『夢の新婚住宅をあなたも|戦後家族のつくられ方』【妄想企画メモ】
たまたま名古屋松坂屋がたぶん1960年代後半に出してたと思われるカタログ『FOR YOUR Bridal』を手に入れました。タイトルのとおり、これから結婚式を挙げようとするふたり向け商品カタログです。というか正確には「ふたり」というより新婦となる女性向けの編集になっています。というのも最後のページにあとがき的に記された「きょうを大切に」という文章にこうあるので。
令和のいま読むとドキッとする「性別役割分担」節炸裂ですが、当時としてはむしろ姑のいる「家」に入るのではなく「新しい住まいで、新しい部屋で、新しい食卓に向かう」という「家庭」を築くスタイルはあこがれの対象だったはず。
そんなあこがれの生活が営まれる舞台として「新しい住まい」は重要な位置を占めていました。そもそも今ではあんまり使わない表現、「新婚住宅」が当時は一般用語として流通していたわけで、このカタログに登場するプレハブ住宅も商品名はズバリ「永大新婚ハウスBC型」です。リードはこんなかんじ。
永大産業は大和ハウス工業「ミゼットハウス」に対抗して「永大の勉強部屋」を売り出しましたが、同社が「永大の勉強部屋」ヒットを受けて販売したのが「永大新婚ハウス」。元ネタであろう大和ハウス工業は「スーパーミゼットハウス」という名称だったのに対して、永大産業は常にド直球のネーミングです(そこがまた永大産業の強みだったのですが)。さらに「新婚ハウス」は「愛妻ハウス・ボニータ」になります笑
1959年の「新婚列車ちよだ号」を典型とする結婚ブームはいわば住宅ブームの前哨戦だったわけで、松坂屋も膨大な需要に向けてカタログ『FOR YOUR Bridal』を編集したのでしょう。そこでは婚約から結納、結婚式・披露宴、新婚旅行、新婚生活のすべての局面において必要となるモノが網羅されています。
ウェディングドレスや結納飾り、寝具や食器、和たんす、そしてプレハブ住宅。「家」に蓄積されたノウハウとしきたりから良くも悪くも自由になった「家庭」を築くふたりゆえに、ライフイベントがワンストップのサービスとしてパッケージ化されることが必要だった。
同様の理由で、「家」ではなく「家庭」を築くふたりにとって、茶菓子の差し入れが不要なプレハブ住宅は家づくりのパッケージ化でもあった。それは普請文化の破壊というよりも、従来なら持ち家を持てなかった層が普請文化を模倣するためにこそできた仕組みといえなくもありません。
そう思ってカタログを眺めると、そこに収録された数々のアイテムが、かつて上流階級のものであったあれやこれやであることに気づきます。「家庭」形成の大衆化。その一角を占める「持ち家」の大衆化。
「新婚住宅」から戦後の住まいを考える
そんなわけで、いくつか掲げている文献収集(散財?)テーマのひとつに「新婚住宅」があります。ちょっと勇み足してみると「戦後の住宅近代化は『新婚住宅』とともにあった」のでは中廊下と。
いわゆる「本屋(母屋)」は世間体だとか格式だとか規範だとか、いろいろなしがらみのもとに成り立つ建築で、あたらしい社会にふさわしい住まいの新築は、一部のインテリ層などでないとなかなか実現できない代物でした。一方で「新婚住宅」は、離れや付属屋といったサブの位置にあったことから、「本屋」にからみつくあれこれから比較的自由でした。
言い換えると「新婚住宅」は、戦後の社会が大きく変貌していくにあたって、住宅革新的にも生活改善的にも消費市場的にも近代化の格好なフロンティアとして注目されてきたといえます。プレハブ住宅が社会に受容されたのも、まず勉強部屋(=ミゼットハウス・1959)として、次に新婚住宅(=スーパーミゼットハウス・1960)という順だったわけで。
いくつかテーマを整理していくと、まずは新憲法と新しい家族制度、そして地方から都市部への人口流入、核家族の形成といった「新しい家族」の大衆化きがあります。また、そうした「新しい家族」のつくり方・あり方の模範となったのが、1959年の皇太子さま・美智子さま、そして1960年の清宮貴子内親王のご結婚。さらには芸能人の結婚ラッシュもつづきます。
そこでは結婚のキッカケやライフスタイル、ご新居までが、当時台頭しはじめた女性週刊誌を中心に逐一詳細に発信されました。出版メディアが「新婚住宅」像をつくりあげたのです。「結婚したら『主婦の友』」ともうたわれた婦人雑誌、家庭百科事典のなかの結婚・新婚生活、そして住宅雑誌でも新婚住宅が取り上げられていきます。
第一次ベビーブーム世代が1970年前後に次々と結婚を迎え「第二次婚姻ブーム」となります。この商機が見逃されるわけがなく、ブライダル産業の成長と、それに関連した住宅産業はじめ各種生活産業が編成されていきます。冒頭紹介した名古屋松坂屋の『FOR YOUR Bridal』もそうした動向の一部。そんなこんなで、戦後の住まいを考える際に「新婚住宅」はとても重要な切り口になるはず。
「新婚住宅」本の目次を妄想してみる
ということで、いつもの妄想企画。とりあえず本にしたらどんな構成になるだろう?とスケッチしてみると、テーマの掘り下げや拡張のヒントを得られます。タイトルはとりあえず『夢の新婚住宅をあなたも|戦後家族のつくられ方』ということで、こんなかんじとか。。。
今年2月、自民党の萩生田光一政調会長が戦後「新婚住宅」再考のための格好の「話の枕」をつくってくれました。
少子化対策として、新婚家庭に住宅を提供すること。入居にあたっては「畳やお風呂、トイレを新しくしてあげたい」こと。この提案がよりによって「公営住宅」を舞台に提案されていること、などなど。
政府の機関内にはじめてできた「住宅」の部局が、戦時下の厚生省内だったことも踏まえると、これはとても興味深い「本音」だと思えてきます。「異次元の少子化対策」とは時の流れを巻き戻す力があるのかもしれません。
(おわり)
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