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大阪府内の各役所・役場をたずねる①

もはや「村」はブランドである!・千早赤阪村

できたてほやほやの新庁舎

 4月に上梓する予定の新書のため、大阪じゅうを歩きまわった。その際に思ったのが、大阪に60年以上も住みながら知らない場所が多すぎる、ということだ。
 ならば、あらためて大阪の全市町村を踏破してみようじゃないか。では、訪ねるポイントはどこがいい。主要駅とも考えてみたが、鉄道の通っていないところもある。
 現在、大阪府下にある自治体の数は43市町村。そこに必ず一つしかない施設がある。役所であり役場だ。役所・役場そのものにも特徴はあるし、周辺を散策するのもおもしろい。
 というわけで、第1回目に選んだのは、大阪府でもっとも人口が少なく、唯一の村でもある千早赤阪村である。
 千早赤阪村の人口は4823人、面積37.3平方キロメートル(令和5年8月現在)、人口密度は124人/平方キロメートルで、村域のほとんどを山林が占めている。鉄道路線が走っていないため村内に駅はなく、近鉄富田林駅発着のバスが唯一の公共交通機関だ。
 バスに揺られて約20分。千早赤阪役場前で降りると、目の前に村役場が建っていた。

千早赤阪村役場

 

個性のあるフォントで刻まれた村名と村章

 真新しい庁舎は2023年に建てられたものらしい。できたてのほやほやだ。
実は、20年近く前に旧庁舎をたずねたことがあり、当時は2階建てのこぢんまりとした建物。「村役場」にふさわしい味のある建物だと感じたのをおぼえている。

大楠公誕生の地と日本一かわいい道の駅

 役場を離れて、「さあ、どこへ行こうか」と考えてスマホの地図を見ると、近くに「楠公誕生地」と「郷土資料館」「道の駅」があると示される。「楠公」とは楠木正成のこと。そう、千早赤阪村は鎌倉時代末期から南北朝時代に活躍した武将であり、日本史上屈指の忠臣としても名高い楠木正成の出身地なのだ。
 村役場から歩いて約10分。高台の上に「楠公誕生地」の石碑がある。

楠公誕生地の石碑

 もともと小さな社が祀られていたところに明治時代の1875年、正成の史跡をめぐっていた大久保利通が石碑の建立を命じたものらしい。
 誕生地の横に位置するのが「千早赤阪村郷土資料館」。

千早赤阪村郷土資料館のエントランス

 すぐそばにイベントホールの「くすのきホール」があり、階段をのぼったところに位置するのが「道の駅ちはやあかさか」だ。

くすのきホール
道の駅ちはやあかさかの全景

 道の駅といえば、高速道路のサービスエリアのような箱もの施設を思い浮かべてしまうが、道の駅ちはやあかさかは規模が小さく、建物も2階建ての住宅風。その前には素朴で手作り感満載の売店がならび、「日本一かわいい道の駅」というキャッチフレーズにいつわりはない。

まさに絶景! 下赤阪の棚田

 千早赤阪村といえば、「日本の棚田百景」のひとつにも選ばれた「下赤阪の棚田」が有名だ。山腹の道をのぼると村の中心部が一望でき、また、棚田が望める付近では、富田林のPLの塔や遠くにはあべのハルカスも見ることができる。

山道から見下ろした村の中心部。右下は保健センター、左下が村役場
棚田の近くから見えるPLの塔(中央左)とあべのハルカス(中央右)

 山道をのぼりつめ、村立中学の裏には「史蹟 赤阪城址」の石碑。そして高台から見下ろす形で棚田が広がっている。

赤阪城址の石碑
棚田の風景

 たずねたのは1月なので荒涼としていたが、田植えが終わった時期や稲穂が色づくころなら、さぞや絶景だろうと思わせるに十分な光景ではある。このほかにも、千早城跡や建水分神社など村には見どころが多い。時間の都合で、すべてを見てまわることがかなわなかったのは残念だ。
 今回歩いたのは、千早赤阪村でも比較的開けたエリアなので、自然を楽しむというルートではない。山林や川に恵まれる村なのだから、時間に余裕があれば、大自然を満喫したいという気分にさせてくれる。古民家を借り切って、1週間や10日くらい過ごしてみたい気にもなる。食材を買い込んで、自炊をして朝から夜までぼんやり過ごすのもいい。
 大阪といえども郊外に行けば、山深い場所は結構ある。しかし、「市や町の外れで過ごした」と「村に泊ってきた」では、言葉の印象が異なる。
「コンビニはないけれど、自然がいっぱいの素朴な村で贅沢な時間を味わう」
 もはや「村」は、立派なブランドでもありうるのだ。

 

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