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「浪花百景」のいまを訪ねる③

廣田神社と今宮戎神社(浪速区編)

廣田神社の神使は魚介類のエイ

「廣田社」(芳瀧画「浪花百景」より)
廣田神社の境内
「廣田社雪景」(貞信画「浪華百景幷都名所・浪花百景之内」より)
廣田神社の正面鳥居

 浪速区内に神社はいくつかあれど、全国的にも有名なのは今宮戎神社だろう。毎年1月9日から11日まで行われる「十日戎」は大勢の参拝客でにぎわう、大阪でも屈指の祭礼である。今宮戎ほど名は知られていないが、約100メートル離れた場所に鎮座するのが廣田神社だ。
 明確な創建の時代は不明だが、神功皇后が三韓征伐より帰還のころに祀られたとも伝わる。この神社で、ほかと大きな違いといえるのが神社の使いが「エイ」であること。そう、平べったくて長い尾のある魚介類のエイ。とくに廣田神社の神使は「アカエイ(アカエ)」だとする。

アカエの描かれた絵馬

 神使といえば、稲荷神社の「キツネ」や春日神社の「シカ」、日吉神社の「サル」などがあるが、エイというのはかなり珍しい。
 このアカエは痔をはじめとする難病の守り神とされ、アカエを食べないで祈願すれば難病も治癒するらしい。祈願成就のための「お茶断ち」や「酒断ち」などは耳にしたことがあるが「エイ断ち」ならば、さほど難しくはないのでは? という気にはなる。エイを食べるといっても「エイヒレ」ぐらいしか思いつかないし。
 ちなみに、筆者の地元には天性寺、通称「蛸地蔵」という寺があり、こちらは願掛けで「タコ」を断つ。タコ焼きが食べられなくなるので、エイよりは辛そうだ。
 境内はさほど広くないが、江戸時代には「廣田の杜」という、うっそうとした森林の中に社があったらしい。いまも多くの木々が植えられていて、撮影時は黄色く色づいたイチョウが目に鮮やか。掃き集められた落ち葉がハートマークにまとめられている様子は、ロマンチックで感動的だった。

ハート形に集められたイチョウの落ち葉

星カ池の稲荷社から今宮戎神社へ

 廣田神社の近くには大正時代まで「星カ池」という池があり、稲荷神社が鎮座していたとか。その稲荷社は赤土稲荷神社として、廣田神社の境内に祀られている。

「廣田星カ池稲荷」(芳雪画「浪花百景」より)
廣田神社の摂社となる赤土稲荷神社
赤土稲荷神社の正面鳥居


 廣田神社から少し歩くと、今宮戎神社だ。

「今宮蛭子宮」(芳瀧画「浪花百景」より)
今宮戎神社の入り口
今宮戎神社「三ツ鳥居」。大阪市では中央区の坐摩神社(いかすりじんじゃ)も同じ形

 十日戎には多くの人出でにぎわうが、普段は比較的ひっそりとしている。本殿こそ古風な趣きはあるが、そのほかの社殿は近代的。樹木の類も少なく、境内はガランとした印象を受ける。ただ、そうでないと3日間100万人といわれる参拝客を受け入れることはできないであろう。
 本殿の裏にはドラがあり、正面からの参拝後、裏手にまわってたたく。これを「念押し参り」「裏参り」という。「えべっさんは耳が遠いから念押しをするため」といわれているが、これは俗説。また、ドラに名刺やステッカー、千社札などを貼る人もいるようだが、「貼り付けないように」との注意書きがなされているのでマナーは守ろう。

本殿裏の注意書き

 今宮戎神社の祭神は天照大神、事代主命(ことしろぬしのみこと)、素盞嗚命(すさのうのみこと)などで、事代主命が戎神と同一視されている。廣田神社の祭神は撞賢木厳之御魂天疎向津媛命(つきさかきいつのみたまあまさかるむかつひめのみこと)といって天照大神の荒魂だ。また、西宮市の廣田神社も祭神は撞賢木厳之御魂天疎向津媛命で、南にある西宮神社の祭神は蛭児命(ひるこのみこと)、すなわち戎神である。これらの神社の関係を深く調べるのも、おもしろそうではある。

 本記事に関するお問い合わせ先
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