幹細胞を知る:令和元年度 医薬基盤・健康・栄養研究所 一般公開から学んだこと その01

2019年11月09日、私は医薬基盤・健康・栄養研究所(以下同研究所)を訪れ、一般客として令和元年度 医薬基盤・健康・栄養研究所 一般公開(以下同一般公開)に参加した(1,2)。

同研究所幹細胞制御プロジェクト(以下同プロジェクト)は、幹細胞の分化制御と創薬応用、ならびに、各種血液細胞への効率良い分化誘導法の開発に携わっている(3)。

同一般公開の同プロジェクトによる「14.いろいろな細胞に変化する“幹細胞”ってなあに?」で、私は細胞の概要を改めて知ることができた。そして、これは非常に有意義であった。

01.幹細胞

図01.いろいろな細胞に変化する“幹細胞”ってなあに?。

幹細胞(stem cell:SC)は、以下の2つの性質を持つ細胞である(図01, のp.10-11)。
自己複製(self- renewal)能:そのままの状態を保ったまま増殖できる。
分化(differentiation)能:個体を形成する特殊化した細胞種へ変化できる。
多くのSCは更に複数の細胞種へ分化できる(多分化能、分化多能性、multipotency)が、単一の細胞種のみを産み出すSCもある。
SCからの分化が完了した神経細胞や心筋細胞等の特殊化した細胞が、最終分化細胞または終末分化細胞である。

SCは多能性幹細胞(pluripotent stem cell:PSC)と組織幹細胞(tissue stem cell:TSC)に大別される(4のp.16-19)。
01.多能性幹細胞
多能性幹細胞(pluripotent stem cell:PSC)は増殖能が高く、個体を形成する全ての細胞種へ分化可能なSCである(4のp.16-19)。
その種類を以下に示す。
1.胚性幹細胞(embryonic stem cell:ESC)
ESCは着床前の受精卵胚盤胞の一部である内部細胞塊に由来するSCである(4のp.58-60)。
ヒトESCは不妊治療のために作製された体外受精卵の内の余剰胚(着床前胚)から内部細胞塊を取り出すことで樹立される。
上記の典型的なESCの他に脱核した卵に体細胞の核を移植することで作製された胚から樹立されるESC(体細胞核移植ESC、nuclear transfer ESC:nt-ESC)やESCと体細胞を化学物質や電気刺激により細胞融合を起こさせることにより作製されるESCが存在する。
2.人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPSC)
iPSCはマウス(2006年樹立)やヒト(2007年樹立)の線維芽細胞に、Oct3/4、Sox2、Klf4、および、c-Mycと言う4つの遺伝子を導入することで作製できるPSCである(図02,4のp.76-80)。iPSCは他のPSCと同様、自己複製能と分化能を有する。

02.ヒトiPSC 40倍

図02.iPSC 40倍拡大。
下方にあるiPSCは生細胞で、上方で浮いているものは死細胞である。

ヒト線維芽細胞にOct3/4、Sox2、Nanog、および、Lin28と言う4つの遺伝子を導入しても作製可能である(4のp.80)。
また、末梢血から分離されたTリンパ球を培養後、センダイウイルスベクターを使用して、Oct3/4、Sox2、Klf4、および、c-Mycを導入することでも作製可能である(4のp.86)。
3.胚性がん細胞(embryonal carcinoma cell:ECC)
ECCは歴史的に初めて体外で培養されたPSCで、奇形がん腫(teratocarcinoma)と言う三胚葉の成分が混在する腫瘍から単離されたSCである(4のp.16)。
4.胚性生殖幹細胞(embryonic germ cell:EGC)
EGCは将来、精子や卵に分化する胎児期の始原生殖細胞(primordial germ cell:PGC)より樹立されるSCで、ESCとほぼ同等に増殖し、様々な細胞種にできる。とはいえ、EGCは中絶胎児のPGCから樹立されるため、特にヒトではその樹立や使用に倫理的問題が生じる(4のp.16)。
5.多能性生殖幹細胞(multipotent germ stem cell:mGSC)
精子幹細胞(または精原幹細胞)は雄の動物の精細管で自己複製を繰り返し、精子形成に寄与する。マウスでは、精巣内の生殖細胞の0.02~0.03%を占める。
生体の精巣内でセルトリ細胞が精子幹細胞の維持のために、グリア細胞株由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor : GDNF)を産生することが知られているが、GDNFを使用する新規の精子幹細胞の長期培養法が確立されている。そのSCが生殖系列幹細胞(germline stem cell:GSC)である。GSCは少なくとも数年にわたり増殖し続けることができる。
また大変興味深いことに、GSCの樹立過程において、34個の精巣に1個の頻度でESCとほぼ同じPSCが樹立されることが見出される。このSCがmGSCである(4のp.53-54)。

02.組織幹細胞(tissue stem cell:TSC)
組織幹細胞(tissue stem cell:TSC)は各臓器・組織に存在し、自己複製ができ、且つ、所属組織を作る細胞種へ分化できるSCである(4のp.24)。組織前駆細胞、成体幹細胞(adult stem cell:ASC)、または、体性幹細胞(somatic stem cell:SSC)とも言われる(4のp.17,5のp.16)。
各組織を構成する細胞を供給することで、組織の維持、修復、再生等に関与する。
なお、TSCの種類は以下に示す通りである(4のp.17,24)。
外胚葉系組織:神経幹細胞、神経堤幹細胞、網膜幹細胞、角膜幹細胞、ケラチノサイト表皮幹細胞、メラノサイト(色素)幹細胞、乳腺幹細胞
内胚葉系組織:肝幹細胞、腸幹細胞、気道幹細胞
中胚葉系組織:造血幹細胞(臍帯血幹細胞もその一種,6)、間葉系幹細胞、心臓幹細胞、血管内皮前駆細胞、血管周皮細胞、骨格筋幹細胞、脂肪幹細胞、腎前駆細胞
生殖系:精子幹細胞

参考文献
1 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所.“令和元年度 医薬基盤・健康・栄養研究所一般公開の開催について【11月9日(土)】”.医薬基盤・健康・栄養研究所 ホームページ.医薬基盤研究所(NIBIO)のお知らせ.2019年07月01日.https://www.nibiohn.go.jp/information/nibio/2019/07/005997.html,(参照2019年12月03日).
2 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所.“(当日の企画を掲載しました)令和元年度 医薬基盤・健康・栄養研究所一般公開の開催について【11月9日(土)】”.医薬基盤・健康・栄養研究所 ホームページ.医薬基盤研究所(NIBIO)のお知らせ.2019年11月05日.https://www.nibiohn.go.jp/information/nibio/2019/11/006087.html,(参照2019年12月03日).
3 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所.“研究内容”.医薬基盤・健康・栄養研究所 ホームページ.研究と活動.幹細胞制御プロジェクト.幹細胞制御プロジェクト トップページ.http://www.nibiohn.go.jp/Proj3HP/studies.html,(参照2019年12月06日).

4 長船健二 著.もっとよくわかる!幹細胞と再生医療.第1刷,株式会社 羊土社,2014年03月15日,174 p.(実験医学別冊 もっとよくわかる!シリーズ).

5 京都大学 CiRA.“幹細胞ハンドブック‐からだの再生を担う細胞たち‐”.CiRA ホームページ.ニュース・イベント.刊行物.その他.https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/pdf/stemcellhandbook_revised10_141215.pdf?1567509402484,(参照2019年12月06日).
6 公益財団法人 日本骨髄バンク.“さい(臍)帯血移植”.日本骨髄バンク ホームページ.患者さんへ.闘病に役立つ情報.その他の造血細胞移植について.http://www.jmdp.or.jp/recipient/info/other.html,(参照2019年12月06日).

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?