ロングキックの原則。シャビ・アロンソ徹底解剖。
お久しぶりです。
ずっとnoteを書かないとなとは思っていましたが、気付けば最後の投稿から半年が経ってしまっていました。
この記事からはまた定期的に更新していければと思います。
今回のテーマであるシャビ・アロンソについてですが、彼のプレーを見た記憶は2010年のW杯で微かに残っている程度で今回はほぼ初見での分析でした。そのことも踏まえて、今回の記事では自分がキックを見る上でどのような思考を働かせているのかをお見せできればと思います。
シャビ・アロンソの特徴
今回の分析をするに当たってYouTubeにある動画はほぼ全て観ましたが、最もコンパクトにシャビ・アロンソの特徴をまとめていると感じたこの動画を対象とします。記事の後半で特に注目に値する4シーンを切り抜いて解説していくので必ずしも全部を観る必要はありません。
まず、自分がシャビ・アロンソのロングキックを観て彼の特徴であると感じたのは、
の3点です。
特に、70m程度のロングキックを初めて観た時は衝撃的でしたが、これは力学的に効率の良い力の加え方をできていることの現れであると考えられます。
キックとはボールに力を加えることで速度を与えるものである以上、キックについて語る上で力学は外せないので、キックの力学についてまずは考えていきます。
ロングキックの力学
上の3つの図は実際にシャビ・アロンソがロングキックを蹴る際に加える力を模式的に表した図になります。ここではバックスピンをかけるようなロングキックを考えているので、蹴る方向に対して横方向からボールを見たという前提で図を描いています。
図の中の赤い矢印が表すのが、実際にボールを蹴る際に加えられた力です。
力学的に運動を考える際、考えたい運動の方向に合わせて力を分解することができます。キックの結果としてのボールの運動を考える上では、ボールの軌道(重心の運動)とボールの回転に分解するのが有効になります。
実際にボールに加えられた力の中で、ボールの軌道を決める力の成分が黄色い矢印、ボールの回転を決める力の成分が青い矢印で示されていることになります。
この図を基に考えると、ボールのどこに足を当てるか(赤い矢印の始点をどこにするか)によって黄色の矢印、青色の矢印をどの角度に伸ばすかということが決まります。これは実際に作図をしてみるとすぐに分かると思いますが、黄色い矢印を伸ばす方向は赤い矢印の始点からボールの中心に向かう方向になるので、赤い矢印がどの方向を向いているかに依らず黄色い矢印の角度が決定することになります。
このことは、キックの蹴り出し方向は蹴り足を当てる位置によって確定するということを表しています。感覚的にボールの下側を蹴ったらボールは浮くということは分かると思いますが、力学的に考えると上記のような説明が付けられます。
もう一つボールを浮かせるための方法としては斜め上にボールを蹴り上げるという方法が思い浮かぶかもしれません。では、ボールに対して加える力の角度(赤い矢印の角度)はボールの運動にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
その答えは、回転と速さの比です。
先程の図をもう一度貼りますが、左の図と右の図は足を当てた位置、加えた力の大きさが同じで加える力の角度のみが異なっています。矢印で考えると、赤い矢印の始点、長さは同じだが角度が異なるということです。
先ほども述べたように二つの図で足が当たっている位置は同じであるため、黄色い矢印と青い矢印が伸びる方向は同じになっています。しかし、分解する前の赤い矢印は同じ長さであったのに二つの図で黄色い矢印と青い矢印の長さが大きく異なっているのは一目瞭然です。これは、同じ力を同じ位置に加えたとしても、どの角度に加えるかによって速度、回転の比が変動することを表しています。
もう少し具体的に言うと、よりボールの中心に向かう方向に近い角度で蹴り出すと速度が大きく回転が少なくなるのに対して、中心に向かう方向からズレると速度が小さくなる代わりに回転が増えるということです。
つまり、ボールを浮かせたい際にボールを蹴り上げるようにするのは蹴り出し方向を上に向かせるという点では正しくないと考えられます。
回転の影響
ここで、回転がボールの運動に及ぼす影響について触れておきたいと思います。
シャビ・アロンソの特徴という項目でも述べたようにロングキックの基本はバックスピンになります。これについては、綺麗なバックスピンがかかった時の方がロングキックは飛びやすく他の方向の回転が混ざると軌道がズレるという感覚がある方も多いのではないでしょうか。
このことの力学的な説明としてマグヌス効果を紹介します。
この動画はマグヌス効果を非常に分かりやすく示しています。
ボールを落とす際に手前に回すように回転をかけていますが、これをロングキックに置き換えて考えるとバックスピンに対応します。この場合、ダムの壁を地面として90度傾いた視点で見ていることになります。
この視点で見るとバックスピンで飛んでいるボールに対しては上方向に浮き上がるような力がかかることが分かると思います。
また、上の動画では手元からボールが離れた直後はボールはまっすぐ落ちていますが、水面に近付くに従って奥の方に向かう水平方向の速度が増していっていることが分かると思います。これは、速度が大きいほどマグヌス効果の影響が大きく出ることを示していると言えます。
回転がここまでボールの軌道に影響することを考えると、キックについて考える際には回転も非常に重要な因子になってくることが分かって頂けると思います。
ロングキックの飛距離を伸ばすには
それでは、ここまで力学的な考察を加えた上でシャビ・アロンソの最大の特徴でもあったロングキックの飛距離を伸ばすためにはどのような要素が必要になるかを考えてみましょう。
まず、一つ目はそもそものボールに加える力を大きくすることです。
再びボールに加える力の図を使いますが、赤い矢印の長さを伸ばすことにより、それを分解した黄色の矢印、青の矢印の長さも長くなり、ボールの初速、回転が増えて飛距離が伸びると考えられます。これが最もシンプルな発想で出てくるであろうポイントで、よく言われる助走のエネルギーをボールに伝えるとか軸足を踏み込む(※)とかテイクバックを大きく(※)とかいう指導はこのポイントを伸ばそうとしているものと思われます。
(※)僕は軸足を踏み込む、テイクバックを大きくという指導は負の影響を及ぼすと考えているので、実際の指導では用いません。(詳しくは以下の記事まで。)
二つ目は、飛ばしたい角度に合わせて力を加えることです。
図の一番左と右を比較すれば分かるように、ボールの中心に向かう方向に近い角度でボールに力を加えられた場合、ボールの軌道を決める力の成分が大きくなり初速が大きい状態で蹴り出せることになります。同じ角度で蹴り出す場合、初速が大きい方がボールは遠くに飛んでくれます。
初速を最大化するという目的では、ボールの中心を完全に貫くようにするのが最適解となりますが、飛距離を最大化するとなるとそうとも限りません。
これが三つ目のポイントですが、バックスピンをかけて揚力(浮き上がるような力)を得ることになります。
完全に中心を貫くような力を加えた場合、上の図で言うところの赤い矢印と黄色い矢印が一致してしまい、青い矢印がなくなる、つまり回転成分がなくなって無回転のボールが蹴り出されることになります。無回転のボールは回転によるマグヌス効果を受けないため様々な方向にランダムな力を受けることになり、ボールがブレてしまいます。これはロングキックの飛距離を伸ばす上ではマイナスに働きます。
よって、ロングキックの飛距離を最大化するためにはできるだけボールの中心を貫く角度に近い方向に力を加えつつも少し下にずらすことでバックスピンをかけて浮き上がる力を得ることが重要になります。
ここで重要になるのが回転による浮き上がる力はボールの速度が速いほど大きく影響が出るため、バックスピンは速度が速い場合は少しで良いということです。バックスピンを増やそうとすれば速度が落ちてしまうし、速度を増やそうとしすぎて無回転になるとボールがブレて距離が伸びないしという関係がありますが、この関係の定式化は難しく感覚に頼らざるを得ません。ただ、速度が大きいほど回転は少なくて良いということを考えるとあまり回転については意識しすぎず基本的には速度を高める、つまり中心を貫く方向に力を加えることを考えるのが良いのではないかと考えられます。
ボールに加える力の角度による回転と初速の関係を考えるこのポイントはあまり一般的ではないと感じていますが、非常に重要であり実際にここにフォーカスするだけでキックを劇的に変化させることができます。
シャビ・アロンソのキック3種類
シャビ・アロンソの話に戻ってくるまでにかなり時間がかかってしまいましたが、これまで考えてきたことをベースにシャビ・アロンソがどのようにしてキックを蹴り分けているかを見ていきたいと思います。
シャビ・アロンソのロングキックは大きく分けて3種類あり、
の3つに分類できます。より細かく分解することもできますが、今回のテーマであるボールに加える力の観点から分類するとこの3つが最適な分類かと思います。
それぞれのキックにおけるボールへの力のかけ方は以下の図のようになります。ここから各キックについてこの力の加え方をするためにはどのような動きが必要になるのかを逆算して考えていきたいと思います。
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