『グローバル感染症 必携70疾患のプロファイル』を読んで:感染症自体よりもデマの方が遥かに恐ろしい!

『グローバル感染症 必携70疾患のプロファイル』を読んで:感染症自体よりもデマの方が遥かに恐ろしい!私は先日『グローバル感染症 必携70疾患のプロファイル』(以下本著、1)を地元の図書館で借りて、拝読した。

本著はインフルエンザ(p.30-35)、結核(p.146-149)、および、エキノコックス症(p.204-205)等の主要70疾患の感染症の基礎知識集として有用である。ただ、これら70疾患の中にヒトパピローマウイルス(HPV)関連がんが含まれないことが悔やまれる(ある意味「遅効性の毒」なので仕方がないとはいえ、2:私が翻訳、3)。
また、2015年に韓国で発生した中東呼吸器症候群(Middle East Respiratory Syndrome:MERS)に関しても言及している(p.13-15)。

疾患は以下の5種類に分けられる。
 インフルエンザ(p.30-35)の様に予防ワクチンや根治的治療法があるもの。
 後天性免疫不全症候群 (Acquired Immunodeficiency Syndrome:AIDS)の様に進行を抑えるための治療法しかないもの。
 麻疹(p.118-121)の様にワクチンによる予防法しかないものもある。
 梅毒(p.178-181)の様に根治的治療法があるが予防ワクチンが無いもの。
 MERS(p.13-15、p.114-117)や重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome:SARS)(p.70-73)の様に予防ワクチンも無ければ根治的治療法も無いもの。

細菌性疾患に対する抗菌薬療法があるとはいえ、MRSA(p.136-139)や多剤耐性結核菌の様に抗菌薬に耐性を示す細菌が台頭している。

しかし、疾患自体よりも恐ろしいものは、エボラウイルス病(p.46-53)における、シエラレオネ共和国での「エボラウイルス病は悪魔の呪いだ」、「エボラウイルスは白人が実験のために持ち込んだ病原体だ」、または、「医療側が投与している薬が(エボラ)ウイルスを発生させている」と言ったデマである。
実際、エボラ出血熱の予防策を伝えるために多くの村を巡回していた公衆衛生の専門家が殺害された。その一方、エボラウイルス感染者隔離施設の周囲をデモ隊が取り囲んで、感染者の「釈放」を要求した。

2019年12月以降、中華人民共和国湖北省武漢市(以下同市)に居住する者を中心に新型コロナウイルス(2019-Novel Coronavirus:2019-nCoV)の患者の存在が断続的に報告されている(4)。

2020年01月28日、日本政府は2019-nCoV感染症を指定感染症として定める等の政令の制定、検疫法施行令の一部改正、2019-nCoV感染症を指定感染症として定める等の政令第3条の規定により感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則の規定を準用する場合の読替えに関する省令の制定、ならびに、検疫法施行規則の一部改正を行った。なお、こうした改正は02月07日から適用される(5)。

同市での2019-nCoV感染と診断された入院患者に対して、ロピナビル(ヒト免疫不全ウイルス感染症の治療に用いられるプロテアーゼ阻害薬)+リトナビル(抗レトロウイルス効果があるプロテアーゼ阻害薬)の併用療法が迅速に評価できるように無作為化対照試験が開始された(6)。
また、2019-nCoVに対する伝令RNAベースのワクチン、DNAワクチン、および、タンパク質ワクチンなどが開発されている(7)。

その一方で、2019-nCoVに関するデマがSNS上で多数飛び交っている(8)。
実をいうと、私はこうしたデマに怒っている。なぜなら、デマは風評被害を引き起こし、無辜の民を殺すからである(9:私が執筆)。

今後も、こうしたグローバル感染症が増えることは自明である。

それ故、地元の地方自治体の感染症情報センター(10、11)、厚生労働省 感染症情報(12)、厚生労働省 検疫所(13)、国立感染症研究所 感染症疫学センター(14)などから、信頼度の高い情報を得ることで、「感染症を正しく恐れて、対処する」必要がある。

参考文献
1 日経メディカル 編集.グローバル感染症:必携70疾患のプロファイル.初版第1刷,株式会社 日経BP,2015年08月31日,256p.
2 一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ.“ヒトパピローマウイルス(HPV)とがん”.海外がん医療情報リファレンス トップページ.記事一覧.https://www.cancerit.jp/1035.html,(参照2020年01月28日).
3 一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会 ワクチンプロジェクトチーム.“ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症について”.こどもとおとなのワクチンサイト トップページ.ワクチンと病気について.2018年06月01日.https://www.vaccine4all.jp/topics_I-detail.php?tid=10,(参照2020年01月28日).
4 厚生労働省 国立感染症研究所.“新型コロナウイルス (2019-nCoV) トップページ”.国立感染症研究所 ホームページ.新型コロナウイルス(2019-nCoV)関連情報について.2020年01月24日.https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov.html,(参照2020年01月28日).
5 厚生労働省.“新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令等の施行について(施行通知)”.厚生労働省 ホームページ.政策について.分野別の政策一覧.健康・医療.健康.感染症情報.中華人民共和国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎の発生について.2020年01月28日.https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000589747.pdf,(参照2020年01月30日).
6 株式会社 日経BP.“新型肺炎入院患者の調査が明らかにしたこと”.日経メディカル Online ホームページ.医師TOP.シリーズ◎新興感染症.2020年01月28日.https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202001/564033.html,(参照2020年01月30日).
7 株式会社 日経BP.“新型コロナウイルス、多様なワクチン開発へ世界中で参入企業相次ぐ”.日経メディカル Online ホームページ.医師TOP.シリーズ◎新興感染症.2020年01月29日.https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202001/564059.html,(参照2020年01月30日).
8 株式会社 OSA.“新型コロナウイルスに関する「デマ」がSNS上で多数飛び交っているとAFP通信が警告”.Gigazine ホームページ.2020年01月29日.https://gigazine.net/news/20200129-lies-conspiracies-about-wuhan-coronavirus/,(参照2020年01月30日).
9 たけっち.“「STOP!福島関連デマ」ステッカーを貰う:改めてデマと闘う”.たけっち ホームページ.研究施設見学レポート.2020年01月21日.https://note.com/take_judge/n/n5618caf0b3a0?magazine_key=m2ff04c455d69,(参照2020年01月30日). 

10 東京都健康安全研究センター.“東京都感染症情報センター ホームページ”.2020年01月30日.http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/,(参照2020年01月30日).
11 京都府.“京都府感染症情報センター トップページ”.京都府 ホームページ.http://www.pref.kyoto.jp/idsc/index.html,(参照2020年01月30日).
12 厚生労働省.“感染症情報”.厚生労働省 ホームページ.政策について.分野別の政策一覧.健康・医療.健康.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/index.html,(参照2020年01月30日).
13 厚生労働省 成田空港検疫所.“厚生労働省 検疫所 FORTH ホームページ”.https://www.forth.go.jp/index.html,(参照2020年01月30日).
14 厚生労働省 国立感染症研究所.“感染症疫学センター ホームページ”.国立感染症研究所 ホームページ.https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc.html,(参照2020年01月30日).



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