「見返すことができた」 節目のプロ10年目に辿り着いた新境地
出来ないことを認めるのは「悔しい」
やってきた事を手放すのは「難しい」
だが、それを乗り越えた先に
辿り着ける「新境地」があるとしたら…
その日、
カメラの向こうにいた男の表情に感じたのは
王者の誇りだけではなかった。
育成契約から這い上がってきた万感の思い、
自分の役割を認め、成長を遂げられた自信。
まさに「年輪」と呼ぶにふさわしい
遠藤祐亮の歴史がそこには詰まっていた。
選手たちが徐々に体を動かし始めた7月。
栃木県内で行われたクリニックを訪れた。
束の間のオフには優勝旅行も叶い、
こんがり焼けた肌が、嫌味なく映る。
5年ぶりの悲願はしばらく余韻が続いたと言う。
ブレックス一筋、
キャリアは今年で丸10年を数える。
これまでの道のりは
決してエリート街道ではなかった。
だからこそ、
込み上げる感情もひとしおだったのだろう。
10年かかったけど、見返せた
市立船橋高校時代は
全国の舞台にも立った遠藤だが、
今もBリーグでしのぎを削る
同世代との距離感を、
当時はそのように感じていたと言う。
大東文化大学に進学後も
1年生の頃から試合に出てはいたが、
将来トップリーグでやっていく自信は
まだなかった。
ただ、ブレずにあったのは、
上のレベルでやりたいという気持ち。
当時のトップリーグだったJBLは
その年代から5~6人しか上がれない狭き門。
何をどうすれば
先の道が拓けるのかも分からなかった中で
腐らず周りに想いを伝え続けた。
監督の尽力でいくつかのトライアウトを受け、
ようやく進路が決まったのは卒業間近のこと。
2012年、
リンク栃木ブレックス(当時)と育成契約を締結。
下部チームの「TGI D-RISE」で
プロとしてのキャリアが始まった。
あれから10年。
夢を諦めずに追いかけ続けた“変なやつ”は、
日本一のチームに欠かせない主力へと成長し
歓喜の輪の中にいた。
ここまで辿り着けた歩みを
本人はどう感じているのだろうか。
遠藤は少し間を開けて
言葉を選ぶように続ける。
心の「準備」が生んだ1年の成長
遠藤への単独取材は1年ぶりだった。
前回の取材では
2つの悔しさを口にしていた事が印象的だった。
1つは「準優勝に終わった悔しさ」。
そしてもう1つは、大事な場面で
「自分が任せてもらえないことへの悔しさ」。
前者は優勝というリベンジで晴らせたが、
後者の課題にはどう手応えがあったのか。
1年前の言葉を踏まえて尋ねてみると
遠藤は噛み締めるように振り返った。
チャンピオンシップ
クオーターファイナル千葉戦のGAME2。
68-71のリードで迎えた第4クオーター残り12秒。
ダブルチームの
プレッシャーをかいくぐった比江島から、
コーナーで待つ遠藤に1本のパスが通る。
遠藤の持ち味でもある
膝を深く曲げて放たれた綺麗なシュートは
そのままリングに吸い込まれた。
試合を決める3Pシュートだった。
「準備」ができていたから。
言葉にすればあまりにも簡単だが、
遠藤にとってはシーズンを通して
何を残し、何を捨てるかの選択でもあった。
出来ないことを認めるのは悔しかったはず。
そして、当たり前にやってきた事を手放すのは、
きっと難しかったはずだ。
だが、遠藤はそれを準備と呼び、
精神面で成長できたと振り返る。
課題を乗り越え
己のやるべきことに徹した遠藤のように、
チーム1人1人が役割を認識し全うしたことが
「日本一」という最高の結果をもたらしたのだ。
ワクワク語る今後の夢
今年の10月には33歳を迎え、
キャリアも年齢もベテランと呼ばれる域に入る。
優勝を2度も経験した今、
「燃え尽き症候群」になっても不思議ではない。
これからの遠藤祐亮とは…
そう質問を「未来」に移し始めた時、
少しだけ遠くを見つめ
すぐにワクワクした表情を浮かべた。
例えば8年後、
18歳になった子供とトップチームで汗を流す
遠藤の姿を想像してみる。
Bリーグ初の親子競演。
考えるだけでこの上ない楽しみであり、
大きな野望だ。
そう遠くはないかもしれない
息子との未来を、
遠藤は本気で楽しみにしている様子だった。
もちろん、その夢を果たすまでは、
自身も胡座をかくつもりはない。
まもなく始まるプロ11年目のシーズン。
「連覇」という大きな“挑戦権”を持つのは
宇都宮ブレックスだけである。
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