定時先生!第34話 チャイム着席
本編目次
第1話 ブラックなんでしょ
チャイムが響く。慌てて席に着く生徒たち。急ぐそぶりも無く悠々と自席に戻る者もいる。いつものことだが、歯がゆい思いがこみ上げる。全員の着席を見届け、遠藤が内心を抑え静かに口を開く。
「全員が座るまでに30秒オーバーしました」
この後、チャイム着席不徹底に対する一通りの注意が述べられ、ようやく授業が開始された。
S中学校では、授業開始のチャイムが鳴った瞬間に着席している状態、通称「チャイム着席」を生徒に求めている。しかし、守れない生徒やクラスも少なくない。
チャイムが鳴る前に遠藤が着席を呼びかけることもあるが、本来は、生徒が相互に呼びかけ合えるのが望ましい。そうした訳で、このときの遠藤は、自発的な着席を目指しあえて何もせず見守った。だが、結局生徒はそのまま休み時間を満喫するだけで、チャイムが鳴ってしまうのだった。
遠藤にとってチャイム着席指導は課題であり、同時に悩みでもあった。
そのため遠藤は、図書室で中島に相談した折、チャイム着席指導についても助言を求め、この時の授業が終了した後のエピソードを中島に話し始めた。
その授業を終えた遠藤は、国語係の生徒に授業の評価を求められていた。
「次回の持ち物はいつも通り。宿題は今日は無し。私語は一部いたからB。チャイム着席は…Cだね」
「えーっ」
次第に話は世間話に移っていく。いつもなら、次の授業へ行かなくてはならず、早々に切り上げてしまうのだが、この後は空きコマだ。このまま話していても良いだろう。
「こんにちは」
そのうちに、教室前方の扉が開かれた。
次の数学の授業の教科担任を務める教務主任の西田だ。扉付近の生徒たちが挨拶を返す。まだ遠藤の授業が終わっていくらも経っていない。教卓には、遠藤の教具が置かれたままだ。
「すみません、教卓すぐ片付けます」
「ごゆっくり」
西田が教卓の端の空いてるスペースに自分の教科書を置くと、西田の周りに、つい今まで遠藤と話していた国語係の生徒も含め、数人の生徒が寄ってきた。
「西田先生、こないだ教えた動画見ました?」
「ああ、見たよ。面白かったな」
「でしょ。他にもおすすめ動画あるんですよ」
西田が、換気のために教室内の窓を開けて回ると、休憩中の生徒たちから次々と声をかけられる。西田が話の輪へ入っていくと、その度に笑顔が咲く。
授業開始3分前、生徒から叫びに近い呼びかけが入った。
「座ろーーー!」
学級委員の生徒だ。先ほどの遠藤の授業の開始前はおしゃべりに興じていた。すかさず西田が言う。
「ナイス呼びかけ!」
呼びかけに応じ、生徒たちは自席に着いていく。チャイムまでには全員着席するだろう。
「さっきの僕の授業ではチャイム着席Cにしたんですよ」
「このクラス、チャイム着席苦手だもんな」
「でも、今は学級委員が呼びかけてましたね」
「さっき俺が促したから。彼サッカー部だし、3分前になったらいつものピッチでの勇姿を見せてくれって」
「それであの強めの呼びかけ」
遠藤も、思わず笑っていた。