのでしょう。
 ここまでがウラ。

ギラの裁判:深い行間

 では深い行間とは。
 ラクレス様による反対尋問は、さしずめギラを含めた法廷にいる全員を相手にした《ラクレス劇場第3幕》(第何幕なのかは個人の差アリ)です。
 検察官よろしくギラの無罪についてその根拠に異を唱えつつも、その実うまく王様たちの口から証言を導き出しています。そして時折、その言動にそぐわぬ表情や仕草を見せます。
 
 まず、リタ様が裁判冒頭で判決を言い渡す直前。
 ギラに対し自ら反逆罪による死刑を決定したのはラクレス様です。しかし、彼の顔にはギラが国際裁判で裁かれることへの不満や、死刑よりも軽い刑罰を下される可能性への疑念もありません。むしろ無罪であることを確信している真摯さと、間違って有罪になったらどうしようかという不安がありました。
 彼が本当に〈邪知暴虐〉をもって秘かに世界征服を企む人物なら、もっとふてぶてしく笑っているはずです。

 次に、ヤンマ君やヒメノ様が証言した時。
 ヤンマ君がリタ様の肩を持ったことに対して小腹を立てているように見えます。しかし彼に向けたラクレス様の眼差しは、ゴッカンの氷さながらの冷ややかさがあります。あえて言うならヤンマ君を「値踏み」しています。つけた値は最低限で見直すところは何もなかったので、眉一つ動きません。
 ラクレス様は基本的にヤンマ君に対して評が辛いですね。

 ヒメノ様がリタ様の言葉を裏付けた際にも、じっとヒメノ様を見つめています。ギラに有利な証言をしたので睨みつけている……ように見えますが、その眼には怒りや苛立ちはなく、「知っていることは本当にそれだけなのか」と疑っている色があります。

 そして、リタ様がギラのことを知っていて隠していたと尋ねた時。
 ラクレス様は視線をさまよわせます。生き別れの弟だとバレてしまって動揺しているように見えますが、全ての王様の面前で、彼らによってギラの素性がはっきりと明言されたことへの安堵と、現在の状況を素早く頭の中で確認しているようにも見えます。

 ですが、リタ様の調査結果とそこから導かれた判断は、リタ様への信頼性が揺らげば全てがひっくり返ります。
 ラクレス様は追い詰められて取り乱したように見えますが、リタ様の厳正さがどれ程のものかを試したようにも見えます。すごい剣幕で大きな声でまくしたてていますが、どういうわけか迫力に欠けます。リタ様の出張事情聴取の時の方がよほど圧の強さと怖さがありました。

 リタ様は最高裁判長として、ゴッカンの国王として、断固としてラクレス様の脅迫に屈せず、それどころか見事に跳ね返しました。
 最後に腹に据えかねたような素振りで法廷を去って見せれば、この場にいる人々全員が持っている「いけ好かない奴」という感情をさらに強めることができます。

 「アクの強い王様たち(Ⓒラクレス様)」が思い通りに動いたことを見定めれば、ラクレス様にとっては大成功です。
 しかしなぜ、ラクレス様がゴッカンの法廷で、第三者によってギラの素性を明らかにしてもらう必要があったのでしょう?
 そこには、宇宙のごとく果てしない行間があるのです……。

 ギラの裁判で見られた王様たちの関係性は、ジゴクジーム襲撃において重ねて印象付けられます。
 王様たちは5王国同盟にさほどの意味も意義も見出していません。だから協力し合う気もさらさらなく、それぞれの場所で個人戦をしています。

 巨大ジゴクジームと戦った際も、キングオージャーを自分主体で操ろうとして、結果何度もあった絶好の機会を逃しています。ジゴクジームだから倒せましたが、相手がデズナラク8世だったら秒殺されています。
 ジゴクジームを倒せたきっかけは、王様たちが一つの同じことを強く思ったからでした。それが「お前ら引っ込んでろ」というワガママ極まりない思いであっても。おや、こんな所にも行間が。

 リタ様のシュゴッダム出張時。
 この時、ラクレス様はごくごく当たり前のように黄金色の剣=オージャカリバーZEROを手にしていますが、オンエア当時にはこれと言った事前情報はなかったような気がします。そしてリタ様も、ラクレス様がオージャカリバーZEROを持っていることについて、特に何も言いません。

 ラクレス様がなぜオージャカリバーZEROを持っているのか、リタ様もなぜ何も問わないのか、それは第5話が放映されてしばらくたった後、YouTubeにてスピンオフが公開されて初めて明らかになりました。
 スピンオフの設定が第2話と第3話の間なので、第5話オンエア時点ではリタ様だけがラクレス様がオージャカリバーZEROの持ち主だと知っていることになります。

 スピンオフを踏まえてから第5話をまた改めて見ると、リタ様が全身全霊を込めてラクレス様にビンタをしたことに、心の底から納得ができます。
 利用するだけして、何も語らず、手間と時間を取らせたんだから、本当ならビンタ一発じゃすまないと思いますよ……。
 行間しかないスピンオフ『ラクレス王の秘密』も、ぜひご覧下さい。

 第1話~第5話までは、ギラが王様たちやチキュー各国を知る話であり、この当時の王様たちを描く話でもありました。
 第1話~第5話は多く見積もっても1カ月未満です。片時も離れていなくても互いを深く理解するには短い期間です。ましてドタバタと各国を巡っているのですから、共感はできても心の底から打ち解け合うことは難しいでしょう。従って王様たちはギラ本人に対して関心をあまり寄せていません。ギラもまだ、王様たちに心を許しているとも言えません。

 関心がないと言えば、バグナラクに対しては、予言通りにやって来たという思いしかなく、降りかかる火の粉を払っているだけで、彼らがどこにいてどうして攻めてくるのかを解明する気もありません。
 デズナラク8世が人類に対して並々ならぬ思いを抱いていることに比べれば、残酷なほど興味がないのです。
 序盤から本当にえげつない作劇だなあ……。

 成り上がりの物語と思いきや、実は貴種流離譚であった『王様戦隊キングオージャー』は、第6話から新しい展開に入ります。
 ギラの、王様たちの、何が変わり何が変わらないのか。

 とりあえず、長旅お疲れ様、ギラ!

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