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『王様戦隊キングオージャー』第6話感想

第6話 王子の帰還


 トウフの王殿カグラギ・ディボウスキが「ギラにトウフへの侵略を受けた」と通報し、ギラはゴッカン国王リタ・カニスカの手で逮捕され、ゴッカンに連行される。
 ギラは王様に会った条件反射で邪悪の王を名乗ってしまい、リタの心証を悪くしてしまう。

 そんな時、サナギムがゴッカンに現れる。ギラは自分も戦うとリタに訴えるが、リタはオージャカリバーは王の証であり、ギラには王の資格はないと退ける。
 チキューの秘宝を渡せと要求したサナギムたちを、リタは王鎧武装して一体残らず殲滅する。その冷徹さと容赦のなさは「招かれざる者は入れず、許されざる者は出られない」ゴッカンの在り方そのものだった。

 シュゴッダム。密談するラクレス主従とカグラギ。カグラギはゴッドカブトをギラに奪われた責任を追及されるが、バグナラクに三大守護神を奪われる方が心配だと話をすり替える。
 ラクレスはカグラギの失態をあまり気にしていないようで、別の三大守護神の手掛かりがつかめたことを明かす。
 ラクレスいわく、それは「氷の寝床に眠っている」……。

 リタ・カニスカには秘密がある。それは〈もっふん〉なるキャラクターを溺愛していること。ついには執務室を趣味部屋にしてしまうほどだ。
 リタはもっふん相手に愚痴をこぼし、もっふんに励まされ、やる気をチャージする。(一人二役?何のことだ?-10℃の牢獄に貴様も入るか?)
 やる気を取り戻したリタは、側近のモルフォーニャに各国の王に事情聴取を行うことを告げる。

 各国を巡り、時には司法取引を持ち掛け、時には協力を求め、時にはもてなされるままご飯を食べ、地道に必要な情報と証言を集めるリタ。
 しかしシュゴッダムでは、ラクレスにギラを放免しないように圧力をかけられる。リタはラクレスの頬を平手打ちしたが、蚊がいたので叩いたと真顔でとぼける。ラクレスの抗議を軽くあしらい、颯爽と立ち去る。
 リタを作り笑顔で見送ったラクレスだったが、笑みが消えた目元には、怒りがにじんでいた。

 牢獄で裁判を待つギラは、不意にモルフォーニャに髪を抜かれる。モルフォーニャは笑みを浮かべ、さらに死刑だもんね、とギラの心に波風を立てるようなことを言ってくる。

 モルフォーニャはゴッカンの国民は罪人か元罪人だと明かし、だから国民はリタのことが嫌いだとギラに話す。ギラはゴッカンの民はリタの裁きを受けた人たちだと気付く。リタは「正しい人」だから嫌われるが、その人の判決が死刑であっても恨みはしないと語る。しかし死を意識して、自分の思いが届かぬ悔しさを噛みしめる。

 ギラの裁判当日。ゴッカン以外の国王が側近と共にザイバーン城の法廷に姿を現す。ラクレスの姿を認め、怒りを覚えるギラ。
 リタが裁判開始と同時に、判決を言い渡すと告げる。話を聞いてほしいと訴えるギラ。

 判決は……〈無罪〉。

 傍聴席にいる王たちの反応は様々だった。鼻で笑うヤンマ、興味がなさそうなヒメノ、驚くカグラギ。
 そしてラクレスは立ち上がり、リタにギラが無罪になった説明を求める。

 ギラが無罪である理由を、リタが順を追って説明する。

 まず、ラクレスに合わせて生体認証を施したオージャカリバーを難なく扱えること。それにより、ギラにも王の資格がある可能性が出てきたこと。
 リタの言葉を、オージャカリバーの開発者であるヤンマが保証する。

 次に、チキュー上に存在しない料理〈レインボージュルリラ〉の名前どころか味を知る者であること。〈レインボージュルリラ〉の記述はただ一つ、シュゴッダム王家の十数年前の厨房の記録のみに存在したこと。

 ギラの幼いころの記憶が以前よりもはっきり蘇る。〈レインボージュルリラ〉を食べる自分と、その隣で優しく微笑む兄と思しき少年。その少年は、彼を探していた文官に「ラクレス様」と呼ばれていた……。

 ギラの本名はギラ・ハスティーであり、シュゴッダムの王族であり、国王ラクレス・ハスティーの弟であることが、リタの口から明かされる。
 ギラ自身も、傍聴席の王たち側近たちも驚きを隠せない。

 ヒメノがリタの依頼により、リタが得たラクレスの血液と、モルフォーニャが採取したギラの髪の毛から遺伝子を抽出し、遺伝子照合を行ったのだ。
 チキューで最も優秀な医師が出した鑑定結果である。疑いようがない。

 ギラが弟であることを隠していたとリタに指摘されたラクレスは、動揺するような素振りを見せる。
 これらの証拠から導き出された結論は、犯罪者が他国を侵略するべく暴れたのではなく、王の資格を持つ者が自分の物を使って、民たちを守るという王のやるべきことを行ったことに過ぎず、法に則れば何の問題もない、というものだった。

 しかしラクレスは、本当にギラが民を守ったと言い切れるのか、となおも食い下がる。
 その証拠は、リタ自らが得た各国の民による証言だった。各国の民、特にギラと関わった子どもたちはみな、ギラが優しくイイ奴だと証言した。つまり、ギラの被害者は誰もいなかった。

 これらすべての証拠と証言により、トウフへの侵略の容疑は晴れた。ギラが王族であるなら〈国民による王への反逆〉ではないため、シュゴッダムでの指名手配も成立しなくなる。ギラはどの国においても自由の身となった。

 いよいよ攻め手が無くなり、ラクレスはなんとリタをこの場で脅迫する。しかしリタは怯まなかった。
「法とは王を穿つ矛、法とは民を守る盾。なればこそゴッカンは不動なり!地が裂け、天が降ろうとも、このリタ・カニスカは揺るがない!」
 リタが無罪だと言えば、誰が何と言おうがその判決は不動である。

 法廷を足早に去るラクレス主従。カグラギはもはや彼を見ない。
 ギラが万感の思いを込めてリタに感謝を述べる。リタは仕事をしただけと素っ気ない。

 その時、ザイバーン城全体が大きく揺れる。
 城の外ではジゴクジームが大きな穴をいくつも空け、その穴から次々とサナギムたちが登ってくる。
 城の外に姿を見せた王様たちとギラ。リタはギラにオージャカリバーを渡し、戦えと告げる。
 ようやく5人が揃って王鎧武装する……と思いきや、そんなことはなく、ヤンマとリタにギラは蹴っ飛ばされ、遅れて変身する。

 城近くの林で、個別にサナギムたちを倒す王様たち。クワガタオージャーがジゴクジームに瀕死のダメージを与える。するとジゴクジームは最後の手段として巨大化する。

 キングオージャーを降臨させたはいいものの、王様たちは自分が倒すことばかり考えていて、結局ジゴクジームを仕留められない。思い通りにいかないことに5人全員が同じことを考える。「お前ら、引っ込んでいろ!」
 とりあえず意思が一致したことで、シュゴッドたちが覚醒し、キングオージャーはさらに強くなり、ジゴクジームをあっという間に倒す。

 戦いが終わっても誰も言葉を交わさず、それぞれの国に帰る。ギラもまた意気揚々とラクレスを倒す決意を新たにしてシュゴッダムに帰還する。

 ザイバーン城に戻ったリタは、傷ついたモルフォーニャと穴だらけになった城内を見る。モルフォーニャが言うには、バグナラクが襲来し、何かを探して持ち去ったらしい。
 リタは、とある言い伝えが本当だったことを今さらながらに知る。

 地帝国バグナラクでは、虫の知らせで在り処を知ったカメジムが、サソリのシュゴッドソウルをデズナラク8世に手渡していた……。とさ。

 以上、第5話の創作あらすじでした。
 ちなみに改めて第6話を見直していて、本来のあらすじが「王族であることが明らかになって無罪になった」流れになっていて、ヴァアアアア!と心の中で叫びました。

 ふと思ったのですが、もし蚊がいなかったら、リタ様はラクレス様の遺伝子情報をどうやって採取するつもりだったのでしょうか?グーパンチで出血させて回収?やりかねないな……。

王子と呼ばないで

 シュゴッダム。町の広場。
 クワゴンから飛び降りたギラが、久々に帰ってきた街を見渡す。遠くから名を呼ぶ声が聞こえて振り向くと、コガネちゃんとブーン君が笑顔で駆け寄って来る。飛びつくブーン君をギラがしっかりと抱き止める。お互いの無事を喜び合うギラとコガネちゃん。

 そこへ、シュゴッダムの民の一人が通りかかり「ギラ王子?」と呼びかける。その声が聞こえたのかどうか、続々と人々が集まってくる。何がどうなってるのか分からず、ギラはきょとんとした顔で人々を見ている。
 最初に呼びかけた民=ゴローゲさんがギラの方へ駆け出すと、他の人々も釣られて押し寄せる。人々の勢いに圧倒されて、コガネちゃんとブーン君が左右に分かれる。取り残されたギラは、駆け寄った人々に囲まれ、何故か胴上げをされ、何度も宙を舞う。訳が分からず、叫び声をあげるギラ。

 調印式の日から、ギラの人生は激変しました。自ら選んで剣を奪い、邪悪の王を名乗りました。それが子どもたちを守ることにつながると信じて。
 そして流され巻き込まれた形ではありますが、シュゴッダムの外に出て、様々な民と文化と、王様たちに出会いました。
 異なるものを見聞きし、感じてシュゴッダムに帰ってきたギラを待ち受けるものとは……。

 そして、ゴローゲさんの記念すべき初登場回です。設定としてはシュゴッダムの国民を代表するキャラなのですが、味わいがあり過ぎたせいか、彼にも色々な展開が待ち受けています(笑)。それにしても声が大きいwww

 そう言えば、ギラがシュゴッダムの王子であることを、民たちはどのように知ったのでしょう?ンコソパ以外の国のメディア事情がはっきりしていませんが、ゴローゲさんが顔を確認した上で話しかけてきたことを考えると、写真入りで大々的に公式発表されたということでしょうか。

 つい先日まで指名手配されていた青年が、実は王子だったと知って、シュゴッダム国民はさぞかし驚いたことでしょう。純粋に喜んでいた人々もいたかもしれませんが、指名手配されている間は散々悪口を言っていたという引け目があり、過剰なほどに王子と呼んで熱狂的に胴上げした人々も中にはいたかもしれません……て、これは深読みし過ぎかな?

 OP。本名が判明したにもかかわらず、クレジット表記は「ギラ」のまま。これが「ギラ・ハスティー」に変わる時は来るのでしょうか?

 提供様カット。夜のシュゴッダムの広場。街灯と建物の窓から漏れる明かりが、昼間とは違った幻想的な景観を作り出している。
 広場中央の止まり木にはクワゴンがいる。夜空には輝く満月。

全世界人質宣言

 シュゴッダムの広場。人々は口々に「王子!」「王子!」と叫びながら延々とギラを胴上げしている。そんなつもりでシュゴッダムに帰ってきたわけではないギラは、胴上げされながら王子と呼ばないでくれ、と叫ぶ。
 ギラの目的はただ一つ、ラクレス様を倒すこと。そう言いかけた時、人の輪の一番外側にいたコガネちゃんが、出せるだけの大声を出して話がややこしくなるから、とギラを止める。

 その時、広場にあるモニターの画面が乱れ、耳障りな音がスピーカーから流れる。聴覚への不愉快な刺激に、広場にいた人々は一斉に苦痛に顔を歪め、両手で左右の耳を覆う。ギラを胴上げしていた人々も手を自分の耳に当てて身をかがめてしまい、受け止めるものが何もなくなったギラは、そのまま地面に落ちてしまう。

 全身を打ち付けた痛みに悶えていたギラは、モニターに目を向ける。広場にいた人々も、何事かとモニターの前に集まり、見守っている。
 モニターの画面には不安定ながら、何者かの姿が映し出される。それは地帝国バグナラクの王・デズナラク8世とカメジムであった。不快な音の代わりに、デズナラク8世の重々しい声が流れる。
「地上に生きる下等生物に告げる。我々は全世界を人質に取った」
 広場の人々が「はあ?」と驚く。突然の展開に目を見張るギラ。

 ゴッカン。ザイバーン城内、リタ様の執務室。
 リタ様が床の上を寝転がりながら、右へ左へ行ったり来たりしている。
「どうしよう、秘宝盗まれちゃったよ」
 突き立てたオージャカリバーの柄尻に手をかけ、もっふんが「この世の終わりだね~」と嘲笑う。斜め下からのアングルと、青いライティングの演出のせいで非常に怖い。

 リタ様が起き上がり、もっふんに「仕方ないじゃん。言い伝えがあるだけで知らなかったんだもん」と反論する。
 もっふんは知らなかったで済むなら裁判所はいらないと憎まれ口を言う。
 うんざりしたようにため息をつくリタ様。

 リタ様のオージャフォンが勝手に起動し、デズナラク8世とカメジムの姿が映る。それはシュゴッダムの広場のモニターに映る映像と同じものであり、音声もまたギラやシュゴッダムの民が聞いたものと同じだった。

 カメジムが、五王国の地下に地帝国バグナラクからつながるトンネルを掘ったことを明かす。
「まずはシュゴッダムに、特大のプレゼントをお届けいたしました」

 シュゴッダムの街の一角。あちこちにトゲがついた巨大な丸い物が地中から現れる。舗装が突き上げられて壊れ、砂ぼこりと共に舞い上がる。突然のことに悲鳴を上げる人々。

 イシャバーナ。フラピュタル城、王の間。ホログラム方式のモニターの中で、カメジムが他の王国の地下深くにも同じ繭を隠したと得意気に話す。
 それを見ていたヒメノ様が「汚らわしい」と吐き捨てる。ヒメノ様の近くに控えていたセバスチャンも、厳しい顔でモニターを見ている。

 トウフ。タキタテ城の庭。
 カグラギ殿が黒子たちに繭の捜索を命じる。タキタテ城の後ろの呆れるほど巨大な屏風は、実は呆れるほど巨大なモニターで、そこにデズナラク8世とカメジムの姿が映っている。

 デズナラク8世が言うには、繭の中にはそれぞれバグナラクがいて、時が来れば五王国の繭は同時に解き放たれ、中のバグナラクが暴れ回るという。
 この時の「繭が壊れて破壊の限りを尽くすバグナラク」のイメージカットがまんま《火の七日間を起こした巨神○》なんですけど……怖いよう!!!

 ンコソパ。ペタ城、ワークスペース。
 愛用のノートパソコン型デバイスで、バグナラクの電波ジャックを見ていたヤンマ君。シオカラ君はヤンマ君の左肩にしがみつくようにして、同じ画面を見ている。二人の後ろには、手を腰に回し、足を開いて立つ親衛隊員たちが並んでいる。

 ヤンマ君がデバイスの画面から目を離さないまま、繭の位置の特定を命じる。シオカラ君が親衛隊員たちに同じことを伝える。親衛隊員たちは威勢のいい声で応じ、任務に向かうべく一斉にヤンマ君たちに背を向ける。
 壊してしまえば関係ない、とヤンマ君がほくそ笑む。

 すると、まるで聞こえていたかのようにカメジムが話し出す。親衛隊員たちが足を止めて振り返る。
「無理に壊そうとすると、繭が大爆発するのでご注意を」
 画面の中で愉快そうにカメジムが笑う。
 今にも叫び出しそうに眼も口も開けて、両手を頬に当てるシオカラ君。ヤンマ君は苛立たし気にデバイスを乱暴に閉じる。シオカラ君が慌ててデバイスを開き直す。

 シュゴッダム。街の広場。
 ギラたちがモニターを見つめる中、カメジムが話し続ける。
「まさに皆様は虫の息。で・す・が、一つだけ生き延びる道がございます」
 デズナラク8世が一歩前に出る。それだけなのに、威圧感が高まる。
「ギラ・ハスティーを我々に差し出せ」
 自分の名を呼ばれ、ギラが息を呑む。広場にいた人々がざわめく。

 そうすれば、繭を引っ込めなくもなくもありません、とカメジムが笑う。
傑作ですねぇと上機嫌なカメジムの姿を、自分の国でそれぞれの形で見据える王様たち。
 カメジムの高笑いを最後に、バグナラクによる電波ジャックが終わる。

  え?ちょっと待って。全世界のあらゆる通信機器を同時に電波ジャックとは、地帝国バグナラクにそんなヤンマ君レベルの天才的技術者がいるんですか?どうなってるんだこの国は????

 デズナラク8世とカメジムの電波ジャックについて。あまりにも息がぴったりで、デズナラク8世とカメジムは何回リハーサルしたんだろうか、などと妄想してしまいました。メイキング見てみたい(←違う)。

 カメジムの手の動きがキレキレすぎて、逆にちょっとイラっとしました。「お・も・て・な・し」みたいな手振りのところなど、苛立ちが一周回って笑っちゃいました。
 カメジムの手が小うるさく動く分、直立不動のデズナラク8世が動いた時の重みと威厳と圧の強さが引き立ちます。これぞ理想の悪の親玉です。

 さてここで謎が一つ。クワガタオージャーがギラだと知っていたかどうかさえ怪しいデズナラク8世が、いつの間にギラの本名を知ったのでしょう?
バグナラクがしかけた巨大繭ぐらいに、深い行間がサラッと出てきました。

 トンネルなんていつ?と思いますが、そういえばボコボコ穴を掘っていた奴がいましたね。アイツ、いつの間にチキュー中を掘り抜いたのでしょう?ジゴクジーム、働き者だったんだなあ……。合掌。

 シュゴッダム、街の広場。
 電波ジャックが終わった後も、広場にいた人々のざわめきは収まらず、近くにいる者同士で様々に話し合っている。
 険しい顔でモニターを睨んでいたギラが、きびすを返して広場を足早に去る。後を追うコガネちゃんとブーン君。

 クワゴンのもとに向かうギラ。その隣りでは「何でギラなの?絶対おかしいよ!」とコガネちゃんが話しかけるが、ギラは止めないでくれ、としか言わない。ブーン君もギラの腕をつかんで止めようとするが、ギラの足は止まらない。

 そんな3人の行く手に、一人の人物が待っていた。「よお」と声をかけてきたのは、ンコソパにいるはずのヤンマ君だった。
 ヤンマ君は待っていた姿勢のまま、来てもらうぞとギラに声をかける。顔をギラに向け、鋭く見据える。「拒否権は無え」

 シュゴッダム。コーカサスカブト城へとつながる空中回廊。
 回廊の左右の端に並ぶ、長い筒状のかがり火が灯る。絶えず流れている、火が燃える音と、回廊の一番外側で回転する歯車の音。

 先を行くヤンマ君が、バグナラクの狙いはギラの力だと教える。ついてきたギラは「力?」と何のことか分からない、といった様子で聞き返し、ゆっくりと立ち止まる。ヤンマ君も歩みを止めて振り返り、ギラに問う。
「言え。どうやってシュゴッドをコントロールした?」
 ギラは答える。
「シュゴッドは仲間だ。 僕はただ、仲間に力を貸してもらってるんだよ」
 そんなことはあり得ない、とヤンマ君が強く否定する。

 とにかくギラがバグナラク側に行くことは、キングオージャーと三大守護神が全部バグナラクに取られてしまうことなのだ、とヤンマ君が説明する。事態の重さと大きさを受け止めたギラに、ヤンマ君が厳しく問いかける。「てめえは、どっち側だ?」
 バグナラク側のわけがない、とギラは撥ねつける。

 ヤンマ君が大股でギラに歩み寄る。
「じゃあ、ラクレス"サマ"につくのか?王子"サマ"」
 ヤンマ君は嘲るようにそう言ってギラの前で立ち止まり、彼を見据える。
 ヤンマ君の眼差しを、ギラは怯むことなく受け止める。
 小さく首を横に振って「それは違う」と答えたギラの顔も声も、力強く頼もしい。自分の過去はここにはない、と笑みさえ浮かべる。

 ヤンマ君が背を向けてギラの前を離れる。
「忘れんな。腑抜けたマネしやがったら、俺がぶちのめす」
 そう言って立ち止まったヤンマ君の横を、真剣な顔をしたギラが「見てろ」と言い残し、通り過ぎていく。小さく口元を歪め、歩き出すヤンマ君。
 さながら決闘に向かうような二人が向かう先で待ち構える、大きなコーカサスカブト城。

 通称〈剣の道〉という空中回廊の場面。この通称が劇中で採用されているかどうか覚えていないのですが、東映の公式サイトで見かけたので、存在はしています。(今後発売予定のプロダクションノートには載っているはず)

 ギラとヤンマ君には、彼ら二人だけで通じ合う何かが確実にあって、ここでの会話でまたお互いに一歩深い所に踏み込んだ、という感じがあります。
 第2話において、どちらもラクレス様への反発心を持っていることが心が通じ合う出発点となりました。

 ヤンマ君は、ンコソパにおいてはどうしても憧れの存在であり、階級や身分の上下は無くても、ただの「ヤンマ・ガスト」として会話をできる相手がいません。そんな中でギラは、ただのギラとして、ただのヤンマ・ガストと向き合いました。
 ギラは、養護園においては子どもたちの相手をし、園で働く大人を助けたりしていますが、それはギラ本来の性格だけでなく、そういう振る舞いを無意識に身につけた、とも言えます。無意識の他人向けの振舞いをしなくても、ギラの等身大の感情をぶつけられたのがヤンマ君でした。

 しかし、ギラの裁判の時や戦闘時を見ても分かるように、まだまだ協力し助け合う気はありません。この時点では「共感はあるけれど、友だちにはあと一歩」といったところでしょうか。

王と王子の対面

 シュゴッダム。コーカサスカブト城。その城壁にとまる、各国のシュゴッドたち。霧か煙か、城と空中回廊のはるか下に霞んで見える地上の町並み。

 コーカサスカブト城内。王の間。
 下座の王の間の扉から入ってきたヤンマ君とギラを、ボシマールさんがお付きの衛兵と共に出迎える。
「ようこそヤンマ様。そしてお帰りなさいませ、ギラ王子」
 玉座前の円壇には、すでに他の王たちが着席している。待ちかねた風情で円壇に立つラクレス様。そばにはもちろんドゥーガさんが控えている。

 優雅に微笑んでいるラクレス様。大きな瞳に映り込む光のせいか、その眼は潤んでいるようにも見える。
 一方のギラ。ラクレス様の姿を見るなり血相を変え、もはや条件反射のように怒りを込めてその名を呼び、前に立つボシマールさんを無視して全速力で駆け出す。ギラに押されて一回転するボシマールさんと、驚きの余り動けないお付きの衛兵たち。

 駆けてくるギラの様子など意に介さず、ラクレス様は親しみと愛おしさのこもった優しい笑みをたたえて両手を広げる。「歓迎しよう、わが弟よ」
 ギラはギラでラクレス様の言葉など聞く耳持たず、腰に差したオージャカリバーを駆けながら引き抜き、雄たけびを上げて頭上高く振りかざす。
 ギラの渾身の一撃がラクレス様を襲う!危うしラクレス様!

 ……しかし、ギラの切っ先はラクレス様には届かなかった。ラクレス様は笑みをたたえたまま、微動だにもしない。
 ギラは咆哮を上げ、全身の力を籠めるが、それ以上剣が下ろせない。
 それもそのはず、カグラギ殿とリタ様の二人がかりでギラの剣を左右から止めていたのだ。この二人に、つい最近剣を握ったばかりのギラが敵うわけがない。

 一部始終を見ていたヒメノ様は笑みを浮かべて「でしょうね」と呟く。
 ヤンマ君は前のめりに椅子の背もたれに腕を置き、楽しいショーを邪魔されたかのように「ハァ、止めんなよ」とリタ様たちに文句を言う。

 リタ様は冷静に「ここで引かねば裁く」と告げる。カグラギ殿は薄ら笑いを浮かべながら「まあ、落ち着きましょう。ギラ王子」とその顔を見やる。
 ただでさえ荒れているのに、煽るように王子と言われて、王子と呼ぶなとヒートアップするギラ。「僕を、この男と一緒にするな……!」
 ギラの敵意丸出しの言葉に、ラクレス様の笑顔にわずかに悲しみの色が混ざる。気を取り直すようにうつむいて、ギラから視線を外す。

 再び顔を上げてギラを見るラクレス様。口調も表情も優雅さと穏やかさを崩していないが、先ほどまで確かにあった親しみや愛おしさのようなものはない。
 そしてラクレス様は驚くべきことを告げる。
「……ギラ。君は幼いころに誘拐されたんだ」

 ギラは剣を持つ手の力は緩めないまま、不信感もあらわに聞き返す。
 チキューの隅々まで探したが見つからなかった、と続けたラクレス様は、ギラたちにくるりと背を向け、玉座に向けて歩き出す。
 ラクレス様は語る。ギラが誘拐され、ついに発見に至らなかったことが明るみに出ればシュゴッダム王家の名誉に関わるため、それ故にギラの存在そのものが隠されてしまったのだ、と。

 玉座の前に立ったラクレス様が、両手を広げて「この奇跡を喜ぼうじゃないか」と高らかに呼びかける。
 王の間全体へと向き直ったラクレス様は「共にバグナラクと戦い、シュゴッダムを繁栄させよう!」と高揚した笑みを見せる。

「『民は道具。私が国だ』」
 ギラの声にラクレス様が凍り付く。お前の言葉だ、とギラが叫ぶ。
 ヒメノ様が汚らわしい言葉を聞いたように、冷ややかに視線を送る。
 ヤンマ君が厳しい顔で睨みつける。
 カグラギ殿の表情はうかがえないが、思うところはあるようだ。
 リタ様はただ目を伏せる。
 僕は忘れない、と怒りに燃えたギラが叫ぶ。「子どもたちを犠牲にするお前を、僕は許さない!」

 さっきまではどれほど力を込めても動かなかった、リタ様とカグラギ殿のオージャカリバーがあっさりと持ち上がり、ギラのオージャカリバーの切っ先が上を向く。ラクレス様めがけて突っ込んでいくギラ。その姿を振り返ることもせず、力なく剣を下ろすリタ様とカグラギ殿。
 方向性は真逆でも、民を守るためにはあらゆる手を尽くすリタ様とカグラギ殿に、この時だけはギラを止める法律も言葉も見つけられない。

 剣を掲げてがむしゃらに突っ込んでくるギラを、ドゥーガさんが難なく素手で取り押さえる。腕を取られて床にねじ伏せられ、悔しそうにギラが全身でもがくが、ドゥーガさんの手が外れる気配はまるでない。さすがの強さ。
 玉座から悠然と冷えた笑みと共に見下ろしていたラクレス様は、取り押さえられたギラに「残念だよ」と言葉を投げる。
 他の王様たちへと向けたラクレス様の顔から、冷えた笑みさえ消える。声と眼差しに威圧感が増す。「さあ、会議を始めよう」

 ラクレス様とギラが直接会うのは3度目、言葉を交わすのは2度目となります。ギラがラクレス様を目にした時の行動について「条件反射のように」と書いたのですが、条件反射の実験の名前を忘れたので調べてみたら、ギラのやってることはそのまま《パブロフの犬》でした。
 条件反射を「考える前に体が動く」と言えば主人公らしくてカッコいいですけど、逆に言うと、そこでラクレス様を倒してその後どうするなんて一切頭にないってことなので、自分で言っといて何ですが、なんか、えげつないですね。

 さらにこの場面では、ギラの言葉によって、王様たちのラクレス様に対する感情が「いけすかない。なんかヤな奴」から、確実に一線を画したものに変わります。
 ヤンマ君は元からですし、ヒメノ様も、何かと上から言われて目障りではあったでしょうから、この二人がさらに反発心を抱くのは当然のことです。
 カグラギ殿は後ろ姿だからこそ、オモテがない言葉や表情の陰にある本心が漏れ出ています。
 常に相手を真っ直ぐ見ているリタ様が目を伏せることで、その心の揺れが見えてくるようです。

破棄された同盟

 シュゴッダム。ギラたちの養護園。
 コガネちゃんやブーン君、他の養護園の子どもたちが庭に出て、彼方に見える巨大なバグナラクの繭を見ている。
 ブーン君が繭を見て心配していると、コガネちゃんがギラがどうにかしてくれると励ます。そうは言ったものの、コガネちゃん自身も不安を隠し切れず、じっと繭を見つめている。

 シュゴッダム。コーカサスカブト城内・王の間。
 ラクレス様は玉座に、他の王様たちは円壇の席に座っている。玉座の前にはボシマールさんと、ギラから取り上げたオージャカリバーを持つドゥーガさん。
 円壇の脇では、拘束され床に座らされたギラを衛兵二人が監視している。

 リタ様が議長としてバグナラクの繭に対する対策会議の開会を宣言する。
 ヒメノ様が「アレ、気になるんだけど」と目を向ける。ヒメノ様の後ろに控えたセバスチャンが同じように目をやる。視線の先には目を怒らせてラクレス様を睨みつけているギラ。
 何かされた時、止められるのは我々だけ、と答えたカグラギ殿も同じようにギラを見る。捕まえた野生動物みたいに言わないでw

 そんな二人の会話やギラの存在を無視して、リタ様が爆弾発言をする。
「早速だが、ゴッカンにあった秘宝がバグナラクに盗まれた」
 事の重大さに、ラクレス様以外の王様たちがそれぞれ盛大に驚く。リタ様は淡々と「世界の危機だと思う。以上」と報告する。サラッと言うなとヤンマ君が頭を抱える。

 ラクレス様が静かに口を開く。「伝承の通りならば、ゴッドスコーピオンのシュゴッドソウルだろう」
 王の間の天井壁画に描かれたサソリのシュゴッドを、どこかしら思い入れがある様子で見つめるヒメノ様。

 リタ様が、バグナラクがギラを要求するのは、彼が持つシュゴッドを意のままにできる能力を使って三大守護神を手に入れるためと思われる、と意見を述べる。続けて、今後の対策を決める、とこの会議の目的を定義する。

 カグラギ殿がギラをバグナラクに渡せば逆にチキューを危機にさらすと言えば、すかさずヤンマ君が繭を放っておいてもアウトだ、と別の危険を指摘する。繭に手を出せば爆発し、何もしなくても時が満ちれば巨大なバグナラクが出てくる強制二択だと、現時点の状況を整理する。視聴者も王様たちと一緒に状況整理ができる親切設計。

 リタ様が、同盟に基づいて協力して繭の対処に当たるのが現実的だ、と5王国同盟の文書を掲げる。
 ヒメノ様が、バグナラクの繭はキングオージャーにしかどうにもできない、と苛立ちを見せたその時。

 その言葉を待っていたと言わんばかりの「その通り」という声が響く。
 いつの間にか玉座を離れたラクレス様が、ゆったりと円壇へと歩み寄る。そのまま壇に上がり、中心に立つ。「だから皆、私に従ってもらう」
 何でそうなる、というヤンマ君の抗議を無視し、ラクレス様が腰に差した黄金色の剣を抜くと同時に、リタ様が掲げていた5王国同盟の文書を真っ二つに切り裂く。切り裂かれた文書の下の部分がはらりと床に落ちる。
 予備動作も構えもせずに一振りで紙を真っ二つにした腕前か、国際的な公文書をためらいなく切り裂いたことにか、リタ様が目を細める。

 ラクレス様が宣言する。「シュゴッダムは、5王国同盟を破棄する」

 唐突な宣言に、王様たちの雰囲気が変わる。
 ラクレス様は壇の中心から、玉座とは真向いの位置に設えられている空席の椅子の前まで進むと、腰に剣を納めて王様たちの方へと向き直る。
 ラクレス様がついに〈邪知暴虐〉の姿を王様たちにも見せ始める。
 いわく、キングオージャーはシュゴッダムが独占すること。
 いわく、国を守りたいなら自分に忠誠を誓うこと。そうすれば守護神の力を分け与えること。

 リタ様が「国を渡せと……?」と問う声の底には怒りがこもっている。
 怒りと共に成り行きを見守っていたギラの鼻息が一層荒くなる。
 ヤンマ君が落ち着け、とリタ様や他の王様たちだけでなく、自分に言い聞かせるように大きな声を出す。ラクレス様を見据えながらヤンマ君が笑う。
「こいつにキングオージャーを動かすことなんてできねえ。ハッタリだ」

 突然、城全体が轟音と共に大きく揺れる。大きくよろめくボシマールさん。よろめきはしないものの、小さく揺れるドゥーガさんとセバスチャン。微動だにしないラクレス様……体幹どれだけ強いのよ?

 シュゴッダムの街。爆発が起こり、3体の巨大なサナギムがその中から現れる。サナギムたちはガンショベルを振り回したり暴れたりして街を壊しつつ進んでいく。突然の襲撃に悲鳴を上げて逃げ惑う人々。

 コーカサスカブト城・王の間。
 ギラが「まずい」と焦りと共に立ち上がる。監視の衛兵がギラを押さえつけようとする。ギラは王様たちに向かって、いつまでそうしてるつもりだ、と叫ぶ。
 ヤンマ君が立ち上がって「わーってるよ」とギラを見ずに答える。会議は中断だとオージャカリバーを構え、王鎧武装をするべくレバーを引く。

 しかし、オージャカリバーは起動しなかった。「何で……?」と不思議そうに自らのオージャカリバーを見つめるヤンマ君。ヒメノ様もまた、自分のオージャカリバーを操作し、反応しないと叫ぶ。
 同じように、カグラギ殿やリタ様のオウジャカリバーも反応せず、レバーを操作する音だけが空しく響く。

 焦る王様たちに、ラクレス様が憎らしいほどゆったりと問いかける。
「どうした?シュゴッドの故障かな?」
 ヤンマ君がどんな小細工をしたのかと、ラクレス様に怒りを向ける。
 ラクレス様はヤンマ君の怒りなど歯牙にもかけず、王様たちに「キングオージャーは私の支配下にある」と高圧的に告げる。

 ヒメノ様がゴッドスコーピオンをちょうだい、とラクレス様に迫る。そうすれば交渉をしてあげなくもない、という彼女をセバスチャンが制止するように声をかける。先ほどより、ゴッドスコーピオンの名前を聞いた時から、ヒメノ様の様子がおかしい。

 ヒメノ様の言葉も無視して、ラクレス様が決断を迫る。「私に下り国を守るか、それとも……」

 人々の、子どもたちの危機に、居ても立ってもいられなくなったギラが、衛兵たちに取り押さえられた格好のまま必死に叫ぶ。「来い、クワゴン!」

 ラクレス様が鋭く「ギラの剣は⁉」と問いかける。ドゥーガさんが両手に捧げ持つオージャカリバーを示し、重々しく「ここに」と答える。
 王の間の扉に何かが激しくぶち当たる音がして、ラクレス様が振り返る。

 扉が開き、赤いものが王の間へと突っ込んでくる。それはギラを押さえていた衛兵たちを突き飛ばし、王の間の空中を回りながら減速してギラの上で停止する。かなり勢いよく当たったのか、衛兵たちは床に倒れたままもがき苦しんでいる。仕事してただけなのに可哀そう……。
 あ、コレ、ンコソパの夜の空中決戦でキングオージャーの頭の中から出てきた空飛ぶバイクみたいなやつ!

 ギラはラクレス様を睨みつける。「お前に仲間は渡さない……!」
 ラクレス様もまた、厳しい顔でギラを見据えている。
 ギラが両手を上げると、赤い空中バイク=キングスピーダーがその先端に手錠の鎖を引っ掛けて飛ぶ。ちゃっかりオージャカリバーも取り戻し、そのまま王の間を去っていくギラ。
 釈放するとも返すとも言ってないのに、勝手に出て行くわ持ち逃げするわしたのだから、当然ながらドゥーガさんが衛兵たちに追えと命じる。

 飛び去ったギラを見送った王様たち。ヒメノ様が、初めてギラに強い関心を抱く。本当にシュゴッドと話せるのか、と。

 ラクレス様が5王国宣言を破棄した時にかかる『ラクレスの陰謀』が、めっちゃカッコイイです。これは第1話でも流れていたかと思うのですが、この曲だけでも格調の高さとスケール感があるのに、さらにラクレス様の声が乗ると、覇王感が増して最高です。

 不意打ちで5王国同盟の文書を切って見せたの、アレってもしかして、リタ様に不意打ちで平手打ちされたことに対する仕返しなのかな、とふと思いました。よく考えたら別に切る必要ないですもんね……。

シュゴッドソウル争奪戦

 シュゴッダム。夕日に染まる街の広場。
 キングスピーダーから降り、いつの間にか手錠を外していたギラが、クワゴンにお礼を言う。そして素朴な質問を投げかける。
「どうしてキングオージャーを呼べないんだろう?」
 クワゴンが鳴き声をあげて答える。「ゴッドスコーピオンのサソリーヌ?クワゴンの友達か?」
 クワゴンの返事にギラが笑顔になり、サソリーヌがいれば大丈夫なんだなと確認する。
 ギラの中ではシュゴッドは全て友だち同士となっているのだろうか?そしてサソリーヌの名はクワゴンとギラ、どちらが付けたのか?

 そこへ割り込む無粋なアイツ……カメジムの声が聞こえてくる。
「お探しの物は……これですか?」
 カメジムがそう言って見せびらかしてきたのは……!

 カメジムの姿を認め、ギラが怒気をはらんだ声を上げる。クワゴンが叫び、ギラが振り返る。クワゴンの言葉に、ギラがカメジムが手に持つ物体に目を向ける。「あれがゴッドスコーピオンのソウルなのか」

 カメジムが一緒に来れば渡さなくもなくも(以下略)とギラを誘う。トウフでカグラギ殿と交渉のこの字もせず、一方的に焼き払った奴が何を言うのか。いくらギラでもこの要求を聞くわけもなく、今ここで渡せ、とオージャカリバーを構えると、あっさりと王鎧武装する。

 カメジムに勢い良く突っ込むクワガタオージャー。しかし技量は月とスッポンよりはるかに隔たっており、カメジムに余裕でかわされ、しかもマルムシピンでいいようにあしらわれる。
 相手にするまでもないと判断したカメジムは、余興といきましょうと言って、軽く手を叩く。地中からサナギムが何体も現れ、クワガタオージャーに襲いかかる。次々とサナギムを倒すクワガタオージャー。

 シュゴッダム。町の別の一角。
 たくさんのサナギムたちを、懸命に倒していくクワガタオージャー。
 そこへ、パピヨンオージャー、カマキリオージャー、トンボオージャーにハチオージャーが姿を見せ、それぞれにキングスウェポンを駆使してサナギムを蹴散らしていく。

 シュゴッダムにあるバグナラクの繭。夕焼けの中、巨大サナギムたちがガンショベルの弾を繭に向かってガンガン撃ち込む。銃撃による刺激で、繭の中から脈打つような波動が放たれる。
 クワガタオージャーが繭の変化に気付く。その後ろから、カメジムが律義に(制限時間まで)待つとは一言も言ってない、と嘲笑って立ち去る。

 カメジムと繭、どちらにするか少し迷ってから、クワガタオージャーは繭への対処を選び、キングオージャーを降臨させるべくオージャカリバーを高く掲げる。できるのは王鎧武装までのようで、ギラはクワゴンを呼ぶ。
 行けるかと問われ、力強く答えるクワゴン。クワガタオージャーは「無理をさせるが、頼む」と言って、クワゴンに乗り込む。

 バグナラクの巨大繭は、外周が光の帯となって輝きを放っている。巨大サナギムが、ガンショベルで巨大繭をガンガン叩いている。
 そこへ勢いよく飛んでくるクワゴン。繭ではなく、巨大サナギムの1体に体当たりをする。

 シュゴッダム。とある街の一角。巨大サナギムが暴れた跡なのか、石造りの壁か何かの塊がいくつもゴロゴロと落ちている。
 そこに通りかかったカメジムが、サソリーヌのシュゴッドソウルを眺めながら含み笑いをしている。
「それを、寄越しなさい!」
 これまで見せたことがないような激しさで、カマキリオージャーがカメジムに迫る。しかし、カメジムは弄ぶようにその攻撃をかわし、長いマルムシピンを差し出す。足を引っかけて転ぶカマキリオージャー。

 どこを見ているのか、とサソリーヌのシュゴッドソウルを見せびらかしながら嘲るカメジム。しかし、どこからともなく現れた黒い影に、サソリーヌのソウルが奪われる。
「ええ、本当に!」
 そう言って黒い影=ハチオージャーが振り返り、オージャカリバーでカメジムの胴を力いっぱいに薙ぎ払う!

 あ~れ~、と絶対にやられていない悲鳴を口にしつつ後ろによろめいたカメジムは、ハチオージャーとの間合いを取る。右手の小指を立てながら顔の辺りに添えて含み笑いをすると、地表にマルムシピンを立て、そのまま地中へと消えるように去っていく。マグマを吹き上げないってことは、地帝国に帰ったんじゃないのか?ていうか帰れよ!

 サソリーヌのシュゴッドソウルを物思いにふけりながら眺めるハチオージャー。カマキリオージャーが足早に近づいてそれを渡せと言いかけた時。
 爆発音が轟き、その衝撃が二人のいる場所まで伝わって地面が揺れる。

 クワゴンとクワガタオージャーが巨大サナギムたちに立ち向かっているが、1体と一人ではどうにもならない。

 街の一角で戦闘中だったトンボオージャーとパピヨンオージャー。トンボオージャーが一人で突っ走るから、と吐き捨てる。巨大繭がある方角を見る二人。

 夕陽の中でさらに輝きを増すバグナラクの繭は、さっきよりも鼓動が速くなり、今にも中から何かが出てきそうである。

 シュゴッダムの街の広場。サナギムたちが落としていった瓦礫が転がる中、あちらこちらから人が集まり、不安そうにさざめき合う。ゴローゲさんもまた、両手にほうきの柄を握り締めて繭の様子をうかがっていたが、ふとある人物が視界に入り、驚きと共にその名を叫ぶ。「ラクレス様だ……!」
 同じようにその姿に気付いた人々が、あちらこちらでその名を口にする。

 人々の間を悠然と歩いて来るラクレス様と、その後ろに付いてくるボシマールさん。あれ?ドゥーガさんはどうした?
 ラクレス様の前にゴローゲさんが飛び出し、繭が爆発しそうだと必死に訴える。不安に駆られた人々が、ゴローゲさんとラクレス様たちを取り囲む。
 ラクレス様はゴローゲさんをなだめるように右手を上げる。
「安心しろ。大切な国民は私が守る」
 上げた右手を胸に当て、ラクレス様がきっぱりと言い切る。その気高い姿に安堵のため息を漏らす人々。

 その群衆の後ろに、険しい顔つきのギラがいた。眼光こそ鋭いが、巨大サナギムと戦っていたせいか、足取りがおぼつかず、広場に落ちている瓦礫にもたれながらやっと立っている。
 ギラがいることを知ってか知らずか、ラクレス様は「守護神の力で敵を打ち倒して見せよう」と人々の前で豪語する。
 斜陽の中に立つラクレス様の姿は、西洋絵画か彫刻のようである。その後ろではボシマールさんが微笑みを浮かべている。

 ラクレス様の力強い言葉に、人々が沸き立つ。自分の言葉の影響を確かめるように、ラクレス様が周囲を見回す。人々の盛り上がりに満足そうに笑うボシマールさん。
 そこへ、腕組みをしたカグラギ殿が現れ、ラクレス様を呼ぶ。ゆったりと歩み寄ると、「これを」と恭しく右手を差し出し、手のひらを広げる。そこには、カメジムから奪ったサソリーヌのシュゴッドソウルが乗っていた。

 ラクレス様が手に取るより早く、彼とカグラギ殿との間を、風のように駆け抜けたギラがサソリーヌのソウルを奪い取る。
 広場の別の隅では、ヤンマ君とリタ様が様子をうかがっている。少し遅れて現れたヒメノ様は、唇を引き結び、燃えるような目をしている。肩で息をしているのは、急いで来たからだけではないようだ。

 サソリーヌことゴッドスコーピオンのシュゴッドソウルの奪い合いの場面。カメジムが頭脳労働だけでバグナラクでの大幹部をやっているわけではないことが示されます。ギラはともかく、頭に血が上っているとはいえ、ヒメノ様の攻撃も余裕で見切って、受けるまでもなく難なくかわします。カグラギ殿の力強い斬撃でもまるでノーダメージでした。腹立つほど強くて頑丈!アイツを倒せる日はいつか来るのでしょうか?

 サナギムがあちこちで暴れ回ってたのに、ラクレス様についてきたのはボシマールさんだけでした。大丈夫かな?と不安になりますが、ドゥーガさんもきっと色々忙しいのでしょう。ギラの捜索とかギラの捜索とか……。

現れよ、ゴッドスコーピオン!

 サソリーヌのシュゴッドソウルを見つめるギラに、ラクレス様がどう見ても聞いても、親しみのかけらもない表情と声で呼びかける。「どうした、わが弟よ」
 ラクレス様の言葉に、ゴローゲさんが嬉しそうに「ギラ王子も一緒に戦ってくれるのですね⁉」と叫ぶ。その言葉に、人々が歓声を上げ、拍手を送る。自分の言葉に盛り上がったゴローゲさんは、ほうきごと高々と両手を掲げる。

 人々の盛り上がりなど目もくれず耳に入らず、ギラが「ラクレス!!!」と叫ぶ。腹の底からの怒りを込めて。
 ギラの剣幕に、広場全体が水を打ったように静まり返る。人々は何事かとギラに目を向ける。

「大切な国民を守る……?」
 先ほどの剣幕は何だったのかと思うほど穏やかにギラが呟き、小さく鼻で嗤う。その笑い声は徐々に大きくなり、邪悪の王の高笑いに変わる。
「よくもいけしゃあしゃあと、薄っぺらい嘘がつけるものだな!!」
 ラクレス様を睨みつけながらそう叫ぶと、ギラがオージャカリバーを抜いて剣先をラクレス様に向ける。人々が一斉に怯えて後ずさる。ボシマールさんが前に出てラクレス様をかばう。動かないのはラクレス様と、脇で高みの見物をしているカグラギ殿だけ。

 ラクレス様の反応は意外な物だった。「やはり私の邪魔をするか」と視線を落とし、温めるかのように両の手の先に触れるその姿や声には陰がある。
 しかし、再び顔を上げて「偉大なる国民たちよ」と人々に呼びかける声は、力強く凛とした響きを持っていた。ボシマールさんが一礼してラクレス様の後ろに下がる。
 ラクレス様が右手でギラを指し示しす。「この男は、王である私に刃を向け、皆を危険にさらす、シュゴッダムの敵だ!!」
 目の前の光景とラクレス様の言葉に、人々が息を呑み、ギラを見る。

 ギラがオージャカリバーを構えたまま、以前よりもはるかに強くなった眼差しでラクレス様を見据え、不敵に笑う。
「……それでいい。貴様ごときに任せれば、この国は滅びる!そうなる前にこの俺様が、シュゴッダムを奪ってやろう!!!」
 ついには邪悪の王モードで両手を広げて高らかに笑うギラ。段々板についてきたようで、広場にいる人々の顔は一様に不安に満ちている。

 ギラの高笑いが続く中、ゴローゲさんが心底から不愉快そうに「何てヤツだ……!」と吐き捨てる。その隣には広場に駆け付けたコガネちゃんとブーン君が顔を出し、呆れたようにギラを見ている。

 ギラがサソリーヌのシュゴッドソウルを高々と掲げる。遠くの山の端に夕日が沈み、辺りが闇に包まれる。
 ギラが持つサソリーヌのシュゴッドソウルが、闇の中で琥珀色の柔らかな光を放つ。破壊を免れた広場の街灯があちこちでぽつぽつと灯り、弱弱しい光を投げかける。

 ギラが手を下ろし、手にしているソウルを見つめる。闇に浮かぶギラの姿は、離れた場所からのまばらな明かりに照らされたせいか、邪悪の王にふさわしい不気味さを醸し出している。
「俺様が、世界を支配するーーーー!!!」
 オージャカリバーを天に向かって突き上げて叫び、笑みを見せるギラ。

 闇の底から轟音が響き、地中から舗装を突き破って勢いよく飛び出してきたのは……ゴッドスコーピオン=サソリーヌ!月の光に二つの大きなはさみがきらめく。
 ギラの後ろに姿を現したサソリーヌは、三大守護神らしい風格がある。月光を受けて輝くオージャカリバーを振り下ろすギラ。サソリーヌは威嚇するようにはさみとしっぽを振り上げると、はさみでギラの姿を隠してしまう。

 地中から現れた巨大なものに驚き、怯え、慌てふためき、腰を抜かして地面に座り込む人々。黙って見ているラクレス様。わずかに息を呑むボシマールさん。
 コガネちゃんはブーン君を抱きしめながら立っている。ゴローゲさんは中腰の姿勢で「悪魔だーーー!」とこの日一番の絶叫をする。

 広場での兄弟対決の場面。基本的には、ギラが〈邪悪の王〉としてラクレス様に立ち向かう決意を新たにし、さらにはサソリーヌの召還に成功する主人公らしい流れです。
 しかしここにも、制作サイドがそこまで狙って作っているかどうか分かりませんが、なかなかエグイ多重構造があります。それはまた後ろの方で。

 日没直後の暗転から、宵闇の中にサソリーヌが姿を現し、ギラとツーショットになるまでの流れが、ロボ好きの心をくすぐりまくります。
 日没直後も残照があるのであそこまで急速に真っ暗にはならないんですけど、そこはドラマ性とかエンタメ性とか浪漫とか……あとは、シュゴッダムの人々の心象風景、といえるでしょうか。

 シュゴッダムでは、調印式の日にはバグナラクの大群に襲撃され、さほど時がたたないうちに今度は謎の巨大な繭をこれ見よがしに設置されてしまい、ついさっきまでバグナラクが街で暴れ回っていたのです。大小の差こそあれ、誰もが不安で心が揺れています。

 そんな時に、人々が絶対の信頼を寄せているラクレス様に楯突き、シュゴッダムを奪ってやると高笑いをする元指名手配犯は、さぞ禍々しく見えたでしょう。さらには見たこともない巨大なシュゴッドを呼び寄せたのです。ゴローゲさんが「悪魔だ!!!」と叫ぶのも無理ないことです。

 サソリーヌのコクピット。ギラが意気揚々と王鎧武装をする。クワガタオージャーとなったギラがサソリーヌに声をかけると、気合充分なサソリーヌはその声にこたえるようにはさみをガチンガチンと動かす。広場から跳び上がり、近くの建物の屋根に乗っかると、向きを変えて飛び立つ。
 サソリーヌの重みと乗っかった衝撃で壊れた屋根の修復は誰がするんだ?などと余計な心配が頭をよぎる。そんなことを考えてしまう、大人になった自分が恨めしい。

 カグラギ殿がお手並み拝見というように笑みを浮かべて見守る。
 広場の別の一角。ヤンマ君、リタ様もまた黙って成り行きを見守っている。ヒメノ様は「アレは……私の物!」と普段のワガママとは全く異なる切実さで呟く。

 バグナラクの繭の近く。月が煌々と照らす中、サソリーヌと巨大サナギムたちとの戦いが始まる。
 巨大サナギムが左右のはさみに1体ずつ襲いかかるが、逆にそれぞれサソリーヌのはさみで返り討ちにされる……あれ、ちょっと待って、サソリーヌのはさみと巨大サナギム1体のサイズ感が同じくらいなんだけど???
 サソリーヌ、めっちゃ大きい!さすが三大守護神、スケールが違う!

 クワガタオージャーが「雑魚どもが!八つ裂きにしてくれるわ!」と体ごと大きく左右にひねって腕を振る。
 左右のはさみで巨大サナギムを1体ずつ捕まえたサソリーヌは、右のはさみに掴んでいたサナギムは尻尾の先を突き刺して秒殺、左側で捕まえていたサナギムは空高く放り投げる。悲鳴を上げて飛んで行くサナギム。
 やはり三大守護神、パワーも半端ない。

もう一体のキングオージャー!?

 街の広場。暗闇の中で、人々に向けてラクレス様が語りかける。
「私が皆を、シュゴッダムを救う!」
 ラクレス様の力強い言葉に、人々が歓声と拍手を送る。そりゃそうだ。ゴローゲさんは感激してありがとうございます、と叫んでいる。
 しかしどうやって?と視聴者全員が疑問に思ったであろう瞬間。ラクレス様が腰から黄金色の剣を素早く引き抜く。よく見ると、各国のシュゴッドのパーツをかたどった装飾が無いことと刀身の色以外は、オージャカリバーにそっくりである。

 ラクレス様が切っ先を上にして剣を構え、高く掲げて叫ぶ。
「降臨せよ、キングオージャー!」
 ……な、何だって?

 カグラギ殿が空を見上げる。別の場所にいるヤンマ君、ヒメノ様、リタ様も目を上げる。

 王様たちの視線の先。
 サソリーヌに放り投げられたサナギムが地上に落ちて横たわる。とどめを刺そうとサソリーヌが近づいてきたその時。
 空から巨大なものが現れ、巨大サナギムの上に降り立つ。果たしてその正体は……あれ、見たことあるような???

 サソリーヌのコクピットでクワガタオージャーが驚く。
「キングオージャー⁉ どうして……?」

 キングオージャーそっくりなロボットは、バグナラクの繭へと向き直る。繭は夕方よりも鼓動はいっそう速くなり、不気味な輝きはいっそう増している。ほんのわずかな刺激で今にも爆発しそうであり、いつ中からバグナラクが出て来てもおかしくない。

 そんな状態の繭を、なんとキングオージャー(仮)は両手でしっかりと挟み込むようにして持ち上げ、空高く放り投げる!ぅおい!
 怪しい光の尾を引きながら空を飛んで行く巨大な繭。よく爆発しなかったものである。
 キングオージャー(仮)にはすでにカブトキャノンまで装着されていて、その砲口が空飛ぶ繭に向けられる。エネルギー砲は過たず繭を撃ち抜く。
 空中で木っ端みじんに爆発する巨大繭。

 街の広場。成り行きを見守っていた人々が喜びと安堵の声を上げる。

 目の前の出来事に気を取られていたクワガタオージャーが、ふと異変に気付く。
 キングオージャー(仮)に近づいてきたクワゴンが、角を持ち上げて威嚇する。
「あれは……クワゴンじゃない⁉ 誰だ⁉」混乱したギラがそう叫んだ時。

 突如としてサソリーヌが振り上げたはさみを打ち鳴らし、鳴き声を上げながら暴走をし始める。サソリーヌの思いは強く、ギラにも制御できない。
 サソリーヌは一直線にキングオージャー(仮)に駆け寄ると、胴体に勢いよく尻尾の先を撃ち込む。
 その尾の先にはサソリらしく毒っぽい何かが仕込まれているのか、キングオージャー(仮)の動きが停止する。
 サソリーヌの突然の攻撃に、うろたえるギラ。
 サソリーヌの強烈な一撃に、キングオージャー(仮)の合体が解け、集まったシュゴッドたちが飛び去って行く。

 街の広場。人々が自分が目にした光景に恐れおののき、悲鳴を上げる。
 ゴローゲさんが、全身の力を込めてこの日最大の声量を更新して叫ぶ。
「やっぱり、ギラ王子は極悪人だ――――!!!!」
 ゴローゲさんの叫びに、人々がうなずく。

 サソリーヌのコクピット。動揺が収まらないギラが、サソリーヌにその行動の理由を問う。サソリーヌが答える。満月を背に受け、影に沈んだサソリーヌの大小の目が紫色に光る。

 コーカサスカブト城。城の前の広場に、一人で立つラクレス様。
 静かに「機は熟した」と呟き、ラクレス様が黄金色の剣を手にする。刀身についているカブトムシの角の形をしたレバーに、左手の薬指と小指を軽くかけて引き上げる。そのまま切っ先を上に向け、左手の人差し指と中指とで外側に向けて弾くようにもう一度レバーを操作する。刀身の一部が赤く点滅する。あれ、これはもしかしてもしかすると……?

 夜のシュゴッダムの空を飛ぶ1体のシュゴッド。その姿形はクワゴンに瓜二つだが、体の色が違うし、全体的にメタリックである。
 不気味な赤い色の満月の光を受け、ホバリングしながら角を打ち鳴らし、振り上げるクワゴンそっくりのシュゴッド……その名も〈ゴッドクワガタZERO〉!

 ここまでが第6話本編となります。

 第1話~第5話までが序章に当たるので、いよいよ本格的に物語が動き出すことになります。つまり、ラクレス劇場もシーズン2を迎えて色々とグレードアップしております。最終回まで見た後でも、むしろ見届けたからこそ、その何もかもに幻惑されて圧倒されます。いや、ホントすごい。それしか言えないです。

多重構造 その1:ギラと王様たち

 さて、後で述べることにしたエグイ多重構造について。端的に言えば〈為政者とそうでない者の違い〉が現れています。

 〈為政者〉は王様たち、〈そうでない者〉はもちろんギラです。
 この両者は何が違うでしょうか。それは「何を意識しているか」です。

 ギラはただラクレス様を倒すことだけを考えています。それが民を、子どもたちを救うことだと信じているからです。一生懸命にただ一人でラクレス様に立ち向かっています。どこにいてもどんな時でも、ラクレス様を倒すことで頭も心もいっぱいです。第6話ではそれが繰り返し描かれています。

 素直に見ればギラは「民、特に子どもたちのことを思って、考えるよりも早く行動」しています。
 しかし、ヤンマ君に連れられて王の間でラクレス様と対面した時は、「王子サマではない自分」を証明したい思いもあったでしょう。
 ラクレス様に歯向かう理由をヤンマ君以外の王様は知りませんし、この時知っていたとしても、やはり一度は何らかの形で止めたでしょう。バグナラクの繭というチキュー全体の危機に対処しなきゃいけない時に、他国のお家騒動に付き合ってる暇はないのです。

 ギラがラクレス様の「民は道具、私が国だ」という言葉を口にしたのも、ここに王様たちがいるから暴露した、というより「自分はお前に騙されないぞ」という意味くらいしかなかったように感じられます。
 先にも記したように、この時点で王様たちはラクレス様から決定的に心が離れ、ついにはギラの突撃を見逃します。ギラがラクレス様に歯向かう理由が分かり、それについては大いに共感したからです。

 ギラが悪人ではないことも、ラクレス様に歯向かう気持ちも王様たちは理解していますが、しかしそれは王様たち個人の感情です。
 公式の会議の場で王様たちが自分の感情に任せて暴れれば、バグナラクの繭など関係なく、チキューの秩序が破壊されます。平手打ちでさえ国と国の関係を危うくするのに、一国の王が敵意を持って他国の王に剣を向ければ、それはもはや宣戦布告であり、ラクレス様に他国への武力行使の口実を与えてしまいます。

 実際、第1話でヤンマ君がラクレス様の言い分が気に入らないので同盟を抜けると言った後、第2話でンコソパはシュゴッダムからの防衛出動の対象から外されました。第5話のギラの裁判で様々なことが無効になったので、恐らく防衛出動の件も無効となったと思われます。5王国同盟も何だかんだで維持されていますから、今回の会議にもヤンマ君は出席しています。
 ヤンマ君のことだから、呼ばれてなくてもカチコミだって言って乗り込んできそうですが。

 民を思い、どの瞬間においても民の命と生活を背負っているからこそ王様たちはうかつには動けません。何も背負っていないギラを見逃すことが精いっぱいの意思表示です。それにギラの今の技量では、ラクレス様まで剣が届かないことも分かっていたのでしょう。

 会議中、バグナラクの繭に刺激を与えるべく巨大サナギムが出現します。その時も、ギラは真っ先に立ち上がって、民たちを守ろうと焦り、王様たちに会議なんかしている場合じゃないと怒鳴りつけ、ついにはクワゴン(の一部)を呼びつけ、一人で出て行ってしまいます。
 一見ギラの行動は正しいですが、緊急事態が起きた時に、状況の把握もせずに闇雲に飛び出して行っても、現場に着いた時にふさわしい対処ができません。

 カメジムと相対した時、初めて戦う相手なので相手の強さが分からないのは仕方ないにしても、事前にヤンマ君が説明したのに、負けて自分が連れ去られる可能性やそのリスクを考慮していません。ギラが自信過剰なのではなく、一人で何でもやろうとし過ぎているのです。しかし、実力がまるで伴っていません。視野の狭さと客観性のなさがここでも露呈しています。

 あまりにもギラが弱っちいせいか、カメジムはギラを連れ去るより繭に刺激を与える方を選択します。そもそもサソリーヌのシュゴッドソウルと交換する気なんかなかったのでしょうが。本当に虫唾が走るヤツだな……。

 カメジムがいなくなった後も、一人でクワゴンを操りながら3体の巨大サナギムを相手にする羽目になり、結局ボロボロにやられてしまいます。
 そして、そんなギラに悪態をつく程度には関心があるのは、ヤンマ君だけでした。ヒメノ様はまるでラクレス様を見たギラのように、サソリーヌのことしか頭にありません。リタ様は中立公正が第一ですから仕方ないですし、カグラギ殿は何やら新しい悪巧みを考えていそうです。

多重構造 その2:ギラと国民たち

 第6話において、シュゴッダムの人々が見ている中で、ギラとラクレス様が対決します。ここにおいては、ギラとラクレス様の「見え方と見せ方」が描かれます。この場面は本当にエグイです。
 まずはギラの「見え方」から。

 ラクレス様は国王として、広場に自ら出向き、人々を安心させるべく言葉を掛けます。ギラは彼の言葉を嘘だと断じて、剣を向けます。
 この時も、ギラはラクレス様しか目に入っていません。民のことを口にしながら、その場にいる民を見ていません。

 ギラに感情移入をした見方をすれば、ラクレス様の言葉を信じ、ギラの振る舞いに怯え戸惑うシュゴッダムの人々に苛立ちを覚えるでしょう。
 しかしそれは、視聴者だけが知りえたアレコレを踏まえて見ているからであり、シュゴッダムの人々には知りえないことです。

 シュゴッダムの人々が知っているのは「ラクレス様への反逆罪で指名手配された若者が、実はラクレス様の弟、つまり王子であった」ことです。ギラがどんな人間かを知っているのは養護園で一緒に暮らしている子どもたちやそこで働いている大人たち、つまりほんの一握りの人たちだけです。

 ギラがゴッカンから帰国した際、人々が胴上げするほど熱狂していたのは「王子が帰還した」ことであり、「ギラが帰ってきたこと」ではありません。彼らのうちの何人が、養護園で日々を過ごしていた時のギラのことを知っていたでしょう?(←『相棒』の『インビジブル』を観た後に書いています。未見の方は検索してあらすじを追ってください。見たくなった方は何かしらの手段でご覧ください。)

 ラクレス様の弟というだけで、ギラに対する期待値が天井知らずになったのは、それだけラクレス様が国民の心を掌握しているということです。
 「ラクレス様とその弟君が、力を合わせてバグナラクをやっつけてくれる」と人々が盛り上がっている中で、ギラはラクレス様に剣を向けます。

 この時のラクレス様の「やはり私の邪魔をするか」は、独り言のようですが、この言葉が聞こえた民はどう思ったでしょうか?「やはり」ということは、前回の指名手配も実は無罪ではなかったのでは?とチラリと疑った人たちがいたのではないでしょうか?

 そういうささやかな疑念を呼び起こしておいて、ラクレス様がギラを示して人々に「シュゴッダムの敵だ」と断言します。
 指名手配された過去、目の前の現実とが合わさって人々の心に湧き起こった不安や戸惑い、今後ギラをどう思えばよいのかに、ラクレス様が明確な答えをくれました。「シュゴッダムの敵」となったギラに、期待が裏返しになった形の不信感や不満が、悪意となって向けられます。

 人々の心の動きを分かっているのかどうか、ギラはついには「シュゴッダムを奪ってやろう!」と誰が見ても悪党な発言をして高笑いをします。普段のギラを知らない人々がこの流れの中で白い眼で彼を見たり、ゴローゲさんが「何てヤツだ!」というのもうなずけます。

 ダメ押しというわけではありませんが、ギラは人々の前でサソリーヌを呼び寄せます。シュゴッダムの人々がサソリの姿を知っていたかどうかもありますが、地中から現れた巨大な何かと、そしてそれを呼び寄せて操れるギラに恐怖を覚えます。人間は未知なるものにも根源的な恐怖を抱くものですから、仕方ないことです。

 そして巨大なサナギムをあっという間に倒せるほど強い未知なる巨大なモノが、バグナラクの繭を破壊してくれたキングオージャー(仮)を攻撃したりすれば、それに対する恐怖も、それを操るギラに対する負の感情も増幅します。
 ゴローゲさんの「ギラ王子は悪魔だ!」は、シュゴッダムの人々のギラへの諸々が底なしに落ちたことを表しています。

 ギラは自らが救い守りたいシュゴッダムの民からの信用と信頼を、己の手で木っ端微塵に粉砕した上で、これからラクレス様以上に勝ち取っていかなければならなくなりました。

多重構造 その3:ギラとラクレス様

 次にラクレス様の「見せ方」について。
 国民を安心させるためであれば、国内のモニターを総動員して「自分が国民を守るから安心してほしい」と告げる方法がありました。
 しかしモニターはバグナラクに電波ジャックされて、不穏な印象がついてしまっていますし、バグナラクに妨害される可能性もあります。

 人心を掌握するなら、限られた範囲、限られた人数であっても、生の姿を見せ、生の声を聞かせるのが最も効果的です。古今東西、どれほどの並行世界が存在したとしても、全ての並行世界において、生で見るライブに勝るものはないのです(力説)。

 そういうわけで(?)、人々の前に姿を現したラクレス様ですが、従者はボシマールさんだけでした。一国の王が外出しているのに護衛が少なすぎます。少し離れた所にそれなりの人数を待機させていたかもしれませんが、この時点において、シュゴッダムにはギラ以外に国王を狙うような危険分子は存在しないのでしょう。

 多くのシュゴッダムの人々は、日頃からラクレス様を尊敬していて排除することなど考えたこともないでしょう。しかし、どんな国においても様々な理由で現行の体制に不満を抱き、何らかの手段で体制をどうにかすべく活動する輩はいるものです。そういう不穏な動向に対してリスクが小さいうちに適宜に対処しているからこそ、絶対的存在としてラクレス様はシュゴッダムを統治できるのでしょう。

 ラクレス様が幾重にも防備を固めるべく護衛を引き連れていれば、近づくこともままなりませんが、従者が一人だけということもあって、人々とラクレス様の距離感は物理的にも心理的にも近くなります。実際、ゴローゲさんは直接ラクレス様に不安を訴えかけます。ボシマールさんもゴローゲさんを止めたりしないですし、ラクレス様はゴローゲさんや人々の不安を受け止め、彼らが求める「国王の姿と言葉」を与えます。

 ギラはラクレス様の「民は道具。私が国だ」を聞いていますから、その振る舞いの何もかもが許せず、先に記したように人々の前でラクレス様に敵対する言動を示します。
 感情的なギラに対し、ラクレス様は終始落ち着いています。むしろ、ギラのラクレス様への敵対行動を人々に見せる機会を待っていたかのようです。

 第1話~第5話におけるギラとラクレス様のアレコレは、シュゴッダムの人々にとっては「コップの中の争い」であり、彼らにとっては程遠い物でした。だからこそギラを「帰ってきた王子」として歓迎できました。
 そして、ギラを「ラクレス様に反感を抱く王族」と知った国内外の不穏な輩にとっても、こんなおあつらえ向きの存在は大歓迎です。打倒ラクレスを掲げてギラをうまく言いくるめ、シュゴッダム内でのフワフワの期待感とを併せて利用し、適当な大義名分をぶち上げて内乱を起こしてクーデターを実行させ、国家転覆や乗っ取りを現実味を持って考えるでしょう(例えばカグラギ殿とかカグラギ殿とかカグラギ殿とか)。

 しかし、国王たるラクレス様が、ギラを「国家の敵」と人々の目の前で断じることで、ギラに対する人々のフワフワの期待感を打ち消し、王子という立場と肩書を無効にし、王族としての利用価値を限りなく小さくしました。
 ギラが打倒ラクレス様のことしか考えてないのに対し、ラクレス様はシュゴッダムの治安の安定と国内外への牽制を同時に行っています。
 ギラがラクレス様の言動を「薄っぺらい嘘」と考えている限り、永遠にラクレス様には勝てそうにありません。

 では人々に対して「薄っぺらい嘘」をつき続けているはずのラクレス様が、これほどまでに人々の信頼と尊敬を得ているのでしょうか?
 その答えは、ラクレス様がキングオージャー(仮)を降臨させたことで示されています。「有言実行」とそれを印象付ける「見せ方」です。

 キングオージャー(仮)を人々の目の前で降臨させて繭を破壊することで「シュゴッダムとその民を守る国王の姿」を、サソリーヌが暴走してキングオージャー(仮)に攻撃するさまを目撃させることで「国民の敵であるギラ」を、それぞれ強く印象付けています。
 その効果は抜群で、ゴローゲさんはギラを悪魔呼ばわりします。

 キングオージャー(仮)降臨はさすがにド派手過ぎますが、日ごろにおいても、このように人々に「見せるべきもの」「見せなくても良いもの」を適切に判断して政治を行うことで、ラクレス様は人々の信頼と尊敬を勝ち得て行ったのでしょう。嘘もつき通せば真実、偽善も貫き通せば善なのです。

多重構造 おまけ:ギラと視聴者

 ここまでお読みになった方は、そんなにギラのことを悪く書かなくても……とお思いになったかもしれません。
 確かにそう思われても仕方ないくらい、この時点でのギラのダメダメぶりをこれでもかというほど書き連ねている自覚はあります。

 逆に言うなら、いわゆる〈主人公補正〉がギラに対して驚くほどに施されていないということです。
 あらゆる物語において、主人公はどのような設定や前提があっても、主人公というだけで特別な存在です。そしてその主人公の特別さをどのように描き出すかが物語のキモであり、物語の面白さが決まってきます。

 従って主人公の描き方は物語を作る側の腕の見せ所となるわけですが……悲しいかな、この部分の詰めが甘いというか、雑というか、残念というか、「おちょくってんのか(Ⓒもっふん)」と言いたくなるような作品がちょこちょこ見受けられます。

 この主人公の特別感の描き方が明らかに悪目立ちしていて、説得力が足りない場合に〈主人公補正〉と表現されます。

 例えば、仕事覚えが悪くて一人でバタバタしてトラブルを起こした挙句、周囲が情にほだされて何とかしてやっているのに「アイツには特別な何かがある」と謎にデキる上司に評価されたり(お仕事系恋愛ドラマにありがちで、ヒットすることもあるが質についてはゲフンゲフン)、何がそんなにスゴイのかが垣間見える場面が1秒たりとも挟まれてないのに「この主人公はスゴイでしょ」をナレーションや周囲の説明台詞、あり得ない演出で押しつけてきたりします(人気はともかく、内容の質がゲフンゲフンな大河ドラマでやりがち)。
 え?偏見がスゴイ?あははは(そっと目を逸らす)。

 ギラは主人公なので、もちろん特別な能力があり、それが第1話において目覚めます。シュゴッドと会話できること、それによって伝説の守護神を降臨させられることです。
 しかしそれは、第2話であり得ないこととヤンマ君には否定され、第3話ではヒメノ様はギラの能力よりクワゴンに興味を持ち、第4話のカグラギ殿は逆にギラの身柄にしか関心がありませんでした。
 普通に考えたら、初対面なのにやたらチヤホヤする人間なんて超怪しい(カグラギ殿を思い浮かべながら)。

 第5話においてギラがシュゴッダムの王族だと明らかになりますが、ギラ本人は幼少期の記憶が極端におぼろげなので実感がありません。そのころに身につけたマナーやどうしてもにじみ出る生来の品の良さ以外には、彼が王族であると感じられる要素もありません。

 特別な能力と高貴な生まれが発覚したギラでしたが、第6話で貴種流離譚(生い立ち不明の主人公が、実はやんごとなき血筋だったり特別な生まれだったりする話)が、一転して『国盗り物語(司馬遼太郎原作:油売りの証人だった斉藤道三が武家に仕え、色々あって主家を追いやってその国の実質的な支配者になる話)』になります。

 〈主人公補正〉としてダントツに便利な「王族の出自」は、ラクレス様によって封じられ、「特別な能力」はかえってバグナラクによる脅威を招きました。
 安直な作り手なら履かせまくる(その結果主人公が色んな意味でコケまくる)高い下駄を、『王様戦隊キングオージャー』では目の前に一回ぶら下げてから、まるでキングオージャー(仮)にカブトキャノンで撃ち抜かれたバグナラクの繭のように、空の彼方へぶん投げて粉砕しています。

 これには、第1話~第5話まででギラの基本的な部分を描き、ギラ自身のキャラクターの魅力が伝えられているという制作サイドの確信と、余計なことをしなくても分かってくれるはずだという視聴者への信頼があります。

 それだけではなく、視聴者が自然とギラのファンや味方になりやすくなるように、作品世界内に「ギラの絶対的な味方でありつつ、第三者としての視点も持っている人物」としてコガネちゃんとブーン君が配置されています。

 コガネちゃんとブーン君は、これまた安直な作品でありがちな主人公をひたすら持ち上げるキャラではありません。ギラが指名手配された折には国王の生中継に乱入してまでギラの無実を訴えたりしますが、リタ様の事情聴取には毅然と証言をし、ギラがゴッカンから帰国した際にも王子扱いせずに、これまで通りに親しみを見せています。

 また、普段のギラが悪者モードになるとどうなるか知っているコガネちゃんとブーン君は、様々な場面で自ら話をややこしくするギラを止めようとしたり、実際にそういう流れになった時には呆れたような顔を見せます。
 特にコガネちゃんの客観的で的確な言葉は、視聴者のギラに対する思いを代弁してくれるもので、それによって視聴者はその時のギラへの自分の感じ方を肯定され、安心して物語を楽しむことができます。

 コガネちゃんとブーン君もまた、今後に様々な展開が待ち受けていますが、時には視聴者の代弁者として、時には作品世界の住人としてギラを応援し続ける二人がいるからこそ、作品世界に視聴者側も感情移入しやすくなり、ギラを応援したくなるのです。

 物語の流れの中での〈主人公補正〉がない代わりに、演出面においては、ここぞという場面でギラがカッコいい姿を見せています。
 サソリーヌを召還する場面での〈邪悪の王〉らしい不穏さを醸す明かりの中で不敵に笑う姿や、月明かりの下でのサソリーヌとのツーショットは、ギラこそがこの物語の主人公なのだと納得させる絵力があります。

 また、サソリーヌが登場してから巨大サナギムを倒すまで、ギラのテーマ曲『俺様が世界を支配する!』と、シュゴッダムのテーマ曲『INFERNO』1番が連続で流れます。『俺様が世界を支配する!』は『INFERNO』がベースとなっているパートがあるので、まさしくこの2曲がかかっている間、ギラが物語を支配しているようですし、曲自体のカッコ良さも相まって、見ている側の気分も自然と盛り上がります。

 こうして視聴者の気持ちをギラの側に引き寄せることで、第6話終盤の展開に視聴者もシュゴッダムの人々と同じように驚き、次回への楽しみが生まれます。

 「多重構造その1~その3」に記したような、キャラクターたちの立ち位置の違いによる視点や思考レベルのズレとそこから生まれる深い行間が、まるで地層のように折り重なって物語に複雑さと奥行きを与えています。
 視聴者はチキューの民の視点と、チキューの外側の視点とを行ったり来たりしながら、時にはチキューの民のように、時には全てを見ている神のように、様々に物語を疑似体験することができます。

 あらゆる方向に複雑に絡み合う筋立てを、毎回ごとのテーマと組み合わせてエンタメとして成立させていることに、改めて驚嘆せざるを得ません。
 毎回見て、毎回驚いてるなあ、私。

 以上、「エグイ多重構造について」でした。

 「そんなこと知ってた」「単なる考え過ぎ」「くどくどと長い」というご意見もあるでしょうが、考え過ぎるくらいくどくどと考えるのも楽しいのが『王様戦隊キングオージャー』なのです。

 オンエア時も妄想はしても、考察はしていませんでした。「情報が足りないうちは黙っているべき」という某古本屋兼陰陽師の考え方を真似していた……というと聞こえはいい(?)のですが、実際は毎回が予告の情報を元に想像していたことの斜め上の展開をするので、考察するだけ無駄だな、と早々に諦めましたw

 さて、第7話ですが、上記の通り、予告を見ただけでは全く内容が分かりません!分かるのはヒメノ様とヤンマ君の関係性が変わったり変わらなかったりすることだけ!
 え?ソレで十分?確かに!

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