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第2章 毒の博物館 2-3 動物の毒のいろいろ―有毒爬虫類・両生類編、コラム04 有毒爬虫類の起源、および、コラム05 ヴェノム・トキシン・ポイズン:「特別展「毒」」見聞録 その08

2023年04月27日、私は大阪市立自然史博物館を訪れ、一般客として、「特別展「毒」」(以下同展)に参加した([1])。

同展「第2章 毒の博物館 2-3 動物の毒のいろいろ―有毒爬虫類・両生類編」([2],[3]のp.46-51)では様々な有毒爬虫類が展示された。

「コラム04 有毒爬虫類の起源」で、「有毒類仮説」が紹介された(図08.01)。

ヘビ類の起源や有鱗目の中の系統関係は不明瞭であったが、分子マーカーによってかなり異なる系統樹が得られていた。それは、形態的な研究で得られた結果ともかなり異なっている。しかし、最近の多くの分子マーカーを用いた分子系統研究では、かなり安定した系統関係が得られている。この系統樹では,ヘビ類の最も近縁なグループは、オオトカゲ上科とイグアナ上科で、3つのグループが単系統となっている。実際、オオトカゲ上科のコモドオオトカゲやイグアナ上科のアゴヒゲトカゲに毒腺が発見されており、この3つの分類群はもともと毒を持つとして、Toxicofera(有毒有鱗類)という分類群名が与えられている。これによれば、有鱗類の毒は、独立に進化したのではなく、この共通祖先が毒腺を備えており、分化の過程であるグループでは失われ、あるものではさらに洗練されたことになる([4])。

図08.01.コラム04 有毒爬虫類の起源。

毒を持つトカゲは、アメリカドクトカゲ、メキシコドクトカゲ(図08.02)、および、コモドオオトカゲ(図08.03)の3種類のみである([5],[6])。

アストラゼネカ株式会社が製造販売しているバイエッタ®皮下注5μg/10μg ペン300(一般名: エキセナチド)は、血糖値が高いときにインスリンの分泌を促し血糖値を低下させるGLP-1受容体作動薬であるが、アメリカドクトカゲの唾液から得られるタンパク質をベースにしたものである([7],[8],[9])。

図08.02.向かって左から、メキシコドクトカゲの標本とメキシコドクトカゲ頭骨の拡大模型(約3倍)。
図08.03.コモドオオトカゲ。
唾液に血液凝固阻害や血圧低下を引き起こす成分を含む。
国立科学博物館蔵。

ヘビ毒は、神経毒、出血毒、血液毒(血液凝固障害)、細胞毒、および、心臓毒に大別される(図08.04,[10])。

図08.04.ヘビ毒の分類。

ブラック マンバは神経毒と心臓毒を有する(図08.05,[11])。

図08.05.ブラック マンバ。
アフリカで最も恐れられている毒ヘビの1種で、強力かつ即効性の高い神経毒を有する。
国立科学博物館蔵。

タイワンアマガサの毒液は神経毒のみを含む(図08.06)。

図08.06.タイワンアマガサ。

タイワンコブラの毒液は神経毒と細胞毒(壊死を引き起こす)を含む(図08.07,[12])。

図08.07.タイワンコブラ。

ガボン アダーの毒の主成分は出血毒で、人間の致死量は60mgである。(図08.08,[13])。

図08.08.ガボン アダー。

ニホンマムシ(図08.09)やヤマカガシ(図08.10)の毒は出血毒が主だが、少量の神経毒も含まれており単純ではない([14])。

図08.09.ニホンマムシ。
図08.10.頸腺を剖出したヤマカガシ。

なお、ヤマカガシは通常、捕食したヒキガエルから吸収した神経毒(ブファジエノライド)を頸腺に蓄積している(図08.11,[15])が、中国南西部に生息するイツウロコヤマカガシはホタルを捕食することで、そのブファジエノライドを頸腺に蓄積している([16])。

図08.11.ヒキガエルの毒とヤマカガシ。

ここで、両生類の有毒種も紹介する。

アカハライモリはテトロドトキシンを持っているが、その毒化の由来や機序についてはよくわかっていないことが多い。なお、赤色と黒色の腹模様は「警告色(警戒色)」で、自分が毒をもっていることを敵に伝えて、身を守るためのものだと考えられている(図08.12,[17],[18])。

図08.12.アカハライモリ。

ヒキガエルは後頭部にある耳腺から乳白色の毒液を分泌する。この毒液はブフォトキシンを含み、ヒキガエルにとっては外敵から身を守る大切な武器となる(図08.13,図08.14,[19])。

救心の主成分である蟾酥(センソ)は、ヒキガエル科のシナヒキガエル(アジアヒキガエル)の耳腺(耳下腺、皮脂腺)の分泌物を集めて、成形したものである([20])。

なお、オオヒキガエルの肉を調理して食べた人がいるが、この行為は非常に危険である([21])。

図08.13.アズマヒキガエル。
図08.14.オオヒキガエル。

ヤドクガエルの仲間は、土壌にいるササラダニの一種オトヒメダニ属を食べることで、オトヒメダニ属が持っている毒であるプミリオトキシンをその体内に取り込む。なお、その体色の見事な模様と色彩は、警告色である(図08.15,[22],[23])。

図08.15.ヤドクガエルの仲間。

ブルーノイシアタマガエル(図08.16)とドクイシアタマガエル(図08.17)は頭骨にある鋭い棘を、頭突きによって捕食者に突き刺し、傷口から毒液を浸み込ませる。前者の毒液はタンパク質分解酵素などのヘビの血液毒に似た成分を含む(3のp.49)。

図08.16.ブルーノイシアタマガエル頭骨の拡大模型(約9倍)。
図08.17.ドクイシアタマガエル頭骨の拡大模型(約9倍)。

「コラム05 ヴェノム・トキシン・ポイズン」は、日本語の「毒」に相当する英語であるヴェノム(venom)、トキシン(toxin)、および、ポイズン(poison)の違いを示している。「poison」は毒全体を意味するが液体で「呷る毒」のイメージがあり、「toxin」は「毒素」と訳し、「venom」は昆虫や爬虫類の「毒腺」に由来する(図08.18,[24])。

図08.18.コラム05 ヴェノム・トキシン・ポイズン。

「毒の博物館 2-3 動物の毒のいろいろ―有毒爬虫類・両生類編、コラム04 有毒爬虫類の起源、および、コラム05 ヴェノム・トキシン・ポイズン」から、有毒爬虫類・両生類の毒の奥深さを痛感した。また、これらの毒の一部は医薬品の原材料や元ネタとして使用されていることを改めて知った。

爬虫類と両生類は哺乳類とは異質な生物である。


参考文献

[1] 独立行政法人 国立科学博物館,株式会社 読売新聞社,株式会社 フジテレビジョン.“特別展「毒」 ホームページ”.https://www.dokuten.jp/,(参照2023年05月14日).

[2] 独立行政法人 国立科学博物館,株式会社 読売新聞社,株式会社 フジテレビジョン.“第2章 毒の博物館”.特別展「毒」 ホームページ.展示構成.https://www.dokuten.jp/exhibition02.html,(参照2023年05月14日).

[3] 特別展「毒」公式図録,180 p.

[4] 日本爬虫両棲類学会.“疋田 努(2013) 2007年以降の日本産爬虫類の分類の変遷について. 爬虫両棲類学会報, 2013巻2号, 132–140”.日本爬虫両棲類学会 ホームページ.日本産爬虫両生類標準和名リスト.日本産爬虫両生類分類・和名関連文献.2019年11月06日掲載.http://herpetology.jp/wamei/Hikida_2013_BHSJ2013-2-132.pdf,(参照2023年06月06日).

[5] 株式会社 日経ナショナル ジオグラフィック.“アメリカドクトカゲ”.ナショナル ジオグラフィック トップページ.動物大図鑑.https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141218/428991/,(参照2023年06月07日).

[6] 株式会社 日経ナショナル ジオグラフィック.“毒で獲物を仕留めるコモドオオトカゲ”.ナショナル ジオグラフィック トップページ.ニュース.2009年05月18日.https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/1213/,(参照2023年06月07日).

[7] アストラゼネカ株式会社.“バイエッタ®ってどんな薬?”.バイエッタ® トップページ.バイエッタ®について.https://www.dm-exenatide.jp/byetta/about/,(参照2023年06月07日).

[8] 株式会社 創新社.“新しい治療薬「バイエッタ」 トカゲ唾液の化学物質をベースに開発”.糖尿病ネットワーク トップページ.ニュース.2005年09月12日.https://dm-net.co.jp/calendar/2005/001003.php,(参照2023年06月07日).

[9] 株式会社 創新社.“「バイエッタ」が新たな治療選択肢に 世界初のGLP-1受容体作動薬が発売”.糖尿病ネットワーク トップページ.ニュース.2010年12月17日.https://dm-net.co.jp/calendar/2010/010944.php,(参照2023年06月07日).

[10] 学校法人 福岡大学 理学部 化学科 生命化学系 生物化学 機能生物化学研究室.“生物毒”.講義資料 ホームページ.生化学の基礎.生化学アラカルト.http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/venoms.htm,(参照2023年06月08日).

[11] 株式会社 日経ナショナル ジオグラフィック.“ブラック マンバ”.ナショナル ジオグラフィック トップページ.Webナショジオ.動物大図鑑.https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141218/429013/,(参照2023年06月07日).

[12] 学校法人 麻布獣医学園.“タイワンコブラ(Naja naja atra)毒のトキソイド化に関する実験的研究”.麻布大学学術情報リポジトリ トップページ.学位論文.獣医学専攻.博士論文(乙).1976年06月21日.https://az.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=3170&item_no=1&page_id=13&block_id=17,(参照2023年06月08日).

[13] 株式会社 ミンキュア.“ツチノコそっくりの大型猛毒ヘビ「ガボン アダー(Gaboon viper)」”.カラパイア ホームページ.知る.昆虫・爬虫類・寄生虫.2010年01月09日.https://karapaia.com/archives/51578433.html,(参照2023年06月08日).

[14] 国立大学法人 広島大学.“ニホンマムシ|広島県の動物図鑑/和名順”.広島大学 デジタルミュージアム ホームページ.デジタル自然史博物館.動物総合ページ.郷土の動物.広島県の爬虫類.https://www.digital-museum.hiroshima-u.ac.jp/~main/index.php/%E3%83%8B%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%A0%E3%82%B7,(参照2023年06月08日).

[15] 国立研究開発法人 科学技術振興機構 日本科学未来館.“カエルの威を借るヘビ。”.日本科学未来館 トップページ.発信・普及トップ.科学コミュニケーター ブログ.2013年12月27日.https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20131227post-233.html,(参照2023年06月09日).

[16] 国立大学法人 京都大学.“中国のヤマカガシは頸腺毒の成分をホタルから摂取していたことを発見 -ヒキガエルからホタルへとかけ離れた種間で毒源が移行した-”.京都大学 ホームページ.最新の研究成果を知る.2020年03月03日.https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2020-03-03,(参照2023年06月09日).

[17] 新潟県立自然科学館.“イモリのふしぎな能力”.新潟県立自然科学館 ホームページ.科学館日記.2020年04月03日.https://sciencemuseum.jp/cp-bin/wordpress/2020/04/03/%E3%82%A4%E3%83%A2%E3%83%AA%E3%81%AE%E3%81%B5%E3%81%97%E3%81%8E%E3%81%AA%E8%83%BD%E5%8A%9B/,(参照2023年06月10日).

[18] 魚津水族博物館.“魚津産アカハライモリのフグ毒性について”.魚津水族博物館 トップページ.調査・研究活動.論文.2020年12月15日.https://www.uozu-aquarium.jp/research/paper/2019imori/,(参照2023年06月10日).

[19] 学校法人 ヤマザキ学園 ヤマザキ動物看護大学.“【どうぶつ情報局】犬のお散歩 ~案外知ってて知らない、野外の危険<ヒキガエル中毒>~”.ヤマザキ動物看護大学 ホームページ.大学インフォメーション.ニュース.2019年04月10日.https://univ.yamazaki.ac.jp/univ/news/news.html?itemid=613&dispmid=759,(参照2023年06月10日).

[20] 救心製薬株式会社.“蟾酥(センソ)その一”.救心 ホームページ.生薬のはなし.https://www.kyushin.co.jp/herb/herb05.html,(参照2023年06月10日).

[21] 東急メディア・コミュニケーションズ株式会社.“無敵の毒ガエル「オオヒキガエル」を食べたらえらい目にあった”.デイリー ポータルZ ホームページ.特集.2018年01月07日.https://dailyportalz.jp/kiji/180106201681,(参照2023年06月10日).

[22] 株式会社 日経ナショナル ジオグラフィック.“ヤドクガエル”.ナショナル ジオグラフィック トップページ.動物大図鑑.https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141218/429035/,(参照2023年06月10日).

[23] Chem-Station.“ダニを食べ毒蓄積 観賞人気のヤドクガエル”.Chem-Station ホームページ.ケムステニュース,化学一般.2005年10月15日.https://www.chem-station.com/chemistenews/2005/10/post-319.html,(参照2023年06月10日).

[24] 日本ベクトン・ディッキンソン株式会社.“コラム:毒のはなし”.日本ベクトン・ディッキンソン ホームページ.医療関係者向け.微生物検査/迅速検査/細胞診検査.アーティクル.Ignazzo(イグナッソ) Vol.14.2017年11月発行.https://www.bdj.co.jp/safety/articles/ignazzo/vol14/hkdqj200000uyhtg.html,(参照2023年06月10日).

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