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「左官の日」ということで1959年の繊維壁サンプル「キング葵壁」をみる

今日、4月9日は「しっ(4)く(9)い」で「左官の日」(日本左官業組合連合会が制定)。ということで、ヤフヲクでの散財コレクションの一つ、「キング葵壁」「キング壁塗料」「パルウォード」3種。ともに1959年の繊維壁サンプルです。

パッケージには「近代的温雅な壁、保温・防音・無亀裂」の文字。発売元はいまも名古屋のキング鈴井商会。1949年設立で今もバリバリ現役の企業さま。

パッケージに書かれている「専売特許第二三八九二四号」を検索してみると「多孔質に仕上る上塗壁材料の製造方法」がヒットします。特許出願広告は1957年。出願人・発明者の名に金井金治郎とあります。

繊維壁はコストや施工性の良さなどから大いに普及し、1970年代あたりまでは内装材といえば繊維壁な状況がつづいたようです。1976年築の実家もキッチン・風呂・収納以外の内装はほぼ全て繊維壁。そうです、あのボロボロ落ちて来るやつです。

戦後、膨大な住宅需要に直面した日本社会は大工・職人不足にあえぐわけですが、そんな状況下に住宅供給を支えたのが、高い技能を要さず施工も簡易な新建材でした。この「キング壁塗料」もその一つ。しかも、旧来の繊維壁が持っていた欠点をもろもろ克服したことをウリにしています。

キング壁塗料は従来売出されて居ります種々の繊維壁在の欠点を改良致しました近代的温和な感覚を持つ理想的壁在であります

「キング壁」塗料サンプル

「パルウォード」も豊富なカラーバリエーションのほか、耐火性、保温性、吸音・防音、無亀裂などといった特長を高らかに謳っています。市場投入された新建材は、その試行錯誤のなかで徐々に徐々に性能と使い勝手を高めていったのでした。

キング葵壁などのサンプル

皮肉にもというか、当然にというか、そうした試行錯誤の営みは「そもそも左官材料でなくてよくね?」へと帰結します。新建材はそもそも代用建材であって、代用につぐ代用の果てはオリジナルとは全くことなるものになる。世はビニールクロスの時代へ。脱・湿式のプロジェクトがここに実現するわけです。

この「キング葵壁」のサンプルが配布されたのが1959年。この年は大和ハウス工業の「ミゼットハウス」が販売された年でもあります。そして翌1960年4月に、建築材料学者・中村伸が「ミゼットハウスの出現」と題した文章を日本左官組合連合会機関誌『日左連』に寄稿しています。

この中村の論考は「左官業冬の時代の到来」へ警鐘を鳴らす論考でした。

設計もいらなければ職人もいらない。工場の中のプレスが型を作り、機械が組立てるということになれば、われわれ建築関係者のなかで失業者がどっとふえる。ことに小住宅を専門とする大工・左官の打撃が大きい。(中略)建築に対する大革命である。

中村伸「ミゼットハウスの出現」1960.4

残念ながら機関誌『日左連』に掲載された中村伸の警鐘は会員の耳目を集めることはなかったようです。1960年、どんどん建てられるRC造のビル群に左官は必須という時代ゆえ、左官業界にとって「ミゼットハウス」がもたらす影響は過小に見積もられたように思います。

左官工事の需要は徐々に減少していったのではなく、戦時の防火改修と戦後の野丁場という2大バブルを経て一気に干上がったのでした。完全に駆逐されるかに見えた湿式工法=左官が、いまふたたび注目される時代になりました。これからの左官がどうあるべきか。伝統を守るとともに、新しい試みについてもいろいろな模索がなされています。

(おわり)

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