デ・ブライネ2019-2020シーズン全13ゴール分析(前編)
2019-2020シーズンのプレミアリーグで史上最多タイの20アシストを記録し、MVPにも輝いたケビン・デ・ブライネ。
という訳で、今回は彼の全20アシストを分析していきます、と言いたいところですが20アシストは多すぎることと、最近の僕のテーマがシュートであることから今回はゴールの方を分析していきたいと思います。
いざ書き始めてみると文字数がとんでもないことになったので、とりあえず今回は前編として6ゴールを扱うことにします。
デ・ブライネのキックの復習と補足
まずは、以前デ・ブライネのキックについて書いた記事の軽い復習とその補足をしておきます。
簡単にまとめると、
といった感じになります。
そして、この一定の蹴り脚の振り方とはどのようなものかと言うと、下のツイートで述べたムチのような動きになります。
蹴り脚の膝の動きに注目して見てみて下さい。
軸足を踏み出す際にボールに向かってHOPすることで股関節が相対的に伸展しながら膝が自然に曲がってきます。下の写真が股関節の伸展角度が最大になった瞬間です。
ここから、太腿が前に動き始めますが、この時デ・ブライネの蹴り足の膝はさらに屈曲していきます。
ここから太腿が前に動くのと同時に膝が一気に伸展し、高速でボールにインパクトすることができています。
この動きでは膝の角度が固定されることがなく体幹で生まれた力を足先までロスなく伝えることができているため、僕はムチのような動きと呼んでいます。
逆にムチのような動きができていないとどうなるかと言うと、股関節が大きく伸展したタイミングで膝も大きく屈曲させて固定し、太腿を前に動かした後に膝を伸展させる蹴り方になり、膝下の振りだけに頼ることになってしまいます。
あまりイメージが湧かないかもしれませんが、かなり多くの選手(少なくとも僕が関わっている選手のほとんど)がこのような蹴り方になってしまっていると思います。
これは、テイクバックを大きく取る、膝下の振りを速くするなどといった指導を受けてきた弊害であると考えています。
この辺については前回書いたのでこちらも是非お読み下さい。
という訳で、ここからデ・ブライネのゴール分析に入っていきますが、多くのシーンでムチのような蹴り脚の動きとそれを可能にする軸足の置き方がポイントになっていることを先に述べておきます。
それでは、下の動画の前半部分を基に、似ているゴールはまとめて分析していきたいと思います。(これから何度もこの動画を貼りますが、それぞれ該当シーンからスタートするように設定しています)
1、6点目 ダイレクトで流し込むシュート
1点目
6点目
この2つのシーンはダイレクトで、特に流し込む、合わせるといった意識を持って打ったシュートであると考えられます。
1点目は、以前にインサイドキックの蹴り方についての記事でチアゴ・アルカンタラのダイレクトパスでも紹介した動きと全く同じです。
軸足側からきたボールをダイレクトで蹴ろうとすると、軸足に当たらないように軸足より前で捉えなければなりませんが、膝の伸展する位置を前方にずらすことによってこれが可能になります。
6点目は、そこそこ速く、バウンドして浮き上がってくる難しいボールをインサイドでうまく捉えています。
できるだけ体に近い位置で捉えることで打ち上げないようにしているように見えますが、それに加えて軸脚を内旋させていることもふかさないようにするための一つの工夫であると考えられます。
蹴る前と後を比較してみると、軸脚が大きく内旋していることが分かります。
この軸脚の内旋がなかった場合、蹴り脚は股関節屈曲の作用により、横から見ると蹴り脚の長さを半径とする円弧上を動くことになり、蹴り足を振り上げるような形になってしまいます。
一方で、軸脚の内旋が加わると、蹴り脚の股関節は屈曲に加えて相対的に内転していると見ることができ、これによって股関節の可動域をうまく狭めることができ蹴り足が振り上げられるのを防ぐことができます。
少し分かりにくいと思うので単純化して言うと、軸脚を内旋することによってシュートを打つ際に蹴り足を地面と水平に動かしやすくなる、蹴り足をより前方向に押し出すことができるために、シュートをふかしにくくなっていると考えることができます。
この軸脚の内旋はコウチーニョの得意な形であるカーブシュートでも利用されています。
軸脚を内旋させることによって、蹴り足が前方向に押し出され、蹴り足の軌道が地面と水平に近く保たれていることがわかると思います。
これまでの記事で何度も”蹴り脚でキックの調節をする割合をできる限り減らすべき”といったことを言ってきましたが、ここで分析したシュートでは膝を伸展させる位置の調節など蹴り脚がキックの調節の大部分を担っています。
これは一見矛盾しているように見えますが、蹴り脚での調節を減らすというのは蹴り脚をムチのように素早く振るためのポイントであって、ダイレクトでのシュート、特に流し込むという意識の場合はボールに合わせることが最優先で蹴り脚をムチのように振る必要はないので、蹴り脚での調節の比重が高まっても問題ないと言えます。
ダイレクトのシュートについては、さらに考察が加えられそうなのでまた改めて記事にしたいと思います。
2、7点目 軸足側へインステップシュート
2点目
7点目
この2点はかなり形が似ています。
軸足は内転させて(蹴り足側に斜めに)置くことで、腰の回転を使いやすくしています。
角度的に分かりづらいですが、ボールにミートしている位置は軸足の真横〜少し後ろです。
僕は以前の記事で、蹴り足の軌道は軸足の置き方でほとんど決まりそれによってボールの軌道も決定されると書きましたが、これに基づいて考えるとこの位置でボールにミートした場合、ボールは体の正面方向 (軸足の向き)に飛んでいくはずです。
(※図は上記の記事より引用)
実際に、ムチのような蹴り脚の動きの手本として紹介したシーンを見てみると上図を反転したような軌道を蹴り足が動き、軸足の真横でインパクトして軸足方向にボールが飛んでいることが分かります。
同じような蹴り足の軌道、ミートの位置なのにシュートコースが大きく変わる要因としては、蹴り足の当て方、特に爪先の向きが考えられます。
軸足側に打った2点目のシーンを見ると、ボールに対して横向きに近い形で足を当てそこから足首を返していることが分かります。
一方で、軸足の向きに真っ直ぐ打ったシーンを見ると、ボールに対して縦向きに近い形で足を当てて足首を返しています。
これまでは蹴り足とボールの瞬間的な衝突を考えてきましたが、実際にはボールが蹴り足に乗るような形になるので、このようなボールに対する足首の角度もコースを変える要因になると考えられます。
インステップキックでは、底屈した(真っ直ぐ伸ばした)状態で当てて、そこから背屈させる(足首を返す)という足首の使い方をするので、ボールに対する足首の角度は蹴り脚の振り方によって決まり、蹴り脚の振り方は軸足の置き方で決まるので、ここでも軸足の置き方が重要になってくると言えます。
この二つのシーンに当てはめて考えると、軸足側に打ったシーンでは軸足を大きく内転させてついて体を傾けながら打ったことで足首が横向きにインパクトしたのに対し、真っ直ぐ打ったシーンでは軸足をそこまで内転させずに置くことで体をあまり傾けず足首を縦向きにインパクトしたと考えることができます。
※ここから先は有料エリアになります。
単品購入は以下のマガジン内から該当記事を選んでご購入ください。
また、月額制の定期購読マガジンであればよりお得に、しかもこれまでの記事(約20本)もすべて読めますのでぜひ以下のボタンからご購読ください!
ここから先は
FC pSols magazine
フットボールを思考するマガジン。リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的な思考で変革する。を理念にFC psolsトレーニングチームが…
Kicking lab
キックコーチ田所剛之によるトップ選手のキック分析記事をまとめて読めます。過去の記事も全部読めます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?