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第2章 毒の博物館 2-2 植物の毒のいろいろ:「特別展「毒」」見聞録 その04

2023年04月27日、私は大阪市立自然史博物館を訪れ、一般客として、「特別展「毒」」(以下同展)に参加した([1],[2])。

同展「第2章 毒の博物館 2-2 植物の毒のいろいろ」([3])で、「日本の三大有毒植物」として、ドクウツギ(図04.01)、ツクバトリカブト(トリカブトの一種、図04.02)、および、ドクゼリ(図04.03)が展示された([4]のp.24-25)。

図04.01.ドクウツギ レプリカ。 
図04.02.ツクバトリカブト アクリル封入。
図04.03.ドクゼリ レプリカ。

「世界の有毒植物」として、マチン(図04.04)とマチンの一種であるストリクノス・ヌクスブランダの果実(図04.05)、ならびに、ゲルセミウム・エレガンス(図04.06)が展示された(4のp.26-27)。

図04.04.マチン。
図04.05.マチンの一種 ストリクノス・ヌクスブランダの果実。 
図04.06.ゲルセミウム・エレガンス。

根・茎・葉を守る毒を有する植物には、以下のものが含まれる(4のp.28-29)。

イヌサフラン(図04.07):含有成分のコルヒチンは痛風の痛みに特異的に作用する。葉が山菜のギョウジャニンニクとよく似ており、誤って食べることによる中毒事故がしばしば起こる。毒性が非常に強く、悪心、嘔吐、腹痛、血尿、痙攣などが起こり、呼吸麻痺により死に至ることもある。また、コルヒチンは染色体数を倍加させるため、種なしスイカを作るときに用いられる([5])。

複数の研究報告によるとコルヒチンがCOVID-19の重症化を予防する可能性がある。その中で世界6カ国4,000名以上の患者に対して行われた臨床試験がカナダから報告されている。この研究ではCOVID-19により重症化しやすい患者の特徴は、70歳以上、高度の肥満、糖尿病、収縮期血圧150 mmHg以上の高血圧、呼吸器疾患、心不全や狭心症などの冠動脈疾患の合併、48時間以上続く高熱、および、呼吸困難症状である。そして、通常の量のコルヒチン(1日0.5~1.0 mg)を服用した患者は、入院に至った割合が25%低下し、人工呼吸器を必要とする割合が50%低下、死亡に至る割合は44%低下したとされる(まだ論文査読中です)。この効果の理由はコルヒチンがもつ炎症反応を抑える作用のためと考えられる。

大変興味深い報道とはいえ、コルヒチンのCOVID-19に対しての効果はまだ確立されていない。コルヒチンには重篤な副作用もあるので、医師の指示以外の使用は決してしてはいけない([6])。

(a)標本。 
(b)球根。
図04.07.イヌサフラン。

クワズイモ(図04.08):全草にシュウ酸カルシウムの針状結晶が多く含まれ、接触後すぐに悪心、嘔吐、下痢、麻痺などの中毒症状が現れ、口や喉が腫れる。皮膚に液汁がつくと皮膚炎を起こすことがある。なお、この針状結晶は人工的に作ることはできない。一方で薬用としても利用され、清熱作用、解毒作用がある。皮膚の疥癬などには外用するという([7])。

なお、キウイフルーツ、パイナップルなどの多くの植物に含まれるシュウ酸カルシウムの微細な針状結晶が、共存するプロテアーゼの働きを相乗的に強めることで顕著な耐虫活性(成長阻害・殺虫活性)を示し、植物の防御機構として機能していることが明らかになった([8])。

図04.08.クワズイモ。

ヒガンバナ(図04.09):リコリン、ホモリコリン、および、リコラミンを含む。

鎮痛作用があり、肩こり、膝の痛みに、すりおろした鱗茎をガーゼや布に包んで足の土踏まずに貼る。体のむくみにも同様に利用する。全草に強い毒性があるため口にしてはいけない。

鱗茎には澱粉を多く含むため、砕いた鱗茎を水に晒して毒性を除いて食用にされた。鱗茎をすりつぶし糊状にしたものは、屏風やふすまの下張り使うと虫が付かないとされ、昔利用されていた([9])。

図04.09.ヒガンバナ。

ジャガイモの新芽(図04.10):α-ソラニンとα-チャコニンを含む。

澱粉を加水分解し糖化した膠飴は健胃、強壮作用があり、小建中湯や大建中湯などの処方に配合される。塊茎は消炎薬として耳下腺炎に煮食する。ソラニンは未熟な塊茎、幼芽に多く含まれ、成熟とともに含有量は減少する。熱によって分解されるため中毒を起こすことはまれであるが、中毒した場合10分から1~2時間で咽喉の灼熱感が現れ、上腹部の灼熱感、発熱、疼痛、悪心、下痢などが発現する。重症の場合は耳鳴り、体温上昇、瞳孔散大などを起こす([10])。

図04.10.ジャガイモの新芽。

ザクロ(図04.11):ペレチエリン、プソイドペレチエリン、および、グラナチンAを含む。

果皮、根皮ともに駆虫作用があり、細菌性、アメーバ性腸炎の下痢、条虫や回虫の虫下しに用いる。果皮には止血作用があり、性器出血や脱肛に用いる。ただし根皮、樹皮には毒性があり、めまいや震えなどの副作用が起こるため最近は使用されない。口内炎や虫歯などには果皮の煎液でうがいする。

種子の周囲(種衣)は食用とされる。観賞用にも植栽される([11])。

図04.11.ザクロ。

 ウルシ(図04.12):ウルシオール、ならびに、ポリフェノール(rhusopolyphenol G, H, I)を含む。

駆虫、駆瘀血(血の滞りを消す)などの作用があり、無月経、腹部腫癭、寄生虫症などに用いる。扁桃腺炎には火にくべて煙を吸入する。ウルシはかぶれやすいことが知られるが、これはウルシオールの刺激によるものである。

樹脂を生漆(しょうしつ)といい、乾燥すると表面は茶褐色でざらざらした塊状になるが、これが乾漆である。これは、ウルシ液の中のウルシオールがラッカーゼという酵素の作用により空気中で酸化され、高分子化してできたものである。このようにウルシ液が空気中で酸化され、黒変して硬くなり、耐久性が出ることから食器や工芸品、ピアノなどの塗料や接着剤として利用される。漆塗りの技術は中国から伝わったが、日本の温度や湿度と合っていたため日本で独自に発展した([12])。

図04.12.ウルシ。

花・果実・種子を守る毒を有する植物には、以下のものが含まれる(4のp.30-31)。

ハッショウマメ(図04.13):莢の棘の中にかゆみを引き起こすプロテアーゼ(ムクナイン)を含む([13])。

図04.13.ハッショウマメ(ムクナ属)の果実。

インゲンマメ(図04.14):レクチン(赤血球凝集素、ヘマグルチニン)を含む。レクチンには赤血球に結合することで、赤血球同士を接着させて凝集させる作用がある。

このレクチンは消化管の表面にある食物と接する細胞にも結合して細胞に障害を与える([14])。

図04.14.インゲンマメの果実。

モロヘイヤ(図04.15):アストラガリン、トリホリン、および、イソケルセチンを含む。

滋養強壮作用があり、お茶替わりに飲む。果実は有毒であり、食べると死亡する恐れもあるため注意が必要である。

野菜として栽培され、葉を料理に用いる。また、茎の繊維は「ジュート」とよばれ、袋や紐が作られる。

古代エジプトの王の重い病気を治したことから、アラビア語で「王が食べる野菜、王の薬草」の意味のモロヘイヤという名がつけられた([15])。

図04.15.モロヘイヤの果実と種子。

ソテツ(図04.16):サイカシンとマクロザミンを含む。

鎮咳、通経作用があり、肋膜炎などの咳、難産などに用いるほか健胃薬とする。含有成分のサイカシン、ホルムアルデヒドなどには毒性があり、服用しない方がよい。

種子や幹の髄には澱粉が含まれ救荒植物として知られるが、前述のように有毒成分を含むため十分に水でさらして毒抜きをする必要がある。観賞用として各地で栽培される([16])。

沖縄県における、大正末期から昭和初期にかけておこった恐慌である「ソテツ地獄」は余りにも有名である([17])。

図04.16.ソテツの種子。

ビワ(図04.17):ネロリドール、エリオジャポシドA、エリオジャポシドB、および、アミグダリンを含む。

鎮咳去痰、止嘔作用がある。漢方処方では辛夷清肺湯などに配合される。また、江戸時代から明治にかけて暑気あたりの妙薬として、葉が配合された枇杷葉湯が有名であった。アセモや湿疹には浴湯料として用いる。打ち身や捻挫には焼酎漬けにした液を外用する。果実の焼酎漬けは疲労回復、健康増進に良い。

果樹として栽培される([18])。

(a)果実。 
(b)種子。
図04.17.ビワ。

「第2章 毒の博物館 2-2 植物の毒のいろいろ」から、植物にとって、植物毒は自分や子供を守るための「武器」であることを痛感した。また、植物毒は薬やその原料として用いられていることも改めて知った。

国立大学法人 熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベースのおかげで、記事執筆が著しく捗ったことも記す。

 



参考文献

[1] 独立行政法人 国立科学博物館,株式会社 読売新聞社,株式会社 フジテレビジョン.“特別展「毒」 ホームページ”.https://www.dokuten.jp/,(参照2023年05月14日).

[2] 関西テレビ放送株式会社.“特別展「毒」”.関西テレビ ホームページ.EVENT イベント情報.https://www.ktv.jp/event/dokuten/,(参照2023年05月14日).

[3] 独立行政法人 国立科学博物館,株式会社 読売新聞社,株式会社 フジテレビジョン.“第2章 毒の博物館”.特別展「毒」 ホームページ.展示構成.https://www.dokuten.jp/exhibition02.html,(参照2023年05月14日).

[4] 特別展「毒」公式図録,180 p.

[5] 国立大学法人 熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース.“イヌサフラン”.熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース ホームページ.薬用植物.https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/003458.php,(参照2023年05月17日).

[6] 一般社団法人 日本痛風・尿酸核酸学会.“コルヒチンが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化を防ぐ可能性があるという報道を受けて”.日本痛風・尿酸核酸学会 ホームページ.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報.2021年04月30日.https://www.tukaku.jp/covid19/6352.html,(参照2023年05月18日).

[7] 国立大学法人 熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース.“クワズイモ”.熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース ホームページ.薬用植物.https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/003606.php,(参照2023年05月18日).

[8] 農林水産省 農林水産技術会議 事務局.“シュウ酸カルシウム針状結晶とプロテアーゼの相乗的耐虫効果”.アグリサーチャー ホームページ.https://agresearcher.maff.go.jp/seika/show/236877,(参照2023年05月18日).

[9] 国立大学法人 熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース.“ヒガンバナ”.熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース ホームページ.薬用植物.https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/003655.php,(参照2023年05月17日).

[10] 国立大学法人 熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース.“ジャガイモ”.熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース ホームページ.薬用植物.https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/004891.php,(参照2023年05月18日).

[11] 国立大学法人 熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース.“ザクロ”.熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース ホームページ.薬用植物.https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/003492.php,(参照2023年05月18日).

[12] 国立大学法人 熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース.“ウルシ”.熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース ホームページ.薬用植物.https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/004556.php,(参照2023年05月18日).

[13] エムスリー株式会社.“「痛みの弱い感覚」から進展、かゆみの最新知見【時流◆かゆみを制する】”.m3.com トップページ.臨床ニュース.2022年06月23日.https://www.m3.com/clinical/open/news/1052309,(参照2023年05月18日).

[14] 学校法人 戸板学園 戸板女子短期大学.“インゲン豆と血液のふしぎな関係”.戸板女子短期大学 トップページ.食物栄養かわらばん.2011年04月20日.https://www.toita.ac.jp/toitapicks/kawaraban_category/5320/,(参照2023年05月19日).

[15] 国立大学法人 熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース.“モロヘイヤ”.熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース ホームページ.薬用植物.https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/003678.php,(参照2023年05月19日).

[16] 国立大学法人 熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース.“ソテツ”.熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース ホームページ.薬用植物.https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/003628.php,(参照2023年05月19日).

[17] 沖縄県立総合教育センター.“「ソテツ地獄」と県民の暮らし”.琉球文化アーカイブ トップページ.歴史.沖縄の歴史.近代沖縄.「ソテツ地獄」下の沖縄.http://rca.open.ed.jp/history/story/epoch4/sotetu_1.html,(参照2023年05月19日).

[18] 国立大学法人 熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース.“ビワ”.熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース ホームページ.薬用植物.https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/003421.php,(参照2023年05月19日).

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