定時先生!第31話 互いに幸せ

本編目次 

第1話 ブラックなんでしょ

「そこまで。えー、散らかし王は、佐藤君ですね。拍手。では、この後の帰りの会で話す予定だった連絡をします。今日の放課後の集まりはー」

 生徒たちは、散らかした直後とあって落ち着きはない。体の向きも横向きだ。中にはわざと後ろを向く者などもいるが、遠藤は構わずそのまま連絡を終えた。

「はい、では今度は片付けます。全員起立してか片付け、終わった者から着席します。目標は5分以内。一番早く片付けられた人が片付け王です。佐藤君はだいぶ不利ですが頑張ってください。はじめ」

 一斉に片付けが始まった。見る見るうちに物が机上から消え、机の向きが整っていく。2分後には、着席する者が現れ始めた。5分を少し過ぎたが、散らかし王も含め、全員着席した。

「一番早く着席できた片付け王は、利根さんです。拍手。皆さん喜んで片付けてましたが、急いでいたため雑に物を突っ込んだだけの状態も見受けられます。もう5分とるんで、丁寧にしまってください。はじめ」

 この学級活動は無論、片付いた状態の方が話を聴けることを実感させる狙いだ。この時点で、もう十分教室環境は整ってはいたが、片付けレースの直後では、その余熱から落ち着きが無い場合が多い。片付けの時間を5分追加でとったのは、さらなる整理整頓よりも、クールダウンにこそ真の目的がある。中島の台本通りに事が進む。

「では、先ほどと同じ連絡をしますー」

 いつもより顔が上がり、私語もない。その状態を体験させる意図の活動であり、生徒もそれを理解していることもあるとはいえ、クラスが入学直後の頃のように自分の話を傾聴する姿など想像していなかった遠藤には、感慨深いものがあった。
 生徒に感想を書かせ、班で交流させた。多くの生徒の感想が、後者の片付けた状態の効果に感心する内容だ。交流中に指名しておいた、良い感想を書けている者に全体の前で発表させ、最後に遠藤が締めた。

「環境が整えば、心も整います。この後すぐ、掃除が始まります。今日からは『何を』掃除するかだけでなく『なんで』掃除するかも理解したうえで、掃除に取り組みましょう」

 何から何まで中島の受け売りだが、遠藤は手応えを感じていた。中島の解説が思い出される。

「ポイントは、清掃活動直前の学活で実施すること。それと、直後の掃除の態度に反映されてたら、すかさず褒めること。この学活の効果はそのうち切れるけど、そうやって少しでも褒めて、効果を持続させることだね。できていないことを指導するって、こっちもエネルギー使うし、効果も低いし、効率悪いよ。それより、できるように仕向けて、できた瞬間を指摘してあげた方が効果あるし、生徒もこっちも互いに幸せで、結局効率的なんだよね」